MUSIC 2023.04.19

Interview: SATOH アルバム『BORN IN ASIA』で表現した2023年式の新型ギターロック

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

PRPhotography_Masashi Ura[Portrait], TAICHI KAWATANI [Live] , Edit&Text_Ryo Tajima(DMRT)

3月15日に1stアルバム『BORN IN ASIA』をリリースし、各方面で話題のSATOH。LINNA FIGG(Vo)とkyazm(Gt, Manipulator)によるデュオである。このアルバムなんだが、2023年の日本らしいサウンドが詰め込まれていて、歌えるし踊れるし、切なかったりフレッシュだったりで非常に表情豊かな内容になっている。
曰く、SATOHが影響を受けてきたオルタナや日本のロックを軸に、トラップやハイパーポップ以降のダンス・ミュージック的なアプローチも取り入れた、新しいロックの形を提示したアルバムということだが、その通りのミクスチャーサウンドに仕上がっているというわけだ。本作を介してSATOHがどんなアーティストなのかを探る。

ようやく辿り着いた表現を形にできたアルバム『BORN IN ASIA』

ーEYESCREAMでは初めてのインタビューになりますので、まずは2人がどのように出会ってSATOHになったのかについて教えてください。

LINNA FIGG:出会った頃はお互いに別のバンドをやっていて対バン相手だったんですよ。最初は面識があるかないか程度の関係でした。大学生の頃、おれがメルボルンに留学している時期があったんですけどめちゃくちゃヒマで(笑)。それで『音楽をやりたい』ってことをSNSで発信したらkyazmが声をかけてくれたんです。それが始まりですね。

kyazm:対バンしたときは酔っていてあんまり覚えていないんですけど、後からLINNAがやっている音楽を聴いたらすごくカッコいいし一緒にやってみたいと思ったんです。それが3年前くらいで、最初はネット上で結成して最初の曲をデータでやり取りしながらリリースしていったんです。

ーでは、SATOHというユニット名の由来は? 佐藤さんなんですか?

LINNA FIGG:えーと、まず2人とも佐藤ではないんですよ。最初に名前を決める頃に観ていたアニメにサトウってキャラクターがいて、そこから取っているんです。その後、ちゃんと2人で活動していこうとなったときに名前を変えるかどうかって話はあったけど、SATOHってなんかアジア感が強いし、日本に生まれて、この国で考えながらやっていくことが大事なことだと思っているから、結局変えなかったんですよね。

ーSATOHの音楽は2021年リリースの初期作はHIPHOPの要素を色濃く感じられますが、1stアルバム『BORN IN ASIA』では、かなりロックやポップスの要素が強く感じられますね。どのように音楽性が変化していったんですか?

LINNA FIGG:本格的に活動していくか、となったのはおれが帰国してからで、そこから自分が本当にやりたい音楽を模索していった結果、ギターロックとか、ロックの文脈にある音楽をフロア(HIPHOPなどのクラブミュージック)っぽいサウンドでやっていこうという流れになっていったんです。それでアルバム『BORN IN ASIA』の世界観に繋がっていく感じですね。

kyazm:コロナ禍の最中で、けっこう長い時間をかけて2人でどういう音楽性がハマるかを模索していたんですよ。一気にギターロックへ傾倒したわけではなく、ギターの色が徐々に強くなっていったような感覚ですね。だからビートはトラップっぽい曲も初期は多いし。シングルとしてもリリースしているラブリーサマーちゃんとのコラボ曲「ON AIR」もその中の一つです。でもガッツリとロックやオルタナの要素を取り入れることになったのはは去年の終盤ですかね。きっかけになった曲は「TOKYO FOREVER」です。

ーなるほど。「RAINBOW」もロックな要素を色濃く感じますね。

kyazm:そうです、そうです。リリース順は逆なんですけど「TOKYO FOREVER」が出来た後に「RAINBOW」が出来て、それによって「TOKYO FOREVER」など他楽曲のアレンジも変えているんで、けっこうキーになった曲でもありますね。

ー例えば、アルバム4曲目「ゆらせJP」はポップス感も強く、同時にギターロックっぽさもありますね。ライブで盛り上がりそうです。この曲は「RAINBOW」以降に出来た曲ですか?

LINNA FIGG:はい、今年に入ってから出来た曲ですね。今はもう売っちゃったんですけど、日産のスカイラインって車を友人とシェアしていて、CDしか聴けない車だったんでブックオフで中古を買い込んでドライブしていたんですよね。そのときに聴いていたプロディジー(The Prodigy)の『The Fat of the Land』からインスパイアされた曲です。あの野生味ある生っぽい打ち込みの音色をSATOH流儀にやろうと思って作ったらああなったんですよ。

ー同時に『BORN IN ASIA』の後半では「hate bones」などメロディ重視のゆっくりとした楽曲も特徴的ですね。

kyazm:制作順序でいくと「hate bones」の原型は2年ほど前からあったんです。それを「RAINBOW」制作以降に、今のSATOHな感じでロックっぽくアレンジし直したんです。

街感や風景が感じられる音楽をやりたい

ーアルバム制作時によく聴いていた音楽や影響を与えている作品と言うと何が挙げられますか?

LINNA FIGG:ずっと聴いていたのはアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の『ソルファ』(2004年リリースの2ndアルバム)だったり、高校の頃に友達とコピバンをやっていたときに聴いていた音楽ですね。RADWIMPSとかエルレ(ELLEGARDEN)とか、自分の血肉になったルーツですし偉大な先人なので。あとは、最近仲良くしているNYのHarry TeardropやJames Ivyとか、多分同じような感覚で音楽をやっている現行のアーティストの作品を聴いていました。

kyazm:自分も同じようなのから影響受けてて、ギター的にはガレージロックも。例えば、ドクター・フィールグッド(Dr. Feelgood)とか、日本のアーティストだとミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)、ナンバガ(NUMBER GIRL)とか。

LINNA FIGG:ナンバガと言えば、ハヌマーンも聴いていましたね。ギターリフが好きで。あとはミスチルのアルバム『DISCOVERY』や『Q』とか、あの時代のミスチルをよく聴いていましたね。

ー2人に共通するルーツミュージックはありますか?

LINNA FIGG:レディオヘッド(Radiohead)ですね。アートワークも含めて影響を受けています。どこか街感があって風景を感じるような表現が大好きなんですよ。『OK Computer』とか。ああいう情景描写をアルバムに表現したくて『BORN IN ASIA』のジャケットを考えていったんですよ。

ーそこまでオルタナなどの音楽からインスパイアを受けてくるとバンド編成でレコーディングしてみたくはならないですか?

LINNA FIGG:それも一瞬考えたんですけど、ここでおれらがベーシストとドラマーを入れてやるっていうのは無理をしている感覚があるなって。それに、PCで作るミュージックってところには、ちゃんとこだわっていたんです。

kyazm:それに、いいとこ取りして全部入りの音楽をやりたいんですよね。バンドの良さとエレクトロの帯域の広さっていうか。それが今のオルタナになったんだと思っています。

ーそういう意味では、ここ数年を経ていよいよ日本にも馴染みつつあるハイパーポップがSATOHのやっている音楽だと思うのですが、いかがでしょう?

LINNA FIGG:ああ、それこそ方向性を模索している頃はSATOHはハイパーポップなのかなって思ってた時もありました。ただ、おれらが自分たちでハイパーポップを名乗るのは、現行でハイパーポップをやっているアーティストに対して失礼かなと思う。

ー失礼になるというのは、どういう意味ですか?

LINNA FIGG:自分の中でハイパーポップは、自分の肉体から堂々と離れて音楽を表現するものだと思っていて、そこがめっちゃ好きなんですけど、おれはそうじゃないって気付いた。むしろ自分が生まれ持ったものを全部背負ってやっていかなくちゃいけないと思って、音楽を作っているので、そう考えるとハイパーポップではないのかなって思います。音の特徴っていう意味では近しい部分はあるし、そう言われることもあるんですけど。

kyazm:うん、LINNAの言う通りですね。サウンドとしては同じようにギターを歪ませたりしているし近いものがあると思います。

何もないところからやって来た自分たちでシーンを作る

ー先日、4月8日にはSHIBUYA WWWでリリースライブ『BORN IN ASIA Release Live in Tokyo』を開催したわけですが、いかがでしたか?

kyazm:めっちゃよかったです。久々にバンドでギター弾いたんですけど、ライブがしやすくてビックリしちゃいました(笑)。今までやりにくかったってことに逆に気づいたライブでしたね。

LINNA FIGG:ギターを持ってステージで歌うなんて、高校生の頃に小さなライブハウスでコピーしていたKANA-BOON 『ないものねだり』以来だったんで、それが、1番大事なタイミングでやれてよかったです。

ーリリースパーティは4月23日にCIRCUS Osakaでも開催されますが、こちらも非常に楽しみですね。

kyazm:そうですね。やり慣れたステージではありますけどバンドでやるのは初なんでどうなるだろう? という感じです。でも、あのWWWの感覚でやればうまくいくんじゃないかなと。

LINNA FIGG:ゲストはLil Soft Tennisとwho28ですね。CIRCUSの雰囲気にも合うと思います。WWWではバンドをゲストに呼びたかったのでNo Busesに出てもらったんですが、そんな風にゲストのコンセプトも変えて呼びたいと思っているんです。

kyazm:あの2人はけっこうロックの要素をトラックに入れていると思うので、SATOHとの親和性も高いと思いますね。すごく楽しみにしています。

ー今後、SATOHが目指すのはどういう場所ですか?

LINNA FIGG:定期的にFLAGという自主企画イベントを開催しているんですけど、これはコロナ禍の中で、自分たちの居場所を作ろうと思って始めたもので。 日本て言語的にも音楽の辺境だし、だからって国内でローカルに独立した生態系みたいなのがあるかって言ったらそういうわけでもないと思う。特にSATOHみたいに色んな音楽をミックスしていると、その拠り所がない感じが強いんですよ。そんな島国の中で、同じくらいのタイミングで震災とコロナ禍を体験した世代が集まっているのがFLAGにある感覚だと思います。そんな日本という島国の、何もないところからやって来て、けど自分たちですごいことをやっているよってことを、みんなで証明することができたらいいなと考えています。

kyazm:そうだね。場所という意味だと新しく自分たちで作っちゃおうという感覚でいます。

LINNA FIGG:もともとある文脈に身を委ねて上がっていくタイプの音楽じゃないから、そもそも。ゼロからでもこんくらいのことはできるってことを証明していきたいです。9月にはFLAGを過去最大規模で開催する予定なので、楽しみにしてもらえたら嬉しいです。

INFORMATION

SATOH

https://www.instagram.com/s.a.t.o.h_/
https://twitter.com/SATOH_INFO
https://www.youtube.com/@FLAG21

BORN IN ASIA Release Party
2023年4月23日(日)
OPEN 18:00 / START 19:00
CIRCUS Osaka
GUEST ACT_Lil Soft Tennis / who28
eplus.jp/satoh-biarp/

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