2月8日にTHE ORAL CIGARETTESがリリースしたデジタルシングル「Enchant」。山中拓也曰く、「ENEMY feat.Kamui」、「BUG」に続く3連作的立ち位置であり、疾走感溢れるドラムンベースの曲調が強烈なインパクトを放つ楽曲だ。2月20日からは2MAN VS TOUR「MORAL PANIC」も敢行、4月26日には2022年、2019年に開催した『PARASITE DEJAVU』の映像作品もリリースする。そんなオーラルに本楽曲について話を聞く。
L to R_あきらかにあきら、山中拓也、鈴木重伸、中西雅哉
遊びの感覚でライブを楽しむ そのために良い曲が必要
ー「Enchant」はもちろん、前作「BUG」にしても、これまでにない音像に仕上がっていますよね。バンドの新たな表現を探究しているように感じるのですが、いかがですか?
山中拓也(以下、山中) 「今はとにかく良いものを作るってことだけを考えて制作していますね。音楽としてのカッコよさだけに集中して楽曲作りをしているテンションが「ENEMY feat.Kamui」辺りからずっと続いています」
ーそういった考え方の変化はコロナ禍以降の時代感からくるものですか?
山中: 「そうですね。2年間くらい今後のライブハウスシーンや自分たちの音楽について考える時間があって、昨年はそこで出た答えを体現した1年でもあったんですよ。フィーチャリング楽曲を増やしたりして仲間たちと一緒に作っていくとか。それと同時に、より研ぎ澄ました楽曲を出していきたい気持ちになったし、もっと夜遊びするような感覚でライブ出来たらいいなって感覚に変わっていったんですよ。そのためには自分たちが気持ち良くなる音を作らなくちゃいけないからめっちゃ頑張るという思考のループですね」
ー最近のムードについて、どう感じられていますか?
あきらかにあきら:(以下、あきら) 「音楽への接し方が1周して、再び遊びの延長として捉えられるようになったというか。意気込むことなくステージへ私服で向かってやっているし、裏表が本当になくなってきました。そういう意味では気が楽ですね。やらなあかん、ではなくて純粋な曲作りの面白さやアレンジすることの喜びみたいなものを「Enchant」に投影できたとも思うので、良い曲をありがとうって感じです」
鈴木重伸(以下、鈴木) 「昨年の頭に回ったホールツアー(Hall Tour 2022『SUCK MY WORLD』)がすごく楽しかったんですよ。その感覚きっかけでライブを楽しむモードになっている感覚です。「ENEMY feat.Kamui」も然りなんですけど、客演も迎えたりすることも新鮮で、そういった1つ1つの物事をちゃんと受け止めて楽しんでいる自分になれていると感じています。「Enchant」も一緒に作ってくれた辻村有記くんとの制作はとても勉強になりましたし、今も楽しんでいる感覚が続いています」
中西雅哉(以下、中西) 「みんなが言う通り、非常に良いムードですね。日常とライブがよりシームレスになってきて、どちらも素の自分でいれるし本来在るべき姿なんじゃないかと思っています。「Enchant」はたしかにオーラルの新たな表現でもありますけど、ファンには今までしっかりと僕らのメッセージを伝えてきたし、コンセプチュアルなライブを一緒に楽しんできた背景があるので、揺るぎないものがあるうえで、今一緒にライブで遊ぶ感覚にはなってきたし、その自由さを獲得した気がしています」
ー「Enchant」はドラムンベースなリズムが心地よく、どこか近未来感を感じました。
山中: 「最初はRPGのゲーム音楽を作るみたいなテンションだったんですよ。あと、「ENEMY feat.Kamui」を経て「BUG」を作って、もう1曲ドラムンベースを意識した楽曲を作りたいという思いもありました。そういう意味で昨年から続く3連作ですね。そこは完全に意識して作りました。それで、どこか疾走感があってチャリをこぎながら聴くと心地よいような楽曲にしたいというのを前提に、去年、一昨年とずっと一緒に曲を作ってきたトラックメイカーの辻村有記と話をしながら制作を進めていったんです」
ーイントロのリズムがかなりカオティックですが、あれは山中さんが考えたリフですか?
山中: 「いえ、あれは辻村有記ですね。俺は基本的に軸となるリズムしか伝えないんですけど、彼は変態なんで、こんなアレンジになっているんですよ。複雑にはなりましたけどカッコいいし曲にとってプラスだと思うので、こういうイントロになっています」
VIDEO
自分が本当に好きなものだけでいいという決意
ー各パート、どのようにデモ曲のアレンジを進めたんですか?
鈴木: 「今回は、あえてデモのままにしたパートも多いですね。イントロもそうです。アレンジした点としては、デモをよりバンドサウンド感のある広がりを持たせるようにしたのと疾走感が出るように工夫したところですね。いろんな人と制作する機会が増えて、昔よりギターの使う幅が増えた気がします」
あきら: 「ベースに関しても、原曲を大事にしつつ自分の美学をどう加えようかってことを考えていました。僕は歌とドラムのリズムをすごく尊重しているので、そこが映えるようなフレーズ作りをしていきましたね。同時にライブを想定しコーラスパートで弾くなら、どっちが楽しいかということを考えていきました」
中西: 「僕は逆にノータッチだったんですよ。楽曲のクオリティを主体に考えたときに打ち込みで作った音を採用した方が良いと考えて、今回はあえてアナログでのドラムレコーディングはやっていないんです。だから、ライブでどう「Enchant」を表現していくのかを考えると今から楽しみになりますね」
ーそういったアレンジもあって「Enchant」はジャンル感を超越した雰囲気を感じましたが、そこは意識しましたか?
山中: 「Dragon AshとかRIZEとか、彼らが表現していた日本のミクスチャーロックを自分たち流儀に時代感も踏まえたものをやりたいというのはありますね。当時もそうですけど、今の時代だからこそ作れるミクスチャーロックをやったら面白いと思って。だから、国内外問わずHIPHOPやハードコアやメタルなど、ジャンル問わず今の感覚のうえで鳴っている音を自分たちのロックに取り入れてオリジナリティのある音楽を作っていきたいと思いますね」
ー改めて「Enchant」というタイトルに込めた思いや意図を教えてください。
山中: 「訳すと魅了する・されるって意味になりますけど、このウィズコロナの時代の中で誰かを魅了するものって本当に人それぞれですし価値観も広がったと思うんです。数年前までは東京でイケているとされているものは知っておかなくちゃいけないという義務感があったように感じるんですよ。トレンドを押さえなくてはいけない空気があったし、それをSNSで共有しながら管理し合うような世界に窮屈さを感じていました。今もそういうところはあるかもしれないんですけど、多様性を認識した自分からしたら、そこに苛立ちを感じるし、自分の好きなものだけを人に強制せずに生きていきますっていう決意めいたものがあったので、それを曲に込めたかったんです」
ー2MAN VS TOUR『MORAL PANIC』についてですが、対バンのセレクトについて教えてもらえますか?
山中: 「完全に楽しいツアーにしたかっただけですね。好きな人だけを誘っていたんですけど気づいたら“ライブハウスで仲の良いメンツ”になっちゃって、何なら“ライブハウスシーンを動かせたらいいな”っていうツアーに変わっていったと感じています。参加してくれるバンドと共に面白い遊び場を作って、世間から見てもライブハウス動いているねって感覚を作り出していきたいですね。そしたらお客さんも俺らも前を向けるしシーンの活性化にも繋がっていくと思うので」
鈴木: 「友達しかいないから、各地居心地もいいでしょうしね」
あきら: 「想像するだけで楽しいですね。それに全国を対バンで巡るのも久々なのでコロナ禍でできなかったことができる喜びに浸りたいです」
山中: 「2マンだと打ち上げのときにわちゃわちゃするだけじゃなくて、たまに真面目で熱い話もしそうですね。そういう光景が少し見えています、このツアーは(笑)」