幼いころからジャズピアニストとして活躍し、昨年2021年にシンガーソングライターとしてもデビューした甲田まひる が、2nd Digital EP『夢うらら』 をリリースした。表題曲は新しいことにチャレンジする人たちを応援するエールソングで、歌メロやラップ、インストパートが織り交ぜられた構成にも注目の作品だ。今回は甲田のバックグラウンドや新譜の制作過程、込められた想いを聞いた。
甲田まひる
「運命の出会いをきっかけに
ジャズの世界へ」
ー5歳からピアノを始めたそうですね。きっかけを教えてください。
幼稚園の頃に周りの友だちが習い事に通い始めて、私も何かやりたいと思ったのがきっかけです。ピアノは誰かに影響を受けたわけではなく、直感的に憧れて選びました。それから音楽教室に通ってピアノを弾くようになったのですが、左右の手で違う動きをするのが面白くて、すぐに夢中になりました。
ークラシックを習いながらもジャズピアノに傾倒したのは、どんな理由があったのでしょうか?
グループでの発表会のときに、私たちの先生は、クラシックをラテンアレンジにしてくれたり、ジャズアレンジで私にベースを担当させてくれたりしたんです。それがきっかけでおしゃれなサウンドに興味を持ち、図書館で借りてきたジャズのCDをひたすら聴き込むようになりました。それからはソロの発表会でも、ジャズの影響を受けている作曲家の曲を弾かせてもらうようになったんです。私は譜面を忠実に再現するクラシックよりも、自由に弾けるジャズの方が自分に合っていると思うので、いずれジャズの道に辿り着いていた気もしますが、音楽教室で先生に出会えたことは運命だったと思います。
ーピアノだけではなく、歌を始めることになったきっかけはなんだったのでしょうか?
中学生のとき、ア・トライブ・コールド・クエストがきっかけでヒップホップにハマりました。ジャズとヒップホップを融合したようなサウンドとQ-tipのラップを聴いて、私もこんなサウンドを奏でたいと思っていたときに、ローリン・ヒルにも出会って。ヒップホップに歌が乗ることに衝撃を受けて、これが私のやりたいことだと思ったんです。あとはピアノを弾くだけではなく、お客さんの目の前に立ってパフォーマンスをした方が、自分のやりたいことを明確に表現できると思ったのもきっかけのひとつです。
ー甲田さんは音楽だけでなく、ファッションや演技などあらゆる表現の分野で活躍されていますよね。情報やインスピレーションはどこから得ているのでしょうか?
ヴィジュアル面だと、InstagramやPinterestを参考にすることが多いです。SNSはずっと使っているので手放せない存在になっていますが、昔の雑誌を引っ張り出して読むこともあります。あとはラジオを聴くことも多いです。人が考えていることを聴くのが好きなんですよね。この人はこんな考え方をしているんだ、と新しい発見がありますし、音楽に限らず自分のインプットにも無意識的に繋がっている気がします。
「夢うららはチャンレンジする人の
背中を押すようなエールソング」
ー今回リリースする『夢うらら』は、前作『California』からおよそ10ヶ月ぶりのリリースとなります。どのように制作がスタートしたのでしょうか?
「夢うらら」は『California』をリリースした直後から作り始めていたので、やっとみんなの元に届けられたという感覚なんです。「California」よりポップなものを作りたいなと考えながら、制作を始めました。
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ー「夢うらら」はエールソングとなっていますが、どのような想いが込められているのでしょうか?
制作時期が冬から春先に季節が移るタイミングだったので、夢に向かって新生活を始める人の背中を押せるようなエールソングを作りたいなと思ったんです。新しいことにチャレンジするときって不安がつきものだと思うので、そんな心境も歌詞に入れています。私自身も夢や目標を追う身なので、まずは自分自身を鼓舞するつもりで書いていきました。
ー聴くと自然に前向きになれる曲です。タイトルの“夢うらら”という言葉は、この曲のために作られた言葉ですよね。
歌詞を考えているときに、“ooh la la”(うらら)がメロディにハマりそうだなと思って。それが「麗(うらら)」に繋がり、エールソングのテーマともなる「夢」を組み合わせた「夢うらら」という言葉ができました。
ー楽曲制作はメロディが先にできることが多いですか?
順番としては、ビートメイクから始めて、その後にメロディ、歌詞と作っていくことが多いです。同時に作れるようになるのが理想なんですけどね。私はループを重ねて何度も録ったものの中からハマるサウンドを選ぶことが多いので、弾き語りしながらメロディと歌詞が降ってきた、みたいなシチュエーションに憧れます。
ー「夢うらら」はパスピエの成田ハネダさんがアレンジャーとして参加されています。経緯を聞かせてください。
アレンジャーを入れたいと考えていたときに、ご紹介いただいたのが成田さんだったんです。作品を聴いてみるとすごくキャッチーで、イントロから引き込まれる感覚がありました。一見ポップだけど技巧が凝っていて、自分のやりたいことに近い感じがしたんです。この人に力を借りたらどんなサウンドになるんだろうとワクワクして、すぐに依頼させてもらいました。曲の軸となる部分や良いところを展開させていくのが本当に上手な方で、勉強になることも多かったです。
ー今作は、前作に引き続き複合的に展開する構成になっていますよね。歌メロ、ラップ、インストパートと、セクションによって色んな表情がある作品だなと感じました。
自分の中では「J-POPを作るぞ!」という気持ちで作っているんですよね。個性的な曲にしようとか、曲中でガラッと変えようという意志があるわけではなく、全部を通じて違和感のないひとつの曲として制作しています。展開が一切ない曲を作るときもあるのですが、今の自分のテンションや時代的にもこのくらい緩急がある方が合っているのかなと思います。
ーいろんなパートがありながらも、違和感なく1曲にまとまっているのが本当にすごいです。ジェットコースターのように波があって、いつの間にか1曲終わってしまうような。
特に初見は「この曲なんだったんだろう?」と思う方が多いと思うので、ぜひ何回も繰り返し聴いてみてほしいですね。
ー中盤のインストパートはヴォーキング(マドンナの「Vogue」のMVに登場する特徴的なダンス)をイメージしているそうですね。
インストパートは当初ヴォーキングをやるために作った曲だったんですが、「夢うらら」の製作中に一緒にしたら面白いんじゃないかと思って、組み合わせることにしたんです。MVでは実際にヴォーキングのダンスを取り入れているので、ぜひ注目して見てほしいです。
ー2曲目に収録されている「ごめんなさい」は、ラテン調の楽曲ですね。
ラテン音楽も好きなので、今回リリースできて嬉しいです。生活している中で、相手の顔色を伺ったり、その場しのぎで謝ってしまったりすることってあるじゃないですか。特に恋愛になると、思ったことが言えないっていうのは、結局自分を大切にできていない状況だと思うんです。「なんでいつもこっちが謝ってるんだろう?」とハッとする女の子をテーマに制作しました。
ーラテン音楽と聴くと情熱的なサウンドのイメージもありますが、歌詞は恋愛の複雑な思いが描かれているんですね。
強く見えて弱い、弱く見えて強い、みたいなギャップを表現するのが好きなんだと思います。誰もが表に見えている部分だけではない裏側の部分を持っていますし。
ー最後に、今後の目標やチャレンジしたいことを聞かせてください。
いつかは海外のフェスに出るという目標があるので、そのためにどんなアーティストになるべきかを考えながら、リリースとライブを重ねていきたいと思っています。海外の方が自分の音楽を聴いたらどんな反応をするのかも気になりますし、ハマってくれたらすごい熱量になると思うので、その瞬間を見たいですね。これからもどんどん楽曲をリリースして、自分が描いているポップスを発信していきたいです。