クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。今回話を聞いたのは、グラフィティをベースにしながら、悪夢とポップが同居したような独自の世界観の作品を生み出す、アーティストのNAZE。彼自身が「忘れたくない感覚」だと話す「初期衝動」を感じさせるZINEを中心に紹介してもらった。
NAZEがものづくりに目覚めたのは、小学生の頃。ある日の帰り道、落ちていた木の棒とガラスの破片と輪ゴムを拾って、「槍」を作ったことがきっかけだったのだそう。
「学校を出たときには何もなかったのに、家に帰るまでに武器ができていることに感動して。そこからものを作るのが好きになりました。グラフィティに興味を持ったのは、14歳の頃で、家にあったスケボーがきっかけです。まだ小学生の僕にZeebraを聴かせるような母親だったので、母親のものじゃないかと思っています。そこから周辺のストリートなカルチャーに興味を持ち始めて。地元はすごく田舎だったので、スケボーショップも少なかったんですけど、近所のジャスコの中に個人経営の小さなヒップホップグッズ屋さんがあって。そこで買ったスケートビデオを見ていたら、グラフィティがいっぱい出てきて、それがグラフィティとの最初の出会いでした。そのうちに、実は自分が住む街にある田んぼのど真ん中の小屋にもスローアップがあることに気づいて、衝撃を受けて。そこからのめり込んでいって、15歳の頃には自分でも描き始めて、16歳くらいからNAZEと名乗るようになりました」
中学生で目覚めたグラフィティカルチャーからの影響を強く受けつつも、現在も作り続けている「武器」のような作品に見られる、ゲーム的なファンタジー感覚や、拾ったものから作品を生み出すNAZEの今のスタイルはどのように作り上げられたのだろうか。
「ゲームっぽさやファンタジー的な要素は、小学校の頃にやっていた『ドラクエごっこ』のような遊びの延長ですね。実際に落ちている物やゴミで武器や防具を作り、架空の敵と戦ったりしていました。洋ゲーやファンタジー映画も好きだから、その影響も大きいかもしれない。落ちているものを拾って制作しているのは、グラフィティのタグとゴミって、『誰が残したかわからないけど、確実にその場所に存在するもの』という意味で、同じだと思っているからですね。それに、小さい頃の自分とゴミっていうものがリンクするような感覚があって、どうしても放っておけなくなる。誰からも相手にされない存在を、自分が作品にすることで助けるような気持ちがあるんです」
初めてものづくりの喜びを感じた子供の頃からの新鮮な感覚を持ち続けながら、いまも遊ぶように制作を続けているNAZE。彼が今後アーティストとして目指している境地とは。
「そもそも『NAZE』という名前は、家族の問題や、学校の友人関係、当時の彼女のことなど、自分ではどうにもできない周りの出来事に対して、『なぜ』と問いかけるような感情からつけた名前なんです。この10年くらいは、そんな気持ちをなんとか絵にしたくてやってきたような感じで。自分の中ではまだまだ納得できる作品が描けていないから、これからも挑戦し続けたいです。最近は制作の時間が少し減っているので、すごく絵を描きたいし、ものを作りたい。今後は大きい油絵も描いていきたいですね。ちょうど来年の2月に大阪で皆藤齋さんと展示をやるので、それに向けて油絵という新しい挑戦をして、衝動をぶつけたいですね」
【NAZEがレコメンドするZINE5冊】
SYOZO TANIGUCHI(IG:@syozo_taniguchi)
『SUMMER HOPE』
「谷口君は、京都に住んでいる頃に知り合った友達なんですけど、谷口君が描く女の子がすごく好きで。僕も女の子を描くことがあるんですけど、どうしてもこんな風に美しく描けない。このZINEは、京都のDOMAさんで見つけて買いました。DOMA限定発売で、世界に3冊しかないんです。これのやばいところは、中の絵が原画なところで。僕も昔はこういうZINEを作っていたけど、いつの間にかコピーしたものばかり作るようになって、こういう感覚を忘れちゃいけないなと思います。制作するときにたまに見て、衝動を呼び起こしています」
RYOTA MATSUMOTO(IG:@simba.666)
『FORTUNATELY I AM STILL ALIVE』
「彼は写真家なんですけど、昔、京都の『痙攣ハウス』っていうシェアハウスに、4人で一緒に暮らしていたことがあるんです。引っ越す前にパーティーをやったんですけど、室内をアルミホイル張りにして、ミラーボール付けて、DJ呼んで、キッチンにバーを作って、ただの家をクラブみたいにして、最終的に50人以上来ました。周辺の住人に『この日にうるさくします』って伝えておいたり、周りの家の掃き掃除や、朝の挨拶をしたり、事前にご近所のケアもしっかりやって(笑)。そんなシェアハウス暮らしを共にした仲でした。松本君はもともとバンドのライブ写真を中心に撮っていたんですけど、東京に来てからは風景やスナップをよく撮るようになって。いっぱい写真を撮りためているから、ZINEを作ることを勧めたら、作ってくれたんです。松本君がよく行っているせいか、台湾の風景の写真が多いですね」
大阪旋風プロジェクト
『インタビューズ』
「『どうやって生き抜いていくか』みたいなことについて、いろんな人にインタビューをした読み物なんですけど、池内美絵さんというアーティストの人の話がすごく好きで。池内さんは、ヤスデっていうムカデを丸っこくしたような生き物を飼っているんですけど、死んじゃったヤスデを埋めようとしたときに、都会には埋める場所がない。そのエピソードを通じた、街のあり方についての話が面白くて、たくさん気づきを得ました。このインタビューを読んで、ヤスデの記憶が頭に焼きついた後に、contact GonzoとしてYCAMで滞在制作をする機会があって、14日間、山で暮らしたんです。そのなかで、感覚を研ぎ澄ます練習として、森の中で本気でかくれんぼをしたんですけど、土に半分埋まったような状態で隠れていたら、近くでもぞもぞと気配がして。めちゃくちゃでかいヤスデが出てきたんです。近くにGonzoのメンバーがいる気配もするから、動いたら見つかっちゃうし。インタビューを読んだときには、ヤスデをかわいいと思っていたのに、こっちが身動きできない状態で顔の近くに出てこられたら、めちゃくちゃ怖かった(笑)。この思い出も込みで、強く印象に残ってますね」
wifi
『Let’s Free Style Hug』
「wifiは、ちょっと前に僕の展示に来てくれて知り合った奴です。女子高生の絵を描いていてステッカーも貼ったりしているんですけど、緩く存在感のあるかわいい絵で、すごく目を惹くんですよ。そのなかでも女子高生の絵をペンで壁に書いているものは、その立ち振る舞いから、ヘラヘラとした無敵感を感じる。wifi自身がJKについていろんな持論があって、そんな人がJKを描いたり、街に貼っているのが面白いなって。手描きで1枚1枚描いたものを貼っているパワーもすごい。谷口君もそうですけど、自分が忘れてた初期衝動を思い出させてくれる。名前が『wifi』っていうのもやばいですよね」
犯罪ボーイズ
『criminal record 001』
「犯罪ボーイズは、僕が20歳の頃に松見拓也君とやっていたユニットで、これが初めて作ったZINEでした。このZINEは展示のフライヤーも兼ねているんですけど、展示のフライヤーって、そもそも興味がある人や、ギャラリーに行った人しかもらわないじゃないですか。だから、捨てられるかもしれないけど、もっとたくさんの人に知ってもらうことが大切な気がして、街行く人に配ったりトイレの個室に置きまくったりしたんです。この時期は、自分がこれまでにかっこいいと思っていた線や好きな形を離れた、無意識の線や文字をどうしても描きたくて、いかに脳みそを解放するかに時間を費やしていた時期で。その過程で、本気で幽体離脱をやってみたりもしていました。このZINEにはシュルレアリスムの自動記述を自分でやってみた文章を載せたりしています。自動記述の最後に出て来た言葉をこのときの展示のタイトルにしました」
[ZINEspiration]ARCHIVE!