[Interview]ざきのすけ。
1st EP『Identification』
グラデーションで表現するジャンルレスな音と
ラップと歌で魅せるコントラスト

Photography_Ryusei Sabi
Text&Edit_Maho Takahashi

[Interview]ざきのすけ。
1st EP『Identification』
グラデーションで表現するジャンルレスな音と
ラップと歌で魅せるコントラスト

Photography_Ryusei Sabi
Text&Edit_Maho Takahashi

ジャンルの境界線を感じさせないサウンドと、圧倒的なヴォーカル。加えてシャウト混じりなフロウで魅せるラッパー兼シンガーのざきのすけ。。昨年行われたTHE FIRST TAKEのオーディション企画「THE FIRST TAKE STAGE」のファイナリストとして知った人も多いだろう。ルーツであるジャズをはじめ、R&Bやヒップホップ、ロックなど複数のジャンルを組み合わせた独自のスタイルは、耳早リスナーを筆頭に注目を集めている。そんな中、3ヶ月連続リリースのファイナルとして発表した1st EP『Identification』は、新たなフェーズに立つざきのすけ。ならではの目線で、人生の岐路と対峙している。ラップとメロディで織りなす表現と、ボーダーレスで実験的なスタンスだから示せるものとは。

「目線を変えてこそ見えてくるものもある」

ーまず、音楽を始めたきっかけを教えてください。

祖父がジャズ、母も歌をやっていたりと、小さい頃から音楽が身近にあったので、僕自身も何かやりたいと思っていて。家の近くにあったジャズ教室で、小学生のときにドラムを習い始めました。それと同時期に父の友人からギターを譲り受けて、独学で触っていくうちにギターも弾けるようになって。中学生の頃は、バンドでギターボーカルをしていました。

ーでは、歌やラップに興味を持ったのはいつ頃ですか。

歌うことは好きでしたが、昔は音が取れないくらい下手で(笑)。お風呂で歌ったのを録音して、気に入らない箇所を練習するということを毎日繰り返していました。当時歌っていたのは、高橋優さんなど弾き語りの方が多かったです。洋楽だとパンクやミクスチャーにもハマっていたので、シンプル・プランやリンキン・パークも歌っていました。ラップは、フリースタイルダンジョンが始まった当初に、MCバトルというものに衝撃を受けてはじめました。楽器でのセッションは知っていたけど、それを言葉で行うことが新鮮で。中でも、鎮座DOPENESSさんのジャズセッションとラップを融合させたような、スキルフルなフロウに惹かれて、ラップにハマっていきました。

ーちなみに最近上京されたそうですが、東京での暮らしはいかがですか。

北海道にいた頃と比べて、音楽をやっている友達と遊ぶことが増えたので、いろんな意味で充実しています。制作面でいうと、街の雰囲気や様相から新鮮なイメージや感情が湧いてくるので、得られるものが多いなと感じています。

ーざきのすけ。さんといえば、THE FIRST TAKEのオーディション企画「THE FIRST TAKE STAGE」のファイナリストとして一躍脚光を集めましたが、出演後はどういう変化がありましたか。

僕の中で「THE FIRST TAKE STAGE」に出演したことはかなり大きいですね。それまでは、自分の殻に閉じこもっていたというか。僕のことを知っている方にライブを観てもらえるだけで満足していたけど、もっと広く知ってもらえるように自分から行動することが楽しいと思えるようになりました。そういう意味で自分の殻を破れたし、マインド的にもプラスになりました。

ー今回の1st EP『Identification』は、20歳ならではの葛藤や自問が描かれた作品ですよね。改めて聴いてみて、ざきのすけ。さんにとってどんな作品になりましたか?

音楽へ傾倒するきっかけも含めて、自分の根幹を形成する部分に焦点を当てた作品にしたいと思っていました。日常のヒントというか、新たな道を示す光のようになれたらいいですね。僕は逃げること自体は悪いことだと思っていなくて。目線を変えてこそ見えてくるものもあると思うので。今作がそのきっかけを与える作品になっていたら嬉しいです。

ー全曲の作詞・作曲に加えて、編曲も手がけていますよね。特にこだわった部分を教えてください。

音作りにこだわった作品で言えば、「Bipolar」ですね。曲の展開を意識していて、全体を通して聞いたときに、特定のジャンルで括れないような、ジャンルの壁を浮遊するイメージを表現しました。わざとチューニングの合っていない音や、ずらした音も入れています。

ー「Bipolar」は歌詞を見ると、EPの題材でもある“人が持つ二面性や逃避への許容”を歌っていると思います。

二面性を歌う中で、双極の中間に焦点を当てました。例えば、暗い気持ちと明るい気持ちのような二つの感情を点で跨ぐ人はいないと思っていて。その間に存在する無数の感情を、グラデーションのように行き来する過程を歌っています。僕はすごく明るい気持ちのときに、ふと暗い気持ちが恋しくなる瞬間があるので。対に位置する感情を羨むような、相互から見つめている歌詞を書きました。

「ジャンルの枠に捉われると
本来やりたいことができない」

ー4曲ともジャンルが異なりますが、どのように制作していくことが多いですか。

僕はビートが出来上がるまで、他のことが考えられなくなってしまうんですよ。なので完成したビートに、お酒を飲みながらリラックスした状態でメロ入れをして、ボイスメモで録音しています。そこから良いフレーズを繋ぎ合わせて、歌詞をつけることが多いです。けど、今回の「CASSIS」のサビ頭は歌詞とメロが一緒に浮かびました。

ー「CASSIS」はタイトルの通り、甘酸っぱい恋愛ソングですよね。

今作の中で唯一、人間味が滲み出ている曲というか。日常に寄り添った描写を入れることで、親近感が湧く作品を狙いました。こういうことあるよなって共感しやすいラブソングになっていると思います。

ー「CASSIS」や「MINT」のように、ざきのすけ。さんの恋愛ソングはいろんな人が共感しやすいと思いました。

聞く人のシチュエーションに置き換えてもらえるように、断言するような表現は避けています。言い切らない方が聞く人によって前向きになれたり、切なく感じたりすると思うので。そのときの気持ちに寄り添って、違った色に見えたらいいなと思っています。

ー一方で、「Finger Magic」は世界観がはっきりしていて、聞いていて映像が浮かんできました。

仰る通り、音に乗せたダークな絵本のような世界観にトライしました。今作は、自分語りをしている曲が多かったので、フィクションの要素を加えた曲を書きたくて。グリム童話の『ハーメルンの笛吹き男』をモチーフに、映像が浮かぶような作品を意識しました。

ーTHE FIRST TAKEのインタビューでは、映像と音楽の密接性を話していましたよね。

夢で見た光景や映画のワンシーンだったり、印象的な映像からインスピレーションを得ることが多いんです。浮かんだ映像にマッチする音を想像するというか。街にいるときは常に音楽を聞いているので、周りの情報を遮断してしまうのですが、スマホの充電が切れたときに、日常の光景がちゃんと見えてくる瞬間があって。そんな何気ない景色を見たときに、こういう音楽が流れていたら綺麗だなと考えたりしています。

ー「Launch」は力強いサウンドの中でも、スキルフルなラップが印象的です。

制作当初はラップを入れる予定はありませんでしたが、一番と二番で同じような熱量の高いビートが続くと、クドく感じてしまって。逆にペースダウンした感じのフレーズを入れたら、しっくり来なかったので、あえてハード目なラップ入れてみました。元々ヒップホップの界隈にいたし、バチバチなラップを入れたかったので良かったです。

ー​​ラッパーでありながらシンガーとしての実力を持つ、ざきのすけ。さんの強みは自分的になんだと思いますか?

一番と二番で全く異なるテイストへ切り替えても、成立させられることだと思います。その逆にシームレスに、グラデーションがかったところが狙えるのも強みだと思います。札幌でヒップホップをやっていた頃の周りを見ていると、ジャンルの枠に捉われて本来やりたいことができていなかったりして。そういう線引きがない方が面白いと思っているので、型にハマらなくても良いということを示せたらいいですね。なので、今後もシンガー兼ラッパーとして、いろんなジャンルを混ぜた面白い曲を作りたいです。

ー今後、やってみたいことはありますか。

メンタル的にも勢いがついているので、年内にまたEPをリリースできるように制作しつつ、音楽的な成長ができるように頑張ります。まだヒップホップに寄っている部分があるので、もう少し実験的な制作をしたいですね。あと、元々ジャズドラムをやっていましたが、未だにセッションをしたことがないので、いろんな楽器を練習して挑戦したいです。いつか皆さんの前で披露できたら良いなと思います。

INFORMATION

ざきのすけ。 1st EP『Identification』

[Track list]
M1:Bipolar
M2:CASSIS
M3:Launch
M4:Finger Magic
https://orcd.co/zakinosuke_identification

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