CULTURE 2024.10.17

藤井道人:けむりのまち
第二十回『ほしとすな』一問一答

Photography_Sara Masuda
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第二十回は、恒例となった一問一答。藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。

夏が終わりましたね。僕は『イクサガミ』の撮影を終え、世界諸国を放浪の旅にでも―と思っていたのですが、そんなことは全く夢のまた夢、会社ごとと執筆にお尻を蹴られまくりながら、精神的には少し不安定な毎日を送っています。『正体』の試写も徐々に始まってきていて、多くの良い反応をいただき少しだけ安堵しています。台湾金馬映画祭の上映も決まり、台湾の皆さまに再び会えること、楽しみにしています。11月29日の公開まで、皆さまとこの映画を盛り上げれたら嬉しいです。
宜しくお願いします。
では、今月の質問コーナーですね。今回も、猛者ばかり。頑張ります。

ーーー日本には四季があります。日々撮影が続くと雨を降らせたり天気を作ったり深夜の撮影だったりすると季節感がなくなるような気がしますが、、、藤井さんはどの季節が好きですか?そしてその理由は?大切な思い出などがあれば、併せて教えてください。

僕は、なんといっても『春』が一番好きです。歯を食いしばるような寒さを抜けて、柔らかい風と桜が歓迎する日本の景色は、どこか日本人がもつ『精神』の部分に近いような気がしていて。僕の人生も、20代の青春が終わり、3、40代の朱夏に入っているのですが、四季の流転は様々なものに例えられるから素敵ですよね。思い出で言うと、やはり『余命10年』という映画で夏、冬と撮影をしたのちに春パートで桜の描写を撮れたこと、美しい四季を撮れたことは今でも大切な思い出です。

ーーーお仕事において一切妥協しないことで有名な藤井監督ですが、イクサガミのような長期間の撮影では、なにをモチベーションに頑張れたのですか?

モチベーションは……なんでしょうね。クールに言えば『仕事』ですから、自分の闘いです。僕は、一度手を抜くとそれを覚えてしまう愚かな生き物なので手を抜かず、緊張感を持ってストイックに向き合っていたと思います。ただ、もう少し本音の部分を言うと、映画の現場は決して一人ではないのでみんなと一枚の絵を作る『仕事』が僕はそもそも大好きなんだと思います。頑張る必要がないということでしょうか。僕はしばらく撮影を控えていないので、もうすでにイクサガミの現場に戻りたくて仕方がありません。皆は嫌がると思いますが(笑)

ーーー長丁場の撮影、お疲れ様でした。少し歩みを緩めて、メンテナンスよろしくお願いします。映画愛が高じて、地元の映画祭のボランティアやスタッフをさせてもらっています。インディペンデント作品を見させていただくことがあるのですが、監督が作品を見るとき、どのような視点で鑑賞されているのでしょうか。知りたいです。

ボランティアスタッフ!お疲れ様です!僕は、広島国際映画祭という映画祭で見出してもらったのですが、ボランティアスタッフの皆さまに助けられて映画祭は出来てるんだなと思います。いつか、呼んでくださいね。審査委員を仰せつかることも多いのですが、この審査基準は難しいですよね。僕自身インディーズ出身なのですが、選考基準は『自分の目で、自分の心で物語を伝える熱量』を大切にしていることが多いです。『~っぽい』作品をインディーズ時代は作ってしまうこともあるのですが、「この監督はこの映画を作らないと死んでしまうんだろうな」という熱量を見ると、非常に愛おしくなります。技術は、仲間が集まれば必然的にあがっていきますから、そこまで重視しないですね。ただ、大体審査会では意見が割れるので、僕が良いと思ったものが必ず良いとは限らないと思うし、だからこそ、映画は素敵だなと思います。

ーーー藤井監督が次に海外ロケをするとしたら、どの国で撮影してみたいですか??旅行してみたい国などもあれば教えてください!

香港やマカオ、中国に興味があります。ヨーロッパを綺麗に撮れる人は沢山いるでしょうから。旅行をするなら、これも中国ですかね。外から見る中国と、どれだけ違うのか、自分の目で見てみたい気持ちが強いです。行くなら色々な意味で、一人で行きたいですね。

ーーー「SHOGUN 将軍」が世界で認められた事で、藤井監督のイクサガミへの期待も世界的に高まっていると思います。日本やアジアだけでなく、欧米などの全世界で公開(配信)される事を視野に入れ、制作過程で意識して取り組んだ事は何かありますか?

Netflixはクリエイターへのリスペクトを欠かさない作り方をしてくれるのですが、その分、作るときの目線の共有が大切になってきます。その時に大事にしたのは、『あえて海外に受けようと作品を作るのではなく、日本で、日本人が観てまず最高だと思ってもらえるものを目指そう』ということでした。その中でも、時代劇的な専門用語が多いので、そこら辺の調整は少し大変でしたが『日本の作品』であることの基本はブラさず撮影をしたと思います。

ーーー以前の連載のBABEL LABELメンバーとの座談会を読みました。皆さん、仲が良さそうだし、とても面白い方々ばかりですね(笑)。私も一緒に酒を酌み交わしてみたいですー!さて、文中で監督が「これから日本でもドキュメンタリーの時代が来る!」みたいなことをおっしゃってたと思いますが、監督がドキュメンタリー作品を撮るなら、どういうテーマのものが撮りたいですか?

座談会、ありがとうございます!もう初期メンバーは腐れ縁ですからねえ(笑)。皆、どんどんと羽ばたいてくれて嬉しいです。お酒を飲んでも喧嘩をしなくなりました(笑)。ドキュメンタリーは、実際にかなりの数の作品を準備している最中なので、ディティールは言えないのですが、日本の美や、食をモチーフにした作品は興味ありますね。きっと100年後には変わってしまっていることを記録する意味でも、ドキュメンタリーの価値は今後更に上がっていくと思います。BABELも、その時代の波をしっかり追えるようトライ&エラーで頑張っていきます!

ーーーいつも映画を楽しませて頂いております。段々と質問の難易度が上がってきているとのことで、ここで少し下げさせてもらいます(笑)。野球の大谷翔平選手は睡眠時間を8時間取っているそうですが、撮影のない時、藤井監督は睡眠時間をどのくらい取られていますでしょうか?撮影のある日の睡眠時間も教えて頂けると嬉しいです。

僕は、本当に睡眠の質が最低なんですよね…。枕を変えてもダメ、マットレスを変えてもダメ、睡眠導入剤を飲んだら翌日もずっと眠くて一回で止めました(笑)。普段は6時間くらいで目が覚めてしまいます。これは撮影の時も一緒です。そして、睡眠アプリによると全然熟睡出来てないようです…。睡眠がこの世で一番難しいです……。

ーーー映画を公開される前に、宣伝活動があると思いますが、私は興味があるからこそ、色々な記事を読んだりしたいのですが、読みすぎるといざ鑑賞したときに、楽しみ・驚きなどが半減してしまう気がしています。とても、難しいところなのですが、監督は情報を入れてから鑑賞してほしいと思われますか?また、ご自身は、映画を見る前に、情報を入れてから鑑賞されますか?

僕は、事前に一切情報を入れずに観るタイプです。観終わった後に、監督や俳優の対談を読むことが多いですね。ただ、出演者のファンである場合は先にインタビューを読むかもしれません。加速装置というか、映画をより楽しむために、その人の覚悟とかを知っておく!みたいな。ただ、僕にとって映画はきっと恋愛のようなもので、ビビビ!!っと出会った瞬間の電流が好きなんでしょうね。だから、あまり人が面白い!って言ったからその映画を観る。みたいなこともありません。今一番観たい映画は『HAPPY END』で、観た映画で最高だったのは『シビルウォー』でした。配信作品だと今は『白と黒のスプーン』にはまっています。

ーーー初めまして、藤井監督の作品をいつも拝見させてもらっています。僕は今、大学生ですが将来は映画監督になることを夢見ています。監督が思う「映画監督になるなら、この作品だけは絶対に見ておけ!」というような作品や映画監督はいますか?

わー!映画監督、大変ですよー!笑 嘘です。楽しい職業です。いつかお会いできる日を楽しみにしています。僕自身、この作品を観ておけ!みたいなことを強要してくる大人が大嫌いなので、ご自身が、沢山の映画と出会う中での自分の『好き』をずっと大切にしていてください。僕自身は、邦画では市川準監督、岩井俊二監督や行定勲監督の作品を良く観ていました。洋画は、アメリカのコメディ映画から入って、途中からウォンカーワイや、ホウシャオシェンなどアジア映画に傾倒していきました。しかし、これは義務ではなく、楽しかったからだった気がします。

ーーー最近、監督が注目している若手映画監督はいますか?またカメラマンやフォトグラファーで注目している人などもいれば教えて欲しいです!!!

上記にも書いた『HAPPY END』の空音央監督とかは、予告を観ただけで本当にすごい監督が出て来たなと感嘆しました。
あとはBABEL LABELの若手監督たちは全員凄いので注目しています。(社畜ですいません)撮影監督は、面白い人が沢山出てきていますね。20代だと、イクサガミで抜擢した山田弘樹。かつては僕のアシスタントだったGAKU。川上智之の助手だった、島津が今はとても売れてて嬉しいです。若い才能と出会うと、自分がもう若手ではないことに辟易とします。

今回も、濃密な質問の数々、ありがとうございました。
来月、対談ですねー。誰にしようかな。緊張する、あの人かなぁ。うーんでもな。
とモヤモヤ考えております。
とりあえず、楽しみに待っていてください。
寒くなってきましたので、皆さまお体ご自愛ください。

それではまた。

藤井道人

※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。

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