クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。
今回は2MCのヒップホップユニット、Dreamcastとして音楽活動も行いながら、路上で採取した空き缶や煙草の箱などの「ゴミ」や、それらを描いたドローイング作品を制作するアーティストの吉本綱彦に話を聞いた。
吉本綱彦がゴミを拾い始めたきっかけは、大学時代の先輩でもあるアーティスト、NAZEにあるという。頻繁にゴミを拾うNAZEを見て、そのよさが完全にはわからないまま漠然とゴミを拾い始め、ある日拾ったゴミを絵として描いてみたところ、突然その魅力に目覚めたという。
「めちゃくちゃかっこいいと思ったんですよ。だから、僕がゴミを描くことによって、ほかの人の価値観も変わって、ゴミがかっこいいってことに共感できるようになる可能性があるんじゃないかなと思ってるんです。そこからはゴミにすごくはまっていって、最初はなんとなく拾ってたけど、『こういうゴミが拾えたら嬉しい』とか思うようになってきて」
これまでは、そうして拾ったゴミとそれを描いた絵を一緒に売っていたが、去る3月に表参道ROCKETで開催された個展『cutting edge』では、ゴミを真空パックした状態のものを単体で作品として販売し始めた。それらのゴミは数百円から数千円と、いわゆる「作品」の価格としては安価に販売されたが、その背景には彼自身のシーンに対する問題意識があった。
「僕はライブハウスやクラブにしょっちゅう行くし、もともとアートそのものっていうよりも、アートを取り巻くユースカルチャーがすごく好きで。でも、そこにマーケットがないんですよ。みんな展示に行っても、そもそもそういう文化になってないから作品を買わないし、買うとしてもグッズくらいで、それだと作品を買う行為には繋がっていかない。だから、安く買える値段の作品を売ることによって、一回作品を買うっていう原体験をしてもらうのが手っ取り早いんじゃないかと思ったんです。なので、実はZINEを買うよりも、いつか本物を買った方がいいんじゃないかと思っていて。だから今回は、CDとかレコードに付随したZINEを多く持ってきたんです。もともとZINEってパンクロック文化に関わりが深いものだし、音楽の人たちからの発信っていうのはおもしろいんじゃないかなと」
そんな思考のもとに、アーティストとしての作品制作のみにこだわらず、Dreamcastとしての音楽活動や、2017年には親交の深いkit galleryで、4週連続で自身がキュレーションした展示を開催するなど、愛するユースカルチャーの未来も見据えて活動を続ける吉本綱彦。彼が考える、今後の展望とは。
「音楽活動の方では、夏までにDreamcastとして7インチをリリースしたいですね。僕のスタイルのままで、仕事としてどんなことをやっていくのかっていうのは今後の課題です。自分でムーブメントやフィールドを作らないと、この先やっていけないんじゃないかなっていうことはずっと思っていて。僕はイラストレーターでもないし、がっつりファインアートをやっているわけでもないから、そういう宙ぶらりんな弱さを強さに変えていくには、『吉本綱彦だから頼みたい』って思われるような存在にならないと。荒地を走る脚力は僕にはないから(笑)、道を舗装しつつ筋肉をつけて、どんどんスピードを上げていけたらいいんじゃないかなって」
【吉本綱彦がレコメンドするZINE5冊】
NAZE(IG:@naze.1989)
『I Know Nothing of Your Bygone Days』
「これは僕が初めて買ったZINEですね。京都のNOT PILLAR BOOKS(※2014年に実店舗は閉店)で買いました。NAZEさんと安野谷(昌穂)くんからは、一番影響を受けたかもしれない。NAZEさんは絵柄ももちろん好きなんですけど、僕が初めて生で描いてるところを見たグラフィティライターで。行動が自由で、手癖のように描いている人ですね。そのテンションをタブローにしたときにも勢いを殺さずにやっているし、展示空間もいろんな縛りにとらわれないやり方で、ごちゃごちゃしてるのに、何が言いたいかなんとなくわかる。『将来の夢は武器職人です』って言ったりとか(笑)、そういうスタイル全部がかっこいいですね」
A Page Of Punk(Twitter:@axpxoxp)
「Age of Punkっていうパンクバンドの歌詞カードなんですけど、ちょっとぶ厚めなZINEになってるんです。1曲ごとに、曲をテーマにした絵をボーカルのchiakiさんが描いていて、その絵の展示をkit galleryでやってたんですけど、音楽の現場と美術の現場を行き来してる感じがすごくいいなと思って。chiakiさん自身もすごく変態で大好きです。ライブにはよく行くんですけど、パンクを家で聴く気はあんまりないから、実は音源は1回も聴いてないんですけど(笑)。物としてすごくいいなと思ってます」
KONCOS(IG:@koncos_music)
『The Starry Night』
「このZINE自体は、たしかKONCOSのライブで配っていて、しばらく存在を忘れてしまってあったんです。その数ヶ月後に、行くと7インチがもらえるライブがあったんですけど、ライブの後に、最初に配ってたZINEは、その7インチを入れることができるスリーブだったってことをインスタで書いてる人がいて、『そういうことだったのか!』と。しかもZINEが歌詞カードにもなっていて、ずっとライブに行ってる人じゃないと、このZINEが完成することはない。人を行動させるZINEというか、近年稀に見るリアリティがあるZINEだぞ、と(笑)。KONCOSの鍵盤の(古川)太一さんは、高校生の頃からの憧れの人で。ファッションブランドのプレスをやったり、モデルやったり、すごくマルチで、カルチャーの循環のさせ方がすごくうまい。こういう風に、軽やかな感じで全部をつなげていくような人になりたいなって」
「内容はあんまり読んでないんですけど(笑)、内田樹さんの娘さんの内田るんさんが作ったZINEです。るんさんはシンガーをやっているんですけど、曲もおもしろくて。樹さんが親だから、家にたくさんある本の名前をばーって言ったあとに、『この半分以上は読んでない』って言ったり。これはライブで配ってたもので、音楽のことは一切関係なく、自分が興味あることをオール無断転載で載せているというZINEです(笑)。エネルギーとかリアリティに溢れていて、『これは嘘偽りのないZINEだ』と思った。 すごくZINEらしさを感じたんですよね」
Yoshikawa Takanari(IG:@djsharpness)
『BE YOUNG』
PANORAMA FAMILY(IG:@gomezpanorama)
『romantic』
Yoshimoto Tsunahiko(IG:@yoshimoto_tsunahiko)
『EYE』
「ラッパーのPANORAMA FAMILYと、クラブ店員で写真を撮っている僕の連れのヨシカワタカナリと、僕が5年前くらいに描いた絵のZINEです。今度、僕も含めた3人で音源を作って、写真とかリリック帳の写しとかイラストをごちゃまぜにしたZINEを作ってみようかっていう話をしていて。これから作るZINEに向けて、この3冊をまとめて紹介したいなということで」
INFORMATION
Dreamcast出演ライブ
「Feelin’ Fellows 2018」
日時:2018年4月8日(日)
会場:LIQUIDROOM
OPEN / START 12:00 ADV ¥3,500 / DOOR ¥4000
LINE UP:LEARNERS / KONCOS / Magic, Drums & Love / GORO GOLO / NOT WONK / OCHA∞ME / JAPPERS / CAR10 / ジャポニカソングサンバンチ / SEVENTEEN AGAiN / チーターズマニア / CHILDISH TONES / PINK POLITICS / ロンリー / ミツメ / 片想い / カジヒデキ / TAWINGS / without cosmic reico experience (from THE RESTROOMS) / 小西康陽 / 永井博 / Organ Bar Soul Mate / phingerin / DRAMATICBOYS / MIXX BEAUTY / VIENDA! / The Sound of Rain / Twee Grrrls Club / good so good! / Alegre / イエイエクルー / LIA KINK(BLUE BOYS CLUB) / 佐藤彰 / EMARLE / 四畳半 / TOMMY(BOY) / JUDY/ATSUSHI(Attractions/Crazee Gold Mine) / YAMARCHY / 長谷川正樹(BALLROOM RECORD) / オークダーキ / CHIGON(LOVEBUZZ) / SHOTA-LOW(ABOUT MUSIC) / shota_yam / MARTY(CAMERA OBSCURA)
SHOWCASE:PANORAMA FAMILY / Dreamcast
SHOP:スタンドかげん / クジラ荘
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