Ren YokoiとCHiNPAN。水墨画と音楽と東京のこと
:Motivators Vol.08

photography_Takao Iwasawa, text_TAISHI IWAMI

Ren YokoiとCHiNPAN。水墨画と音楽と東京のこと
:Motivators Vol.08

photography_Takao Iwasawa, text_TAISHI IWAMI

Ren Yokoiが今もっとも話したい人を迎える対談シリーズ「Motivators」、今回のゲストは水墨画アーティストのCHiNPAN。この二人は以前、同じマンションの住人同士だったという間柄だ。水墨画という伝統的なカルチャーを独自のアイデアで現代に落とし込むCHiNPANと、ジャンルに捉われず、さまざまな音楽やカルチャーをクロスオーヴァーさせることにDJ/トラックメイカーとしての意義を感じているRen Yokoi。その話にはお互いを刺激しあう要素が多くあり、あらためてそこを掘り起こす、深い付き合いでありながらフレッシュな時間となった。

―お二人は、渋谷の近くにある同じマンションの住人だったと聞きました。

Ren Yokoi(以下、Ren):2012年だったかな? マンションに入ろうとしたら、入り口の前でテンパっている人がいて、「鍵持ってますか?」って話しかけてきたのがCHiNPANだった。

CHiNPAN:オートロックの鍵を部屋に忘れてきたんです。

Ren:そこからですね、近所付き合いが始まったのは。

CHiNPAN:そのマンションが7世帯くらいしかいなくて、そういう感じでつながりやすいというか。ほかにもヘアメイクさんやシンガーソング・ライターの人とかもいて、仲良くしていました。

―アーティストやクリエイターが集まるマンションだったんですか?

CHiNPAN:特にそういうわけではないんですけど、それとなく集まってたような気がします。

Ren:いちばん古くから住んでいる人が、有名ファッション誌の創設メンバーらしく、雑誌のイメージそのまんま、白いスーツを着て赤いバラを胸に差して、「おはよう」みたいな。

CHiNPAN:あとは着物を着てるか。すごいいい匂いさせながらね。

―興味津々です。ほかに、おもしろい人のエピソードなど、ありますか?

Ren:振り返ってみたら、どの部屋も音楽ガンガン鳴っていた。普通ならありえないかも。

CHiNPAN:2階の音が5階の私の部屋まで聞こえてきたし。

Ren:それでみんなOK、みたいな。いちばん被害こうむってたのは1階のレストランなんじゃないかと(笑)。

―不動産屋さんレベルで、アーティストライクな人に紹介しているのかもしれないですね。

CHiNPAN:クレームが来ないように、そういうことを許せそうな人を選んで紹介してたとかしてないとか。

Ren:で、その前のストリートにもいろんな人たちがいたよね。ちょっと歩いたところのコーヒー屋さんにはKダブ(シャイン)さんが毎朝いて、俺、呼び止められて遅刻すんの(笑)。




―私事ですけど、最近東京に引っ越してきて感じるのは、なんとなく”界隈”みたいなのはあって、フラッと遊びに行ったところで出会う人のスケールがデカいなと。

Ren:そういう出会いを特に意識してるわけではないんですけど。でも、だから渋谷界隈に住んでいたいっていうのは多少はありますよ。

―東京っていろんなカルチャーの中心地で、そこ以外に住んでると、「二度売れなきゃいけない」という感覚があるもので。東京だとそこはダイレクトな気がするんですけど、いかがでしょう?

Ren:いや、そうでもないんじゃないですかね。独自のカルチャーがある分、そこで売れてローカルヒーローにはなれるけど……。

CHiNPAN:インスタとかSNSでハネても、東京ローカルになりがち。

Ren:言ってしまえば狭いんですよ。視野もエリアも。でも、ひとつのことでローカルヒーローになって、それで食っていけるだけの力を持っている街ではあると思います。そこからさらに外に出て全国区になるには、って考えるとやっぱり「二度売れなきゃいけない」。だから東京以外の街と同じだと思います。

―東京に対してそういう俯瞰的な目も持っているなかで、どうサバイブしていこうと考えていますか?

CHiNPAN:私はどちらかと言うと受け身な人間なので、あまり考えていなくて。単純に、東京は楽しいなって思います。何もしてなくても、ってわけじゃないですけど、入ってくる情報は多いですよね。今は何がすごい、とかそういう話で溢れてる。いつも刺激がある。住んでいてよかったと思います。

Ren:東京って日本をリードするカルチャーを持っている街ではある。俺は海外に住んでいた経験もあるから、東京だけというよりは、世界の中のアジア、その中の日本、って感じで大きい絵で見たいですね。

―CHiNPANさんはご自身のことを”受け身”とおっしゃいましたが、作品を”発信する”ということについては、どうお考えですか?

CHiNPAN:今は作品に対してお金をいただけるようにもなって、それはほんとにうれしいことなんですけど、自分からそこに向かって積極的に働きかけたわけではないんです。水墨画を描き始めたのも、学校で一人、隅っこで絵を描いていたら「お前は水墨やれ」って、和紙と筆を渡されてハマったのがきっかけ。それをそのまま続けてたら賞も取れて、仕事になっていった。だから、自分の作品を作って展示会やりたい! という気持ちも、あるにはあるんですけど、どっちかというと溜まってきたから出そうっていう感覚です。


―なるほど。それにしてはすごくストイックに突き詰めたと思われる、オリジナルで斬新なアイデアが作品に詰め込まれています。

CHiNPAN:やりたいことはあるんですけど、それを誰かに観てもらいたいとか、そういう気持ちはあまりなかったです。でも、やっていくことでいろんなことが見えて、気付いたことはあります。

―例えばどういったことですか?

CHiNPAN:私はアイドルが大好きなんですけど、アイドルと水墨画って結び付かないじゃないですか。じゃあどうしようかって考えたときに、グラビアの子やアイドルの子を呼んで、墨でボディーペイントをしていく”生きる作品展”というテーマを思いついたんです。2カ月に1回くらいやっていますが、完全に「アイドルに会いたい、描きたい」という私利私欲(笑)。それをおもしろいと思ってくれる人たちがいて、気づけば2年くらい続いている。

Ren:やりたいことをやった結果だよね。

CHiNPAN:アイドルファンの人たちが、水墨画を認識してくれるようになったり、アイドルの子たちが個展に来てくれたり、そういうのは純粋にめちゃくちゃうれしい。だから好きなことを、はっきり「好きです」って言えたほうがいいなと思います。

Ren:CHiNPANは出会った頃から、ストリートカルチャー感を持っていたし、古風なものを工夫をして今に落とし込む、そのアイデアはすごいなって思います。

CHiNPAN:うれしいな。

―上の写真でCHiNPANさんが手に持っている作品は、どんなイメージがあったのでしょうか。

CHiNPAN:まずはモデルを何人かピックアップして、その人に合わせて描いていきました。それを写真に撮って、最終的に和紙に印刷する。和紙ってザラザラしてるし細かくないから、写真には合わないのかもしれないけれど、和紙の”絵っぽく見える”感じが好きなんです。グレゴリー・コルベールという写真家の展覧会で見た作品がイメージとしてあって、私なりに和紙を探して辿り着いたのが、阿波和紙という1000年以上の歴史があるもので。それが実はグレゴリー・コルベールと同じものだった、というのが後でわかりました。

Ren:人と絵と写真の重なりの次元がすごいよね。もはやひとつのジャンル。モデルがいて絵を描いて、写真を撮って和紙に印刷する、という流れは最初から決め込んでるの?

CHiNPAN:この絵の場合だと、モデルのポテンシャルやカメラマンのアイデア、いろんな人の持っているものの相乗効果に助けられた。こういうボディーペイントは、モデルがいる時点で一人じゃないから、その先どうなっていくか、可能性が見えない。それがやっていて楽しいかな。「生きる作品展」もそうだけど、モデルが持っている魅力も合わさって、自分の創造力を超えてくるのは楽しいですね。

―Renさんがなぜここにきて、もともと仲の良かったCHiNPANさんを選んだのか、わかってきました。

Ren:この「Motivators」は、仲のいい人たちから受けた刺激、というのもひとつのテーマだと思っていて。そういう人たちと仕事というマナーのもとで話してみたらどうなるか、そこがすごく楽しいんですよね。

CHiNPAN:仕事の話なんてしたことないからね。会うのはほとんどお互いの家で、なんなら寝巻姿のときもあるし。

―CHiNPANさんのRenさんに対する印象は?

CHiNPAN:(部屋から)いつも音が聞こえてくるなって。で、階段上ってたら、「なにしてんの?」ってドア開けて声をかけてくる、みたいな。人懐っこい印象です。Zeebraさんの息子って知ったのもずいぶん後で。

―渋谷にいるとすぐ噂が回ってきそうですけどね。「あいつZeebraさんの息子らしいぜ」って。

CHiNPAN:フリースタイルバスケットのZiNEZから聞いたんです。彼もよく私の家に遊びに来ていて、Renくんとも知り合いだったんだよね。

Ren:ZiNEZとはバスケつながりで。

CHiNPAN:彼も、Renくんと知り合ってけっこう経ってから、ラップの話になった流れで知ったらしいんです。そういうことをまったく感じさせないのがいい。一人の人間として、アーティストとして、自立して生きている。

―Renさん、照れてます?

Ren:褒められると弱いんですよ……(笑)。


CHiNPAN:自分に自信を持っているから、何も感じさせないんだと思います。

Ren:自分から言うことでもないですし。でも正直言うと、そうだと知って変わる人もいるから、そこに対する反発もありますけどね。だから、個として見てもらえるのは他の人よりうれしいかもしれません。

CHiNPAN:「そう言われたら顔似てるわ!」とは思ったけどね(笑)。

―たしかに、だんだん似てきてる気はします(笑)。

Ren:ですかね?

―お二人が今後、やっていきたいことはありますか?

CHiNPAN:アイドルとの作品は引き続きやりたいです。できれば15歳未満の子と。それが、私のなかでもっともいい作品ができる気がするんです。今の「生きる作品展」は撮影会みたいな感じだから、その年齢の人たちは難しいけど、ちゃんとスチールで撮って作品にしたい。ほかには、「水墨画ってこういうのもあるんだな」と思ってもらえるものは作っていきたい。水墨画というか、墨を使った何か。あとはオールドスクールな水墨画もちゃんと学びたい。ベースがしっかりしていないと、新しいものを作るのは難しいから。

Ren:“クロスオーヴァー”というのはキーワードですね。ひとつのジャンルに留まるんじゃなくて、いろいろな音楽をクロスオーヴァーさせて、なんなら自分オリジナルのジャンルになるくらいまで。サウンドの部分ではようやく見えてきた感触はあるんで、ヴィジュアル面も意識してやっていきたい。今はまだぼんやりとしているから、CHiNPANが”アイドル”と言ったように、もっと明確に考えたいなって思います。

「Motivators」

Vol.01 : JESSE
Vol.02 : 野村周平
Vol.03 : AI
Vol.04 : 村上虹郎
Vol.05 : 安澤太郎(TAICOCLUB)
Vol.06 : Ryohu × KEIJU as YOUNG JUJU
Vol.07 : DJ DYE(THA BLUE HERB)
Vol.08 : CHiNPAN
Vol.09 : Daichi Yamamoto

INFORMATION

■ CHiNPAN
CHiNPAN個展「平成成仏」
会期:2018年3月4日(日) – 3月18日(日)
時間:11:30 – 23:00
会場:Weekend Garage Tokyo –Cafe & Dining–(東京都渋谷区代官山町1-1グラヴァ代官山1F)
Instagram : @13chinpan

■ Ren Yokoi
3/9(金) OTOZURE @ 渋谷Contact
3/10(土) THE OATH @ 青山OATH
3./16(金) Avalon Emerson 2018 Japan Tour supported by sHim @ 渋谷Circus Tokyo
3/20(火) Einzelkind at NOTTOOSERIOUS @ 表参道Vent
3/23(金) @ 渋谷hotel koe tokyo
3/30(金) SAKURA MATSURI @ 青山OATH
3/31(土) COCALERO Presents “BPM” feat. Rampue @ 渋谷BPM MUSIC BAR
4/2(月) World Connection @ 渋谷Contact
Instagram : @renyokoi

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