MUSIC 2023.08.03

連載:In the “Inner Division” Vol.00 アルバム“Inner Division” についてShin Sakiuraに聞く15の質問

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Leo Iizuka, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

音楽プロデューサー、Shin Sakiuraが6月28日にリリースする4thアルバム『Inner Division』。前作の3rdアルバム『NOTE』から数えると、約3年ぶりのフルアルバムとなるわけだが、そこには今までと少し印象が変わったShin Sakiuraの楽曲が並んでいる。
この明らかな変化はいかにして起こったのか。今作の制作にあたって、どのような心情の変化があったのか。『Inner Division (=内部部門)』と名付けられた作品はどう出来ていったのか。参加アーティストとの対談も踏まえながら紐解いていく短期連載をスタートする。
初回は第0回めと銘打ち、どのような作品なのか15個の質問をぶつけて、Shin Sakiuraに解答してもらった。

Q1. 4thアルバム『Inner Division』の制作をどう進めたのか?

A. 具体的に制作を進めたのは、この半年程度。

「僕の場合、明確な制作期間を設けて、その間に作品を作るというやり方ではなく、生活の中で、思いついたことを日々、デモにしているんです。それが溜まった状態でチームとも相談して、リリース時期をざっくりと話し合いました。各楽曲を具体化する作業を始めたのは、それからのことでしたね。それこそ「Blue Bird (feat. Maika Loubté)」のトラックは2年前くらいにはできあがっていたんですけど、具体的なビジョンが見えなくなってアレンジを済ませて寝かせていたんです。そのように作り溜めていた楽曲もあります」

Q2. 4thアルバム『Inner Division』にはアルバムを通してソリッドな印象がある。その解釈は正しいのか、どうか。

A. ダンスミュージックなど、やりたいことをやった結果そう聴こえるのかも。

「4thアルバム制作へ向けて動き出したときにまず初めに思ったのは、ライブで、これまでと違ったアプローチができる楽曲がほしいということでした。前作『NOTE』(2020年リリース)までは、インスト楽曲に関してもギターが先行していて、メロウなテンションの楽曲が多かったんですが、かねてから、純粋に盛り上がったり体が動いてしまうような音楽だったり、多幸感で鳥肌が立つような、肉体的な音楽へのあこがれがかなりあったので、今作は打ち込みありきの楽曲や、楽曲にギターが必要ではないものを作りたかったんです。そもそも自分のルーツの中にはダンスミュージックが確実にあったし、結果的にダンスミュージックだったり、よりアッパーな音楽が多くなっているのかもしれません。僕にとってギターは象徴的なものですけど、自分としてはアレンジを作ったり、楽器同士の関係性のカッコよさを追究していくことが好きで音楽をやっているところがあるので、ギターは必要不可欠というわけでもないんです。むしろ、ギターを弾くということに縛られるより、曲を作るということの面白さに立ち返りたいという思いが前提にあったので、それが、アルバム全体にソリッドな印象が出てくることに繋がっているんだと思います」

Q3. アルバムの幕開け「Magic」の終盤に用意された展開に驚いた。これは、どんな考えから生まれたアイディアなのか。

A. デモの段階からライブで披露しフロアの反応を見てアレンジしていった。

「直接的に意識したわけではないですけど、そう聴いてもらえるのは嬉しいことです。今作に収録している楽曲はデモの段階でもライブでやっていて、フロアの反応を見ながらベースラインを変えたり、現場からのフィードバックをもとに研究しながら作った曲もあるんです。「Magic」はまさにそうで、他のダンスミュージック曲はそういう作り方をしています。曲の展開については、ビートスイッチ(1曲の中で複数のビートが出てくること)が好きで、一つ盛り込んでおきたかったんです。もともと、あのパートは、まったく別で作っていたループで、そこまでと違う世界観のアレンジを最後に持ってくることで、アルバム全体の幅広さを表現できたらいいなと考えました」

Q4. 楽曲「bud」や「Yourself」はShin Sakiura自らフルコーラスを担当。初の試みとなったが、今作で歌った理由は?

A. 感覚の変化に伴って歌ってもいいと考えられるようになった。

「歌うことへの憧れは昔からあったんですけど、うまくもないのに歌わない方がいいんじゃないかって考えが無意識のうちにあったんです。でも、別にいいよなって(笑)。日本には少なくても世界を見渡せば、音楽プロデューサーが自分で歌っている楽曲もたくさんあるし、そういうものやんなって感覚にだんだん変わってきたんです。今まで歌ってこなかった分、やってみたいことや言いたいことはたくさんあって、それを今作だけで全部やりきれたとは思っていないんですけど、最初にしてはなかなか頑張れたかなと(笑)。今まで、プロデューサーはインストモノをやるっていう、自分の中で制限を設けてたけど、いざチャレンジしてみたら脳のリミッターを解除するような感覚で、純粋な音楽の面白さにのめりこんで作っていました。知らない間に自分にはできないって言い聞かせてただけなんですよね。歌詞については、普段から自分の考えや頭の中にあることをスマホにメモしていて、それを歌詞に置き換えていったような感じです。自分が知りたいこと、理解したいけどできていないこと、受け入れられないこと、そういうのを言葉にしているような書き殴りのメモですね」

Q5. アルバム中盤の展開について。7曲め「Universe」から、続く8曲め「Yourself」、9曲め「からっぽ feat. さらさ」までが、今作におけるロックパートのように感じられた。

A. ギターから作った曲だからそう聴こえるのかも。

「ロックを意識した流れではないんですけど、この辺りはギターから曲を作っているので、そのように聴こえるのかもしれないですね。ダンスミュージック曲についてはベースやシンセで作っていっているので」

Q6. 「Universe」からアルバムが作品がリスタートするような印象があって心地よい。このアプローチはどういうものか? 曲順は意識したのか?

A. ああいう流れのアルバムが好きで今作で実現できた。曲順は本当に悩んだ。

「いいですよね、あの感じ。「Universe」から再びアルバムがスタートするような構成になるように意識しています。1回区切ってラストパートへいくっていう流れが個人的に好きで、今作ではそれができたかなと。でも、曲順に関しては本当に悩みましたね。マネージャーとエンジニアの3人グループLINEで、ああでもない、こうでないとやりとりを重ねて。あのときは聴きすぎてもうわからなくなっていましたけど、数日して聴いたらめっちゃいい曲順やなって思って。自分でも気に入っています」

Q7. 今後、対談していくフィーチャリングアーティストについて。プロジェクトありきで一緒に制作するのか、曲ありきでオファーするのか、というと?

A. どっちもあるけど、その人でなくては楽曲を成立させられなかった。

「いずれの場合もあります。でも、この曲を仕上げられるのは、あの人しかいないって思ったり、この人と一緒に音楽やりたいっていうのが先行している場合がほとんどです。それで、最初に相手と、どういうものを作ろうとしているのかを打ち合わせして、アレンジを送って、という流れでした。あえてダンスミュージックだとか、曲調の話はしませんでしたけど、リファレンスを渡して、自分が感じていることや精神面の話を共有したうえで、どう作品をまとめたいのかを話しながら一緒に作っていったので、言わずもがな、みんなわかってくれていたと思います」

Q8. タイトルの『Inner Division (=内部部門)』に込められた意図について。

A. 自分のしっかり向き合うことがテーマになったから。

「そもそもアルバムの最初の頃は自分と向き合う時間がかなりありました。前作との間が3年以上空いていたのもあって、ソロ作品を作るときのモードが分からなくなってて、そもそも何が作りたいかわからなかったし、自分のアルバムなんて誰が聴きたいんだろうとか。歌うことに興味があったとしても、そもそもうまく歌えるのかどうか、歌うことによって自分の見られ方が変わってしまうんじゃないかとか。そういったことをすごく気にしていた時期があったんですよね。失敗することにビビッていたし、逆に言えば自分自身に「失敗は許されない」って呪いをかけていた。そういう自己否定をひとつずつ、紐解いていくうちに、結局、自分がどうありたいか次第でしかないことに気づいて。歌いたければ歌えばいいし、やりたい音楽を作ればいいってことを今さら再認識したんです。だから、タイトルが『Inner Division』になったし。自分と向き合うことがテーマになった作品だと思いますね。社会的なメッセージもあるし、そのさらに根っこにあるものは自分の精神性と向き合うことになります」

Q9. そのようにして向き合って作品を作って、どう考え方が変わったのか。

A. 自分が人生を主体者であるということを客観視できるようになった。

「自分と向き合う時間の中で、どういう言い方が正しいのかわからないですけど、自分の人生の当事者であることを意識できるようになったんです。何が売れてるとか、ダサいと思われそうとか、こうしたほうが賢い、みたいな視点を捨てて、自分がどうしたいのか、社会にどうあってほしいのかとか、そういう目線で生きられるようになった。そこが大きな変化でしたね。先日、自分の初写真展をやったときの感覚に近しいものがありました。写真や歌など、新しい何かを学んでスキルを身に付けて自分を更新していく過程で、自分は何にでもなれるんだと実感できたんです」

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Q10. それは、自分のやりたいことに忠実であるべきだという感覚ということになるか? すっと変化することができたのか。

A. 自分の中にある違和感を整理して変わり続けることで、そういう感覚になれた。

「今作でいうと、ギターありきで作るのをやめたってことだったり、今までやってこなかった手法やジャンルにトライして、自分のやりたいことにしっかりフォーカスしたことが大きかった。今までと違う環境に身を置くのは怖かったりもするけど、何にでもなれるんだっていう感触があれば、その時々で自分が何を楽しいと感じるか、そこから自分はどうしたいのか、みたいな心の動き自体に集中できたし、自分に足りないと思うことはその都度学んでアップデートしていけばいいと知れた。そうなると風通しがよくて身軽なんですよね。失敗が怖くないから無理をしなくていいし頑張りたいことに向き合える。そういう新しいことが凝縮されたのが『Inner Division』だと思います」

Q11. 4thアルバムにして、自我が芽生えたという感覚に近いか?

A. そう。リアルな作品が作れて1人の音楽家としてすごく幸せ。

「そうですね。自分がメッセージを持つこと自体、自分の中で否定していたところがあったんです。その期間が本当に長かった。もちろん、自分の過去の作品を否定するつもりは毛頭ないんですけど、『NOTE』までは単純に音的な意味で、カッコいいと感じるものだけを作っていた感じなんですけど、自分の中での文脈ができたうえで感情と連動した曲になっているのは今作からやなと思っています。そのように、自分の精神的な部分をアルバムにできたのがすごくよかった。今作は自分の分身って感覚もあるので、ある意味、リリースするのがちょっと恥ずかしいです(笑)。みんなの感想とか聞きたくなさも若干あるんですけど、リアルなものを作れた実感があるので、いち音楽家としてすごく幸せなことだと思っています」

Q12. 今作のアートワークについて。セルフポートレートになるが、その意図は?

A. 自分についての作品だから自分が写っているアートワークが適している。

「景色や植物だとか、いくつか候補はあったんですけど、今作すごく自分の話をしているアルバムだと考えているので自分に関するジャケットがいいと思って。あと、ボヤけている写真っていいなと。ピントが合っていないからこそ、より真に迫っているような感じがするときがありますし、デザインとしても好きなので、あのカットを選びました。あの写真も偶然撮影できたんですけどね。最初はペットボトルだとか、何かを跨いで撮影しようと思って調整していたらピントが外れたのがあって、それがすごくいいと思ったんです」

Q13. 自らが見直した本作、変化を与えたきっかけはなんだったのか。

A. 写真を始めたこと。

「自分の中にもともと言いたいことがあったんですけど、やり方がわからなかったり、自分で自分のことを勝手にセーブして、ソロでインストを作っているビートメーカー・プロデューサーってこうだよねって固定概念がどこかにあったんでしょうけど、そこを打ち破ったのは写真を始めたことが大きかったです」

Q14. 写真を始めたことによる心境変化について。

A. 無意識のうちに縛っていた自分を解放することができた。

「今振り返ってみたら、ルールなんて全然ないし、そもそもアートには、こうでなくてはいけないってものはないんだから、自分が歌っても歌わなくてもいい。ギターを弾いてもよければ、何も弾かないでもいい。もしかしたらDJでもいい。それを無意識のうちに自分を縛って、必要とされるために何かのフォーマットに収めようとしていたんだと思うんですけど、そこから自分を解放できたのがすごくよかった」

Q.15 今後やっていくことや作る音楽に影響を与えるのでは。

A. 今後はソロ活動の場が何を感じているのか伝えていく場所になると思う。

「そのようにして変化した今、音楽を作るのがめっちゃ楽しいんですよ。アレンジもどんどん思い浮かぶし、音楽を作るのが1番向いていると思うんです。だから、今後はアーティストとしてどういうものをやりたいのか、現代に感じていることも踏まえて、どういうことを言っていくのか、ソロはそういうことをやっていく場所になっていきそうです」

Shin Sakiuraの4thアルバム『Inner Division』を巡る連載 第0回めはここまで。次回以降は今作に参加しているアーティストとの対談を掲載していくので、ご期待あれ!

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