BEAMS × スペシャの共同プログラム「PLAN B」Highlight : Season 8 from EYESCREAM No.174

BEAMSスペースシャワーTVによる映像プログラム「PLAN B」。現在発売中のEYESCREAM No.174では、昨年10月からの総集編として、EPISTROPHより荒田洸(WONK)Pitch Odd Mansion國枝真太郎による対談、東郷清丸のインタビューに加え、CHAIが欧州5カ国を跨いだ海外ツアー「CHAI ENGLAND TOUR」のレポートを掲載中だ。スペシャルダイジェストとして、WEBでもその一部をお届けしよう。

EPISTROPH × Shintaro Kunieda
“あえて「普通の絵」の重要性を表現した”

ー荒田さんと國枝さんの出会いを教えてください。

國枝真太郎(以下、國枝):solfaとかで遊んでる時とかじゃない?

荒田洸(以下、荒田):当時はみんなイベントを打ちまくってたからね。林さんの〈ALL GREEN LABEL〉っていうHIPHOPのレーベルは毎週のようにパーティやってたし、〈Pitch Odd Mansion〉(※國枝が主宰するクリエイター集団)もよくやってたでしょ。

國枝:僕の場合、遊びの中で出会って、一緒に何かしようっていう展開になることが多いしね。荒田はいつもいきなりオファーしてくるんですよ。突然「いけます?」って(笑)。

ー今回はなぜ國枝監督に頼もうと思ったのですか?

荒田:EPISTROPHと聞くとWONKのレーベルというイメージが強いと思うんですけど、それだけじゃない。今回はWONKだけじゃないという側面、所属するメンバーのことをしっかりと伝えたくて、それなら國枝監督しかいないなと。國枝さんは人を撮る天才なんで。

ー映像内では、EPISTROPHのメンバーでのコラボ楽曲を聴くことができますね。どんなプロセスで制作したのですか?

國枝:そんなに広まってないけど、ものすごい豪華だよね。

荒田:本当に(笑)。関西のビートメーカーのdhrma、Phennel Koliander、Ballheadで作ってもらった曲が2話目に、東京勢のWONK、MELRAW、kiki vivi lily、Sweet Williamで作った曲が4話目にかかっています。手順としては、まず文武(WONK/Key)が作ったピアノの素材をウィル君(Sweet William)に料理してもらって、1つのビートを作ります。そこにWONK、MELRAWが演奏して構成や展開を変えて基礎が完成する。さらにその音に長塚(WONK/Vo)とkiki vivi lilyがボーカルを乗せて、最後にもう一度ウィル君に送って仕上げてもらう、っていう手はずだったんですが、これがめちゃくちゃ大変で…。

國枝:ハンパなくカツカツだったよね。

荒田:ディレクターやプロデューサーってポジションは大切ですね。今回の件でよく分かりました。それまでは彼らが何をしているかあまり分かっていなかったけど、彼らが全員の特徴、強みや弱みを把握して前に進めていかないと何も回らないんだなって痛感しました。

ー國枝さんは、映像を作る上でどんなことを意識しましたか?

國枝:PLAN Bで発表されている他の作品と差別化するために、しっかりとした画で撮りました。表現の面白さを求められるプロジェクトの中で、あえて「普通の絵」の重要性を表現しようと。映像として尖った部分はないけど、なめらかな流れを際立たせようとしたんです。極端な表現をしなくても、それはそれでいいんだと伝えたかった。

荒田:そもそも真ちゃんだからこそ、みんな素が見せられたしね。WONKにしても、あんなふざけて撮ったことないです。

國枝:僕にとって映像は、誰かの作品の手助け。その人の好き嫌いを理解して、出来るだけ寄り添うことが大事だと思っています。特にコラボレーションの場合はアーティスト間の関係性や、彼らがやりたいこと、やりたくないことがある。ただ寄り添う中でも大事なのは、相手の意向を踏まえつつも、自分のやりたいことをやること。折衷案にするという意味ではなく。

ー普段の遊びから生まれた仕事の関係性だから、寄り添う力が鍛えられているのかもしれませんね。最後に2020年にやりたいことを教えてください。

國枝:表現についてもっと自由により自分と対峙仕立て行きたい。いろんな選択肢として音楽や映像とか色々な道があるけどそうゆう細々とした道のもっと根の部分の表現っていうのにとりあえず今年は向き合って行きたいなっと。

荒田:個人的には、今後も服やイベントを通してEPISTROPHを押し出していくプロジェクトをもっとやっていきたいです。特にイベントは「EPISTROPHのイベントだけどWONKは出ない」って形をやってみたいかな。

next》11月:東郷清丸 × kauai hirótomo

東郷清丸 × kauai hirótomo
自分自身を再び発見する

ーkauai hirótomoとコラボレーションすることになった経緯は?

東郷清丸(以下、東郷):当時の僕のドラムで、アルバム「2兆円」のミックス・マスタリングをしてくれていたあだち麗三郎さんの紹介がきっかけで知り合いました。kauai君はあだちさんのバンドでビブラフォンを演奏していて「打楽器も叩けて音楽のセンスがいい」って聞いていて。後日、kauaiくんのツイッターでおもしろいドラムの叩き方をしてる動画を見て、フィーリングが合うんじゃないかと思ったんです。

kauai hirótomo(以下、kauai):僕は会う前から東郷さんの大ファンでずっと聴いていました。実はあの動画も、東郷さんが好きそうな感じを想像して撮ったんです。見てくれているかもしれないって。

ー今回は二人での楽曲制作が主軸でした。今回PLAN Bの企画で何をしようと思いましたか?

東郷:僕の曲作りは新しい演奏方法を試すことから始まることが多いのですが、その頃はギターを普通にギターとして弾く以外の方法で面白く使えないか、というアイデアをずっと温めていて。ツアーの中でkauaiくんと2人編成でのライブをしていたから、彼と一緒に楽器への新しいアプローチで曲を作るのが面白いんじゃないかな、と思ったのが最初です。

ーその制作のために、山梨での2泊3日の制作合宿を行いました。合宿でどんなふうに制作したのか教えてください。

kauai:ドラムセットを組むのに、1日目のほとんどの時間を費やしました(笑)。ドラムに張る皮やパーツをひとつずつ試して、一番合うものや一番いいチューニングを探しました。ドラムを組み直して次の時代の音を出したいとはずっと考えていたんです。こんなに自由にやれたのは清丸さんだからこそですね。

東郷:僕はアンプを設定したり、シンセサイザーで音を探したりしていました。途中、互いがイメージする音のリファレンスをかけたりしながら、ドラムセットが組み上がったのが22時くらい。そこから音を出しながら、彼のビートにあわせてギターを弾いたり。そんな感じでしたね。

ー1日目の終わりに焦りはありましたか?

東郷:ありましたけど、焦ってもしょうがないという気持ちもありました。僕のSoundCloudに普段からあげてる1分〜2分弱程度の曲は数時間で作っているし、心配だけど大丈夫だろうという気持ちだったかな。

kauai:曲の原型はいつできたっけ?

東郷:2日目にセッションしていく中で偶然見つけていったんだと思う。kauaiくんが叩いた4つ打ちに僕がベースラインをのせたらカッコよくて、そこに少し和音の進行をつけて、歌のメロディーを重ねてみたら、いけそうだなって。その後2人で構成を探ったんだよね。

ー「新文明」や「再構築」など、本編中には既存の概念に対して刷新を図るようなイメージを持つ言葉が頻出していました。

東郷:今振り返ると(合宿を実施した10月から取材日の12月半ばまでの)約2ヶ月の間にもいろいろな事があって、あの時僕が本当に思ってたことなのかは分かりません。恐らく、kauaiくんがドラムセットを組んでる時に言っていたことに同調したんじゃないかな。ただ、本当に自分が欲していることをもっと発見したいなとは思っています。kauaiくんのドラムの再構築が僕にすごく面白く映るのは、彼が「普通に」そうしているから。奇をてらっているのではなく、普通にやったらこうなった、っていうのが面白い。僕も自分自身の中のそういう部分を再発見したい、自分の声に気づきたい時間だったんだと思います。

kauai:僕はいろんな年代、ジャンルの音楽を聴くのが好きなんです。各年代にそれぞれの良さがあって、今自分が作る側なら、今しかできない作品を作りたい。全く新しいものを作りあげるというより、辿ってきた歴史の中から組み替えて、普遍的な音楽の魅力はそのままに再構築していきたいという気持ちです。今はいろんな時代にアクセスできるのがおもしろいから、(時代やジャンルを)飛び越えようっていう意識を持っています。

ー今回、制作のためにかなり古いバスドラムを購入し使用したそうですが、これもそういった意識の現れでしょうか。

kauai:1920年代の大きなバスドラムですね。確かに、一番象徴的かもしれない。本革が貼ってあって、音が野蛮で、情報量がなぜかとても多いんです。

東郷:可聴域の外にある音は人の耳には聴こえないけど、確かに振動していて、波がある。kauaiくんはそこに思いを馳せていて、このバスドラムにはそういった言い知れない魅力があります。kauaiくんは対極のものを共存させるのがすごく上手いよね。

kauai:個人的に、野蛮な音と、シンセのような洗練された音を組み合わせ試せた時の質感が好きですね。これからの時代はテクスチャー、手触り・肌触りがすごく大事だから、今はそういう音作りを目指しています。

東郷:僕は最新アルバムの「Q曲」が自分にとっての集大成になったから、また新しいことをイチから、より手応えが掴める形で突き詰めていきたいと思っています。基本は「音楽って面白い!」を体感できてれば幸せで、そこに基づいて歩みを進めることを徹底したい。出会う人たちみんなが人生を全うしてるから、勇気をもらっています。「よーし、俺も!」っていう感じで思ってるところです。

next》12月:CHAI × Hideto Hotta

CHAI × Hideto Hotta
CHAI ENGLAND TOUR

昨年10月より、マンチェスター、グラスゴー、ロンドン、ブライトンと、イギリスの主要都市をめぐる6日間のツアーを敢行したCHAI。その模様を、ツアーに帯同したPLAN Bディレクター・奥村健太郎が彼女らへの想いとともに綴っている。こちらではレポートの一部をお伝えさせていただく。

 イーストロンドンにある、鉄道用の石炭の貯蔵倉庫をリノベーションしたライブハウス〈ヴィレッジ・アンダーグラウンド〉は、異様な熱気に満ちていた。集まった約500人のオーディエンスが待ち望むは、日本から来たあるバンドだ。
 「One More CHAI! One More CHAI!」止まないアンコールの中、鮮やかなピンクのユニフォームで揃えた4人がステージへ再び姿を現した。

 「テンキューフォーカミングトゥナイト!」ドラムのユナが単語ごとにわずかな間を空けて伝えると、一際大きな歓声が響く。アンコールは「sayonara complex」。自身を悩ませたコンプレックスへの感謝を歌う、現時点でのCHAIの代表曲だ。ほとんどが日本語の歌詞のこの曲に込められた意味が伝わっているか定かではないが、日本から遠く離れたロンドンの地で、彼女たちの歌は今、たしかに観客を揺らしている─。

 双子のマナとカナ、リズム隊のユウキとユナからなるバンド・CHAIを知ったのは、2017年に彼女たちが企画したイベント「ロード・ツー・ダ・GRAMMYs” season2 in TOKYO」の頃だった。それからたった2年半の間に、CHAIは実に9回もの海外ツアーを敢行。下北沢で誓ったグラミー賞という名の山頂へ着実に歩を進めていた。

幸運なことに、僕はこのPLAN Bをきっかけにマンチェスター、グラスゴー、ロンドン、ブライトンと、イギリスの主要都市をめぐる6日間のツアーに帯同する機会を得た。

 ただでさえ過密な日程の中で、海外ならではのトラブルに見舞われることも少なくなかった。マンチェスターではユナが日本から持ち込んだドラムの機材の一部がトランジットした空港でロストしたし(のちに無事発見)、グラスゴーではユウキの体調不良により結成以来初の3人体制でのライブを行った。体力と気力はもとより、柔軟性や適応能力が求められる瞬間が何度もあった。いくつもの壁を乗り越える姿を見るうち、僕は4人にある不思議で強い結びつきを感じるようになっていた。

 「かわいいって言葉に縛られて生きてきた。かわいいって言葉が怖かった。自分の“かわいい”を見つけられずにいた。」 ー カナ (Vo.&Gt.)

本ドキュメンタリーのインタビューより

外見への劣等感や、自分の見た目が世の中の「基準」から外れているのではという疑心。それらを心の深い部分で共有し、「音楽をやるならそれが武器になる」と視点を180度転換できたことが、4人の出発点となったのだと。だからCHAIの音楽の根底には「あなたもわたしも、そのままが一番美しい」という、人を人としてそのまま肯定しようという信念が流れている。ありとあゆる固定観念に、CHAIはその音楽を通して「いや、だからこそ」と語りかける。

 曲が終盤に差し掛かり、我に返る。僕は国や言語を越えて感覚を共有できるという、音楽が本来的に持つロマンに触れて素朴に感動しているだけではなかった。世界には見える、見えないに関わらず無数の隔たりが横たわっていて、寛容であることはかつてないほどに難しい。そんな今だからこそ、しなやかに進むCHAIの挑戦は急速に支持を集めているのではないか。だとすれば、彼女たちが山頂に到達するとき、それは単なる受賞以上の意味をもたらしてくれるにちがいない。

BEAMS × スペシャの共同プログラム「PLAN B」Highlight : Season 7 from EYESCREAM No.172

INFORMATION

PLAN B

放送局:スペースシャワーTV
放送日時:毎週木曜日21時57分~22時00分(リピート放送あり)
毎月1アーティストをピックアップし、全4回放送
BEAMSのウェブサイトでは各回オンエア終了後に過去の放送番組の視聴が可能。
www.beams.co.jp/special/plan_b/
@planb_mag