藤井道人:けむりのまち第十八回座談会
BABEL LABELメンバーと語るレーベル15周年

Photography_Sara Masuda, Edit&Text_Ryo Tajima(DMRT)

藤井道人:けむりのまち第十八回座談会
BABEL LABELメンバーと語るレーベル15周年

Photography_Sara Masuda, Edit&Text_Ryo Tajima(DMRT)

日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。
第十八回は、BABEL LABELのメンバーが大集合。これだけの面々が揃うこともそうそうない。久々に集まって語り合ったテーマは、来年2025年に迎える「BABEL LABEL15周年」のこと。過去を振り返りながら、今後の未来に向けてどう活動していくのか。映画文化に対してどう向き合っているのか。日本の映画業界を担う7人衆による熱い真夏の夜の模様をどうぞ。

L to R

山口健人
映画監督・脚本家。1990 年生まれ。大学在学中より映像制作を始め、2016年BABEL LABELに所属。近年ではドラマ『真相は耳の中』『アバランチ』や、MV・CM等の様々なジャンルを手掛け、監督として参加したワイモバイル「パラレルスクールDAYS」が海外の広告賞を受賞。映画『生きててごめんなさい』は台湾でも上映され話題に。映画『静かなるドン』、ドラマ『ウソ婚』を手掛け、最新作Netflixシリーズ『イクサガミ』を控えている。

山田久人
BABEL LABEL代表取締役社長/プロデューサー。1986年生まれ。大手CM制作会社勤務後、BABEL LABELに入社。CM、MVからプロデュースワークを始め、ドラマや映画の製作にも関わる。

原廣利
映画監督。1987年生まれ。2011年7月に広告の制作会社を退社後、BABEL LABELの映像作家として活動を開始。近年ではドラマ『ウツボラ』『真夜中にハロー!』『RISKY』『八月は夜のバッティングセンターで。』など話題となった作品の監督、ドラマ『日本ボロ宿紀行』では全話の撮影監督も務める。2024年映画『帰ってきた あぶない刑事』にて長編映画監督デビュー、その後映画『朽ちないサクラ』が公開。

澤口明宏
監督・脚本家。1982年生まれ。日本大学大学院芸術学映像芸術専攻修士。「ムショぼけ」(21)でドラマ監督、脚本デビュー。「INFOMA」(23)では脚本を担当し、現在は執筆を中心に活動中。情報解禁前のドラマが多数控えている。監督脚本以外にも、アプリケーションや撮影機材に広く知見があり、ドローンの技術認定資格なども所持するユーティリティプレーヤー。

志真健太郎
映画監督。1986年生まれ。制作会社勤務を経て、NYでドキュメンタリーを撮影。帰国後、BABEL LABELに所属。「ONE SHOW」街頭広告部門 MERIT 受賞『THE SLEEPING DRUNKS』や「MOBILE CREATIVE AWARD」グランプリ受賞の「コンバース創業 110 周年『SHOES OF THE DEAD』ほか広告賞受賞多数。ドキュメンタリックな演出を得意とする一方で、ドラマ演出を取り入れた広告作品に定評がある。広告のほか、MVや映画『LAPSE』「SIN」も手掛ける。

アベラヒデノブ
映画監督・脚本家・俳優。1989年生まれ。監督・脚本・主演『死にたすぎるハダカ』が2012年モントリオール・ファンタジア映画祭入賞。監督・脚本『めちゃくちゃなステップで』SSFF & ASIA 2014 UULAアワード グランプリ他、受賞歴多数。監督として、ドラマ『ムショぼけ』、『東京放置食堂』、『歩くひと』、『量産型リコ-プラモ女子の人生組み立て記』、『往生際の意味を知れ!』、『たそがれ優作』、『あの子の子ども』などを監督。

知名度は上がれど
やっていることに大きな変化はない

藤井道人(以下、藤井):満を持して『BABEL LABEL』の話をしたいと思って集まってもらいました。来年で15周年ですよ。
 
原廣利(以下、原):いつからってことになるんでしたっけ?
 
藤井:本当は2009年に作った『カノン』っていう映画で自作の『BABEL LABEL』のロゴを使ったんだよね。2010年からは<SINCE 2010>ってロゴに付け加えて。だから2010年スタートってことで2025年で15周年になる。
 

ーそもそもですが、なんで『BABEL LABEL』を立ち上げたんですか?

 
藤井:当時、フリーターって名乗りたくなかったんですよ。それで、志真(健太郎)に、なんかレーベルでも作ろうよって話を持ちかけたら「『BABEL LABEL』って名前がいいんじゃないか」って。名前の由来はなんだっけ?
 
志真健太郎(以下、志真):諸説ありますね。
 
藤井:いや、「韻を踏んだだけ」って言ってたでしょ(笑)。
 
アベラヒデノブ(以下、アベラ):えっ、そういうこと!? 初めて聞きました、その説。
 
一同:今さら~~~???
 
原:もう一説には、その当時、藤井さんが好きなイニャリトゥ監督(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ氏)の映画で『バベル』っていうのがあって、そこからでもありますよね?
 
藤井:いや、違うよ。『BABEL LABEL』って名前の方を先に付けたんだから。イニャリトゥ監督に傾倒し始めたのは2011年頃からだもん。
 
原:あ、傾倒はしてたんだ(笑)。いや、『BABEL LABEL』の方が早いのは知らなかった。
 
志真:あと、これは書かないでいいことなんですけど、あの頃に森達也さん(映画監督、作家など)にお会いする機会があって名刺交換して、裏にね、こう<BABEL>って書いてあったんです。それがすごく心に残っていて。
 
藤井:え、そっからなの? ちょっと待って、なんで志真が諸説を増やすの? そんなの誰も知らないよ(笑)。
 
一同:ざわ、ざわ、ざわ……。
 
志真:2、3回言わなかったっけ?
 
藤井:知らない、知らない。
 
山口健人(以下、山口):いつの間にか背負ってたってこと?
 
志真:だから言っていいのかなっていうのはあるんだけどーー。
 
藤井:え~、今度(森達也氏に)会ったらちゃんと説明しなくちゃじゃん(笑)。
 
原:うん、今のカットだね!
 
一同:もう韻踏んだのが正式な由来でいいよ!
 
藤井:はい(笑)。そんなこんなで『BABEL LABEL』を立ち上げて、初代社長は自分だったんだけど、お金もないし経理もできないし、こりゃダメだって。それで2期目から同級生にお願いしたんだけど。
 

(いきなり場が静まり返る)

 
藤井:そう、この場が一気に静かになるほどの“第1期 『BABEL LABEL』暗黒期”に突入していったんですよ。その頃にやまちゃん(山田久人)が大手のCM制作会社を辞めて、BABELに入ってきれくれたんだけど、まだ社長じゃなくてね。インディーズではあったけど、第2期社長解任騒動が勃発したときに、俺とやまちゃんで神楽坂駅のホームにポツンと2人で立って、『1回、監督辞めて社長やんなきゃかな』って言い出そうとした瞬間に、やまちゃんが「俺が(社長を)やるよ。融資先探してくるわ」って。あれ、今でも覚えてる。そこから今の『BABEL LABEL』になっていくことになったんだよね」
 
山田久人(以下、山田):あのとき、会社にも借金があって「これからどうすんだよ」って話を、ここBABEL BARでしてたんだよね。ちょうど、WEB CMを志真や原が撮影してたんだけど、俺は「やるっきゃない」って言い続けてたと思う。そのときは社長をやるつもりはなかったけど、もともと俺以外のみんなは監督で、自分はプロデューサーだったから。本当に俺がやるっきゃないと思った記憶だけ強く残ってるね。
 
原:うん、「やるっきゃない」って連呼してた。
 
志真:オフィスが江戸川橋時代だったね
※オフィスの変遷:神楽坂のアパート→江戸川橋→市ヶ谷→現在の神泉
 
山田:『BABEL LABEL』に入って半年でその出来事があって、社長になってるんだから。
 
アベラ:すごいですね(笑)。
 
山田:いきなり平プロデューサーから代表取締役になって12年ぐらいか。
 
藤井:そうだよね。このBABEL BARはちょうど暗黒期直前くらいにできたよね? ちなみに、オーナーのあっきーは中学からの同級生です。クリエイターが交流できるサロンみたいな場所がほしいってことと、あっきーが独立するタイミングで「バーでもやるか」ってことでBABEL BARがスタート。ここも、もう11周年を迎えるわけです。

INFORMATION
BABEL BAR
新宿区新宿2-3-16 ライオンズマンション104
定休日_日
https://www.instagram.com/babel_bar_/


 
藤井:そう思うと、すっかりみんなで会う機会も減ったね。僕とやまちゃんはよく会っていてディスカッションするけど、今や全員が自分の作品を担当するようになったから仕事が忙しくなってね。各々が“組”のリーダーだから、なかなか会えないっていうことがすごく誇らしい。ま、15年かかったけど。
 
山田:このメンバーが集まるのなんてめちゃくちゃレアだよね。ちょっと緊張するもん。
 
一同:いや、なんでよ(笑)。
 
藤井:BABEL BARも重要な場所だよね。たくさんの出会いがあったり企画が生まれてきたんじゃないかな。だって『朽ちないサクラ』のプロデューサーと出会ったのってここでしょ?
 
原:そうですね。藤井さんがプロデューサーとの交流会を開いてくれて。そこで出会ったプロデューサーと今も一緒に仕事していますし、本当にありがたかったです。
 
山田:『新宿セブン』(2017年に放映されたドラマ。原作は漫画)も、ここがきっかけだし。藤井ちゃんがずっと企画をね、同い年のプロデューサー(テレビ東京プロデューサー 田辺勇人氏)と話しながら作っていたよね。
 
藤井:そうだね、ここでたくさんの企画が生まれて。だから、また若い世代に同じような感じでBABEL BARを使ってもらえたら嬉しいなって思います。15年前はクリエイターチームってなかったもん、特に映画業界においては。
 
山口:あってもCMのチームでしたもんね。
 
藤井:うん。なんで映画業界になかったのかっていうと、作家主導になって、大体が揉めて赤字になってチーム自体がなくなっていくことが簡単に想像ついたから。(『BABEL LABEL』の)立ち上げ時は絶対にうまくいかないよってよく言われてたし。だからさ、『BABEL LABEL』がうまくいったのって、あの神楽坂駅で、やまちゃんが「俺がやる」って言ってくれて、実際にやってくれたからかなって。僕らには経営能力なんかあるわけないからさ。
 
志真:うん。山田のおかげなんじゃない。
 
藤井:じゃあ15周年ということで。変わったことと言えばなに? アベラは 「1万円貸して」とか言わなくなってきたよね。
 
アベラ:いや(笑)。最初は電車賃ないところからスタートしましたからね。
 
山口:でも、未だに飲み会で財布を出さない
 
藤井:それは変わらないこと(笑)。
 
志真:やっぱり、各々が組のリーダーとして撮るようになったのは変わったところだね。久しぶりにオフィスで会って『そういうのやってるんだ』って思うようになったし。
 
原:『BABEL LABEL』自体の認知度はめちゃくちゃ上がりましたよね。藤井さんはもちろんですけど、アベラがやっていることが話題になったりするし、周りと話しやすくなったと思います。
 
アベラ:そうですね。ドラマの現場にいても、原さんの『あぶデカ』(映画『帰ってきた あぶない刑事』)の話になったり、藤井さんの『青春18×2 君へと続く道』を観ましたって言われたり。そういうことを自分の現場でされると、より一層頑張らなくちゃいけないって気持ちになります。みんなに会ってなくても間接的に常に叱咤激励されているような緊張感があるし、感謝ですよ。みんなすごいことをやってるんだなぁって。でも、それぞれが15年間やっていたことが1本の線になって15年分の太い幹になっているように思いますね。15年分の重さをたしかに感じます。

 
藤井:急な変化ではないよね。そして、山口くんの私服が高級になってきてる。この場の最年少としてはどう?
 
山口:いや、高級にはなってないです(笑)。でも、僕は山田さんと同じくらいに『BABEL LABEL』に入ったんですよ。ちょうど山田さんが社長になるくらいのとき。最初は制作部でしたもん。
 
山田:そうだ。弁当も発注してくれてたもんね。この15年で1番変化があったんじゃない。別に儲かってもいない会社によく入ったもんだよ。
 
藤井:そんな山口くんの1本目が『TOKYO CITY GIRL』でしょ。しかもモノクロで主人公が喋らないって、相当尖ってたよね。
 
山口:みんながシネスコの中、俺だけ16:9でやってたら、なんか小さくなっちゃったっていう。
 
原:『TOKYO CITY GIRL』ってさ。面白いのが、藤井、志真、原、山口に加えて、山田智和監督(『四月になれば彼女は』)と、山田能龍監督(『全裸監督』『朽ちないサクラ』の脚本家)も撮ってるんだよね。
 
山口:今思うと面白いですよね。すごく低予算で、それぞれの監督作に助監督や制作部として手伝いに行って。藤井さんがカチンコ打ってましたもんね。
 
原:ああいうオムニバスをやってたのってすごくデカかったなって。完全に礎になっているわけだから。それこそ、あの頃やっていたことと、今やっていることって本質的にはほとんどスタイルが変わらない。あの頃にやっていたものが今に生かされているってすごく思いますよ。
 
澤口明宏(以下、澤口):この15年で本当にめちゃくちゃ知名度が上がったと思う。この間も、とある撮影の現場に行ったら、照明さんが助手とラッシュ(確認用の映像的なもの)を観てて、なんかエモーショナルな音楽が流れてくるわけ。『ああ、そのやり方知ってるな』って思って話しかけたら、「ああ、これ藤井監督作品のラッシュっす」なんて言うわけ。
 
一同:(笑)。
 
澤口:その辺りは自主制作時代から本当に変わらないなって。初日が終わったらラッシュやって俳優やスタッフのテンションを上げるみたいな。同時に、全然知らないスタッフが藤井組に行ってたんだなってことを、まったく別の現場でパッと知ると感情がどうにかなりそうだった(笑)。
 
一同:ラッシュは俺もやってます。パクってます。
 
藤井:いや、やった方がいいと思うよ、ラッシュ。自分で言うと、現場で事務所の方や俳優さんに「最近、BABELの○○さんにお世話になりました」なんて挨拶されることが増えたのね。そこは驚きっていうか。あの後輩たちがねぇ。なんて思いながら親心もあって「いや、すいませんでした。まだまだでしょ?」なんて返すんだけど、「いやいやすごくよかったです!」って言われるわけ。それで「へぇーー………」って。
 
原:なにそれ!(笑)。嫉妬なの?
 
藤井:嬉しいんだけどなんか複雑
 
一同:(爆)。
 
 

人は便利さだけではなく体験を求めて劇場に来る

 
藤井:じゃあ次のトピック。15周年を迎えてこれからの展望ってどう考えてる? 監督としてクリエイターとして、どういうことをやっていきたいと考えているのかを聞いてみたいなと思って。まずは自分の場合、もう初期メンバーも若い新しいメンバーもBABELの中で育ってきたから、自分が次の場を作らなくちゃいけないと考えているかな。それが海外、特にアジア。BABEL ASIAを今年スタートさせることができたから、海外へ向けて攻めていく方法を責任を持って考えていきたいと思っているかな。
 
原:映画を2本撮ってみて、興行収入のこととかも含めて知らないことがすごく多かったと感じました。で、日本の映画産業を支えているのって、やっぱりアニメがすごいわけじゃないですか。実際にしっかりと興行収入を叩き出したりしているけど、なんで実写じゃできないんだろうってすごく考えていて。そこをもっと勉強して追究していかなくちゃいけないって思うんです。映画でムーブメントを起こすってことはどういうことなんだろうってことを考えていきたいです。というか、やっぱり夢は大きく持つべきで、世界規模で(興行収入)100億円を超える映画を何歳になっても目指していかないと、エンタメを撮る映画監督としては足りないのかなって思うようになりましたね。アニメだから負けるのはしょうがないって考えるのは、ちょっと違うんじゃないかなって。
 
アベラ:いや、これ聞けたの嬉しい!
 
原:やっぱり監督は数字もちゃんと気にしないといけないって気づいて。
 
藤井:本当にそう。みんなが幸せになるってことはすごく大切っていうか。この遊びが続くためなんであればって考えるよね。やっぱりこけると悲しいじゃない。自分の子供が認められなかったような気持ちになるし。
 
一同:そうそうそう!
 
藤井:あの悔しさは大事だよ。
 
澤口:この5年ぐらいで何本かやらせてもらったけど、やっぱり人の笑顔が好きなんです。人を騙して貶めたりするものも書いたけど、笑っている作品が好きなんだなって自覚するものがあって。だからヒューマンドラマに則したコメディ的なものをどうしても目指していきたいっていうところが強くあるかも。今後はなるべくそういう企画を出していきたいし、伝える力が全然足りないと思うから、そこを追究していきたいかな。でも、なんでもやってみたいんだよね。アニメやゲームの脚本もやってみたい。これから発表される作品もあるけど、それを経てちょっと自分なりに動いてみたいなって思っている次第です。
 
志真:さっき原も言ってたけど、俺もアニメに唯一できないものはなんだろうって考えた時期があって、それがドキュメンタリーだと思ったんだよね。目の前で起きていることを撮影して編集するっていう。もともと観るのもずっと好きで仕事でもちょこちょこやってきたんだけど。今は事実が大事な時代でもあって、事実には多面性があるから、そこを描けるような監督になっていきたいっていうのが今後の展望としてあるかな。
 
藤井:だからさ、ずっと絶対にドキュメンタリーの時代が来るって話をしてて、社長にも説明してレーベルまで作って(志真健太郎を)任命したのに、何もやんないの。スターサンズの行実も(※行実氏については連載第九回目を参照のこと)「志真さんとその企画を是非やりたくて」なんて乗り気になってるのに、何もしないこいつを見て本当にぶん殴ろうかなって(笑)。
 

藤井道人:けむりのまち第九回 クロストーク:日本映画界に生きる3人が業界の未来に思うこと


 
志真:あはは! これは書いておいてください!
 
藤井:実際にネットフリックスでは大人気だし、海外ではすごいじゃない。日本はまだ伸びてないし、この記事を読んで動き出す人がいたとしても、本当におすすめしたいぐらい。それだけドキュメンタリーは面白いと思う。


 
アベラ:BABELに参加させてもらって12年ですけど、自分がやるべきことは、ドラマでちゃんと業界内の知名度を上げるということを継続的に続けつつ、ちゃんとオリジナルで映画を1本撮ってヒットを出していくってことをまずはやらなくちゃいけないと思っています。そして、死ぬまで引退はないっていう。そこは1つ覚悟して、みなさんと一緒におじいちゃんになるまで切磋琢磨したいですね。それで30周年を迎えて過去を振り返ったときに、この15周年が節目になったと言えるものをちゃんと出そうと思っています。
 
山口:みんなと同じようなことを考えているんですけど、僕個人としては、ぶっちゃけ大きく掲げるものがあるわけではなくて、目の前にある作品にしっかり取り組んで、ちゃんと届けていくってことが、まずは重要だと考えています。BABELとしては、原廣利という100億を叩き出すエンタメの監督がいて、志真さんがドキュメンタリーをやっている強さがあって、自分は例えば謎の小さな恋愛映画でヒットを飛ばしているみたいな。そういうすごくバラエティ豊かな組織になっていったらいいなと思いますね。周囲から見たときに、藤井道人というアイデンティティがあって、志真、澤口、原、アベラ、山口っていう各々のアイデンティティが混ざり合って、すごく美味しい闇鍋感があるような感じに見えればいいなと。あと、やりたいこととして、まだ誰もやっていないジャンルの観たことがないヒット作を作りたいというのはすごくあります。
 
藤井:では、締めをやまちゃん。
 
山田:山口がまとめてくれたように、監督それぞれが自分の思う面白いものという領域の中で最高のものを作って、それが世界中の人に評価されるようになればいいよね。そうなれば、今以上に関わってくれているすべての人たちが豊かになっていくと思っていて、それを実践していくのが俺の仕事だと思っている。15年、自分たちの信念を貫き続けて、みんなもいろんなところから声がかかるようになってきたけど、やっぱり原が言うように、嫌味なくアニメと比べると実写はねって言われるような世の中だから。そこのところ、今回の『青春18×2 君へと続く道』のような作り方で国境を気にせず観られるようになったとか。実写をやるうえでもBABEL ASIAってレーベルをやることで、何か次が見えてきている気もするから、言い訳せずにクリエイターとビジネスをしっかり結びつけるってことを今度もっともっとやっていきたいと思っている。あと、先日も藤井ちゃんが舞台挨拶で新潟の映画館に行っていたけど、そんな風に、チームとしてはできる限り単館上映をしながら、監督たちも改めて自分たちの作品を紹介できる場所を作れればなと。
 
藤井:行脚したいよね。(監督が劇場に)来てくれてありがとうってリスペクトと、観てくれてありがとうって気持ちがすごくピュアに交わるから。僕らはネットフリックスと契約しているけど、だからこそ劇場に行くことにも意味があるというか。配信で観るってことは超便利になったけど、人は便利さだけを求めていなくて、体験を求めて来ているんだなってことを劇場で感じるし、それこそ映画をやっていてよかったと思うところだよ。だから、来年はね。次はお前が行け、次はお前だって感じで、みんながキャラバンしていくってことが面白いんじゃないかな。

※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。

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藤井道人:けむりのまち第九回 クロストーク:日本映画界に生きる3人が業界の未来に思うこと

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