ジェームズ・ガン、チャップリン、ウォッチメン……。PUNPEE「MODERN TIMES」彩るクリエティブピースを探る

Photo_YouTube、Text_Keita Miyazaki

ジェームズ・ガン、チャップリン、ウォッチメン……。PUNPEE「MODERN TIMES」彩るクリエティブピースを探る

Photo_YouTube、Text_Keita Miyazaki

「『MODERN TIMES』は、やる気がない感じだった少年が徐々に成長していくストーリーのアルバムでもあります」

これは10月24日に東京・YouTube Space Tokyoで行われたイベント「YouTube Music Night」に出演したPUNPEEの発言だ。このイベントでは、PUNPEEとアメコミに造詣が深いゲストたちとトークセッションが行われたのだが、これが非常に興味深い内容だった。

「昔から会いたかった宇多田ヒカルさんと実際に会って、腑抜けになっちゃったんですよ。ウォッカを飲んで映画観て夕方の4時ごろに起きる、みたいな。そんな中で次に何をしようかボーッと考えてたら『ソロアルバムだよな』となったんです。でもどうやって作ればいいか全然わからなくて。最初の頃はSUMMITの事務所で社長の増田さんに『俺がここにいるのは、今まで客演をうまくやってきたからでアルバムを作るタイプじゃないんだ!』『コケたらSUMMITのせいだ!』と八つ当たりしてました(笑)」

アルバムの方向性を決めかねていたPUNPEEに大きなインスピレーションを与えた映画の一つが、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス」だった。さまざまな要素がごった煮になった映画の構成に衝撃を受けた。

「シーンのトレンドに沿ったアルバムを出すんじゃなくて、自分のことを好きな人に楽しんでもらえる作品にしようと思ったんです。『ガーディアン~』を観て、監督のジェームズ・ガンはマーベルのストーリーラインを崩さず自分のファンにも向けてあの作品を作ったように感じて。自分の庭の中で作品を作るというか。だったら俺もいろんなことを気にしないで、自由に作っちゃえばいいじゃんって思いました」

「MODERN TIMES」にはサウンドやリリックに関してはもちろん、ジャケットやアートワークにいたるまでPUNPEEが大好きと公言している映画やSFの要素が満載されている。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ウォッチメン」「マーベルコミック」「DCコミック」……。モチーフを探すだけでもワクワクしていくる。

そして40年後に老人になったPUNPEEが現在(2017年)を思い出して語る1曲目「2057」のアイデアを思いついてから制作はどんどん進んだ。

「自分らしい表現を考える中で、未来の自分に現在を語らせるというアイデアを思いつきました。未来の俺に『MORDEN TIMES』をクラシックって言わせちゃうメタ表現みたいな。アメコミにはコミックス内の設定にも関わらず現実に影響を及ぼすことアイデアがあるんですよ。しかも1曲目の『2057』では未来の俺が『あの頃は勇ましい青年だった』みたいなこと言ってるけど、2曲目の『Lovely Man』は現在の俺がトイレでゲロ吐いてるシーンから始まるんです。以前、クラブでテキーラを飲みすぎて吐きまくって、気づいたら板橋の全然知らない工場の踊り場で目覚めたことがあるんです。その時朦朧とした意識の中で『最低だ~。でもこの経験は(アルバムの)イントロで使えるっぽい』って思って(笑)。どん底からのリスタートみたいな」

また“PUNPEE”を「MODERN TIMES」という作品の登場人物化することで、リリックの自由度が上がったとも話していた。タイトルについても言及している。

「1つは過去・現在・未来がテーマになった作品だからというのがあります。もう1つはチャップリンの『モダン・タイムス』がモチーフです。俺はこの作品で、自分なりの物事の切り口を持つことが大切だということを言いたかった。それさえあれば、いくらでも視点を変えられるし、視点をちょっと変えるだけで物事は全部楽しくなったりする。こういうめんどくさい時代だからこそ、それを持つことが大切だと思ったんです」

これはPUNPEEが、弟のS.L.A.C.K.(現、5lack)、高校の同級生・GAPPERとのグループ・PSGのメンバーとして2010年に発表したアルバム「DAVID インスト」に収録された楽曲「いいんじゃない」で歌ったテーマと同じだ。

自分のことなんだし自分で決めたら?
人の目は お前を試してるだけさ
表情なんてただの壁 Wonderwall
よく見りゃほら わきっちょにドアノブ

周りのメンツに 縁取られすぎて
君はどこ? 足とられたな
周りの空気に流されるよりさ
自分の酸素で夜を流せば

「チャップリンの『モダン・タイムス』と俺がアルバムで言いたかったことが似ていたので、全体をまとめる際のネタにしました。15曲目の「Oldies」にある『皆がただの歯車になり狂わぬように~』や、最後の『このあと手つないで帰るんだ Modern Times』というパートは、『モダン・タイムス』からイメージした歌詞です」

作品としては「2057」で始まって「Oldies」で終わるのが美しい。しかしラストに「Hero」を持ってくるところがなんともPUNPEEらしい。この展開は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」マナーだ。ちなみに「Hero」の2ヴァース目には、「スーパーマン」「ファンタスティック4」「マイティ・ソー」「Xメン」などなど、アメコミの固有名詞がたくさん登場する。

「『Lovely Man』でダメダメだった少年が成長して最終的に『Hero』でまさにヒーローになるっていう。それがエンディングテーマだったら面白いと思ったんです。アルバムの本編は『2057』から『Oldies』まで、『Hero』がエンドロールみたいな。あと『Hero』では戦争とかじゃなくて、クリエイティヴで競ったほうが良いという自分の意見を入れてます」

このトークショーで新鮮だったのは、パネラーから「このアルバムは作業用BGMにも最適」という意見が出たことだ。ここまで述べてきた通り、本作には異常とも言える情報が詰め込まれている。しかもラップは言葉の力をダイレクトに伝える音楽表現だ。PUNPEEは「MODERN TIMES」のほぼ全ての歌詞に何かしらの意味があるとも話している。にも関わらず、「作業用BGMにも最適」だと感じたというのだ。これはPUNPEEがこれまで数々のプロデュースワークやリミックスを手がけてきた賜物であると言えるだろう。すべての作品に妥協なきクリエイティヴを求めた結果だ。

「一般人」のスラング表現であるパンピーという名前を冠した青年が、「Hero」という歌に説得力を持たせてしまうあたりも、なんとも彼らしい逆説的なメタ表現であると言えるだろう。

YouTube Music Night with PUNPEE

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