藤井道人

日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第二十六回は、恒例となった一問一答。藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。
こんにちは。藤井道人です。春がやってきましたね。僕は春が一番好きです。
目も鼻も小さいので花粉も入る余地がないようで花粉症にもならないし。
沢山の命の芽生えや、出会い別れを感じ、胸がモソモソします。
僕はあと少しで新作のクランクインです。安定のホテル暮らしが始まりました。
今までの中では、ずば抜けて出演者の平均年齢が低い作品なので陰で『オジサン』呼ばわりされないようにしっかり頑張ってきます。
さて、また来てしまいましたね、質問コーナー。これが一番大変な企画なんです(笑)頑張って答えます!
ーーーこんばんは!最近ふと考えていたのですが、もし「音のない映画」を撮るとしたら、藤井監督はどんな世界を描かれるのかなと気になりました。音がないぶん、どんな感覚や風景を観客に届けたいと思われますか?
はい、一問目から難易度が高すぎますね。ありがとうございます。
『音がない映画』という表現がとても素敵ですね。僕の映画は『音』をすごく大事な位置に置いているので、それを無しで映画を作ると言う考えに至ったことがなかったけど、面白そう!!
聴覚を失った人の目線で『旅』とか描けたら素敵だなと今フワッと浮かびました。写真家とかで。自分の育った村に帰るだけのシンプルな内容でもいいですね。
どんな感覚が届けられるんでしょうね。いつかの宿題にしておきます。
ーーー初めまして、毎月この連載を楽しく読ませてもらってます〜
早速ですが、藤井さんが「美しい」って心から思う瞬間って、どんな時ですか?最近、映像にしたくなったような光景があれば、ぜひ教えていただきたいです!
美しい瞬間…沢山あります。最近は、アカデミー賞の壇上で話す横浜流星の姿は色々な意味で美しかったです。個人的な感情が入りまくってますね。でも、基本的に美しさは『個人的な感情』から来ると思います。今年は桜はあまり綺麗に感じなかったのは、きっと僕の心が荒んでたからですかね。
あ、そうだ、先月にあるアフリカの国にロケハンに行ったのですが、素晴らしかった。
日本で起きている、小さないがみ合いや、悪意、負の事象、そのすべてが無意味だと思えるくらいの『美しい』景色と人々に出会えました。そこで作品を撮れるなんて、もう死んでもいい!と思うほどに。
死にません。もっと頑張ります。
ーーー撮影現場ではいろんなことが起きると思いますが、“これは想定外だったけど、結果としてすごく良かった名シーン”みたいなものが最近の作品であれば、教えてもらえるとうれしいです。
結構、取材でも言うんですが僕はあまりイレギュラーなことを信じないタイプで、沢山準備して、何回も脳内でイメトレをして現場に臨みます。なので、想定外でよかった!ということに出会うことが少ないのが僕の監督としての弱点かもしれません……。
あ!!昔だけど一個ありました。『デイアンドナイト』という映画で、秋田県でロケをしていたのですが例年より早く雪が降ってしまって、想像を絶するくらい真っ白な景色になってしまったんです……。
僕は「もう撮れない、春に撮り直したい」とごねたのですが、山田孝之プロデューサーが「ダメだ」と一喝。ふてくされながらも撮ったものを繋げてみるとすごく良くて(笑)。
自然の美しさが、映画にとてもよい意味を与えてくれました。良い思い出です。
ーーー正体で数々の受賞をされて、その後なにか心境の変化はありましたか?
やはり30代であの場所に二度も立たせてもらったのは、周りの人のお陰だなと改めて感じました。
そして、更に帯を締めて、日本映画界、後輩の皆さんの役に立てる活動をしていかなくてはと思いました。
それ以外は、平常運転です(笑)
ーーー先日モロッコへ行かれていましたが初めてでしたか?なにか名物料理は食べましたか?
あ、モロッコってよくわかりましたね!そうです。モロッコ、最高でした。
タジン鍋は凄く美味しかったです!というか、僕食べ物は凄く合いますねモロッコ。
ただ、梅干しと納豆と海苔がないんです。あと焼酎。これはキツイ……。
次に行くときは沢山持っていきます。(通訳の日本人の方がおにぎり作ってくれてとても美味しかったです!)
ーーー藤井監督、最優秀監督賞おめでとうございます!!
そして正体チームの数々の受賞も本当におめでとうございます 最高です!!
監督にはこれからも『生涯現役』で素敵な作品を撮り続けて届けていただきたいです。
そんな監督には、ここぞという時、験を担いだり ルーティーンなどはありますか?
ありがとうございます!!
『生涯現役』かぁー(笑)頑張ります!!実は撮りたい題材が3つもあるんです。全部、死ぬほど面白いんです。でも、撮影待機作が壁のように立ちはだかってるので数年も先になりそうです……。
僕は、験を担いでばかりですよ!撮影時の朝は絶対に納豆巻きを食べます。
後は、結構恥ずかしい験が沢山あるので内緒です(笑)
ーーー最優秀監督賞おめでとうございます。日々が繋がっていて、また新たなチャレンジが始まっていることと思います。「ナミビアの砂漠」や「HAPPYEND」を観て、パワーを感じた一人です。インディーズの気持ちを忘れずに、映画を創っていくというのは、具体的にどんなイメージでしょうか。「青の帰り道」や「光と血」が色褪せることなく、大好きです。
ありがとうございます。僕の中でのインディーズスピリッツというのは『妥協しない』『迎合しない』『忖度しない』のようなものです。何か、賞をもらったりヒットしたりすると人が変わったり、横柄になったりする人がたまにいますが、いつまでも心は少年で、不良で、誇りを持って戦いながら作品を作りたいという想いです。
『青の帰り道』や『光と血』はもう僕には撮れません。(観てくれて嬉しいですありがとうございます)
でも、今の僕なりのオリジナルをきっとこの先届けられるように頑張ります!
ーーー初めて質問させてもらいます!2025年早くも三ヶ月が過ぎましたが、2025年これまで見た映画やドラマなどでオススメはありますか?洋邦問わず教えてください!
今は『ザ・スタジオ』がめっちゃ面白いですよー!!!!!appleTVです。是非。
『ブラックミラー』の配信がNetflixで始まったので今日から観ようと思います!
あと、もう少しでコメントが出ますが、綾野剛兄貴主演の『でっちあげ』とても面白かったです!!!
絶対に観てください!!
ーーー映画【正体】日本アカデミー賞最優秀賞おめでとうございます!
Netflixシリーズ【イクサガミ】も楽しみにしています!
第24回の『けむりのまち』での清原果耶との対談記事で、藤井監督の御言葉で「俺なんてその年齢のときは『売れたい! 世の中はなんで気づかないんだ、ふざけんなー!』って思ってたもん。」とありましたが、藤井監督にもそのような時代があって、今があるということが分かり、それを知ったときに思ったことを質問させていただきたいと思います。
そのような状況になったときに、藤井監督は今までどのようにして気持ちを奮い立たせてこられましたでしょうか。おそらくそのときの考え方や行動が、その後の分岐点になると感じているのですが、その後どのような行動や考えを持って活動されましたでしょうか。
カヤちゃんとの対談、読んでくれてありがとうございます!!
僕は、基本的に『全部、自分のせい』『いつか、人は死ぬ』『求められるうちが華』と言う考えで生きています。
なので、失敗したら自分のせいだし、成功したらみんなのおかげと思って生きるとだいぶ楽なんですよね。
そして、やるかやらないかで悩んだら絶対やる。どうせいつか死ぬから後悔しながら病床でもがきたくない。っていう部分なんですかね……。どうなんだろ、奮い立たせたりしてないのかも(笑)
うまく答えになってないですねごめんなさい。宿題で!!
ーーーシンプルに映画とは人々にとってどんな存在であってほしいと思いますか?
これは、沢山の考えがあると思いますが、映画は衣食住には入っていませんが、心の衣食住には入っていると思うんです。映画でカッコいい憧れの人がいたらそういう服やヘアスタイルにしたり、美味しいご飯が出てきたら、自分で作ってみたり(僕は作りません)、映画に出会ってライフスタイルを変えた人もいると思うんですよね。映画はそうやって、人々の心を豊かにする潤滑油であって欲しいなと思います。
だから、映画をSNSでボロカスに言う人とかは「映画から何学んだんだお前はー!!」とか思うのは事実です(笑)批判はいいんですけどね、中傷はダメよ、かっこよくないぜ的な。
と、長くなりました。一時間かかった!!疲れた!!でも、感謝してます。
こうやって、自分の考えを再確認する機会にもなっています。
これからも、答えづらそうな質問、沢山お待ちしていますね!!
次回は対談です!!ゲスト決めてない!!ヤバい!!
それではまた来月。
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。