清原果耶
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日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。
第二十四回は藤井道人が「ミューズ」と公言する俳優、清原果耶との対談。映画では『デイアンドナイト』(2019年公開)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020年公開)、『青春18×2 君へと続く道』(2024年公開)でタッグを組んだ経緯がある。
2025年11月に配信されることが決定したNetflixシリーズ『イクサガミ』においても、清原果耶は衣笠彩八役で出演。長きに渡ってタッグを組んできた2人が映画作りで共に過ごした時間を振り返りつつ、今後の未来に向けて語り合う。
藤井道人(以下、藤井):出会いは遡ること7年前。都内某所地下のオーディション会場だったね。
清原果耶(以下、清原):ええ、覚えています。釜爺(※)みたいな格好をしてオーディションに行きましたね。
※スタジオジブリのアニメ映画『千と千尋の神隠し』の登場キャラクター
藤井:黒T、黒パンツみたいな(笑)。あの時は『デイアンドナイト』のオーディションで、俺の横で山田孝之さんがぶわって鳥肌立ったって話していたのを覚えてる。もちろん自分もだけど、果耶ちゃんの何かに惹かれて、あの瞬間から始まったんだよね。当時、15歳。その時に印象的だったのが「オーディションが楽しい、好き」って言ってたこと。行きたくないって人もけっこう多いのになんでそう思えるんだろう? って。
清原:いつから好きなんだろう。多分、(俳優を)始めた時から好きだったと思います。自分が1人じゃ何もできないことを知っているからこそ、自分で自分に期待するのが楽しいっていうか。好奇心が勝っちゃって、ずっと楽しいって思っていたんでしょうね。今でも好きです。
藤井:そうなんだ。でも3年おきぐらいにご一緒しているよね。『青春18×2 君へと続く道』(以下、『青春~』)、『イクサガミ』……。(『イクサガミ』の)場面写真なんて、めっちゃお姉さんだったよね?
清原:ああ、お姉さんになったんだな~と思って感動しましたね。そりゃ時間も経つよね、と思いました(笑)。
藤井:振り返ったときに、どの作品が1番印象に残っている?
清原:『デイアンドナイト』かもしれないです。もちろん全作品色濃く記憶に残っているんですけど、出会いって印象的じゃないですか。そこから構築されていると思うと、思い返すことがすごくあるというか。
藤井:クランクイン、覚えてる? いきなり泣き芝居でさ。
清原:そうですよ! 本当に過酷なスケジュールでした‼って書いておいてください。
一同:笑
清原:でも、藤井組に入ると絶対に1日目に泣かされるというか、重たいシーンを撮ることが多くて。『青春~』のときもアミが病室でジミーと電話したりするシーンから撮影が始まって、「藤井組ってこうだよな……」って毎回思います。
藤井:ですよね。普段はもうちょっと配慮しているんですけどね。果耶ちゃんのときだけはなぜかそうなるっていうか。いや、でも『デイアンドナイト』の時は、こんな15歳いるの!? って思ったよ。
清原:あの時、震えが止まらなかったのを鮮明に覚えてます。『やばい、これやらなきゃ! どうしよう!』みたいな。すごく緊張しましたけど、その経験が重なったからか、あまりクランクインの日に怖いと思うことが少なくなったというか。藤井組では俳優部が追い詰められていることが当たり前な現場が多かったり。
藤井:申し訳ございません、本当に。
清原:とんでもございません(笑)。伝え方が難しいんですけど、責任感とか使命感をちゃんと持って取り組むことができるのですごく嬉しいんです。
藤井:いやいやねぇ。でも、4本もご一緒した俳優さん(女優のことを示す)って他にいないから、恥ずかしげもなくオフィシャルで“僕のミューズです”って言っていて。
清原:ミューズってよく言ってくださるから、改めてミューズの意味を調べたんですけど『そうなのか…』ってまた震えました(笑)。
藤井:俺らにしても『青春~』で得た経験はすごく大きくて。初めての海外との合作作品を果耶ちゃんとやることができたうえに、あれだけたくさんの反響を得ることができたから一緒に海を渡れたのは本当によかった。果耶ちゃんはどうだった?
清原:任せてもらえて嬉しかったですし、頑張らなきゃなって本当に思ったんですよ。私は、この人と一緒だから頑張るっていう理由があった方が楽しめるタイプなので、藤井さんがこの役を私に任せてくれたってことは、もう命がけでやらなきゃいけないって。大きな旅路に私も連れてってくれるんだ、嬉しい、とも思ったし。その分、お芝居や表現で恩返ししなきゃってずっと思っていた現場でした。『青春~』も2日に1回くらい涙を流すシーンがあって。 もうずっと泣いているんです、藤井組に行くと。
藤井:いやいや(苦笑)。いろいろと背負うと、ね?
清原:はい(笑)。感情が大きく揺れるシーンがたくさんあったので集中を切らさないように必死でした。幸せな現場でしたね。ずっと気が張ってたけどずっと楽しかったです。
藤井:じゃあ、藤井組じゃない話で。15歳で出会って23歳になったわけだけど、転機になった出会いはあった? 誰かを挙げるとすれば誰がいるかな。
清原:今も感動を覚えているという意味だと、デビュー作の『あさが来た』(2015年度後期放送のNHK「連続テレビ小説」)で宮﨑あおいさんとご一緒した記憶はずっと頭の中に残っています。当時、お芝居なんて何もわからなくて、現場を止めてしまうことも多かったんですけど、その時に、背中で語っていただいたというか。俳優としての姿勢を間近で見させていただいて、お芝居の本番中に泣かなくていいところで『やばい、泣くかも』って思ったり。これが心を動かすということなんだなって思ったんです。原点はそこですね。でも、藤井さん以外って聞かれても難しいです(笑)。
藤井:そっかそっか。
清原:本当に考えるんですよ。よく聞かれるじゃないですか、「どのくらいお互いのことを知ってるんですか?」って。
藤井:そうだね、聞かれるね。
清原:その時に「いや、プライベートのこと別に知らないよね」って話になったじゃないですか。そこまで深く全部を知っているわけじゃないけど、一緒に戦ってくれているっていう気持ちが生まれる存在ってあんまり私の中にはいないので。藤井さんが生きている間は、私も生きて俳優として頑張らなければって最近思うんです。(監督業を)辞めちゃったらどうしようって本当に思うし、なんかそんなことを匂わせてきたりするじゃないですか?
藤井:うんうん(笑)。
清原:それを真剣に考えちゃうんですよ。私にはやっぱり藤井監督と映画を撮りたいから頑張れてこれた過去があるから。私がどれだけ落ち込んで地面に寝っ転がっていても、多分連れてってくれるんですよ、藤井さんは。「ゴールはこっちだよ」って手を引いてくれるということがわかっているというか、私がそう勝手に信じているから安心して飛び乗れるというか。『イクサガミ』もそうですけど、藤井さんからのお誘いならばやるしかないって考えていたので。
藤井:そう、『イクサガミ』もオファーしたのは俺なんだけど……。
清原:撮ってくれなかった!!
藤井:いや(笑)。俺の担当している回が終わってから果耶ちゃんが話に登場するんだよね。
清原:同じ想いを抱いている人、いっぱいいます、俳優陣は(怒)。
藤井:申し訳ない、本当に。でも見事だなと思った。ちょっとだけ嫉妬したもん。『俺じゃなくてもそこまでできんじゃん』って。
清原:頑張りました(笑)。でも、(『イクサガミ』の撮影現場で)彩八ちゃんの感情が繊細に動くシーンの撮影中に(藤井監督が)ニコニコしながら現場を見学しにこられていて。そんなところから見てないで降りてきて一緒に話しましょうよ‼ってことが。
藤井:ありましたね~(笑)。でも、本当にあの時代を生きた女性としての力強さとかをすごくしっかりとやっていて、さすがでした。
清原:できていました? よかったです。
藤井:いや、嬉しかったよね。人気キャラ(清原果耶扮する衣笠彩八)になること間違いなしだ。衣装もね、もう間に合わないよって言った時に、まさ江さん(『イクサガミ』衣装デザイン担当、宮本まさ江さん)に「ちょっと待った。果耶に着せるのはこれじゃない」ってさ。
清原:「マントの色が違う」って(笑)。
藤井:そうそう、それもきっとやってきたからこそわかることがあるんだって感じたし。これからもそういうストイックな関係でいれたらめちゃくちゃいいなってね。
清原:ありがたいです。出会いが多いじゃないですか、この仕事って。場所も記憶も時間も全部過ぎ去ってしまうことが多い中で思い続けてもらえるなんて、こんなにありがたいことないよなって。
藤井:ね、だよね。
清原:だから本当に頑張ろうって毎回思いますし、逆に言えば、自分が頑張りを止めたら、この人とは一緒に作品が作れないんだなとも思っているし。本当に励みになります。
藤井:そんな風に同世代のさ、藤井の寝首をかいてやろうと思っている20代の才能ある監督みたいな最強のパートナーみたいな存在を見つけてくれると非常にプロデュースしやすいなって思うわけですよ。
清原:…………まだ一緒に走ってください!!(怒)。
藤井:そうだねそうだね(汗)。一応まだプレイヤーではあるんだけどね。にしても、『イクサガミ』の4話、観た? すごくよかったよ。透さん(『イクサガミ』監督の1人、山本透さん)の。
清原:現場で、透さんとたくさんコミュニケーションを取りながら撮影しました。楽しみながら毎日現場に臨めたのでそれがすごく嬉しかったです。
藤井:そうだよね。だからさ、若手スタッフがフューチャーされがちだけど、ちゃんと縁の下の力持ち的な父ちゃんがいるから、俺らみたいな若頭連中が輝けるわけなんだよ。本当にリスペクトしてる。
藤井:今の若い世代の中にはさ、果耶ちゃんみたいな生き方にうらやましさや尊敬の念を持っている俳優がすごくたくさんいると思うの。でもさ、真の強さがないとできないじゃない。続かないというか。だから俳優として何を心がけているのかを聞きたいんだよね。「清原果耶、なんであんなに芝居が繊細で強くいられるのだろう?」って。
清原:私って強いですか?
藤井:もちろん身内にもなれば繊細なところを知っているけど、現場での立居振る舞いを見ると、すごく俯瞰的に見ていると感じるし、視野が凄いのよね。こっちはまだ準備できてないから見ないでってなっているのに、『見られたっ……!』みたいな。
清原:最近わかったんですけど、私、草食動物並みに視野が広いんですよ。
藤井:もう、それやめてほしい(笑)。こっちも足りてない時があるから。
清原:私の場合、早い段階で楽しむことより責任が先にあったというか。自分で重しを持つような生き方をしてきて、ちょっと腰が重いっていうことがあったので、今はそれを置いて、子供心で遊びに行くぐらいの気持ちで現場に行くように心がけて。『イクサガミ』のときも、そうしようと思って頑張っていたんです。そしたら身軽で楽しかったんですよ。やることをやらなきゃいけないのは当たり前なんですけど、やっぱり楽しいが1番の原動力なんですよね。それがないと私は仕事ができないから。楽しいに貪欲なのかも、自分の強さっていうと。
藤井:うん、そうだね。一時期、藤井組じゃないところにいて、帰ってくるといつもニキビを作ってきて、藤井組で治るっていう時期があったじゃない。
清原:はい、ヘアメイクさんが言うくらい(笑)。
藤井:そうそう。藤井組のことをいい組だって思ってくれてんだなっていうのが伝わってきて嬉しかったな。
清原:もうどんどん健康になって精神が満たされていきますからね。もう本当にガソリンですし、私のエンジンです。
藤井:恐縮です。じゃあ、これからの目標について。我々で一緒に面白いものを作っていこうぜっていうのはあるけど。生き方としてどうありたいのかを聞きたい。
清原:それについて最近よく考えています。数年前から「今年の目標は?」って聞かれたら「健康第一!」なんですね。
藤井:おお。
清原:一時期、体調があまりよくない時期があって、それを経験した時に、不健康な精神から生まれるものに助けられることもあるかもしれないと思いつつ、でも身体を壊しちゃ元も子もないなって。身体を壊さずに、いかに楽しく表現としてそこを埋めるかがスキルなんだって。しんどい、辛い、苦しい、悲しい、悔しい、我慢、怒りとか、そっちの自分に助けられて生きてきたとも思うんですけど、じゃあ後何十年これをやるの? って思ったら怖くなってきちゃって。みんなも心配してくれますし、何十年も藤井さんに「大丈夫か、果耶」て言われているようじゃダメだなって。健康なままで楽しい人間でいることが目標かも。
藤井:そのことにさ。23で気づけるなんてすごいと思うよ。俺なんてその年齢のときは『売れたい! 世の中はなんで気づかないんだ、ふざけんなー!』って思ってたもん。
一同:(笑)。
清原:いやいや、私も『ふざけんなー!』って思うことはいっぱいあります(笑)。でも、そういう感情も大事にしながら、うまく消化することができる自分に憧れているし、そうなりたいっていう気持ちで最近は生きているかもしれません。
藤井:うん。今日は、人間・清原果耶としての声が聞けたけど、そういう内容が残るのって珍しいことだよね。でも、人間らしい果耶ちゃんって俺らからするとキュートだし、そこも大人になっているから見せていってもいいんじゃないですかって。果耶ちゃんの言葉に勇気づけられて、自信につながる人もいるかもしれないし。作品を背負っているときの取材や対談だと、言葉の選び方も多分違うんじゃないかな。
清原:本当にそうです。今日の対談はこれ以上ないくらいの素で来ちゃっているので。
藤井:じゃあ、この後もちょっといろいろ話したいことがあるので、引き続き。
清原:私もあります、積もる話が!
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
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