FASHION 2025.12.26

Interview:30年目の新ブランド「NewRose」、深民尚がこだわる
Keep Rockin’ ” PUNK”な美

Interview and Text :TATSUYA NODA
EYESCREAM編集部

タミさん(深民尚:フカタミヒサシ)が新ブランドをローンチした。キャリア30年にして3ブランド目となる「NewRose」(ニューローズ)。直訳するなら新種のバラだが、PUNKファンにはロンドンパンク最初のシングルと言われるThe Damned(ザ・ダムド)のタイトルが頭に浮かぶはずだ。1976年、SEX PISTOLSの「アナーキー・イン・ザ・UK」の5週間前にリリースされた。この「ラブソング」を自身のファッションデザイナーとしての30年に及ぶキャリアの集大成となるブランドとして名付けた背景を、東京・幡ヶ谷の“ニューローズ”のアトリエでインタビューした。

──幡ヶ谷、良いですね。1990年頃のロンドンのイーストエンドっぽくて。当時アレキサンダー・マックイーンの自宅まで会いに行ったことを思い出しました。

深民尚:これまでの人がいっぱい居るなかでの仕事の環境と変わり、集中して服が作れています。ビルの外の商店街から一歩内に入ると、喧騒から遮断されて、今まで自分のやってきたことを振り返る時間もあって、好きな音楽をかけて一人でデザインしています。新しくスタートしたという感じですね。

──深民さんは「DIET BUTCHER SLIM SKIN(ダイエット・ブッチャー・スリム・スキン)」を立ち上げ、その後「71MICHAEL(ミシェル)」のデザイナーとしても知られています。今回2026SSより新たに「NewRose」というブランドをスタートした背景を教えていただけますか?

深民尚:大学生時代からROCKと服が好きで、音楽から派生する洋服を作りたいと思っていました。最初はヘインズのTシャツを買ってきてシルクプリントで刷ったアイテムをフリーマーケットやクラブ、新宿のミロスガレージなどで売っていて。それで稼ぐというわけではなく、買ってもらえるのが嬉しくて。音楽と映画が好きだったので将来の進路として目指したのがファッションだったのですが、専門学校は行ってないのでいきなりデザイナーとして勤めるのは無理だと思いました。新聞広告でアパレルの運転手の募集を見つけ、そのアルバイトを始めました。そこではじめて洋服を作る工程を知りました。服飾を学んでないので、経験はすべて現場です。仕入れた生地をハイエースに運んで、八王子の染め物屋さんに持っていって、それが上がったら江戸川区の裁断屋さんに持っていって、縫製工場に入れて、刺繍屋さん、ペイント屋さん、ボタンの穴カガリ屋さんに持っていくという作業を1日中繰り返していました。それが楽しくて大学卒業後、この世界に入ったのだと思います。その後、アパレルで正式に働くようになり、ブランドとして立ち上げたのが「DIET BUTCHER SLIM SKIN」です。ブランド名の由来はあちこちで話しているのですが、好きな単語をティッシュケースにいれて、ランダムに引いて語呂の良い組み合わせにしたもので、特に意味はありません。

──幼い頃からクリエイティブな環境が身近にあったのですか?

深民尚:父方の祖父が油絵を描いていて、自分も中学まで絵画教室に通っていました。母方の実家は生まれ育った浜松でテーラーを営んでいて、祖父がミシンで縫う姿や業務用のアイロンをかける姿を見ながら、トルソーにミニカーを走らせて遊ぶという幼少期でした。今思うと、それが洋服作りの原体験になったのかも、と思います。音楽に目覚めたのは中学生の頃に従兄弟が持ってきたビートルズのカセットテープを聞いてですが、初めて買ったレコードは沢田研二で、ビジュアルで音楽を表現するという意識は早くに目覚めていたのだと思います。

──その後、2022年春夏シーズンより「71MICHAEL(ミシェル)」をスタートされました。ブランド名は幼い頃に洗礼を受けた自身のクリスチャンネームなんですね。

深民尚:ミシェルは前のブランド(DBSS)と違えて、音楽や映画などカルチャーを取り入れないブランドを指向しました。71は自分の生まれた年、ミカエルが洗礼名でもう一つの自分という隠喩です。ちょうどコロナ禍だったので、着る人がハッピーになれる洋服というコンセプトで、サブカルなどからのテーマにとらわれない洋服を目指しました。

──そして2026SSより自身3ブランド目となるNewRoseをローンチされたわけですね。10月からECでの予約がスタートしていますが、デビューとなる今春夏シーズンの代表的なアイテムをいくつか教えてください?

深民尚:コレクションはユニセックスをベースに構成しています。特に新しくチャレンジしたのはパターンで余白を作り、生地を寄せてイレギュラーなプリーツを持たせてまま刺繍をすることで独特のシルエットが生まれるというリンクル刺繍のアイテムを新しく発表しています。シャツやドリズラージャケットにこのリンクル刺繍を施すことで、わざとバランスを崩すという構造にしています。もともと刺繍は好きなテクニックなのですが、今回は刺繍アーティストの二宮佐和子さんにお願いした手刺繍のアイテムも発表しています。

──ダブルフェイスのタイプライター生地にバラが手刺繍されているパンツとジャケットのセットアップがそれですね。

深民尚:二宮さんと打ち合わせしたときにフランスの画家のオディロン・ルドンの黒のイメージと、「NewRose」というブランド名だけを伝えて、出来上がってきたグラフィックです。彼女のなかで“再生”というイメージで骨からバラが咲いている表現をしてくれています。

──イメージヴィジュアルに使用されているリバティプリントのコートもインパクトがありますね。

深民尚:リバティプリントを5種類、切ったり割いたりしてパッチワークしてクロスステッチをかけキルトにした生地に洗いをかけて一枚物のスプリングコートに仕上げています。

──90年代のロンドンっぽいアイテムですね。深民さんの作る服はアメカジではなく、ロンドンのストリートの匂いが強いイメージがあります。

深民尚:今回のリバティプリントのコートも、自分が大学2、3年の頃にロンドンに短期留学していたときに、ライブを見に行ったりレコードや古着を探したりという懐かしい記憶をフラッシュバックさせている感じがあります。ヴィヴィアン・ウエストウッドのワールズ・エンドの店に行ったり、キングスロードを行ったり来たりしてラロッカとかBOYとか覗いたり。リバティ百貨店も大好きで鮮明に覚えていて。それがきっかけで東京に戻ってアパレルでバイトを探したという経緯だったと思います。

──デビューの今シーズンはやはりバラのモチーフが目立ちますね。

深民尚:昔からバラが好きでモチーフとして良く使っていたのですが、特に好きなのは青いバラ。花言葉は「不可能を可能にする」です。

──バラのモチーフでPUNKというと、個人的にはジョン・ライドンがセックス・ピストルズを解散した後に発表したP.I.L(Public Image Ltd)の「フラワーズ・オブ・ロマンス」のジャケットがまず思い浮かびます。「NewRose」はザ・ダムドの曲として有名ですね。歌詞は全然過激でなくて、好きになった女の子の歌ですが(笑)。日本では名古屋をベースに活動していたパンクバンド、THE STAR CLUB(ザ・スタークラブ)が当時からカバーを演奏していました。

深民尚:スタークラブ!もちろん知っています。僕より少し上の世代ですね。大学時代には東京のライブハウスは行きまくっていました。屋根裏やロフト、下北沢や高円寺などパンクだけでなくガレージ、ロカビリーなどいろんなジャンルを見に行って、ミュージシャンのスタイルに憧れましたね。僕たちの世代はストリートファッションというと鋲ジャン(スタッズを打った革ジャン)やペイントしたライダースといったイメージが浮かんで、今のストリートファッションとは少し違うのですが。ずっとその潮流のなかで活動していますね。デザイナーとしてデビューして30年で3ブランド目となりますが、主なクリエイティブの仲間やもの作りの背景はほとんど変わっていません。パタンナーも変わらず、ずっと同じチーム。それはバンドがメンバーのマイナーチェンジを経て、継続しているのと同じです。「ザ・ブルーハーツ」から「ザ・クロマニヨンズ」になっても演奏し続けている。自分も死ぬまでやってやる、という気分です。

──ずっと続けてください(笑)。ザ・ダムドも去年(2024年)来日しており、まだ現役ですからね。「NewRose」というブランド名は海外でもそのストーリーが通じやすいでしょうね。海外進出は計画にありますか?

深民尚:そうなれば良いですね。「NewRose」のブランド名を思いついたときに最も古いパンクバンドであるザ・ダムドの曲っていいじゃん、と思いました。歌詞の内容は確かにそうですね(笑)。

──ザ・-ダムドのギタリストのルー・エドモンズが「フラワーズ・オブ・ロマンス」を発表した後のP.I.L.に加入しましたね。

深民尚:僕はPUNKが好きなんですが、PUNKの過激さを強調するより、エレガントな要素をパンクで表現できればと思っています。

──現在、好きなバンドを教えて下さい。

深民尚:仕事しながら流しているのはスウェーデンの「Viagra Boys(バイアグラボーイズ)」やデンマークの「Iceage(アイスエイジ)」といった北欧系のバンドですね。PUNKというかザラザラしていてビースティ(ボーイズ)っぽい感じがします。米国だとOliver Tree(オリバー・トゥリー)が好きですね。去年フジロックに出演したので見に行きました。午前2時まで起きてオレンジコートで見ましたよ。

──30年選手といえどもバリバリ現役ですね。バイアグラボーイズは2026年1月に来日しますね。やはりファッションデザイナーは体力が必要ですか?

深民尚:すごく必要ですよ。毎シーズン、新しいコレクションを発表していくなかで、集中力を持続するために体力は重要です。今、ドハマリしているのはブラジリアン柔術。去年から始めたのですが、心技体を極めて技をマスターしていくという過程が深く、芸術性が高いですね。アパレルを含めた文化性も高く、いつでもライブに行けるように体を鍛えています。

──NewRoseのなかで日本のアイデンティティを意識したアイテムや表現はありますか?

深民尚:Maison MIHARA YASUHIROのコラボで白のスニーカーにエアブラシでバラが朽ちる前の着色をしています。トゥーキャップの部分がエナメルで履きこんでいるうちにエアーブラシの着色が剥げて、エナメルが出てきて新しい息吹が芽吹くという細工を施しています。このエアーブラシの職人さんは京都の和服の染色の補正を専門に手掛けていた方にお願いしています。

──日本の技術の結集ですね。このトランスペアレントのニットのグラフィックもそうですか?

深民尚:はい、それもオーガンジーのセーターにエアブラシで絵を吹いてもらっています。プリントだとどうしてもゴワついて重くなってしまうので。

──こういった凝った手仕事によって生まれるオルタナティブな要素がNewRoseの真骨頂となりそうですね。次の26AWコレクションを楽しみにしています。

INFORMATION

NewRose

問い合わせ:newrose.klink@gmail.com

公式:https://newrose-newrose.com/

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