INFORMATION
秋山黄色「SKETCH」
発売日:2022年11月23日
秋山黄色 OFFICIAL HP
秋山黄色Twitter
約8ヶ月ぶりに秋山黄色にインタビュー。3rdアルバム『ONE MORE SHABON』リリース以降の出来事を振り返りつつ、アニメ「僕のヒーローアカデミア」第6期エンディングテーマで、“立ち止まる”ことを描いたというミディアムロックナンバー「SKETCH」と、ユーモア満載だが核心を含むカップリング曲「年始のTwilight」を収録したニューシングルについて、話を訊いた。
photo by Ayumu Kosugi
――まず、近況を聞かせてください。先月、大阪・東京でのホール公演『一鬼一遊 TOUR Lv.4』がありましたね。反響は秋山さんの元にも届いていますか?
めっちゃよかったみたい(笑)。いろいろな勉強が済んで、思いついた演出を実現できる環境が整い始めたところなんですよ。例えば、1曲目が「シャッターチャンス」だったんですけど、暗い中で俺がサーッとステージを歩いていって、照明が明るくなった瞬間、急に俺が出てきた!という始まり方にして。リハの3日前くらいにそのアイデアを思いついたから、シャッター音が連発しているようなインストを自分で作ったり、俺、金髪で真っ暗でもバレるから、黒い服を発注したりしたんですよ。それを被りながら出ていって。そしたら狙い通りにできてみんなめっちゃ喜んでくれたし、「本当はマイケル・ジャクソンのトースタージャンプみたいに登場したいんだよな」という自分の欲求も満たされて。あれはすごくよかったですね。セットや照明も含めて自分でコントロールできる幅が広がったので、これからもっと柔軟にできるんだろうなと思います。
――そういう準備をしている時間って好きですか?
人を驚かせるために何か仕込むみたいなことはすごく好きです。作曲なんてその最たるものだし、音楽を始める前からそういう精神はずっとあるのかな。今、曲作りと同じくらいライブも自由にやれているんですよ。スタッフと決めたライブの流れがプランAだとしたら、俺だけのプランBが常に頭の中にあるんですけど、とはいえ事故が起こるのは避けたいから、当日に「ステージ上で火とか出しちゃダメですかね?」ってスタッフに確認して。そしたら「え、火を出すの? それはダメだよ」ってものすごく不安そうな顔をされるんですけど(笑)。
――それは当然です(笑)。
その都度「消防法というものがあってね」と教えてもらって、勉強しながら、できることも増えてきてはいますね。
――リリース周りで言うと、8月に「ソーイングボックス」の配信リリースがありましたね。
「SKETCH」の話が決まってたから、その前にちょっとヘンテコな曲を出して、アレンジ欲求を満たしておこうという精神的な事情がありました。昔は音楽で金を稼ぐのが嫌だったけど、今は仕事としてきちんと達成する喜びも知っているし、しかも何度かそれを経験していて。だからこそ「職人として結果を出そう」という時間と「適当に曲作ってるだけ」という状態をどちらも見せなきゃいけないし、どちらかがなくなると、どちらもダメになっちゃう気がするんです。
――なるほど。
「ソーイングボックス」は19歳くらいの頃に作った曲なんですけど、自分の曲のリアレンジは結構楽しいし、埋もれていったであろう曲を改めてリリースできるのは精神的にいいんですよ。多分、みんなが想像してるよりもずっといいです。
――どんな気持ちになるんですか?
俺、昔からちょっとくらいは天才だったんだなって。自分が信じていたことはやっぱり間違っていなかったと確認できるし、リアレンジすることで「この曲をこう変えられたのは○年の活動の中で成長したからだ」という差分が明確に見えるのもいいですね。ちゃんと報われてる感じがする。
photo by Ayumu Kosugi
――そういう感覚は大事ですよね。そして今回のシングル『SKETCH』に至るわけですが、表題曲はアニメ「僕のヒーローアカデミア」第6期のEDテーマとして現在オンエア中ですね。オファーをもらった時、どう思いましたか?
僕の好きなアーティストが1~2期の主題歌を担当してたし、同い年でレーベルメイトの友達も全員経験してたので、「俺の番、来た!」と思いましたね。嬉しかった一方、下手なものは絶対に出せないなと。いい曲を作らなきゃいけない理由がいつもより多かったです。いろいろな事情でデモを結構早く出さなきゃいけなかったんですけど、もう、ギリギリのギリという感じで。「0時を回ったらアウトです」という当日にイントロとAメロができて、「よかったー、出てきたー!」と思ったのはすごく覚えてます。
――それはどういう壁にぶつかっていたんでしょう。「いいメロディが出てこない」みたいな?
いや、そういうつらさはなくて、シンプルに時間と気力の戦いですね。ぷよぷよって、次に出てくる組み合わせが画面にずっと表示されてるじゃないですか。あんな感じで、「これがダメだったら次はこれを試してみよう」というアイデアは頭の中にずっとあるんですけど、あれもダメ、これもダメというのが連発すると、どんどん気力がなくなるし、〆切は決まっているから、最終的には時間との戦いになってくるし。そういう苦しさですね。全く思いつかないということはないです。
――完成した「SKETCH」はドラマティックなバラードになりましたね。
実はもう1曲提出していて、そっちはバラードではなかったです。先方がかなり悩んでくれたみたいで、「1クール目はこっちで、2クール目はこっちじゃダメですか?」っていう連絡をいただいたんですよ。超嬉しかったけど、レコーディングとかのスケジュールがちょっとつらいなと(笑)。でもちゃんと気に入ってもらえてよかったし、(オンエア後の)評判もわりといいみたいでよかったです。
――今思えば「アク」(3rdアルバム『ONE MORE SHABON』収録曲)も「ヒロアカ」とテーマが近い曲でしたよね。
そうですね。自己も他人も傷つけないでいるためには、そもそもコンディションとポジションを見直すべきだ――というのが善悪に関する僕の結論なんですけど、それは「アク」で出しきっちゃったので、今回はどうしようかなとは思いました。
――コンディションとポジションというのは、その人の調子や状態、あるいは立ち位置によって善悪は簡単に翻るという話ですかね。
そうです。冷静な人がハサミを持っているのを見ても人が切られるようなビジョンは浮かばない、みたいな話です。
photo by Ayumu Kosugi
――なるほど。「SKETCH」のテーマはどのように考えていきましたか?
コンディションとポジションを見直すためには、総じて時間が必要なんですよね。時間を捻出すればするほど、人のことを大切にできるし。「ヒロアカ」の主人公は子どもなんですけど、彼らが大人に触れて、グレーな部分も知って、そのうえで自分はどういうカラーを目指していけばいいのかという青春の部分が物語では描かれていて。その中で、主人公がシビアな問題で悩んだり、誰かが暴走しちゃったり、ちょっと悲しいすれ違いがあったりする。「ヒロアカ」って絵にも話にもずっと勢いがあるけど、その勢いが転じて悪い方向に作用しちゃうこともあるよなということで、じゃあ、立ち止まらせるような曲じゃなきゃダメだと思ったんです。立ち止まってもらうためにはカロリーの高い曲にしないといけないし、カロリーを高くするには89秒に必要以上の情報を込めて、全身全霊を込めるしかない。だから「ヒロアカ」という作品にはそぐわないほどリアルな歌詞にしたし、もっと言うと、僕はこの作品のファンなので、アニメの制作陣にもエンディングの絵作りで逃げないでほしいなという想いでシビアな楽曲を書くしかなかった。今まで受け入れられてきたエンディングテーマとはちょっと毛色の違う曲だし、批判覚悟ですけど、そういう提案をしたいなと思いました。
――確かに〈「居なくならないでね」/「君こそね」〉というフレーズをサビの頭に置かれてしまったらエンディングも悲しみを帯びた映像にならざるを得ないし、実際、第116話(第6期第3話)では特殊EDも制作されて。
この歌詞、キャラクター同士が話しているように感じると思うんですけど、聴いた人にそういう状況が訪れた時、立ち止まれるきっかけになるかもなという期待も込めています。「止まったら死んじゃうよ」という焦燥感の中で生きている人にとって、止まることは進むことよりも勇気が要ることなので。
――タイトルにあるスケッチが全体のモチーフにもなっていますよね。焦燥感の中で生きている“君”に対して“僕”が絵を描いて、〈こんなに綺麗に笑ってたんだよ〉と伝える場面がありますが、やっぱりここは鏡ではなく、スケッチの方がモチーフとして適切でしたか?
最初は鏡がいいかなと思ったんですよ。だけど「あなたはこんな顔をしてますよ」と鏡を見せるんじゃなくて、時間をかけて絵を描いてあげるやさしさがいいなと思ったし、多分、その方が効くんだろうなと。「あなたのことが大切なので描きました」というのは愛しているということだし、自己犠牲を止めるには「大事に思ってます」と伝えるのが一番適してる気がしますね。ジャケットの写真は鏡の花束なんですけど、最初は、人の顔の正面に違う人の顔を映したようなものにしたいなと思ったんです。
――歌詞に関しても、「ブレーキとなるような言葉であってほしい」という観点で考えましたか?
そうですね。何か難しい物事に直面した時、「自分一人が悪者になれば場が収まるならそれでいいや」「つらくても耐えるしかないんだ」というような考え方をする人って多いと思うんですけど、僕は「悪者になりたくない」という意識で血眼になってもう一つの解決策を探す方が、つらくて苦しいことだと思うんです。自己犠牲に逃げず、向き合ったり考え続けたりする苦痛を選べる人の方がすごいし、悪者になりたくない悪者の方が僕は好き。投げ出さないでほしいという気持ちは全部の曲にずっとありますね。
――カップリング曲の「年始のTwilight」は秋山さんの人間性がそのまま出ているような曲ですね。
年末にTwitterでたまにラップを上げているんですけど、この曲は2020年か2021年の年末に書いた曲で。(コロナ禍による)社会的な制限は僕の創作には意外と関係ないし、楽しくやってるよというスタンスやユーモアが結構表れてると思います。
――シングルとしてのバランスもいいなと思いました。
僕は選択科目の時間にモンハンをしていたような人間だったし、就職もしなかったけど、“高校を卒業して、大学に行って……”という道を選ぶこともできたのに、「僕には音楽しかない」ということにしたかったから、「勉強なんかてんでダメだ!」と教養を拒否したというよくないバックボーンがあるんです。だからこそ1stアルバムに『From DROPOUT』というタイトルをつけて、「俺は今後“音楽は神秘的なもので、全てを救ってくれて……”といった意識は持たない」「真面目に取り組んできた人に対して偉そうなことは言わないぞ」という呪いを一身に背負っていこうという意味を持たせたんですけど、「こういう星の下に生まれてきたから」という嘘をついて音楽人になった以上、音楽では二度と嘘はつかないと決めていて。「SKETCH」のように音楽に意義を持たせるような曲を作ったあとには、辻褄を合わせるために、「年始のTwilight」のようにヘンテコな曲が必ず必要ですね。