Ren Yokoiによるマンスリー対談シリーズ「Motivators」。今回のゲストは独自性の高いラインナップとグッドロケーションで知られるフェス「TAICOCLUB」のオーガナイザー安澤太郎だ。Renが、このシリーズのはじまりから「もっとも話してみたい一人」と言っていた人物との対面が、5回目にして実現した。2018年の開催をもって幕を閉じることが発表されたTAICOCLUBだが、ただ終わるだけではない。そしてRenもまた、ただ惜しむ気持ちで安澤を招いたわけではなく、この二人が見据える未来に注目してもらいたい。
ーまず、Renさんが安澤さんとずっと話してみたかった理由から聞かせてください。
Ren Yokoi(以下、Ren):DJを本格的にはじめるきっかけになったのがTAICOCLUBだから、です。自分の世代はエレクトロががっつり流行ってたんですけど、個人的にはしっくりこなかった。そんななかで、2011年のTAICOCLUBに行って、石野卓球さんのDJを体験したときに「ダンスミュージックとかテクノってこういうものなんだ!」って衝撃を受けた。ダニエル・ベルやシミアン・モバイル・ディスコのDJセットも大きかった。そこからは、ほぼ毎年参加しています。
安澤太郎(以下、安澤):ありがとうございます。うれしいです。
―TAICOCLUBのスタートは2006年。そもそもはじめたきっかけは?
安澤:僕は音楽業界の人間でもなんでもなく、ただ音楽が好きでいろんなところに遊びに行ったんですけど、単純に心から楽しめる場所がほとんどなかったので自分でやってしまおうと。
―具体的に物足りなかったこととは?
安澤:そもそも国内で、海外のアーティストを観られるフェスが少ないし、自分たちの理想とするラインナップとなると、さらになかったんです。
Ren:TAICOCLUBの色ってありますよね。いろんなジャンルの音楽があって、上のステージと下のステージの温度感の違いとか、時間帯やシチュエーションにはまる流れとか。そこが素晴らしい。
安澤:音楽の趣味嗜好がスタッフそれぞれ違うので、最初から幅広くやりたいと思っていました。
―目指すところにもよると思うんですけど、予算のことなどを考えると日本ではなかなか組むことがむずかしいラインナップです。それでもやれた理由って何でしょう?
安澤:数こそ少ないけど、僕たちと同じような音楽を好きな人の遊び場がなかったこと、はじめた当初は春のフェスがあまりなかったこと。タイミング的なものもあって、たまたまうまく広がってくれたんですよね。
Ren:で、広がるにつれてお客さんの層が変わってきましたよね?
安澤:そうですね。
Ren:僕が行きはじめた頃は、夜中にぐちゃぐちゃになった大人たちが泥んこになって踊っていて、「これがレイヴなのか!」ってびっくりしました。大人が超わがままに遊んでいるのを見るだけでも若い僕には楽しかった。今は一言でいうと健全になってきて、それが少し寂しい気もするんです。
安澤:そこは僕たちも理解してます。そういうぐちゃぐちゃ感はなくなってきていて、だからお客さんは増えてるけど運営側としては楽になっている。
Ren:映画『モテキ』で取り上げられた影響もあると思うんですけど、いわゆる“フェス”というものに来る人たちが増えたというか。で、俺みたいなのは追いやられてる感じ。
安澤:それはあるかもしれないですね。
―そのあたり、TAICOCLUBが2018年で終わることとも関係あるんですか?
安澤:今は多くの人にある程度、受け入れられることをやらないといけないような状況にもあって。でもやっぱり、もうちょっとみんなから無視されるような、でも何年後かに「あのときの、すごかったよね」みたいになるのがいいと思うんです。TAICOCLUBをはじめたときの感じというか。
Ren:このタイミングで終わらせるという決断。すげえなって思います。ある意味もったいない。でも、俺らと同じようなことを思ってくれてるんだって考えると、うれしかった。
安澤:人はいつ死ぬか、みたいな話で、このまま続けていてもたぶんどこかのタイミングで終わっていた。何かを変えていかなければ、自分の意思としてではなく終わってしまうと思ったんです。
Ren:いいタイミングだと思います。来年の最終回がめちゃくちゃ楽しみ。で、また新しいことをやってほしい。
―次の構想はすでにあるんですか?
安澤:なんとなくはあります。
―TAICOCLUBとの違いを、言える範囲でいいので聞かせてもらうことできますか?
安澤:フェスじゃないもののなかにフェスがあるというか。TAICOCLUBなのか何なのかはわかりませんが、ひとつの活動のなかにフェスがあるようにしたいんです。
―その活動というのはどういったものでしょう。
安澤:ほんとに、まだなんとなくなんですけど、今の音楽業界に浸かっていないからこそできる、アーティストに対する活動のサポート、ですね。例えば、それを支援してくれる人だけがフェスに参加できるとか。
―アーティストの支援というと?
安澤:世界に出ていくこともそうですし、ベーシックな活動そのものにおいても、レーベルやマネージメントにとって、自分たちの首を絞めなきゃいけないことも出てくる。内部にいないからこそできることってあると思うんです。
―どんなアーティストを、どう支援していく構想ですか?
安澤:どこの国でもやれる市場があるアーティストですね。例えば海外のアーティストを日本に呼ぼうとしたときに、窓口としてはエージェントを辿ればすぐだし、ちょっと調べたら誰にどう連絡を取っていいかわかる。でも、海外の人が日本のアーティストをブッキングしようと思っても、今だと英語で書かれたまとまったリストすらないんです。
―日本の音楽業界には、エージェントという概念がほとんどないですからね。
安澤:ですね。今は昔より出ていきやすいし招きやすいのに、昔ながらの人は腰が重いしやり方がわからない。若い人たちは、すでに自分たちでSNSとか使ってやってますよね。
Ren:僕のところにも、SNS経由で海外から直接メッセージがきて、やりとりすることもあります。
安澤:まあ、アーティストのリストを作るとか、そういうことはエージェントをやらない限りはメリットはないですし、そこは別にやりたくないんですけど。
―支援者がいることが前提だから、エージェントになる気はないということですよね。
安澤:はい。例えばウィキペディアみたいな、あれってみんな見たいから支援するじゃないですか。ああいうものって必要だと思うんです。
―成立するとおもしろいですね。
安澤:まったく成立しないかもしれないですけどね。
Ren:海外だとDJにもエージェントとマネージメントがいて当たり前だけど、日本では自分みたいなDJにマネージメントが付いてるのは異例というか。でもチームを持たないと伸びるところも伸びない。海外や地方のブッキングも取りきれないし、ブランディングもできない。海外のDJともよく共演しますが、彼らって日本のDJをめちゃくちゃ褒めるんです。「海外だと君たちよりレベルの低いDJがバンバン稼いでるよ、損してるよ」って。
―なるほど。
Ren:DJ自身も外に出ようとしないし、出るための基盤もない。そうやってマイナス要素が重なってズルズルといっている現状ですね。そんななかで海外の第一線で活動しているDJ NOBUさんとかは、ほんとにすごい。
安澤:DJ KRUSHさんや田中フミヤさん、DJ KENTAROさんもそうですよね。でもそうやって切り開いた人がいるのに、そこに続く道をサポートして作っていける役割の人が少ない。
Ren:アーティストもアグレッシブさが足りないと思うんです。海外ゲストと共演したときも、「おつかれさま、ありがとう」だけじゃなくて、もっとアピールしないと。俺のおじさん(=SPHERE)なんて、親父(=Zeebra)のDJでサイドMCをして、そのままの勢いで次にプレイしたDJスピナのときにも、最初のほうだけでしたけどサイドMCしてましたもん。
―さすがですね(笑)。安澤さんは若いアーティストに思うことはありますか?
安澤:若い人たちは編集能力が高いというか、まとまっていてうまい。でもそれで終わっちゃうんですよね。今は再生回数とかもわかっちゃうから、その数字を取りにいくというか、みんなになんとなくいいと思われるものを作る。でもそんなものはまたすぐ出てくる。みんなに認められるものって、もうすでに可視化されているわけで、その先に何があるかって言われたら特に何もない気がするんです。まわりが気持ち悪いとか嫌だって思っているものを気にせずやることって大切だと思いますし、自分自身もそこに立ち返りたいんですよね。
Ren:テクノの現場で演歌をかけるみたいな(笑)。
安澤:演歌なのかはわからないけど(笑)、そういうことのほうが新しい軸が生まれる気がします。
―クラブって、そういった個性の集まりだったり、時代の最先端が感じられる場所だったりするわけですが、今はそれが停滞していることについてはどう思いますか?
Ren:クラブが高齢化しているからかもしれないですね。でも海外は若い人たちがどんどん増えてきている。渋谷のクラブでも、同世代は外国人が多いんです。日本人の若い人も、クラブにどんどん来てほしい。”フェス文化”なんて言われるけど、そこにある音楽より前をいってる音楽を身近に感じられると思うんで。
安澤:なぜ若い人がクラブから遠のいたんですか?
Ren:単純に、そういう音楽に出会うきっかけがないんだと思います。俺はTAICOCLUBで出会えたけど。
安澤:そういう意味では、上の世代と下の世代が混じってない感じもするんですよね。
Ren:自分たちの世代が調子に乗ってる部分はあると思うんです。「別に先輩と絡まなくても、自分たちで楽しんでりゃいい」って。そういった内輪から生まれるものもあると思うんですけど、限界もある。そこを超えて見えるものってたくさんあるから、俺はどちらかというと違う世代ともいたい。
―これからの時代を作る若いアーティストに、大人ができることってなんでしょう?
安澤:日本は、アートや音楽について育成する機関ってほとんどないですよね。すぐ売れなきゃダメで、そこに向けてばかり。今の若い人たちは、僕らよりなんでもできるから、その分ちゃんとサポートしてあげないと日本にシーンがなくなっていく。あとは世代をつなげることですね。
Ren:先輩にはかっこつけていてほしいんです。憧れの存在でいてほしい。気に入った後輩がいたら「ついてこい!」って引っ張ってくれたらいい。俺なんてまだまだ、先輩を評価したりメッセージを送ったりできる立場じゃないですけど…。
―今日ここで、世代の違う二人がつながった。これがいつか花咲くこともあるかもしれませんね。
Ren:ほんと、よろしくお願いします!
安澤:こちらこそ。ありがとうございました。
「Motivators」
Vol.01 : JESSE
Vol.02 : 野村周平
Vol.03 : AI
Vol.04 : 村上虹郎
Vol.05 : 安澤太郎(TAICOCLUB)
Vol.06 : Ryohu × KEIJU as YOUNG JUJU
Vol.07 : DJ DYE(THA BLUE HERB)
Vol.08 : CHiNPAN
Vol.09 : Daichi Yamamoto
INFORMATION
■安澤太郎
TAICOCLUB http://taicoclub.com
■Ren Yokoi
2017年11月22日(水) PULLUP 5th Anniversary Presents SUDBEAT JAPAN TOUR 2017 @ 渋谷Sound Museum Vision
2017年11月30日(木) TOKYO PARTY CLUB @ 渋谷TRUNK (HOTEL)
2017年12月4日(月) World Connection @ 渋谷Contact
2017年12月9日(土) THE OATH @ 青山OATH
Instagram : @renyokoi