上海アートブックフェアから見る、
中国ユースカルチャーの今をレポート

photography_Shiori Ikeno, text_Miyuki Kawabe(commune)

上海アートブックフェアから見る、
中国ユースカルチャーの今をレポート

photography_Shiori Ikeno, text_Miyuki Kawabe(commune)

音楽もファッションもアートも、さまざまなカルチャーが圧倒的なスピード、熱量で進化し続ける上海。去る6月下旬に行われた上海アートブックフェア(UNFOLD 2018 Shanghai Art Book Fair)に参加したcommuneの川邉美幸が、アートブックフェアを通して見た、上海カルチャーの今をレポート。同行した写真家・池野詩織が切り取った上海の人、街、匂いとともにお届けする。

東京の気温、湿度が夏に向かってうなぎ上りの6月末。私はアートブックフェアに参加するべく、約10年ぶりに上海を訪れた。当時の上海は空気も悪く、同行した夫は初日に食べた火鍋に当たり丸二日寝込むことになったり、仕事(街中でMV撮影)中に腹を出した山下清もどきのおじさんに理不尽に怒られたりと散々な思い出ばかりで、不安だけを抱えて出向いた今回の上海。蓋をあけてみたら「楽しい」の一言に尽きる旅となった。

夜中羽田発、翌早朝5時に上海に到着し、フェア会場近くにとったAirbnbで仮眠をとり、搬入のため11時に会場入りした。右隣は泣く子も黙るスイスの老舗出版レーベル「Nieves」、左は韓国のリソプリントスタジオ「Corners」と顔なじみに挟まれ幸先良し。

今回、上海の出版レーベル「Bananafish Books」初オーガナイズのブックフェアということもあり、開場前はなかなかの混乱具合ではあったが、開場とともに押し寄せる大混雑と来場者の熱量によってそれら内部の混乱すら吹き飛ばされ、我らチームcommune(私と今回同行した写真家の池野詩織)含め、八百屋のごとく四方八方からのお会計対応に追われた。

初日金曜日から入場制限が入り、建物の階段には長蛇の列が。週末の土日は2時間制(飲み屋か!)となり(例:13時に入場した人は15時までに開場を出なくてはいけない)、2時間ごとにスタッフによる追い出しコール(飲み屋か!)、入場時間が記載されたリストバンドチェックが入り、お会計中だろうがなんだろうが追い出される(笑)。中国語が理解できない私たちは、その状況を理解するまでに時間がかかった。

オーガナイザーのQing(チン)さんは、「上海はインターナショナルシティーだからみんな英語通じるよ!」と自信満々に話していたが、どうトライしても8割方通じず、それ以前にブースに来る人来る人中国語で話しかけてくるため、まずは一番シンプルな英語で「I am Japanese」とはじめに伝える謎のコミュニケーション手法をとることにした。

検閲やインターネットの情報コントロールがあるため(若い子はくぐり抜ける術を知っているが)、インディペンデント出版、自費出版というもの自体が本当にここ数年の間に始まったということで、とにかく人々の興味や関心、熱量、そして購買欲というものがとてつもなく高く、連日圧倒されるばかりであった。
実際、昨年開催された「abC Art Book Fair in China」では、香港のアンブレラ革命を追った自費出版のドキュメンタリー写真集を販売していた参加者のテーブルには開催翌日には布が被せられたり、今回の上海アートブックフェアの会場も政治的な要因から直前に変更されたとのこと(最初に決まっていた会場は公的に使用されるスペースだったため検閲を危惧し、個人が所有するコンテンポラリーギャラリースペースへと変更された)。皆そういったことは良くあることとして捉えているようで、来場者たちは特に動じる様子もない。SNSは相変わらず、FacebookとInstagramの使用は原則不可のようだが、若い子たちは近隣のアジア諸国のVPNをどうにか使用することで、なんとか情報を得て会場に出向いていたようだ。
情報が限定されているが故に、ZINEやアートブックに対する貪欲さは並大抵なものではなく、現物を目の前にし、目を輝かせ手にした瞬間の興奮度がひしひしとこちらまで伝わってきた。

フェアに訪れる子たちのファッションも爆発的ではないものの個性的で愛らしく、流行を探ろうにもなかなか一筋縄ではいかず、皆個々に表現の自由を楽しんでいるようであった。

上海滞在最終日は、ブックフェアお疲れ様会を兼ねて詩織ちゃんと世界一高級なStarbucks Reserve Roastery Shanghaiへ。まるでディズニーランドに来たかのような錯覚に陥るほど作りこまれた空間で一休憩。目玉が飛び出るほど高額(かつ美味)なコーヒーとケーキを頂き、つかの間の夢の世界を堪能した後は、事前にTOKYO ART BOOK FAIRの東さんとユトレヒトの黒木くんから聞いていた、豫園エリアの福佑門小商品市場へ向かった。
「これこれ!」とつい口からこぼれてしまうほど、私たちが求めていた上海にここにきてようやく出会えたのだ。主にガラクタに近い雑貨が100円前後で販売されていた。商業施設とは思えぬほど生活感が力強く感じられ(店員さんたちは寝てるかYouTubeを見ているかの二択)、2階、3階へと進むにつれて感覚も麻痺しはじめ、買い物を楽しむというより施設で働く人たちの生態を観察しにきたような気分に。

パンダのような生活をする人間らしい人々を観察したあとは、以前からメールでやり取りをしていた上海のアート出版レーベル「Same Paper」のスタジオ見学へ。ちょうどその時は店舗スペースをアーティストNing Ningさんがアトリエとして使用していたため謎の空間と化していたが、一角に設置された棚に並べられたセレクションからエッジーさをひしひしと感じた。

余りの忙しさで、出歩く時間も体力も残らなかった今回の上海アートブックフェアだったが、かろうじていくつか購入できたZINEをご紹介。

Same Paperブースで購入したShen Liの新作PHOTO ZINE “Nowhere”。後々聞いてみると、詩織ちゃんは学生時代からShen LiのTumblrをフォローしていたとのこと。運命の出会い!

今回のフェアでリリースされた「Bananafish」と「Neives」の共同出版作品集。6人の中国人アーティストがピックアップされて制作された。どの人もユーモアと甘さと毒があり、一冊一冊をしっかり堪能できるボックスコレクション。

上記のボックスコレクションに参加しているアーティストの一人、北京在住のNhozagriさんのカラフルで突飛なZINE。詩織ちゃん一押しの一冊である。

軽々しく蔓延する”アート”という言葉やSNSからインスタントに得られる流行に惑わされず、目にし、手にしたものから情熱や愛を感じて”好き”か”嫌い”かの基準で楽しんでいる上海の人々は、街を纏う赤色のように鮮やかだった。今回参加した上海アートブックフェアを通した上海での日々は、純粋な熱に触れ、初心を思い起こさせてくれた。