MUSIC 2022.08.29

Interview:藤田織也
若き音楽家の実像と無限に広がる可能性

Photography_Hiroki Asano、 Text&Edit_Mizuki Kanno
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

20歳にして世界を見据えるシンガー・藤田織也をご存じだろうか。天性の音楽的センスで幼少期から注目を集め、12歳にして渡米、留学中にアポロシアターアマチュアナイトでのWeekly No.1を獲得。現在は、Spotifyの「RADAR:Early Noise 2022」にも選ばれたHIPHOPユニットBleecker Chromeとして活躍する一方、ソロとしてもコンスタントに楽曲を発表中…….と、とにかく、すごい。その実力が遺憾無く発揮された3rdシングル「REAL U」がリリースされた。彼の最大の魅力である唯一無二の歌声が紡ぐラブソングは、どこか懐かしくもありつつ、現代のムードも捉えた世代を超えて愛される作品に仕上がっている。今作について、そして藤田織也自身について話を聞くべくインタビューを行った。輝かしい経歴の裏側で、人知れず積み重ねたであろう努力と音楽への深い愛情が、今の彼を作り上げていた。

「アポロシアターのステージから見た景色は、一生忘れません」

ーまずは、織也さんのバックグラウンドから伺っていきたいと思います。5歳からダンスと歌のレッスンを始めたとのことですが、きっかけはなんだったんですか?

「僕が子供の頃は、いわゆるスーパーキッズの全盛期で、彼らがテレビで歌やダンスのパフォーマンスをしている姿を観て、子供ながらに自分もやってみたいと思ったことがきっかけでした。あとは、親がEXILEを好きだったこともあり、自分も影響を受けていた部分もあると思います」

ー歌とダンス、どちらが好きでした?

「歌でしたね。当時から歌をメインでやっていきたいと思っていました」

ー先ほどEXILEの話もありましたが、その他にも影響を受けたアーティストを教えてください。

「Kanye WestやThe Weekndからは、特に影響を受けていると思います。カナダのトロントのR&Bシーンもすごく好きで、Spotifyでディグったり、あとはヴィンテージTシャツが好きで、それがきっかけで新しいアーティストを知ることも結構あります」

ー12歳でニューヨークに留学されたんですよね。すごい決断ですよね…..。向こうではどんな生活を送っていましたか?

「幼い頃から日本でボーカルレッスンを受けてきた中で、このままただ続けていても、この先に続きがないんじゃないかなと不安に思うようになって。その頃オーディションの存在を知って、何か変わるきっかけになるんじゃないかと思い受けてみることにしたんです。ニューヨークでは、学校に行って、昼過ぎくらいに帰宅して、夜の10時くらいまでボーカル&ダンスレッスンをする、みたいな生活を中1から3年半行っていました。最初の年は、マンハッタンのアッパー・ウエスト・サイド周辺に住んでいたのですが、2年目からはブルックリンのフラットブッシュというエリアでホームステイを経験して。そこは、夜に銃声などが聞こえてくるような地域で、今振り返るとすごい場所だったなと思います(笑)」

ー怖いですね…..。その他にも、向こうでの思い出を教えてください。

「一番びっくりしたのは、ニューヨークで初めて仲良くなった友達のお父さんが、LA・リードというジャスティン・ビーバーを発掘した方だったことです。そんな凄い方だとは全く知らずに彼の家に遊びに行ったら、物凄い大豪邸で。ニューヨークを感じました(笑)。あとは、アポロシアターで人生で初めてのスタンディングオベーションをもらったことは、かけがえのない思い出です。あの景色は一生忘れないですね」

ーアポロシアターのアマチュアナイトは、観客の拍手の量で優勝者が決まるんですよね?

「パフォーマンスの最後にお客さんの反応をマイクで撮って、それがイコール得点になって、もっとも高かった人が次に進めるんですが、観客から30秒以上のブーイングが起こると、ステージから強制退場させられちゃうんです」

ー織也さんは、そこで何を披露したんですか?

「僕は14歳と15歳で2回出場していて、最初はThe Jackson 5の『Never Can Say Goodbye』、次にChaka Khanの『Through the Fire』を歌いました。アポロシアターはソウルミュージックの殿堂なので、そこに名前が刻まれているアーティストの曲を歌うようにしていました。まずは300人くらいのオーディションから始まって、ひとり当たり30秒ずつ歌うんです。そこで声をかけられないと終わり。なので、みんな歌った後はなるべくゆっくり歩いたりして(笑)」

ー物凄い経験ですよね。

「懐かしいですね。アポロシアターに立ったときはまだ声変わりする前でしたが、その後すぐに変化してきて。僕は比較的、緩やかに低くなっていったので、パフォーマンス自体にそこまで支障をきたすことはありませんでしたが、その頃、所属していたグループの全国ツアー中だったので、音域が変化しながらもツアーを乗り越えないといけないプレッシャーがありました。あの頃は精神的に辛かった記憶があります」

ー音楽の制作自体はいつから始めたんですか?

「16歳くらいからです。ニューヨークから日本に戻ってきて、それまで所属していたグループを辞めて、個人で活動していこうと決めた頃になります。これから、どのように音楽活動を続けていくのか悩んでいたときに、ニューヨーク時代の友達がビートを持ってきてくれて、『これ歌ってみてよ、メロディーも作ってみて』って言われたんです。それが制作活動を始めたきっかけになり、そこから自分の道が広がっていった感じはあります。アーティスト活動を続けていく上で、とても大きな分岐点になりました」

ーそれが、Bleecker Chromeの活動にも繋がっていったんですか?

「そうです。個人で活動をはじめてから、YouTubeに楽曲をアップするようになって、徐々に認知を広めていき、その中でBleecker Chromeとしての活動も始めました。Bleecker Chromeはそれぞれがソロで活動していくために誕生した集団で、元々同じチームに所属していた仲間だからこそ、みんなで一緒にライブをやった方が勢いもあるし、お客さんも喜んでくれるんじゃないかというのが原点で、その後メンバーの脱退などもあり、今はXinとHIPHOPユニットとして活動しています。ソロでも、Bleecker Chromeでも、それぞれで自分のやりたいことを表現しています」

「2000年代のR&Bを二十歳の僕がリバイバルすることで、新しいサウンドとして昇華されるんじゃないかと思って」

ー藤田織也さんのソロとしての3枚目のデジタルシングル「REAL U」がリリースされましたね。歌詞の描写がとてもリアルで、楽曲の世界観が映画のように頭に広がっていきました。何をモチーフに作られた作品なんですか?

「フィクションとして描いたラブソングが曲として伝えたいことではありますが、まずテーマとして、“2000年代R&Bのリバイバル”というのがありました。UsherやNe-Yo、Omarionなど、紳士的なダンス&ボーカルのアーティストの曲を、二十歳の僕がリバイバルしたらリスナーにどう届くのか、試してみたかったんです。当時の日本の音楽シーンを牽引していたアーティストの曲も、R&B要素が取り入れられた作品が多く、それは今のJ-POPの基盤を作ったサウンドでもあると思うんです。僕と同世代のリスナーは、2000年代の音楽から無意識に影響を受けていると思いますし、僕がこのサウンドをフックアップすることで、『この時代ってよかったよね、この頃の音楽って最高だったよね』という会話が生まれたらいいなと思っています。あとは、僕が取り入れることで、“新鮮なサウンド”として届けられるんじゃないかなという思いもあって、このテーマで曲を作ることにしたんです。ベース音や音圧は今っぽい強さだけど、こってりしたメロディの雰囲気は2000年代当時をイメージしています。そこに、現代とひとつ前の世代の若者の視点を交えて書いた歌詞を散りばめて、ノリだけではない、あえて丁寧に歌うラブソングにしています」

ー曲の背景を聞いた上で改めて「REAL U」を聞くと、また違った楽しみ方が生まれてきますね。今回、共作されたMatt CabさんとJAY’EDさんとは、どんなやりとりがあったんですか?

「“2000年代R&Bのリバイバル”というテーマだからこそ、お二人にコライトで参加してもらいました。二人は当時のサウンドが持つ勢いをリアルに体感していますし、その世代にもこの曲が刺さってほしいという願いもあったので。まずは、当時どんな音楽を聴いていたかのシェアから始まって、Mattさんがある程度完成したサウンドを持ってきてくれたので、それに対して3人でメロディをつけて、よかった部分を切り取りして。今回の制作は、自分自身楽しみながら進めていけました」

ー今後チャレンジしてみたい表現などはもう出てきていますか?

「もう少しJPOP要素の強い作品を作ってみたいと思いつつ、あとは、HIPHOPのビートでポップスっぽいことをやったり、逆にポップスやR&Bのメロなのに、歌詞はHIPHOPだったりとか。日本では、HIPHOPもこなすシンガーという存在が浸透していないので、そこは僕が先陣を切ってやっていきたいと思っています。海外ではそれがメインストリームになりつつありますし、僕のリスナーさんは結構、海外の方も多いので」

ー世界を視野に入れた活動も?

「Spotifyのデータだと、僕の音楽を聴いてくれているリスナーは東京とバンコクの数が同じくらいで、アメリカやオーストラリアでも聴いてもらっている状況です。Bleecker Chromeでは、タイに制作に行くことも決まっているので、ソロ活動でも、EPやアルバムをリリースするタイミングで、海外へと活動を広げていきたいなと思っています」

ーBleecker ChromeはSpotifyのEarly Noise 2022にも選ばれていますもんね。

「ユニットでは次のフェーズに進みつつあると思うので、ソロも積極的に活動していきたいと思っています。R&Bが大好きだけど、その枠組みに止まらず、いろんなジャンルに挑戦していきたいと思っています」

INFORMATION

3rd Digital Single
「REAL U」

2022.7.29 Release
https://lnk.to/KENYA_RealU

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