Interview:Pii
水のように流れていたい。
PORINソロプロジェクト・Piiが本格始動

Photography_Hiroki Anasno
Text_Chinami Hachisuka
Edit_Maho Takahashi

Interview:Pii
水のように流れていたい。
PORINソロプロジェクト・Piiが本格始動

Photography_Hiroki Anasno
Text_Chinami Hachisuka
Edit_Maho Takahashi

“青い髪”がトレードマークの覆面アーティストPiiの正体が明らかとなった。Awesome City Clubのボーカルを務めるPORINだ。アパレルブランドyardenを手がけるほか、ボーカリストとして他アーティストの楽曲へ参加するなど、活動の幅を広げる中、本格始動させたソロプロジェクト・Piiについて訊いてみた。ソロ活動に至る経緯や、11月30日(水)にリリースされたデジタルEP『春が呼んでる』のこと。進化を続ける彼女の今を覗く。

――Awesome City Clubを見ていると、メンバー3人がそれぞれ自立しているように感じるんです。PORINさんはアパレルブランドyardenも手掛けていますが、ここ最近はGLAYやMONDO GROSSOをはじめとした他アーティストの楽曲に参加するなどボーカリストとしても幅広く活動されていたので、ソロ活動への挑戦も自然な流れだったのではと想像しました。

私としては、意図せずタイミングがハマったように感じているんですよ。ボーカリストとしていろいろなところに出ていけるようになったのは「勿忘」(Awesome City Clubが2021年2月に発表した楽曲)のヒットがあったからこそだと思うんですけど、(Pii第1弾楽曲として2021年4月にリリースされた)「カキツバタ」を作り始めたのは2019年で、「勿忘」のリリースより前だったので。コロナ禍に入っちゃったから「カキツバタ」のリリースはもう少し後にしようかと言っているうちに、「勿忘」のリリース日を迎えて、Awesome City Clubの名前が知れ渡って、それぞれ自信が持てるようになったからこそ、自立するようになって……順序としてはそんな感じでした。

――ということは、以前から「いつかソロプロジェクトを」という気持ちがあったのでしょうか?

そうですね。元々バンドを組む前は一人で弾き語りをしていたので、ソロ活動もやりたいなという願望はずっとありました。Awesome City Clubの活動が始まってからは、バンド活動が楽しかったからそのままずっと続けてきたんですけど、2019年頃から「そろそろソロ活動も始めてみようかな」と改めてスイッチを入れて。PiiではAwesome City Clubでは表現しきれないことを表現していきたいし、自分のコアを深堀りして音楽にしていけたらと思っていますね。

――Piiとして初めてリリースした楽曲「カキツバタ」はまさにPORINさんのコアを形にした曲でしたね。お父様が造園業を営んでいるというPORINさんのルーツも歌詞に反映されているし、PORINさんの歌唱も気持ちが乗っていて素晴らしい。

ありがとうございます。1曲目は私にしか出せない濃いものにしたかったんですけど、まさに自分の人生を表した曲になりました。親も泣いていましたし、私のご先祖様もきっと喜んでいると思います。曲を書いてもらう時に自分のルーツをお話ししたんですが、私にとってはおじいちゃんがすごく大きな存在で。実家の造園会社を作ったのもおじいちゃんなんですけど、おじいちゃんが亡くなった時、実家の庭に咲いていた紫のお花を枕花として飾ったんです。そういうお話をしている中で「じゃあ紫のお花をモチーフにしたらよさそうだね」ということでカキツバタに辿り着いて。カキツバタの花言葉は“幸せは必ず来る”だったので、そこからイメージを膨らませていきましたね。「どんなに悲しい歌にも 終わりがある」「どんなに苦しい坂にも 終わりがある」という歌詞がありますけど、長い冬が明けた先にある春と、長いコロナ禍の最中でも希望が見え始めた今の状況には重なる部分があるなと思っています。

――自分の人生を表した曲となれば、レコーディング中、特別な気持ちになったのでは?

Awesome City Clubでは楽曲に合う声色、表現を追求しているんですけど、今回は自分のパーソナルな部分をどれだけ出せるかだったので、降りてくるまで頑張りましたね。歌い終えた時は気持ちよかったです。こんなにエゴ全開の歌を歌ったのは久しぶりだったし、路上で弾き語りをしていた頃のことを思い出しました。

――この「カキツバタ」から始まったPiiというプロジェクトは、“シン・カヨウキョク”というコンセプトを掲げていますね。

実家がトラディショナルなのもあって、元々普遍性のあるものが好きなんですよ。生まれや育ちにはどうしても抗えないし、私が一番見つめ直さなきゃいけないのはそこだと感じていたので「自分が表現するとしたら普遍的な音楽がいいな」「フォークや歌謡曲をやりたいな」と最初に思いました。ただ、そのままやっても面白くないので、私らしく、モダンなアプローチを取り入れながらアップデートできたらと。歌謡曲はメロディや歌詞の日本語の美しさが特徴的で、瞬間を捉えることによってその時代を表しているようなものが多いと思うんですけど、昔からの歌謡曲が未だに愛されている一方、そういう音楽って今の時代はあんまりないように感じます。そういった音楽をやっていけたら面白そうですよね。

――今回のEPに入っている5曲はまさにそういった音楽として深く長く親しまれそうな予感がします。私はメロディやアレンジが“カヨウキョク”(歌謡曲)の要素を、サウンドプロダクトが“シン”(新)の要素を主に担っているように感じたのですが。

そうですね。モダンなサウンドになったのは、エンジニアの小森雅仁さんの存在がかなり大きいと思います。小森さんの持っているChandlerのREDDというマイクがめちゃくちゃよくて、初めてレコーディングした時、すごく感動したんですよ。ボーカルだけが変に浮きすぎず、他の楽器ともよく馴染んでくれるんです。そのバランスがモダンでいいなと思ったので、Piiはこのマイクで録っていきたいなと思いましたね。

――エンジニアも含め、PORINさん自ら選んだクリエイターとともに制作しているそうですが、曲ごとに違うクリエイターと共作するスタイルはアートコレクティブのようですね。

確かに。これは自分の性格ですね。「カキツバタ」に出てくる〈ガラス張りの街〉は渋谷のことなんですけど、渋谷ってずっと工事していますよね。私はその未完成さにロマンを感じるし、一生完成しない渋谷の街を見ていると、自分を見ているような感覚にもなるんです。

――一生完成しないことに疲れてしまう瞬間はありませんか?

あんまりないですね。現状に満足したことがないので、成長とともに新しい世界を知れるきっかけがもっと増えて、「あっちの世界も覗いてみたい」という感じでまた歩き出す、という感覚でここまでやってきたんですよ。水がずっと同じ場所にいたら腐るのと同じように、私自身「変わることは進化すること」「水のように流れていたい」という精神性があるし、自由じゃなくなるとフラストレーションがたまる性格なので、Piiの制作スタイルは自分にマッチしていると思います。いろいろなアーティストさんと一緒に曲を作れるのは刺激的で、毎回新しい発見があるので、とても楽しいです。

――「Baby Pink」の詞曲を手掛けたMega Shinnosukeさんとの制作の感想を聞かせてください。

メガシンくん(Mega Shinosuke)はカルチャーがすごく好きで、ファッションもおしゃれで、インスタとかに載せているライブ映像も尖っているし、実際にライブを観に行っても超ユニークで……それなのに菅田将暉くんに提供していた「星を仰ぐ」のように普遍的な曲も書ける人だから、「この人面白そうだな」と思ってオファーしたんです。そしたら案の定、超面白くて、アウトロを8分の6拍子にするアイデアをレコーディング前日に持ってきた時とか、最高じゃんって思いました(笑)。あと、「Baby Pink」はただの恋愛ソングじゃなくて自己肯定ソングだと思うので、「あ、それを表現してくれたんだ。ありがとう」という気持ちになって。私自身、自分を肯定してあげないと他人を肯定できないなと思うので、メガシンくんもそういう哲学を持っているんだと驚きました。

――崎山蒼志さんが詞曲を手掛けた「雲雀」を受け取った時、どのように感じましたか?

美しい曲ですよね。メロディも美しいし、朗読でも感動しそうな言葉の運びでさすがだと思いました。実家の庭に鳥がよくやってくるんですけど、この曲を聴いて、その風景が頭をよぎりましたね。ただ、歌うのがめっちゃ難しかったんですよ。アコースティックギターは崎山くんが弾いてくれているんですけど、1回目のレコーディングでそのグルーヴに合わせて歌ってみたら、楽曲の世界観から少し離れちゃった気がして。なので、次のレコーディングではストリングスに寄り添うように、のびやかに、鳥のように歌ってみたところ、それが上手くハマりました。

――meiyoさんが詞曲を手掛けた「ヒノキノキ」は制作時に「ヒノキという言葉を必ず入れてほしい」というオーダーをしたそうですね。

5曲とも春をテーマにしているのでmeiyoにはそうお願いしたんですけど、オーダーに対する応え方が天才ですよね。発想がすごく自由だし、アイデアが無限に出てくる気がするし、尊敬しています。meiyoは昔バンドをしていたから私とも感性が近いんですけど……今の時代、最後に入っているようなギターソロもあんまり聴かないじゃないですか。でも「ヤバいやつを思いっきりやりたいね」という話をしながら、meiyoとずっと仲がいいqurosawaくんに弾いてもらったんです。そういうメインストリームに対するカウンターパンチみたいなものが要所要所に散りばめられていますね。

――様々な人と一緒に曲作りをするにあたって、隙のない整然とした世界観を構築するのではなく、「ちょっとエッジが効いている方が面白いよね」という感覚はありますか?

めちゃくちゃありますね。やっぱりエッジが効いたものの方がおしゃれじゃないですか。例えば「花明かり」の“春が来たらあなたのことを思い出してしまう”というモチーフ自体はスタンダードなものですが、案山子さんは歌詞を書く時の着眼点が斬新で、新しい表現をしているのがすごいなと思うんですよ。そういうふうに、その人だけの超強いこだわりみたいなものを発見すると、「カッコいい! おしゃれ!」って思っちゃうんです。PiiのPはPORINのP、PersonalのPで、iiは私を支えてくれる人たちを表しています。このPiiという名前にも表れているように、自分一人で完結させるのではなく、いろいろな人と関わりながら、繋がりながら音楽を作っていくプロジェクトとしてこれからも続けていきたいですね。

ベスト ¥12,100、シャツ¥20,900
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INFORMATION

Pii 『春が呼んでる』

配信:2022年11月30日(水)
[収録内容]
01. カキツバタ
02. Baby Pink
03. ヒノキノキ
04. 花明かり
05. 雲雀

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