MUSIC 2022.01.06

Interview: week dudus × GUNHEADのEP作“MASH IT!”に描かれた世界観

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_ Ryusei Sabi, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

2000年生まれのラッパー、week dudusとGUNHEAD(HABANERO POSSE、OZROSAURUS)がタッグを組んだEP『MASH IT!』が2021年12月22日にデジタルリリースされ、早くもHIPHOP好きの間で話題を集めている。収録されている4曲は、HIPHOPだけではなくレゲエの要素を感じさせる楽曲もあり。どれもがweek dudusっぽくもあり。これまでとはちょっと異なる世界観が表現されている。今作をプロデュースしたGUNHEADは、どのような意図で曲を作り、week dudusは、どのようにリリックを構築したのか。ここに描かれているHIPHOPが、どんな形なのかをインタビュー。

共通言語を見出したうえでの共作作業

ー今作でタッグを組んだのは、どういう経緯があったんですか?

GUNHEAD:最初にお話をもらったのは、1年ほど前でした。その時点でweek dudusの名前は知っていたんですが、まだ会っていない状態だったんですよね。具体的に2人でどういう作品を制作するのかの全体像は見えていなかったんですけど、とりあえずやってみたいと思って。

week dudus:最初に会ってお話したのは、一緒に制作することを決めてから、自分がGUNHEADさんのスタジオに遊びに行ったときでしたよね。

GUNHEAD:そうだったね。それも1年くらい前で、とりあえずweek dudusが、どういう音楽を好きなのかを、いろんな音楽をかけながらヒアリングする感じだったよね。『これは反応がいいぞ、これはそうでもないか?』とか考えながら。言っても、自分とweek dudusは年齢も離れているし、きっと気を遣っているだろうと思ったから、こっちから考えてることを読み取ろうとしていましたね。

week dudus:気を遣っているつもりは全然なかったんですが……。

GUNHEAD:あ、そうだったの? 全然しゃべらないなーって。

week dudus:いえ、最初からリラックスさせてもらっていました。オレは普段から、あまり話をしない感じなんで。

GUNHEAD:そっか(笑)。まぁ、オレもそんなに話さないから、似たもの同士なのかもしれないね。

一同:笑。

ー会うまでは、お互いにどういう印象だったんですか?

week dudus:もちろんGUNHEADさんの存在は知っていたし、楽曲も聴いていました。実際に会ってお話させてもらって、好きなものを共有しやすい方だと思いましたね。

GUNHEAD:彼の、同世代のラッパーと異なる部分としては、2000年初頭の音楽を通っている感じがあったんですよね。その時代と言えば、ファレル・ウィリアムスとかティンバランド、スウィズ・ビーツなどなど大勢のビッグプロデューサーがいますよね。week dudusの作品を聴くと、そういう要素がちょっとずつ入っている感じが理解できたので、きっと好きなんだろうなっていうのはあったし、ちゃんと共通言語があったわけです。後から聞いたら、week dudusのお父さんがHIPHOP好きで、小さい頃から聴かされて育った過程があったということで、なるほど、と。

week dudus:GUNHEADさんと音楽を共有し合っているときに「特徴的なドラムが好きなんだね」って言ってくれたじゃないですか。あのときに、ああ、自分のことをめっちゃ理解してくれてるなって思ったんですよ。

GUNHEAD:そんな風にお互いが合致する部分を見つけながら制作に向かっていったんです。week dudusに渡したトラックは、トータルでは20曲近くありましたね。さらに、渡す前に自分で振るいにかけたトラック数も合わせると100曲以上あったんですよ。

ーそんなに!?

GUNHEAD:もちろん適当なサンプル音源みたいなものもあるんですけど。で、歌も録っているのが10曲近くあったんですけど、今作に収録する楽曲をどうするかってことをチーム全体で話し合った結果、『MASH IT!』に収録されている4曲に集約されていった感じです。そういった流れを経ての作品なので、かなり凝縮されている感がありますね。

お互いの衝動をぶつけ合って 好きに音楽をやりたい

week dudus:いっぱい作った中でも、『MASH IT!』に収録する4曲はバラエティに富んだジャンルレスな感じを出したかったので、曲ごとに雰囲気が違う構成になっていると思います。と言うのも、GUNHEADさんと話をしているときに、好きなようにやりたいって話をしていたし、オレ自身そういう気持ちだったので、何か特定のジャンルに絞ったりせずに自由に楽しく制作したいと思って。

GUNHEAD:ジャンルって話でいくと、最初はこっちが逆に意識し過ぎちゃって、これぞHIPHOPだよねってビートを多く作っていたんですよ。でも、やっていくうちに、お互いの理解度が高まっていき、dudusからも要望をもらうようになって、曲に変化が出てきたんです。そうやって、ある種の脱線的な制作を繰り返して出来ていった曲が「ALL EYES ON ME」と「BANANA JUICE」なんですよ。

ーその2曲は特にレゲエやラガHIPHOPの印象が強いですね。実際に、どのように制作を進めていったのか教えてもらえますか?

GUNHEAD:基本的には、僕の自宅兼スタジオに来てもらって、ゆっくり音楽を聴いたり曲を回しながらやっていった感じだよね?

week dudus:そうでしたね。

GUNHEAD:これには、自分の中では理由があって。というのも、ここ数年間、今の流行りやマーケティングを意識して作られている音楽が、全然ピンときていなかったんですよね。そういうことを意識しながら狙って曲作りをするよりも、作品として考えるのなら、ちょっとチグハグでもいいからお互いの衝動をぶつけ合った方が面白いものができるんじゃないかってことを感じていて。そういう思いがあったので、今回は割とラフな作り方をしているというか。僕がいっぱい曲を用意して、その中からリリックが書けるものをweek dudusに選んでもらって、みたいな。そうやった方が、良い作品を形にできるんじゃないかってことを試行錯誤しながら制作していったんですよ。だから『MASH IT!』には、お互いが好きなものがミックスされて収められていると思います。

week dudus:好きにやりたいっていうのは、GUNHEADさんが言う通りで、好きに音楽をやりたいってことなんですよ。

GUNHEAD:制作中には、そういう話をお互いにしてなかったから、今聞けてホッとしたよ(笑)。本当にそうなんだよね。ピュアなものを作りたいって思いがお互いにあったんです。

ーリリックは、どのように書いていったんですか?

week dudus:基本的にはスタジオで音を聴きながら、その場のフィーリングを重視して、スタジオで書き進めていきました。「ALL EYES ON ME」だけ持ち帰らせてもらって、家で考えたんですけど。スタジオで書くっていうやり方は、自分にとって今回が初めてなんで、すごく新鮮でしたね。

GUNHEAD:スタジオでリリックを書くって流れは自然に出来ていたけど、あれは意図的にそうしたの?

week dudus:はい。ずっとやってみたかったんです、スタジオで、その場で(リリックを)書くって作業を。

GUNHEAD:そうだったんだ! 自宅兼スタジオみたいなところだから、ある意味くつろぎながらできたのかもしれないね。

week dudus:本当にそうです。すごく心地良かったです。

GUNHEAD:それは良かった(笑)。でも、書くの早かったよね。ビックリしたもん。

ービックリしたというのは?

GUNHEAD:(リリックを)考えているときに口に出すこともしないんですよ。ずっと音楽聴きながら携帯見てるなーと思っていたら、「次の曲、録っていいですか?」って。えっ、まじで??? ってなりましたよ(笑)。

一同:

week dudus:普段からそうなんです。家にいるときも全然口に出さないので。

ー今作『MASH IT !』はGUNHEADさんがプロデュースに入り、リリックの書き方にも変化があったわけですが、これまでの作品と書く言葉が変わった部分はありますか?

week dudus:オレ、トラックを聴いてからリリックを書くんですけど、ジャンルを分けているだけあって、どの曲もイメージが湧きやすかったですね。1曲目「But OK」は自分自身でOKって感じがあったので、リリックもそういう内容になっています。2曲目「行っとけ」は、反対に、他人の目を気にしている人に向けた内容で。3曲目「ALL EYES ON ME」は大自然が連想される感覚があったので、そういった歌に。「BANANA JUICE」は明確な題材があるわけじゃないんですが、レゲエ感が満載なトラックだったので、自分のレゲエに対するイメージや欲望を書きました。これも、ずっとやりたかったことでようやくできました。

ーリリックは基本的にweek dudusさんが体験された内容がベースになっているんですか?

week dudus:そうですね。体験であったり、聞いたり、見たり、普段から思っていることが多いです。ただ、最近では(コロナ禍によって)頻繁に遊ぶ機会も少なくなってきて、そうなると体験自体が減っていくわけなので、昔のことを思い出すことが増えましたね。最近はけっこう、そういう感じです。

ーでは、『MASH IT!』から離れた質問です。昨今、日本のHIPHOPシーンに対して思うことはありますか?

GUNHEAD:本音を言うと、そこまで詳しく最近のシーンをチェックできていないので、俯瞰した言い方ができないんですよね。ただ、かいつまんで聴いている分には、色んなスタイルの人が出てきているので、それはシーンが健全だということだし、面白いと純粋に感じます。でも、しっかりと現行のシーンで売れている人って、ちょっと似通ったような音楽に偏っているような感じもしちゃうので、個人的には、普通だったら奇人扱いされちゃうような人がガッツリ売れるような世の中を期待しちゃったりする自分がいますね。

week dudus:わかります。もっと面白い人がいっぱいいるし、今は潜んでいる人がめちゃくちゃいるので、そういう人がシーンに出てきたら、もっともっと面白くなると思いますよ。まだ知られていないだけで、すごく面白い人は大勢いるので。

ー今回の『MASH IT!』を経て、今後2人でやっていきたいことはありますか?

GUNHEAD:それこそ、自分のトラック作りという面においても、コロナ禍で変化はあったんですよね。クラブに行けなくなって、2年ぐらい渋い音楽ばかり聴いていたんですよ。アンビエントとか。week dudusと初期に作っていた曲は、割とそういう曲が多かったよね?

week dudus:そうですね、ゆったりめの。

GUNHEAD:ね。ゆったりで、ローテンションって意味ではなく、緩急をつけずに歌うところにweek dudusのラップの気持ちよさがあるなって思っていたんで、そういう曲もあるし、さっきお話したように、まだまだ録った曲はたくさんあるので、それをちゃんとまとめたいって気持ちはありますね。

week dudus:オレは、またスタジオに行って一緒にやってみたいです。

GUNHEAD:トラックが仕上がる前の段階から来てもらって、一緒に話をしながら制作してみたいって話をしたよね。そのやり方で作ってみても面白いかもしれないね。

week dudus:はい、やってみたいです。

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