BASI×kojikoji対談。「曖昧さや違和感、不完全さのあるほうが惹かれる」

ヒップホップバンド、韻シストのフロントマンであり、近年はソロ活動も活発なラッパーBASIと、弾き語り動画でZ世代を中心に支持を集めて以降、BASIや空音、Lucky Tapesなどの作品にも客演参加するkojikojiの対談は、新たな視点を発見できる実りの多いものとなった。今一度、な二人の出会いからファーストインプレッション、前作「127」に続き全曲作詞・プロデュースをBASI が担当したkojikojiの2nd EP「PEACHFUL」についてまで。世代もキャリアも違うからこそのシナジーと、リスペクトのもとフラットに接する二人の様子は、とても現代的で、なにかこう、腑に落ちる体験となった。

-お二人の出会いから今一度、聞かせてください。kojikojiさんはBASI feat. 唾奇「愛のままに」のカバーで注目を集めました。

kojikoji:もともと、弾き語りのカバー曲をインスタに載せていたんですけど、あるときYouTubeをサーフィンしていたら、ヒップホップのMVを見つけて「この曲好き!」ってなって、ヒップホップのカバーも弾き語りでするようになったんです。それをなにかのきっかけでBASIさんが見つけてくださって。本物なのかも疑わしいレベルで「なんで!?やばい!」って感じていました(笑)。

BASI:最初、こっそり覗きにいく期間はあったよ。ラップの曲以外にも、kojiちゃんが歌っているのを聴いて、そこから原曲をたどって、ええ曲やなって思うこともあったり、そういうのが面白くて。

-そもそもBASIさんはどうやって発見したんですか?

BASI:偶然、ハッシュタグからたどり着いた感じですね。最初は唾奇の「Made My Day」かな?唾奇が歌って説得力がある「適当な粉に適当な錠剤」というラップの曲を、弾き語りでカバーしていることが衝撃だった。で、「愛のままに」のMVが公開されたあとに、薔薇のスタンプと「i want 2 listen」とだけポストにコメントする形で送ったんですね。僕のなかで薔薇って「愛のままに」のシンボルマーク的なものだったので。それでなにかフィールしてくれたらきっとリアクションがあるだろうと。そうしたらすぐにカバーがインスタに上がって、おお、歌ってくれた、って。

kojikoji:メッセージいただいた次の日くらいに上げました。「i want 2 listen」ってコメントがきたときは衝撃的でしたけど。

BASI:僕はまずカバーしてもらっているのが嬉しくて、そこに対してテンションが上がってたんですよ。でも何回か聴いているうちに、待てよと。カバーしてもらっているという事実じゃなくて、この歌や世界感にやられているかもって気付いた。フックの「夢の途中で〜」だとかも、自分が考えていたものとはまた違う響きだったし、ラップのフロウやリズムも聴いたことのないもので、天性のフィーリングでやっているなと。何にも染まっていない感じがよかった。

-自分のラップが弾き語りでカバーされるというのはどういった心境でしたか?

BASI:そういったフォーマットが世にいっぱいあるとまた違う感覚なんでしょうけど、いままでなかったような、「これなんなんやろう?」というのが嬉しいというか、誇らしかった。そこに面白さとか楽しさがあるから。共作じゃないけど、ひとついいものが作れているんじゃないかなと感じていました。

kojikoji:ありがたいです。実際は、怒られるんじゃないかという気持ちはどこかにありました。ヒップホップとして御法度なのかなというイメージはあったので、インスタに載せるときはすごく勇気がいりました。

BASI:いままでにない音の感覚や解釈の仕方はもちろん、kojiちゃんの発信の仕方や自分をプロデュースする方法も最初は衝撃だった。告知もなく、いきなりインスタライブがはじまっても真っ暗で見えなくて、そのなかで歌だけが聴こえてきて、でも好きなタイミングで止めたりする。全部見たいけど見られない感じも面白いなって。

-そういったBASIさんの柔軟さにも驚かされます。

BASI:ときどき、フックアップとかって言ってくれる人もいるけど、そんなこと全然思ってなくて。現行では何がトレンドでみんな何を聴いていて、どんな表現をしたいかとか、教えてもらうことも多いですし。せっかくつながれたんだから自分も成長したいし、という感じなんですよね。僕の前作『切愛』にしても、kojiちゃんがコーラスで参加したり、ニューリーがビートを作ったり、空音が歌っていたり、そうやって一緒になって作っていくことで、絶対に自分の感覚だけでは出し切れないものがめちゃくちゃ生まれる。その時間を過ごすほど楽しいから、どんどん濃い作品になっている気がしますね。

kojikoji:はい、楽しいです。

-2/24リリースのkojikojiさんの2nd EP「PEACHFUL」について聞かせてください。前作「127」に続き、BASIさんが全曲作詞・プロデュースを担当しました。制作はどういった形で進行するんですか?

kojikoji:基本的に、BASIさんがボイスメモで歌詞にメロディをつけたものを送ってきてくださって、そこに私がギターをつけて自分のちょうどいいキーで歌ってみて、こんな感じになりましたけどって送り返す。そこから「キーはもう少し上げてみる?」「BPMどうしようか?」みたいにどんどん決めていく感じです。そこからトラックを入れるか入れないか、入れるなら誰にするかとかも考えていく。

-意外にメロディー先行なんですね。トラックありきではなく。

BASI:よく意外って言われるんですけど真逆なんですよ。トラックありきだとBPMもキーもコードも決まっている。僕からするとそれは縛りに感じるのですごく苦手で。鼻歌でボイスメモに入れる行為って無限大だから。皆さんからしたら意外かもしれないですけど、僕からしたら当たり前の、何十年もやっているやり方というか。

-なるほど。

BASI:あとは、自分が発声してもしっくりこないものもkojiちゃんが歌に乗せたら開花するワードをボイスメモとかリリック帳に書き溜めていたり。

-その狙いは感じます。男性目線のものを女性視点で歌う、というバランスというか掛け合わせの妙というか。たとえば「VIBES」で、「オレたちこのままどこまで」「VIBESは足りてる?/まだまだ足りないの?/じゃもっと足してみる?」というリリックを、kojikojiさんの声質で歌うという違和感がいいなと。

BASI:たしかに、kojiちゃんが歌ったりライムしたらいい響きになるんだろうなってワクワクしながら提案しているときってある種、狙ってるのかもしれない。自分が言ってもあまり花開かなくても、kojiちゃんが羅列したら耳に引っかかるような作り方はしているなと、いま気づきました。

kojikoji:ラップをカバーしていたときも、私が「俺」という一人称を使うことのアンバランス感がいいなって自分のなかでは思っていて。私が「俺」って言うことで、全員が自分のことのように聴けるんじゃないかなというのはあります。BASIさんからも以前、「曲のなかで“俺”って言ってるけどどうかな?」って聞いてくれたことがあって。

BASI:聞いたね。

kojikoji:そのときも、私は「俺がいい、そのままやりたい」って言いました。

-それは「俺」として歌うんですか? それとも「私」が歌っている感覚?

kojikoji:一人の人間として歌っています。俺という意識も、私が俺というものを歌っている意識もそこにはなくて。歌詞に溶け込んで歌っているような感じですかね。

BASI:「作品」って感じなんでしょうね。そういうこと、会話していて多いんですよ。これまでの経験値で「こうだな」って答えがあるとしても、kojiちゃんと対峙したときに、「いままでの感覚だったらこうするけど、この微妙なズレがいいのか」とか。たとえば写真にしても、これが完璧だからどう? って提案するけど、「こっちのほうが曖昧だからいい」とか。音選びもそんな感じですね。そういうやりとりがあるから、いい意味で違和感が生まれる。それがめちゃくちゃ面白い。

kojikoji:違和感とか曖昧な感じが好きなんですよね。

-曖昧がいいんですね。

kojikoji:そうですね。どちらとも取れるようなことというか。完璧なものはそこまで好きではなくて、面白くもない気もする。バランスが違っていたり不完全さのあるほうが惹かれます。kojikojiという存在も、いろんなところに軸を置いて均衡を取りたい。恋愛ものばかりを歌うこともないし、がっつりヒップホップに寄った曲も作らないと思う。何かと融合して少し違和感があるものを作るのが好き。

BASI:だからラップも自然にカバーしたりとか、そういうところにつながるんやろうな。みんなが頭の中で一瞬クエスチョンマークが浮かぶこと、そこに面白味とか唯一のものがあるのかも。

-kojikojiさん自らがヴァイオリンを担当したバラード「七色の橋の上で」では、「もういいや、って嘘だよ/そんなわけないでしょう」「百年に一度の大打撃」「あなたを愛して」と歌っていますが、そこに湿っぽさがないのが印象的でした。

kojikoji:それは性格かもしれない。でも、そういう湿っぽい曲を湿っぽく歌いたくないというのはずっとありますね。そこでもバランスを取りたい自分というのが絶対にいて、一方に寄りたくないから違う要素を足してバランスを取っている。常にそうやって生きてるんだと思います。

BASI:サビの部分はそういう湿っぽい要素があるけど、平歌や後半のラップでは、いかにそういう世界から離すか、みたいなバランスは考えたよ。会えない距離を「like a 万里」と表現することによってヒップな要素が出るし、「腹筋 背筋 Just Do It」とかもあったり、ずっとシーソーが動いて、決して湿っぽいところには行かない。

kojikoji:バラードとヒップが交わっている感じ。

BASI:でもやりたいことってそういう感じやんね。

kojikoji:そうですね。

-そういった言葉遊びはやはりラッパーだからこそだと感じます。「アイスクリームとタイニーデスク/愛する人に会いたいです」といったフレーズだとかも。

BASI:それは嬉しい。そこは二人でずっと話してたよな。

kojikoji:はい。

BASI:そういった部分に、ひょっとしてめちゃくちゃ注力してるかも。

kojikoji:「ここの韻がすごく好きです」とか、そういう話のほうが多いですよね。

BASI:いかにそこを遊ぶかのために、先に曲として成立させているフシはある。そこさえしっかりしていたら、あとはバースでめちゃくちゃ遊ぼうっていうのはありますね。タイニーデスクはカタカナにしようか、英語にしようかとか、そんなところばっかり実は話している。

kojikoji:こっちのほうが可愛い、とか。

-ラストナンバーの「もも」は弾き語りです。歌詞はダブルミーニングになっていて、結構踏み込んでいるなと感じました。

BASI:そこもめちゃ話したよな。

kojikoji:はい。最初は「もも」というタイトルもついていなかったので、歌詞がまず送られてきたときに、いままでいただいたなかで一番詩的だと感じました。なんとなく、果実のことを言っているのかな? でも男女のことを言っているようにも感じるし、お母さんから子供に対して言っているような気もするし……。

BASI:絵本を読み聞かせするような感じ?

kojikoji:そうです。気をつけなさいよ、と言っているようなニュアンスにも感じた。いろんな意味に取れる歌詞だなって思って衝撃でした。どう歌うんだろうって。

-BASIさんはダブルミーニングで書いたんですよね?

BASI:その通りですね。桃の保存の仕方とか食べ方をレクチャーしている曲なんですけど、桃が女性でもある。聴いた人がそれぞれで正解を作ってもらえたらいいなと思いますね。

-お二人は大阪拠点ですが、最近の大阪の音楽シーンはどうですか?

kojikoji:というと……?(沈黙)

BASI:僕らの世代が取材されるときに、そういった質問って鉄板の会話としてあったけど、もはやkojiちゃんの世代にはその質問自体が新しいものなのかも。

kojikoji:そうかもです。

BASI:なんなら日韓でコラボもしてるし、シーンというよりも自分のなかでいろんな国を跨いでコラボしている。僕らのときってそういうフォーマット自体がなかったから「東京はこうだけど大阪はこうで、どこどこの地域はここがいい」とか。でもきっと、いまはそういうのがない。

kojikoji:“東京のシンガー”や“大阪のラッパー”、“福岡のアーティスト”という括りで見たことがないし、そういう会話をしたことがないです。

BASI:しなくていいくらい距離が近くなったし、つながれるから。

kojikoji:そうですね。いい時代に生まれています。

-なるほど……。それはたしかに。腑に落ちました。

BASI:僕もいま喋ってて思いました。質問にピンとこないのもわかるなって。

-では最後に。2021年の展望を聞かせてください。

kojikoji:有観客でのライブは諦めてないですけど、いまはそこに注力せずにYouTubeなどで私のライブ映像を見てもらうためにクオリティの高い動画を作っていこうと動いているところです。コロナ禍でライブができなかったので、自分の曲を聴いてもらえる場所がないと感じていたけれど、実際はみんな家とか通学・通勤の時間に聴いてくれたりしている。そこに気づけたので、いまはみんなと直接には会えないけど、ちょっとでも楽しくなるような曲を作っていきたいなと思います。

BASI:ずっと延期になっている自分のワンマンはちゃんとした形でやりきりたいですね。あとは音楽は作れるので、自分の納得のいく、より濃度を高めた音楽を作りたい。自分と向き合う時間も多そうなので、そこを楽しみたいなって。いい音楽を作るのが目標ですね。

INFORMATION

kojikoji「PEACHFUL」

発売中
CD:1,000円(税別) / 10インチ:2,000円(税別) / カセットテープ:1,500円(税別)
発売:FLOPICA / BROTH WORKS LLC. 販売:ULTRA-VYBE, INC.
[収録曲]
1. TASOGARE
2. VIBES
3. 七色の橋の上で
4. もも

BASI

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