INFORMATION
9月 PICK UP ARTIST
◼︎EYESCREAM プレイリスト
https://open.spotify.com/playlist/56PCABKQepvHJPVPQXPiGv?si=VJpolcaFS46vGoCbCZE_FQ
◼︎TENDRE
https://tendre-jpn.com/
https://www.instagram.com/tanaakin/
EYESCREAMでは、Spotify上にオリジナルのプレイリストを公開している。日々進化する音楽シーンの中から、EYESCREAM編集部が注目するアーティストの楽曲をピックアップし、リストに加えていくことで、その瞬間に響くサウンドをフィーチャーしていく試みだ。さらに、プレイリストに追加しているアーティストの中から数名にフォーカスし、音楽との向き合い方や現在地について掘り下げていくインタビュー企画も展開していく。リスナーとしてプレイリストを楽しむだけでなく、アーティストの言葉を通してその楽曲や背景をより深く味わってもらいたい。
今回Pick Upするのは、TENDRE。
Kroi、Ryohuをゲストに迎えた初の対バンツアーや、人見記念講堂でのワンマンライブを経て、キユーピーのCMナレーションやJ-WAVE「LINKSCAPE」の番組ナビゲーターを担当するなど多彩な活動を展開するTENDREが、3年ぶり5枚目となるニューアルバムを完成させた。先行配信された「HAPPY END」「RUNWAY」を含む全8曲を収録したセルフタイトルアルバム『TENDRE』は、河原太朗という一人の人物とTENDREというアーティストのペルソナが一致した、2025年の今だからこそ生まれた作品だ。
結婚と子供の誕生という人生の大きな変化を経て、一番ナチュラルな自分のまま、普遍的なテーマに向き合った今作。アルバム制作の舞台裏を30の質問形式で掘り下げていく。
-まず、今作『TENDRE』を聴いて感じたのは、ナチュラルな風通しの良さでエバーグリーンな作品を作り上げたという印象です。
TENDRE:本当にそうですね。これまでも奇を衒ってきたわけではないけど、気にしないといけないことって当然すごくあって。それをくぐり抜けて作ってきた大事なものもいっぱいあるんですが、そういったものを全部一回度外視して、一番ナチュラルな自分で向き合えたアルバムだと思います。ある種、自分にとってのクラシックを作り直すというか、そういう性格のアルバムを今回は作れたと思うし、それが作れたからこそ、この次にやってみたいことの兆しが見えてきた気もします。すごく作れてよかったなと思えるアルバムになりました。
-原点回帰っぽさもあるんだけど、今現在のリアルな普遍性をTENDREのポップミュージックとして描いていると思います。
TENDRE:まさに現在という感覚ですよね。TENDREとして長年活動してきた中で、今年12月で8年経つんですね。環境も変わっていく中で、自分がどうやってこの音楽という仕事と向き合っていくかを、あらためてマネージャーと話し合いながら、自分の佇まいというものをなんとなく模索してきました。そういう中で、活動を継続していくことの大変さみたいなものは、自分も周りも含めて、みんなでひしひしと感じている部分があって。
子供が生まれたという自分にとってすごくポジティブな環境の変化が今年はあったし、音楽を作る上でのエネルギーにめちゃくちゃなりました。同時に、とにかくもったいないままで終わらしちゃいけないという思いが、今年すごく強かったんです。
-もったいないで終わらしてはいけないというのは、どういうニュアンスですか?
TENDRE:結局、埃をかぶるまで置き去りにするものって、あると思うんです。音楽をずっと作っていても、形にしきれてないものだったり、ずっと言えずにいたことだったり。パフォーマンス優先で何か置いてきた部分が、もしかしたら自分的にあったかもしれなくて。そういう感覚があったのかもしれないですね。今作れるうちに作っておかないと、という。
-なるほど。
TENDRE:でも、大変ではありますよね。1枚に全てをつぎ込むというエネルギーの負荷もありますし。自分のプライベートにおいても、いろんなことが並走していく中で、そのパワーバランスだったり。でも、自分が真にやりたいことに対して、どれだけ突き詰められるかと向き合う毎日で。とにかく形にできてよかったな、と思います。今回は、本当に半径何メートルかわからないけど、自分の周りにあるものを採集して、音を封じ込めていくような制作でした。
-「LULLABY」を筆頭に、やはりお子さんへのまなざしみたいなものがものすごく感じられるんですけど、お子さんが生まれてまだ3ヶ月ですよね。お子さんが生まれてからの時間も濃厚にドキュメントしたんだなと想像します。
TENDRE:そうなんです。この3ヶ月の間で自分の中に生まれた感情や感覚を、すごくドキュメンタリータッチで描いている。もちろん、生まれる前に妄想していた部分もあるし、子どもへの感情や感覚が全曲に表れているわけではないけど、そことちょっと紐づくようなヒントを残してもいいかなと思いながら、曲を作っていたところもあって。最終的に最後のほうにできた曲に関しては、すごく直接的に描いてる。
そういうコントラストが生まれてくれば、それはそれで面白いのかなと思いながら作っていました。だからこそ、今作はリアルタイムで作ったという感覚がめちゃくちゃありました。間違いなく今年しか作れない、このタイミングを逃しちゃいけないという、自分の中で恥じらう暇もないという感覚がすごくありました。
-では、ここからは30の質問に移っていきます。
TENDRE:わかりました。よろしくお願いします。
Q1. 本作の制作期間は?
TENDRE:1年くらいですね。本当にすごく濃密な一年でした。
Q2. セルフタイトルにした理由は?
TENDRE:マネージャー陣と、今年の頭くらいに制作の話し合いをして。そこでふと出てきたアイディアがセルフタイトルだったんです。セルフタイトルをあらかじめ決めて作るとなると、どういう思いでアルバムを作ろうかなってすごく考えたんですけど。
最終的には河原太朗という人物とTENDREという人物が、なんとなく今年はひとつに合致していった感覚があったんです。来年になってまたそのモードが変わってもいいけど、今年はそういうタイミングで。TENDREというアーティストが言いたいことと、俺が言いたいことが、今年は合致していてもいいんだなと思ったから。そういう意味で、セルフタイトルにちゃんと着地できたというのはあるかもしれないですね。
Q3. 全8曲というバランスは、どういうビジョンの中で決まりましたか?
TENDRE:これまでのアルバムは全10曲が多かったんですけど、今回はあまり曲数に縛られることなく、でもEPというより、やっぱりアルバムというパッケージにしたいと思う気持ちがあって。そう考えていくと、意外とこの8曲というバランス感が、自分の中で好きだなと。コンパクトさはあるんだけど、ちゃんとストーリーを伝えるには、すごくちょうどいい尺だなと思います。
Q4. 曲順は、自分の中でどのようなイメージを浮かべながら決めました?
TENDRE:1日のストーリーという感じですね。わかりやすく、何かを始めて、始めた先にいろんなことに巻き込まれ、1回日常の幸せを思い出し、ちょっと己との戦いもあったり。で、1回ちょっと平和な曲を聴いて。で、夕方くらいになって、「自分ってしょうもない人間だな」と思ったり(笑)。で、その後に1回マインド的に「大丈夫かな? 大丈夫そうだな」という兆しが見えて。最後、夜にエモが爆発するみたいな流れではありますね。
Q5. このアルバムのテーマをワンワードで表すとしたら何でしょうか?
TENDRE:正しい言い方かわからないですけど、”ニュートラル”かな。いろんな感情の機微を歌ったり、「幸せとは?」とか、「永遠とは?」みたいなことを歌ってるんですけど、それを見守っている自分がいるなって思うんです。そうやって自分の日記を何気なく眺めてる感覚に近いのかなと思います。
Q6. 今作とこれまで作った作品群との一番の違いは?
TENDRE:やっぱり言葉ですね。言葉とメロかな。
Q7. 最初に生まれた曲は?
TENDRE:去年唯一リリースした「HAPPY END」という曲が最初でした。これは結婚を機に作った曲で。ニュアンス的に割とこう、自分の中で、”みんなの歌”を作りたいというイメージがありました。
Q8. 最後に完成した曲は?
TENDRE:「GRATEFUL」という1曲目ですね。アルバムの終着地点を自分で決められたのは、この曲ができたから。すごく普遍的なテーマを歌ってますけど、今こういう曲を作っておきたい、と思いました。
Q9. 作ったけど入れなかった曲はありますか?
TENDRE:インタールードで入れようかなと思った曲が本当はあったんですけど。この8曲というゴールが、制作過程の中で早めに見えたので入れなかったですね。
Q10. このアルバムで歌詞とメロディはどちらが先に生まれたものが多いですか?
TENDRE:歌詞を優先にしてきたかなと思います。歌詞がメロディによっておろそかにならないようにしたかったという思いがすごくあったので。なるべく歌詞から書くようにしてました。
Q11. 作詞作曲をする時間帯はいつが多かったですか?
TENDRE:やっぱり夜中が多かったですね。1回、朝から作業するという健康的なルーティーンを作ったりしてたんですけど、やっぱり追い込むことが必要だなと思う局面が、制作の後半は特に多かったんです。そうなると、徹夜になってしまうこともけっこうあって。7曲目に「AUBE」という曲があるんですけど、これは短い曲で、朝5時くらいに制作と向き合ったその様を全部封じ込めたような曲になってます。
Q12. 今作で最も挑戦したことは?
TENDRE:自分の作業部屋でどれだけ良いクオリティの音が録れるか。それを今回は突き詰めようと思いました。今の作業部屋はもう少ししたら手放すんですね。この部屋との思い出であり空気感をどれだけいい音にして、したためられるか。そういう意識がありました。
Q13. 最も難航した曲は?
TENDRE:「SOUL」ですね。これはTiMTというトラックメーカーと一緒に作った曲なんですけど。”魂”というと、そのアーティストによって、描き方だったり、その解像度がだいぶ違ってくる部分もあるし。結果的にエモーショナルな曲になったんですけど、歌詞の選び方とか、ストーリーテリングのバランスは一番悩みました。
Q14. 逆に、最もスルっと書けたような曲はありますか?
TENDRE:「情けない日々、私」という曲は1日でできました。曲を作る時にいろんな過程があるんですけど、自分の場合は、ビートを作ってそこにリリックを乗っけることがパターンとして多かったんですね。でも、この曲はそうじゃなくて、もう1回、そのちゃんとトラックとかを抜きに、とりあえず何かしら(歌を)書こうと思って。
その時に出てきたワードが「情けない日々、私」というワンフレーズで。そこから1日で歌詞をバーッと書いて、メロディを作ってという感じでしたね。曲作りって、自分の中の日常と誰かの中の日常、その狭間を見つける作業みたいなことだと思っていて。でも、この曲は日常と日常の狭間というより共通項を見つけるような感覚で臨んだら、すごく早く作れました。
Q15. 今現在の河原太朗にとって、アルバムの中で一番自分にフィットしている曲は何でしょうか?
TENDRE:それも、「情けない日々、私」ですね。大変じゃないですか、生きるのって。最近はそれをより一層感じていて。その感覚は幸せを感じるとともに、ずっと並走するものであるし。この曲は自分を落ち着かせるような投げかけというか、河原太朗に向けて話しかけてる感覚があるんです。
Q16. 今、この瞬間にパッと浮かぶ歌詞のフレーズは?
TENDRE:「情けない日々、私」の〈それでいい。〉ですね。
Q17. 制作において一番苦しかった瞬間は?
TENDRE:やっぱりリリックですね。歌詞を書いてる時の自分の辞書の薄さに、すごく打ちひしがれてしまったり。でも、結局言葉って本当に経験から生まれてくるもんだなってあらためて思いました。「この言葉で良かったんだろうか?」って苦しむ局面は、これからもあるんじゃないかなと思いますね。
Q18. 制作において一番楽しかった瞬間は?
TENDRE:「SOUL」という曲の音像を作っている時ですね。友人と軽井沢の星を見ながら「SOUL」の音像をイメージしたりしたんです。友人が「星がすごい綺麗だから、パートナーに電話するわ」って言って、その感じも良かったです。人の幸せを星空の下で見るっていいなと思って。
Q19. 今作を制作するにあたって一番影響を受けた出来事は何ですか?
TENDRE:そこは子供のことと言いたいですけど、それ以外にもやっぱり多々あって。対外的な人間関係というか、一緒に仕事をしていく人たちとのコミュニケーションだったり。そこで、自分がちょっと厳しいかもって思う場面もあったりして。活動に関して、「このままやってて楽しいのかな?」って思う日々もあったんです。
そういう時にマネージャーや仲間に相談したことはデカかった。もうすぐ活動8年目となると、やっぱり凝り固まる部分も正直に言ったら出てくると思うから。そこをちょっとずつほぐせたことは良かったです。
Q20. 制作中によく聴いていた音楽があれば教えてください。
TENDRE:完全にBon Iverですね。Bon Iverの新作『SABLE, fABLE』を聴いた時に安心感をめちゃくちゃ覚えたんですよね。励まされました。「あ、この人もこんなにストレートに曲を書いてるんだな」って。
Q21. 今現在、一番好きな楽器は何ですか?
TENDRE:今年はギターを新調することがあったりして、今はギターが上手くなりたいですね。ギター。TENDREでは鍵盤で曲を作ることが多かったんですよね。鍵盤を軸にハーモニーの再解釈だったり、制作の方法論を広げていきたいという思いもあったので。でも、今作はアコギだけの曲も作ったし、これまでと違う佇まいの自分をもうちょっと再発見していけたらいいなという思いがあるので、ギターです。
Q22. ミックスで一番こだわった点は?
TENDRE:ボーカルのポジショニングというか、佇まいというか。その曲の背景の中に自分がどういう佇まいでいるかは、なんとなくイメージしていつも作ってるんですけど。そこのキャラクターをうまく振り分けていくというか。ボーカルの佇まいを1曲1曲でトライしながら、ちょっとした差をつけていったのは、面白かったです。
Q23. 今作における一番の手応えは?
TENDRE:妻が泣いたことですかね。たまたま家で、ミックス確認でアルバムを聴いていた時に、妻がホロッと涙していたのを見て、それが自分の手応えにもなりました。
Q24. このアルバムが完成した瞬間の気持ちを教えてください。
TENDRE:めちゃくちゃ率直に言うと、「次、どうしようかな?」ですね。
Q25. このアルバムを完成した時に、最初に聴かせたいと思った人は?
TENDRE:家族ないし親族はもちろんそうですけど。でも、まずはコアなファンの人たちがどういう反応するかな?と思いましたね。
Q26. 今、TENDREとして一番大事にしてることは何でしょうか?
TENDRE:程よい距離感なのかなと思います。人がTENDREというものに対して接する時に、どういう風に触れてもらえたら一番いいかなと思う時に、それこそ親戚みたいな感じの距離感で聴いてもらえたらいいなと思っていて。
近年、”消費”というワードがいろんな場所で際立ってきている中で、その人が何年後に聴き返した時にすごく大事だと思える感覚があればいいなって。「お互い、いい距離感で音楽と一緒に遊べたらいいよね」という感覚を大事にしたいなと思ってます。
Q27. 一貫してTENDREとして変わってないことは何だと思いますか?
TENDRE:話す時のテンションかな(笑)。
Q28. 変化したいと思ってることってありますか?
TENDRE:来年の展望にもつながりますけど、開き直りたいですね。今年はすごくエモーショナルに音楽と向き合えたからこそ、来年は「よくこんなん作ったな!」と言われるくらいの問題作を作りたい(笑)。それくらい開き直ったことをちょっとやってみたいですね。
Q29. マルチプレイヤーであることをさらに極めたいと思いますか?
TENDRE:極めたいとは当然思いますけど、それを押し売りたくはないなと。それは自分のライフワークでしかないんです。毎日楽器を練習することは日常でもあるし。今はもっとシンガーソングライターとしていられたらいいかなというのは、来年以降の展望としてもなんとなく思ってはいますね。マルチプレイヤーであることはあくまで手法なので。
Q30. 最後の質問です。今思い描く10年後のTENDRE像を教えてください。
TENDRE:これはたしかマツコ・デラックスさんが言ってたんですけど、「結局、人が一番幸せになるのって80歳くらいなんだよね」みたいな。それって、いろんなことが許容できてくるからだと思うんですよね。今、30代後半ですけど、年齢的にある種、一番いろいろこだわってる時期でもあるのかなという気がしていて。それが周りの変化だったり、自分自身もいろんな可能性が見えてくると、さっき言った開き直りみたいな部分も見えてくるかもしれないし。時の中に身を任せるのではなくて、その都度、自分が興味を持ったことに対してちゃんと向き合えていれば、新しい面白さや楽しさにたどり着くと思うので。この8年でTENDREが作ってきたものは、8年前の自分では計り知れないものがすごくたくさんあったから。一つひとつ、それを上回るものをやっぱり見つけていきたいなって思います。
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