時代というか、意識の流れみたいなものは確実に変容してきている2021年。自分と向き合う時間も、日々の生活を見つめ直す機会も多くなった。で、今日はどんな調子?
1908年創業の総合刃物メーカー貝印は、ツメキリやカミソリなどといったグルーミングアイテムも多数揃える。グルーミングとはすなわち自分をケアすることであり、そういった“整える”という行為/時間自体に意識的になることって、実は大切なんじゃないか。そこへのこだわりにこそパーソナルな魅力が潜んでいるんじゃないか。そう考えると、“整える”とはカルチャーだ、と言えるかもしれない。そこに漂うかっこよさこそ、いまにフィットする。
“整える”をひとつのカルチャーとして捉えて、そのグルーヴにフォーカスする連載シリーズ「GROOMING GROOVE – 貝印と探る“整える”カルチャー」。第1回は、さまざまなクリエイション、それぞれのライフスタイルを送る6名に“整える”について訊く。
雪下まゆ
(イラストレーター/ファッションデザイナー)
「ショーペンハウアーを最初に読んだときは衝撃でした。
おこがましいですけど、こんな気が合う人がいるんだ、って。
若林さんの本もそうですね。いちいち考えすぎちゃう人が、
そこにどう折り合いをつけていくかという内容。
太田さんはラジオで大好きになりました。不器用さが愛おしい」
—“整える”と聞いてイメージするものは?
自己愛を育む時間。
—ご自身にとっての“整える”時間/行為について。
美容院やネイルに行くこと。制作期間が続くとケアする時間がなくなり、髪もツメもぼろぼろになってくる。それを見るたびに「疲れてるな」と感じる分、そこをきれいにしておくと精神的にも安定する。
—“整える”時間/行為における、「これは欠かせない」アイテムや仕掛けなどがあれば教えてください。
本。日頃、自分がもやもや考えていることを同じように考えてきた先人たちがいて、それを読むことで「自分だけじゃない」と思えて、救われる。
—ご自身の表現/仕事と“整える”の関係性について。
10代の頃は怒りや行き場のない鬱屈とした気持ちを原動力に作品を制作していたが、20代になり、そういった衝動が減り、いかに精神面のコントロールをできるかが自分の中で重要になった。グルーミングは自分をケアしてあげること。自分を大切にすることでもっと自分のことが好きになって気分も上がるし、それが制作においての自信につながっている。
—“整える”をひとつのカルチャーとして捉えたとき、そこに宿るかっこよさを探ってみたいです。
自分を愛すること・自己肯定力を上げる重要性がフィーチャーされる時代のなかで、“整える”は大切な要素のひとつになるだろう。このような時代の変化は素晴らしいことだし、それを追求する人はかっこいいなと思う。
—雪下さんから見た、「整えている人」の持つ魅力とは?
体調面でも精神面でも自分の状態を把握・管理できているため、余裕を持って周りを見渡すことができるところ。
—2020年代もはじまったいま、よりよい未来とはどういったものだと考えますか?
私自身も気をつけていかなければならないこととして、自分が「普通」として捉えていることが本当にニュートラルなものであるか疑い続ける必要がある。自分のなかの「普通」が誰かを傷つけていないか、逆も然りで、世の中の「普通」が実は自分を傷つける不当なものであったり…。そういう事柄に関心を持つことで少しずつよりよい未来に変化していくのではないだろうか。
Takeru Urushibara
(ヘアスタイリスト)
「香りは、外出中につけるもの、寝る前につけるもの、家で焚くものと、
そのときの気分に合わせていろいろ使い分けています」
—“整える”と聞いてイメージするものは?
仕事が生活のメインになっている私にとって、”整える”は仕事からまた仕事へと向かう、つなげていくための時間という印象があります。心や体の疲れを癒して、また整った状態の私で生活のメイン、つまり仕事へと出る。という感じでしょうか。
—ご自身にとっての“整える”時間/行為について。
私が作り出した自分なりのルーティンに言えるのかなと思います。例えば料理、洗濯、掃除など家事全般も含め、整えているなという感覚があります。とくに自分の好きな料理を作って食べる、そのままソファでくつろぎながらお酒を飲む、アニメを見る、そして寝落ち…という流れは至福の時間と言えます(笑)。それ以外にも、朝、音楽を聴きながらシャワーを浴びる、家を出る前に香水をつける、喫煙など、なんとなくこれをしたらいつもの自分のペース! というポイントが生活のなかに転がっています。
—“整える”時間/行為における、「これは欠かせない」アイテムや仕掛けなどがあれば教えてください。
気持ちを癒す、気分を上げる、整える、というところで香りを重要視しています。
—ご自身の表現/仕事と“整える”の関係性について。
ヘアスタイリスト、ヘアメイクアップアーティストとして活動しているなかで、私のスケジュールは日々フレキシブルです。起きる時間や帰宅する時間が決まっているわけではないので、その生活のなかでも自分なりのいつも通りや、いまこれは私のペースに持っていけている、と思えるようなポイントがあると、どんな現場や仕事に対してもいつもの私で表現していけるかなと思います。
—“整える”をひとつのカルチャーとして捉えたとき、そこに宿るかっこよさを探ってみたいです。
おそらく私のとっての“整える”って、生活のなかのこだわりに近いのかなと思います。いままで人生で見つけてきた「このアイテムって最高!」「この時間って最高!」で日々をいっぱいにしていく。そうやって私らしさみたいなものができあがるのだとすれば、それは小さなカルチャーであり、できることならそれを誰かが魅力的だなと思ってくれたらうれしい。
—Takeruさんから見た、「整えている人」の持つ魅力とは?
こだわりがある人、好きなものや好きなことがある人。
—2020年代もはじまったいま、よりよい未来とはどういったものだと考えますか?
多様性って言葉をよく耳にする時代ではないでしょうか。一人ひとりが調べることができる、選択することができる、挑戦することができる。誰もが可能性に溢れていて、私もその一員でありたい。いま私は、「未来は明るい!」って思えています。もし世界中の人がそう思えたら、めっちゃよりよい未来に通ずるのではないかなと思います。
赤坂真知
(ノンアルコールバーテンダー/花屋)
「このセイコーの腕時計は、お世話になっている人にもらったもの。
古い自動巻きの時計なので1日で1〜2分ずれるため、
毎日、家を出るときに時間を合わせています。
気にかけてあげなきゃいけないこと、
そのひと手間がいまの自分にしっくりきています」
—“整える”と聞いてイメージするものは?
自分の状態や気持ちを把握すること。行為自体は難しいことではないけれど、やらないと不安なこと。
—ご自身にとっての“整える”時間/行為について。
花の水を替えたり、世話をすることってシンプルに、落ち着く。自分のことだけだと血の巡りが悪くなるけど、そうやって相手にコミットしていくことで、循環していく気がします。ここ数年どんどん“アナログ”になっていきたいと思っていて、とにかく手と足を動かしていたい。
—“整える”時間/行為における、「これは欠かせない」アイテムや仕掛けなどがあれば教えてください。
腕時計の時間を合わせること。花の水を替えたり、植物に水をやること。
—ご自身の表現/仕事と“整える”の関係性について。
僕の仕事はノンアルコールのドリンクをつくることで、ノンアルコールバーをしたり、レストランとペアリングコースをしたり。そうしたアウトプットに、自分の状態や気持ちは直結していると思います。興奮して熱を帯びていても、落ち込んで冷めていても、冷静な判断はできないので、“整える”はフラットに戻す行為な気がします。
—“整える”をひとつのカルチャーとして捉えたとき、そこに宿るかっこよさを探ってみたいです。
自分の機嫌を他人に押し付けない人がかっこいいです。自分は自分で整えてもらいたい。
—赤坂さんから見た、「整えている人」の持つ魅力とは?
自分の機嫌は自分で取れる人になりたいですね。そういう大人が好きです。昔、ある人に言われて、いまも覚えているのが「一番難しいことって、自分の気持ちを理解すること」という話。自分の気持ちを理解することは、仕事のアウトプットにおいても日常のコミュニケーションにおいても一番大切なことだと思っています。
—2020年代もはじまったいま、よりよい未来とはどういったものだと考えますか?
柔軟で、許しあえる未来がいいです。
SAKURA
(モデル/アーティスト)
「髪型には昔からこだわりを持っていて。
美容院でピシッとしてもらうだけじゃなく、
ブレイズヘア専用のポマードを使って自分で整えることが、
見られる側としての準備になっていると思います」
—“整える”と聞いてイメージするものは?
心のゆとりにつながるもの。日々の、自分のための時間。
—ご自身にとっての“整える”時間/行為について。
内側からリラックスするためのもの。なくてもいいものだけど、自分を心地よくするために、プラスアルファであると有意義なもの。
—“整える”時間/行為における、「これは欠かせない」アイテムや仕掛けなどがあれば教えてください。
朝、起きて支度をして髪の毛を整える。出かける前のフレグランス。シャワーのあとのボディオイル。寝る前のアロマスプレー。
—ご自身の表現/仕事と“整える”の関係性について。
自分の体などを観察してケアすることによって安心感ができ、それが余裕を生む。そうすることで自己肯定感が上がって、自信のある状態で仕事に挑める!
—“整える”をひとつのカルチャーとして捉えたとき、そこに宿るかっこよさを探ってみたいです。
日々の何気ないひとときであり、必ず必要な時間。自分を唯一じっくり観察してケアできる時間なので、ある意味、立派なセルフラブだと思う。
—SAKURAさんから見た、「整えている人」の持つ魅力とは?
本当の意味で自分を大事にしている。自分の見せ方を理解していると思うし、心の余裕を感じられる。内側の問題は外側にも現れると思うから。
—2020年代もはじまったいま、よりよい未来とはどういったものだと考えますか?
それぞれが他者と比べず、自分の内側に目を向けて、本質的な幸せを見出せること。他者を尊重し、認め合える世界。
YonYon
(DJ/シンガーソングライター)
「DJで使用する楽曲のライブラリーを整理するのは、
カフェやホテルですることが多いですね。私にとっての“整える”場所です。
このhotel koé tokyoのカフェもよく使っています」
—“整える”と聞いてイメージするものは?
気持ちを整える、体調を整える、スケジュールを整える、物理的に目に見えるものをきれいに整える、などなどいろんなことが思い浮かびますが、自分のなかのルールや秩序をつけることで物事がはかどるだけではなく、気持ちよく作業を進めるための準備をすることが“整える”という行為なのかなと思います。
—ご自身にとっての“整える”時間/行為について。
音楽を扱う仕事をしているため、DJとしてさまざまなジャンル・BPMの音楽を、シンガーソングライター/プロデューサーとして何層にも重なっているトラックを整理することが主な仕事です。実際にフロントマンとしてステージに立つときも身だしなみを整えたり、気持ちを整えてライブに臨んだりするので、整える行為=私のライフスタイルそのものなのかもしれません。
—“整える”時間/行為における、「これは欠かせない」アイテムや仕掛けなどがあれば教えてください。
作業する前に温かいカフェラテを飲む。温かくて甘いものを口にすると心が落ち着くんです。カフェで作業するのは美味しいカフェラテを飲めるから。一杯飲み終わる前に何かしらひとつの作業を終わらせるといった目安にもなります。
—ご自身の表現/仕事と“整える”の関係性について。
例えばDJをするときに、あらかじめ仕込み(楽曲整理)をした日と、そうじゃない日とではミックスの速さが変わってくるし、余裕を持ってプレイできる分、フロアにも目を向けられる。事前に“整える”行為をすることでパフォーマンス力が上がると思っています。
—“整える”をひとつのカルチャーとして捉えたとき、そこに宿るかっこよさを探ってみたいです。
フロントマンとして人前でパフォーマンスする以上、常に清潔感を保つことは自分のなかで大事な行為。仮にシンプルなTシャツ、ジーパンを着ているだけでも、ヘアスタイルや眉毛、ツメをきれいに整えておくと相手に与える印象って全然異なると思うんです。
—YonYonさんから見た、「整えている人」の持つ魅力とは?
自分の身の回りのことを整理できている人は、周りへの配慮もできる人が多いですね。最近、忙しさを理由に“整える”を怠ってしまっている自分がいて、そういうときに周りがビシッと整えているのを見ていると、私もしっかりしなきゃなと気付かされます。身も心も余裕があるとかっこよく見えますよね。
—2020年代もはじまったいま、よりよい未来とはどういったものだと考えますか?
世界が平和で、どの国の人たちも平等に平穏な日々を取り戻すことができることを心より願っています。新型コロナの流行を皮切りにさまざまな分断がさらに加速していきました。よりよい未来を作っていくには、一人ひとりが手を取り合って、助け合い、団結をしていかないと絶対に実現することができません。メディアや情報に流されず、身の回りを整理して、自分の感覚を研ぎ澄ますこと。そうすれば自然と自分が何をするべきなのか見えてくるはずです。
塚本憲央
(器 つか本)
「この真空管アンプのスピーカーは、
公園やキャンプにも持っていき、
カラビナで木などに引っ掛けて使っています。
ケースにしているのは岡山県倉敷市で一度は途絶えた、
い草製品で、実際はワインや日本酒の瓶を入れるものです」
—“整える”と聞いてイメージするものは?
身支度。「身なりを整える」というのが、僕のなかでは全部な気もします。それが気持ちを整えることにもつながっている。
—ご自身にとっての“整える”時間/行為について。
頭を五厘に刈り、音楽を聴きながら風呂に入る。“整える”って意図的にするというよりはもっと日常にフィットしているものな気がします。
—“整える”時間/行為における、「これは欠かせない」アイテムや仕掛けなどがあれば教えてください。
バリカン、スピーカー、煎茶。
—ご自身の表現/仕事と“整える”の関係性について。
自分の気持ちに余裕があると、フラットに接することができる。
—“整える”をひとつのカルチャーとして捉えたとき、そこに宿るかっこよさを探ってみたいです。
整えたときの洗練さを一方向に突き詰めるのもいいけれど、僕は違うもの同士が合わさったときに面白さや新しさを感じます。TPOが合っていればよくて、そのなかでぎりぎりを攻めたくなります。
—塚本さんから見た、「整えている人」の持つ魅力とは?
気持ちに余裕がある。自分のペースを乱さない。だからこそ人に優しくできるようになる。
—2020年代もはじまったいま、よりよい未来とはどういったものだと考えますか?
もっと小さい子を見習う。子どもって性別や国籍、年齢など、いま言われている問題なんて関係なくて、フラットに接している。よりよい未来とはみんながもっと人に優しくできる世界かなと思います。
INFORMATION
[GROOMING GROOVE]
貝印と探る“整える”カルチャー
#01 クリエイティブに生きる6名に訊く
貝印:
https://www.kai-group.com
https://www.kai-group.com/store/