2020年、ジョン・レノンに会いに行く Vol.02 LEO from ALI 〜ニューベスト盤『GIMME SOME TRUTH.』を聴いて〜

Photograph_Riki Yamada, Edit&Text_Ryo Tajima [DMRT]

2020年、ジョン・レノンに会いに行く Vol.02 LEO from ALI 〜ニューベスト盤『GIMME SOME TRUTH.』を聴いて〜

Photograph_Riki Yamada, Edit&Text_Ryo Tajima [DMRT]

ジョン・レノンの新たなベストアルバム『GIMME SOME TRUTH.』が10月9日に発表された。この日はジョンの80回目の誕生日に該当する。収録されているのは全36曲。オノ・ヨーコがエクゼクティヴ・プロデューサー、ショーン・レノンがプロデュースを担当し、2人が選曲に携わった1枚だ。現代の技術でミックスし直し、新たな音質でアルバムが構成されている。表題曲の「Gimme Some Truth」はそのまま”真実が欲しい”を意味する。本楽曲で歌われている内容も、不満と不安に満ちた世界へのメッセージでもある。
2020年。コロナによって人と人との距離は遠くなり、WEBやSNSの発達で目に見えない焦燥感や不安感が大いに煽られた年。人間が人間を信用できないような空気が世界に充満する中、ジョン・レノンの歌は我々にどう響くのだろう。
この企画では、『GIMME SOME TRUTH.』を通して、ジョン・レノンの音楽を今聴いたらどう感じるのか、自分にとってジョン・レノンはどんな存在なのか、そんなパーソナルな意見を音楽アーティストに聞く。まだ、ジョン・レノンの音楽に触れたことがない人に是非読んでいただきたい。

第2回目はALIのフロントマン、LEOが登場。ALIはファンクやソウル、ジャンにラテンといったルーツ・ミュージックにHIPHOPをクロスオーバーしたサウンドで、早くも世界中の話題を集める渋谷発のバンドだ。
LEOは、バンドの精神面の背景にジョン・レノンの影響を強く感じるという。そこには、これまで歩んできた人生と共にあったジョン・レノンとの思い出があった。今、『GIMME SOME TRUTH.』を聴くべき理由は何か。それはLEOの話に耳を傾ければ理解することができるはず。
今回は特別に日本語/英語のバイリンガル仕様でお届け。英語verは2ページ目へ。
ENGLISH INTERVIEW →

ジョン・レノンの人生や人間性にシンパシーを覚えて

ー『GIMME SOME TRUTH.』を巡って、LEOさんのジョン・レノン観などをお伺いしたいと思います。選曲はオノ・ヨーコさんとショーン・レノンさんがされたそうですよ。

LEO:間違いない選曲ですよね。あまりベスト盤としてセレクトされないような曲も入っていて。オレが1番好きな曲も入っていたんで、もうさすがのひと言ですよ。

ー1番好きな曲はどれでしたか?

LEO:「Steel And Glass」ですね。まぁ、どれが1番っていうのは選びにくいんですけど、ここ10年間で好きなのはコレです。オレが1番好きなジョン・レノンのアルバムは『Walls And Bridges』で今日も持ってきているんですが、この作品に収録されている楽曲で、アルバム自体がファンク、ソウルなどブラックミュージックの影響も感じられる1枚なんですが、中でも「Steel And Glass」は、実に異色だと感じますね。今聴いてもフレッシュで、曲としてめちゃくちゃカッコいい。

※LEO私物のLP『Walls And Bridges』。エルトン・ジョンとの共演作「Whatever Gets You Thru the Night」はシングルカットされ、初の全米ビルボード1位を獲得

ー話の流れで聞いちゃうんですが、『GIMME SOME TRUTH.』収録曲で、LEOさんが特に好きな曲は「Steel And Glass」以外で言うと?

LEO:いやぁ、難しいですね。個人的なベストを挙げるのであれば、タイトルにもなった「Gimme Some Truth」、「Isolation」に「God」もいいですよね。いや、でも「Jealous Guy」はやっぱり欠かせないかな……。う〜ん。やっぱり絞れないですね。何から話そうかな。ちょっと説明が難しいんで、自分にとってのジョン・レノン観から話してもいいですか?

ーお願いします!

LEO:まず、オレはジョン・レノンの境遇にものすごくシンパシーを感じているんです。生い立ちから性格に至るまで。若い頃は手のつけられないような不良(ワル)だったというのは有名な話ですよね。育った境遇も良いとは言えなかった、と。そんな若者がバンドを組み、悪さしながらポール(ポール・マッカートニー)と出会い、ビートルズを結成して、ブライアン・エプスタイン(ビートルズのマネージャー)と出会い、サクセスロードを歩いていくわけですよね。

ーそうですね。元々は不良だった、というのは様々な資料・文献からも伺える事実です。

LEO:オレも特殊な環境で育ったから、そこに同調する部分が大きくて。そもそも自分が音楽を好きになったのは『THE BEATLES 1』(2000年発表のビートルズのシングルヒット曲が収録されたベスト盤)なんですよ。中学生くらいだったかな。そこから『A Hard Day’s Night』を聴いて、ジョンを追いかけて自分と重ねるような少年時代を送っていって。ちなみに、ファッション×音楽のカッコよさを感じたのも『THE BEATLES 1』から。当時、好きだった原宿のショップでいつも流れていて、そこにいたカッコいいスタッフの兄ちゃんが色々教えてくれたんです。そんなカルチャーの魅力を教えてくれたのがビートルズであり、ジョンの存在なんですよね。

ーじゃあ、今のLEOさんのベースとなるような存在と言っても過言ではない?

LEO:まさに基盤と言える存在ですね。オレ、ALIをやる前にThe John’s Guerrillというバンドをやっていたんですけど、このJohnってジョン・レノンからもらっているんですよ。そういう意味で筋金入りのジョン・チルドレンなんです。なんかスピリチュアルな話になっちゃいますけど、ジョンに傾倒していっていた若い頃、夢で見たんですよね、ジョンを。

ー夢にジョン・レノン! その話、もう少し教えてもらってもいいですか?

LEO:夢なんでちょっと荒唐無稽な話なんですけど、こう、部屋にいるんですよ、ジョンが(笑)。で、ギターを片手にソファにもたれていて、何か話をしているんですけど、ふいにジャラーンってゆっくりと弾き語りで歌いはじめて「これ、カッコよくない?」って聞いてくるっていう。その曲が「God」だったんですけど。そんな夢から覚めて『あ、バンド名にJohnって入れよう』って思ったのを覚えています。

言わば反逆者のオリジネーター的存在なのでは

ーそれ、めちゃくちゃ面白い話ですね。そんなにLEOさんがジョン・レノンに惹かれていったのはなぜですか?

LEO:音楽はもちろんなんですけど、人間性ですよね。まず、60年代のビートルズ時代。すごくキャッチーでセールス的にも成功を収めていたわけなんですが、同時代に活動していたロカビリーバンドなど、他バンドのサウンドを聴くとすごく激しいんですよ。そんな時代にあって、ジョンもポールも激しさだけではなく、ポップに歌うことに目覚めちゃっている。ちょっと違うんですよね、考え方が。ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)やジャニス(ジャニス・ジョプリン)が歌っている中で、ああいう曲を発表していくから、不良の方向性が異なっていたと思いますよ。その頃のジョンは、きっと誰よりもポールから影響を受けていたような気がしますね。その後、ライバルがポールだから、そこに向かって戦っていたりしたようにも感じます。で、ヒッピーフラワームーブメントが終焉を迎えるなか、ビートルズも終わりに向かっていき、ソロ作ですよ。

ー1970年発表の『John Lennon(邦題:ジョンの魂)』へ向かっていくわけですね。

LEO:ええ。そして、それ以前にあったオノ・ヨーコとの出会いですよね。この出会いが強烈。ジョンを語るうえで欠かせないのが、やっぱり『GIMME SOME TRUTH.』のエクゼクティヴ・プロデューサーでもあるオノ・ヨーコさんの存在です。強大の2つの存在が邂逅することによって、ジョンはオノ・ヨーコさんの言うことしか聞かないようになっていって。もう、そんなとこも最高! すぐに愛する人の言うことしか聞かなくなるっていう。まるでオレみたいだな〜。あ、これは書いてOKです(笑)。

ーたっはー(笑)!

LEO:きっとジョンも、自分がどうやって活動していったらいいかを相談していたと思うんですよ、オノ・ヨーコさんに。で、1stアルバムでは、ブルース。素直な曲を作って、むき出しの弱さからスタートしていくわけなんですけど。そんなジョンの歩んできた人生、合間に見える人間くささや生っぽさ、そんなところにたまらなく惹かれるんです。

ージョン・レノンのソロ作は1st以降、作品ごとに様々な表情を見せますよね。音楽性や社会へのスタンスも時々によって変化していく。『GIMME SOME TRUTH.』はあらゆる時期のソロ作品から抜粋された曲が並んでいるわけですが、ジョン・レノンの創作活動の変遷について、LEOさんはどう思いますか?

LEO:細かく時代を意識しながら活動していたと感じます。世情だけではなく、その時代ごとに生きていた人間の感情にまでフォーカスしていたんじゃないですかね。公民権運動(アフリカ系アメリカ人公民権運動)を経て、チェ・ゲバラといった存在が社会に台頭していた頃、ジョンは軍服を着てメディアに登場していたわけですけど、それもわかりやすい例の1つだと思います。ボブ・マーリーが登場してからは、自らもギターをレスポールに持ち変えたり。それと、これは聴けばわかることだとは思うんですが、音楽的にはボブ・ディランの要素は大きいですよね。そういった人や時代からの影響を受けて、人間に力を与える、寄り添うというアクションを徐々に、明確に、取っていったんだと思います。もともと性質として持っていたんでしょうけど、世の中の動きをよく見ていて、それを敏感に察知して自分の表現に取り入れていったんじゃないかな……。個人的な憶測ですけどね。

ーあえて、若い世代にジョン・レノンのことを説明するなら、ひと言でどんな人だと伝えますか?

LEO:かなり難しいですけど……”元祖反逆者”って感じで良いのかもしれない。”FUCK BABYLON”って最初に叫んだ人。ジョン・レノンとボブ・マーリー、”愛こそすべてだ”ってことを言いながら、体制に対してアンチの姿勢を取ったわけですよね。その人たちのうえに成立していったものが、オレたちのHIPHOPなどなど、色んな文化の基礎になっているわけですから。まぁ、でも、オレの1番好きなアルバムである『Walls And Bridges』は”失われた週末”の時期に制作された作品で、そこから1980年に『Double Fantasy』ですもんね。なんだか、こう、2人っきりの世界というか(笑)。現代まで連綿と続く壮大な愛と恋の物語のように感じちゃいますよね。その両方の作品からの曲が『GIMME SOME TRUTH.』に収録されているわけなんで、もう(笑)。そんなところも大好きなわけですけど。

今こそむき出しの魂が伝わるものが必要な時代なのでは

ーなるほど。では、ALIはジョン・レノンからインスパイアを受けている部分はありますか?

LEO:ALIに関しては”LOVE MUSIC DANCE”といったテーマだとか、バンドの大枠を意味での影響がありますね。ALIは曲のタイトルに関して、字面やメッセージ性、スローガンとするものだとかにこだわりを持っているんですが、そういった部分でジョン・レノンには強く影響を与えられています。

ーコロナと共にある現代において、何かジョン・レノンの姿勢が音楽に影響を与えた部分はありますか?

LEO:そうですね。コロナ禍を経て、自分がミュージシャンとして何を発信するかってときに「MUZIK CITY」という曲を出したんですけど、この曲を制作しているとき、BLM運動やコロナ時代に対していかに音楽をやって生きていくか、人間同士の争いに、どう向き合っていくのかってことに対して、しっかりメッセージを発しなくてはいけないと感じたんです。

LEO:単純に言葉をSNSで拡散するという意味ではなく、音楽の中に自然な形としてメッセージを落とし込んで発信するってことが当たり前のことだと思っているし、そうでなくてはいけないと思っているし。その後にリリースした曲「Better Days」で”きっと素晴らしき日々はやってくる”という願いを歌っているのも、ミュージシャンとしては絶対に当たり前の行動だと考えていて、こういう思考はジョンからの影響だと思いますね。

LEO:そう考えると、今年制作している作品には全部、ジョンからのインスパイアが入っているのかもしれないな……。嘘をつかず、普通の生活を送るなかで、思ったことをストレートに言うこと、それがラブソングだろうがそうでなかろうが、自然体でメッセージを音楽に入れていけるのはミュージシャンの特権だし、それこそが自分らの仕事だと思うので。

ーまさしくそうですよね。ストレートなものが今の時代に響くように感じます。

LEO:人間って強いところも弱いところもある生き物なので。今こそ、むき出しのリアルな存在が必要なんじゃないですか。ALIもなるべくライブ配信をしたり、そこで修正や演出を盛るのではなく、逆に作り込まれていない、ありのままの姿が伝わるような熱量をそのまま発信していくことが必要なんだと思います。フェイクではなく人間の魂が感じられるものというのが、ね。『GIMME SOME TRUTH.』は全体を通してジョンのむき出しの魂というか、ソロでもっとも大事にしていたであろう部分が伝わってくるものなので、まだジョンの作品を体験したことがない人はなるべく触れた方が良いと思いますね。

ーありがとうございます。では、ALIの今後の予定も教えてください。

LEO:11月25日にニューシングル「LOST IN PARADISE feat. AKLO」をリリースします。これは4曲入りでAKLOさん以外にK.A.N.T.A、J-REXXX、なみちえとGOMESSが参加してくれています。表題曲が現在MVも公開されていますが、今年のALIを代表する1曲として情熱をかけて制作したので、その曲と同時に、今のALIの様々な要素(LATIN、DISCO、SOUL、BLUES、JAZZ)を4曲に詰め込んだ作品に仕上げました。その後、ミニアルバムを年明けにリリースできたら、と考えています。その2作品のリリースイベントはお客さんも入れてライブをやろうと思っているので是非チェックしてほしいですね。その後も予定は盛りだくさんですよ。海外のラッパーとも、何か共作できないかってプロジェクトを密かに進行していますし、形にしていきたいと思っています。そんな風に世界を視野に入れた動きもあるんですが、オレとしては東京を世界の中心にしたいって気持ちがあるし、ALIは東京発って気持ちでいるので、国内のリスナーにも幅広く届くように2021年を活動していきたいと思っていますよ。まぁ、今は国内外問わず、並行して音楽を発信できる時代なので、あまり場所を気にしなくてもいいのかもしれないですけど、こだわりとして”東京発”ということを大事にしながらやっていきたいと思っています。

INFORMATION

ALI

https://alienlibertyinternational.com/
https://www.instagram.com/guerrilla_works/

NEW SINGLE
「LOST IN PARADISE feat. AKLO」
11月25日リリース

INFORMATION

JOHN LENNON

『GIMME SOME TRUTH.』
発売中
https://umj.lnk.to/gimme-some-truth

劇場上映版「イマジン」
ジョン・レノン生誕80周年記念上映
ジョン&ヨーコが1972年に制作したアルバム「イマジン」のイメージ映像集
劇場上映版のみ“特別映像+ドルビーアトモスサウンド“
12月4日(金)全国順次公開
12月8日(火)ワンナイト上映
https://www.universal-music.co.jp/johnlennon-imaginefilm/

“DOUBLE FANTASY – John & Yoko”
東京展 開催中
2021年1月11日まで
10:00~18:00(日〜木)、10:00〜20:00(金・土・1月11日)
会場_ソニーミュージック六本木ミュージアム
東京都港区六本木 5-6-20
チケット https://doublefantasy.co.jp/
https://doublefantasy.co.jp/

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