ART 2024.07.03

Interview: NAZE 過去最大数の作品から振り返る自分の過去と未来の姿

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Takao Ookubo, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

7月21日までギャラリー月極で開催されているNAZEの個展『Scenes of Disparity(隔たりの風景)』。作品数にこだわり、ギャラリーの壁を埋め尽くすほど大量の作品が展示されており、会期中に配置やドローイングなどが増えていくかもしれない、という展開になっている。
かつてANAGURAで空間を埋めるように展示をしていたというNAZE。この個展はその内容を久しぶりに体現するものとなったようだ。そこに込められた思い、大量の作品を展示することの理由、NAZE自身のルーツについてインタビュー。

過去に何を思い今後どう生きるのかを考えるきっかけ

ー6月22日から開催されている個展『Scenes of Disparity(隔たりの風景)』についてですが、過去に展示してきた作品が勢ぞろいしているのだとか。その数は非常に多く、会場を埋め尽くするほどです。ここまで大量の作品を展示するに至った理由は何ですか?

NAZE:昔からなんですが、綺麗なギャラリーに整然と自分を作品を並べることに物足りなさを感じていたんですよ。これまでにANAGRA galleryで何度も展示をやってきたんですけど、そのときも会場を埋め尽くすほどの作品数を展示していたんですよね。ANAGURAがなくなって、そんな自由な個展ができないことに寂しさを感じていたんですけど、月極は同じ地下だし雰囲気が似ているなと。会場も広いし、作品を大量に敷き詰めることができるじゃん! と思って、こういうインスタレーションになったんです。

ー仰る通り、360度どこにでも作品が展示されいます。これまで表現してきた作品が一望できる楽しさがありますね。

NAZE:僕は作品のスタイルが1つに固っていなくて、可愛いキャラクターの絵もあれば、抽象的なものもあれば、自分でも全然説明できないような作品もあったりするんです。アトリエでもよくやるんですけど、過去の作品をバーっと並べて、自分が込めた感情だったり、本当のところはどう思っているのか、この先どう生きていくのか、といったことを考えるきっかけにしているんですよ。

ーでは、ギャラリー区画ごとに作風を分けて展示したり、雑然とした中にも統一性を持たせて作品を置いたりしているんですか?

NAZE:いや、ごちゃ混ぜですね。大体いつも区別しないで展示しています。強いて言うと、入り口のところに日記シリーズのドローイングを大量にまとめているくらいです。展示期間中にも描いて壁に貼っていく予定なので、だんだんと展示風景が変化していくと思います。言うなれば、普段よりちょっと広いアトリエでやっているってくらいの感覚でいますね。こういう空間作り自体が好きなんですよ。配置を考えて並べたり、ものを置いたりするのがすごく楽しいんです。

ー配置でいくと会場の中央にソファーが置かれていますが、これは?

NAZE:これは僕が大好きな改造屋のドナルドさんとのコラボ作です。彼がアップサイクルスピーカープロジェクト『GOOD DAY MATE』をやっていて、その一環で制作したものですね。クッションの部分に僕が絵を描いているんですけど、これも今回の展示中に描き足していこうと考えています。今回の展示は、これまでのコラボ作を全部集めているんですよ。ぬいぐるみbluetoothスピーカーやテッシュケース、レザーバッグなど。これまでに関わった人たちとの作品を全部置いて、そこも含めた提示にしたいと考えたんです。

ー過去のコラボ作も揃っているという意味で、NAZEさんの軌跡が辿るような展示になっているとも考えられますか?

NAZE:そうですね。これまで展示していなかった2005年頃のドローイングもファイリングして置いたりしているので、まさに“これまでの自分”という感じがします。過去作は今見ると気恥ずかしさがありますけど、同時に感慨深さもあって、自分の初心を思い出します。恐れるものは何もなく、勢いでどんどん進んでいた頃というか。そういう青い部分もお客さんに見てもらえたら嬉しいです。最近では10代のお客さんも多かったりするんですけど、僕の初期作を見て、彼らが絵を始めるきっかけにしてくれたら最高です。

ー室内に大きく設置された小屋も気になります。この中の作品も制作時期や作風をミックスして展示しているんですか?

NAZE:今回はごちゃ混ぜです。小屋は何度か作ってきた経緯があって、以前は、絵の意味が自分にしかわからないようなものを小屋の中に展示していたんです。それを今回は小屋の外側に飾ったりしています。以前は心を閉じていた状態で、それが小屋の展示に現れていたんですけど、もっと心を開いて人と関わってもいいんじゃないかなって気持ちになったので。2013年頃に発表した『GO OUTSIDE』という画集があるんですけど、その頃は対人恐怖症だったんですよ。その頃から比べると随分と人と話せるようになったし、信用できるようになったんですよね。そこが今回の展示の裏テーマでもあります。ここ(小屋の中と外)で隔てちゃったら意味がないなって。だから、今までに何度も自分の展示に来ている人からしたら「え、これってどういうこと? 何のための小屋?」ってなると思います(笑)。一見すると、まとまりがなく見えるでしょうけど、それでいいと思うんです。本当はまとまりにくいものがいっぱいあるのに、それを無理やりまとめて管理しやすくするとか。そういうことが増えてきている気もするので。

ラット・フィンクがルーツだったなって気づいて

ー複数あるNAZEさんの作風からいくつかをピックアップして教えていただければと思います。まず、猫の作品なんですが。

NAZE:ああ、CUTEちゃん。これは、自分がまだ学生だった頃に打ち合わせにいく交通費もなかった時期があって。お金がなくて途方にくれていたら、後輩のペインターが「NAZEさん、絵が描けるんだから、描いて売ってお金にすればいいじゃないですか」なんて言うんですよ。まぁそうだなって思って、落ちている木片に絵を描くかー、となったんです。でも、「自分の絵柄はめっちゃ怖いから誰も買ってくれないんじゃないか」って話したら、「じゃ、可愛いのを描いたらいいじゃないですか」って。当時の自分が思う可愛いものはなんだろうと考えたときに、おばあちゃん家の猫が思い出されて猫にしよう、と。でも、よく見ると歯が齧歯類っぽくなっていて、ネズミと猫のハーフかもしれないようなキャラクターにしているんです。

ー交通費を稼ぐために生まれたキャラクターだったとは。

NAZE:それを四条の橋の下で売っていたら海外の観光客の方が買ってくれたんですよ。やった! これで打ち合わせに行ける! と思ったら「もう(打ち合わせ)終わるから来んでええよ」って。そのまま、そのお金を握りしめて絵を買ってくれた人とビール&唐揚げを買いにいき、一緒に橋の下で飲みました(笑)。

ー最高じゃないですか。一方でホラー調というか、ちょっと怖くてグロテスクな作風もNAZEさんらしいと思います。この背景には何があると考えられますか?

NAZE:家庭環境のせいもあって、子供の頃は自分の気持ちを言葉にするのが苦手だったんです。人間関係に違和感を感じる瞬間も多くて。そんなある日、とある家庭内の出来事から、自分の感情を内に閉じ込めるようになったんです。その頃から謎のイライラや周囲に対する怒りが生まれてきて。それでアーティスト名でもあるNAZE(何故)に至るんですけど、自分の気持ちを吐き出す先が絵だったんですよね。絵を描くことで自分の怒りを消化していくところがあって、絵は自分の負の感情をバッと出すものなんですよ。だから、冒頭にもお話しましたけど、過去の作品を客観的に見ることで、その絵を描いたときの気持ちを考え直すきっかけになるんです。自分はなんであんなことでイライラして怒っていたんだ? って。

ー一方で廃材を使った作品も多いですよね。これについては?

NAZE:昔から収集癖があって、見向きもされないけど、他とはちょっと違うものを見ると拾いたくなっちゃうんですよね。それをアトリエに持って帰って綺麗に拭いて、絵や顔を描いたりして、何か他の素敵なものに生まれ変わるというか。そうやって1個ずつ作っていく感じが好きなんです。

ーそうしたNAZEさんのバックボーンにグラフィティがあるのは、これまでもインタビューで回答されていたことだと思います。改めてルーツについて教えていただけますか?

NAZE:たしかにグラフィティは自分のルーツでもあるんですが、今回の個展の準備中に、2005年頃の自分の絵を見てみると、その先があったかもしれないと思ったんですよね。というのも、グラフィティをガッツリやっていた頃、もちろんレターも描いてたんですけど、一緒にちょっと怖いキャラクターを描いていたのでルーツはもっと前に刺激を受けたものなんじゃないか? って。あの思春期の時代に見ていたものはなんだろうな、と思ったらラット・フィンク(Rat Fink)なんですよ。

ーなるほど、ロウブロウアートがお好きだったんですか?

NAZE:ええ、もともとロウブロウアートが好きなんです。過去の作品を見ていたらラット・フィンクを模写した絵も出てきて「思い出した!」って。これまでインタビューでは「バリー・マッギー(Barry Mcgee)の絵を見てキャラクターを描き始めた」ってインタビューで応えてきたんですけど、本当はその前からドロっとしたキャラクターを描いていたんだなって気づきました。そう考えると自分の今のスタイルにすんなり繋がっていくんですよ。ロウブロウアートをルーツに、ネック・フェイス(Neck Face)、エド・テンプルトン(Ed Templuton)などの要素が入ってきて、大学に行くようになると美術や芸術に触れてフランシス・ベーコン(Francis Bacon)が大好きになりペインティングにのめり込んでいって。本当にジャンル問わずいろんなものを自分に取り込んでいったんです。

ー仰る通り、今名前が挙がったアーティストの要素はNAZEさんの作品にたしかな影響を与えていますね。すごく筋が通っているように感じます。

NAZE:設営中にそれに気づいたので、もう(展示を)やった意味があるわってこっそり思っていました(笑)。

ーそのようにして自分を振り返った個展『Scenes of Disparity(隔たりの風景)』ではありますが、確実に未来へ目を向けた内容でもあると思います。今後について現時点ではどう考えていますか?

NAZE:ここのところ立て続けに個展を開催してきたので、今回の『Scenes of Disparity(隔たりの風景)』を区切りにして、以降は展示の予定を入れていないんです。1つ名古屋でグループ展には参加する予定があるんですけどね。ここからはライブにいって音楽を浴びたり、遊んだり、誰かの展示を観たり、山登りをしたり、自転車を触ったり。そんなインプットの時間を作りたいです。取り戻したい時間があるなって感じです。

INFORMATION

NAZE『Scenes of Disparity(隔たりの風景)』

2024年6月22日(土) – 7月21日(日)
14:00 – 20:00(日曜は13:00 – 19:00) ※月・火・水休廊
月極
東京都目黒区中央町1-3-2 B1
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NAZE
https://www.instagram.com/naze.989

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