藤井道人
日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第十七回は、恒例となった一問一答。藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。
皆さまこんにちは。明治時代から一向に令和に戻る兆しの見えない藤井道人です。
こうなると、撮影が終わった後、どこの国に行こうかとか、何をしようかと妄想を膨らませながら、目の前にある最高な瞬間に向き合っています。
岡田准一さんをリーダーとする『イクサガミ』チームも、徐々にチーム力が増して、皆が無理をせずリスペクトが生まれてきています。岡田さんは本当に現場全体を見ていて、さりげなくスタッフにかける声や、振る舞いはとても勉強になります。武人であり、元?アイドルであり、尊敬する映画人です。
僕も、そうなれるよう、日々精進しております。
さて、今回の質問にも答えていきたいと思います。
ー藤井監督は、ホラーなどにご興味はおありですか?また今後、ホラー作品を撮影なさるご予定などはおありでしょうか?藤井監督が個人的に「怖い」と思うシチュエーションなどについても教えていただきたいです。
僕は、ホラー作品実は何度かお声がけいただいて取り組んだことはあるんです。しかし、必ず頓挫するんですよね。理由は様々ですが(言いたいけど言えない理由がほとんどです笑)、それ自体がホラーだなと思っています。ホラー映画は、昔は友達と一緒に観るのが好きでした。別に恐くないのに、恐い振りとかしちゃって。昔、地元の友達と観に行った韓国ホラーの『箪笥』という映画が凄く恐かったのを覚えています。A24が作るホラーは演出がとても巧いので、勉強のために観たりはします。
個人的に怖いと思うシチュエーション……。難しい質問ですね。
人間の狂っていく感情とかは「怖い!」と思います。ただ、今はそういった作品を撮りたいとは考えていません。
だって、撮影の帰り道、落ち込んだりしそうだから。笑
ー青春18×2の大ヒットロングランそしてたくさんの国へ旅はまだまだ広がりを続けていますが、藤井さんは各駅停車の旅をした事はありますか?自転車の野宿旅とか、テントを担いだ浮浪の旅とか?
知らない駅でふと降りてみたり、まるでジミーのように幸次とかに出会ったり、そんな思い出はありますか?
各駅停車の旅は大人になってから2回したことがあります。
一度は、シナリオハンティングのために三重県の島に一人で行きました。二度目は青森で仕事を終えて『デイアンドナイト』でお世話になった秋田県に鈍行電車に乗って一人で訪れました。
僕は、普段沢山の人に囲まれて仕事をしているので、一人の時間が大好きなんです。鈍行電車に乗って、一人で知らない場所で知らないお店に入って、知らない人とおしゃべりするのも好きです。
台湾で一人旅をしたときに、僕が初めて話した人はたまたま日本人でした。台北から九份という街に行くときに、大学生の若者たちとタクシーの相乗りで行ったんです。確か石川県の大学生だったと思います。普通に生きていたら絶対に出会わない出会いが旅には沢山ありますよね。
ただ(自虐的な意味で)シティボーイなので、アウトドアの才能が一切なく、野宿とか怖いのでちゃんとそこはお金にものを言わせてしまうタイプです。
今回の撮影が終わったら、また旅に出ようと思っています。
ー青春18×2のメイキング映像で藤井監督がスタッフさんと中国語で話されているのを観ました。実際に青春18×2の撮影では、台湾の方々とは中国語でコミュニケーションを取られていたのでしょうか?
いえ、僕は全然中国語は話せません。少しだけ、覚えた言葉を格好つけて話しているだけです笑。
いつもは、素晴らしい通訳さんがスタッフキャストのコミュニケーションを円滑にしてくれます。
台湾の仲間たちは(特にグァンハン)僕に、人前で言ってはいけないような言葉を教えるのが好きみたいで、沢山の汚い言葉を覚えました。そして、恥ずかしいことに、そういう汚い言葉だけは忘れないんですよね。反省。
そろそろ、もう一度本格的に中国語と英語を勉強しなおそうかなと思っています。(きっと、また達成できない気がする…)
ー今後の作品でオファーしたい俳優さんはいますか?
僕は、矢沢永吉さんと仕事をするのが夢です。若いとき、矢沢さんの動画をたくさん見て育ちました。
俳優ではなくアーティストですけどね、いつかその願いが叶えば嬉しいなと思います。
他にもオファーしたい俳優さんは沢山います。ただ、今一緒に作品を作っている尊敬する俳優さんたちとの縁もちゃんと大切にしていきたいとも思っています。
ーはじめまして。現在大学2年の女です。森七菜さんが好きで、Netflixで「パレード」を観てから藤井監督の作品に夢中になっています。私は将来映画やドラマ制作に関わる仕事がしたいと考えているのですが(制作会社、マネージャーなど)コミュニケーション能力に自信がありません。やはり色んな人とそつなく会話ができるコミュ力がなければこのような仕事は務まらないのでしょうか。映画、ドラマが好きという気持ちと自分の能力への自信のなさで悩んでいます。ご回答いただけたら嬉しいです。
コミュニケーションは、映画の基本だと思っています。ただ、コミュニケーションは『能力』ではないのでは?とも思っています。映画が好きな人たちが集まって、純粋に楽しんでいる場があれば自然に感情が生まれて、会話になって、笑顔が生まれる。そういうものを目指しています。
この業界は『こうしなくてはいけない』というものが支配している業界ではありません。人と話すことが苦手なスタッフは、それぞれの得意な分野でコミュニケーションをとってくれるし、『映画言語』というものがあるから心配しなくていいのでは?と思います。監督・プロデューサーは、それを言語化する技術やまとめる力が必要だと思いますが、口下手な監督なら、饒舌な助監督に助けてもらうでしょうし、正解はありません。映画愛とリスペクトさえあれば、楽しい世界だと思います。(楽しい世界にします!!)
ちなみに、藤井組は挨拶だけは厳しいです!
ー自分もジャンルは違いますが、作品を作る仕事に携わっています。かつての私は「良いものを作れば人はそれを評価してくれて、多くの人に伝播し知ってもらえる。」と思っていました。しかし、評価され多くの人に知ってもらっているものを見ているとマーケティングやプロモーションの側面のほうがその作品の中身より大事なのではないかと思う時があります。藤井監督はどう思っていますでしょうか。
僕たちも何度も何度もその議論をしてきました。そのたびに僕も答えが出ずに悩んでいたのですが、最近はそれぞれの『役割』があるという答えを自分の中で大切にしています。
『良いもの』と言っても、人それぞれです。見るときの年齢、環境、メンタル、自分の知識の数など、受け取る側の環境によって映画も変化するものだと思います。年に映画を100本観ている人と、一年に一本しか観ない人でも映画の受け取り方は変わると思います。そういったときに、映画に携わる宣伝部が、どうやったら年に一本しか映画を観ない人にもこの映画が届くか?を考えてくれて、マーケティングやプロモーションが発生します。
誰かにとっては、漫画原作の大作映画が『良いもの』かもしれませんし、静かな、映画祭で喝采を浴びるような余白のあるものが『良いもの』かもしれません。それぞれに合ったプロモーションやマーケティングがあると思います。
お金を出してくれている人がいる以上ビジネスである側面を否定することは出来ません。ヒットしたら嬉しいし、コケたら哀しいし悔しい。
だからこそ、僕は『この作品が最後の作品になってもいい』と思える精神が『良いもの』であり、中身も宣伝もついてくるものであると信じて、映画やドラマを作っています。
ー監督の作品でカーテンが気になる時があります。ミラーライアーの名もなき一遍の主人公の部屋や、ヴィレッジの美咲の部屋のカーテンなど、変化だったり、窓から差し込む明るい光がキャストの気持ちを際立たたせるように感じます。監督には実際どんな狙いがあるのでしょうか?
僕は、まだ演出のことを全然理解できていない思っていますが、大切にしていることは『場』を作ることです。
光が、美術が、カメラが『場』を作ることによって、説明的な要素を排除して、俳優の芝居がより魅力的に見えると信じて『場』を作っているので、そう感じてくださったなら監督冥利に尽きます。
ー藤井監督に質問です。監督が、こんな人と仕事がしたい、仕事をする上でこういう人は信頼できる、と思う人はどんな人ですか?
愛のある、妥協しない人ですね。妥協しないという面が一番難しく、我がままや頑固とは違います。本質を理解して、映画という生き物に柔軟に対応しながらベストを追い求める人が好きです。
ちなみに藤井組には、そういった素晴らしいスタッフやキャストが多く、いつも助けられています。
ー藤井監督がいままで観た映画の中で人生に大きな影響を与えた作品はなんですか?
この質問は本当に難しいのですが、あえて言うなら脚本家を目指すきっかけになった『エターナルサンシャイン』という映画です。映像も素晴らしいのですが、映画を観終わったときに脚本の素晴らしさに感銘を受けて、僕もこうなりたい!と強く思ったことを覚えています。
ー最近、やっぱり映画は映画館で観る方が好きだなと感じることが増えてきました。配信オリジナル作品もありますが、映画館とテレビやパソコンでみる映画に違いはあると思いますか?
違いはもちろんあると思っています。僕にとっては映画館で観る映画は『特別な体験』であり、家で観る映画は『日常』に近いと思っています。なので、映画館で観る映画と、配信で観る映画はジャンルも全然違います。
映画館に観に行くという行為は、日常のヒントや、何かを自分から受け取りに行っている感覚ですが、家で観る映画は結構、友達感覚というか「さー、今日何観ちゃう?」みたいな。普段見ないような作品も観れちゃいます。
僕ら映画人も、かなり転換期に来ていると思っていて、まだまだ勉強不足なので来年には言っていることが変わっていると思いますが、しっかりと、世の動向を見守りつつプレーヤーとして映画館で上映することに向き合っていきたいと思っています。
今回も沢山の質問ありがとうございました!
質問の難易度というか、本気度が上がってきていて、書くのにとても時間がかかってしまいました…。
ただ、こうやって皆様とキャッチボールが出来る環境にはとても感謝しています。
いつも、読んでくださりありがとうございます。
来月は対談!!対談かー。相手を全然決めていなかった!!
これから、考えます。
新作映画『正体』も楽しみにしていてください。
とても最高な映画が出来ました。
では皆さま、暑い夏を一緒に乗り越えましょう!!
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。