BEAMS × スペシャの共同プログラム「PLAN B」Highlight : Season 8
from EYESCREAM No.174

Photography— Cho Ongo [EPISTROPH], Shinsaku Yasujima [EPISTROPH],Seiichi Kimura [東郷清丸], Kentaro Okumura [CHAI]
text—Kentaro Okumura

BEAMS × スペシャの共同プログラム「PLAN B」Highlight : Season 8
from EYESCREAM No.174

Photography— Cho Ongo [EPISTROPH], Shinsaku Yasujima [EPISTROPH],Seiichi Kimura [東郷清丸], Kentaro Okumura [CHAI]
text—Kentaro Okumura

CHAI × Hideto Hotta
CHAI ENGLAND TOUR

昨年10月より、マンチェスター、グラスゴー、ロンドン、ブライトンと、イギリスの主要都市をめぐる6日間のツアーを敢行したCHAI。その模様を、ツアーに帯同したPLAN Bディレクター・奥村健太郎が彼女らへの想いとともに綴っている。こちらではレポートの一部をお伝えさせていただく。

 イーストロンドンにある、鉄道用の石炭の貯蔵倉庫をリノベーションしたライブハウス〈ヴィレッジ・アンダーグラウンド〉は、異様な熱気に満ちていた。集まった約500人のオーディエンスが待ち望むは、日本から来たあるバンドだ。
 「One More CHAI! One More CHAI!」止まないアンコールの中、鮮やかなピンクのユニフォームで揃えた4人がステージへ再び姿を現した。

 「テンキューフォーカミングトゥナイト!」ドラムのユナが単語ごとにわずかな間を空けて伝えると、一際大きな歓声が響く。アンコールは「sayonara complex」。自身を悩ませたコンプレックスへの感謝を歌う、現時点でのCHAIの代表曲だ。ほとんどが日本語の歌詞のこの曲に込められた意味が伝わっているか定かではないが、日本から遠く離れたロンドンの地で、彼女たちの歌は今、たしかに観客を揺らしている─。

 双子のマナとカナ、リズム隊のユウキとユナからなるバンド・CHAIを知ったのは、2017年に彼女たちが企画したイベント「ロード・ツー・ダ・GRAMMYs” season2 in TOKYO」の頃だった。それからたった2年半の間に、CHAIは実に9回もの海外ツアーを敢行。下北沢で誓ったグラミー賞という名の山頂へ着実に歩を進めていた。

幸運なことに、僕はこのPLAN Bをきっかけにマンチェスター、グラスゴー、ロンドン、ブライトンと、イギリスの主要都市をめぐる6日間のツアーに帯同する機会を得た。

 ただでさえ過密な日程の中で、海外ならではのトラブルに見舞われることも少なくなかった。マンチェスターではユナが日本から持ち込んだドラムの機材の一部がトランジットした空港でロストしたし(のちに無事発見)、グラスゴーではユウキの体調不良により結成以来初の3人体制でのライブを行った。体力と気力はもとより、柔軟性や適応能力が求められる瞬間が何度もあった。いくつもの壁を乗り越える姿を見るうち、僕は4人にある不思議で強い結びつきを感じるようになっていた。

 「かわいいって言葉に縛られて生きてきた。かわいいって言葉が怖かった。自分の“かわいい”を見つけられずにいた。」 ー カナ (Vo.&Gt.)

本ドキュメンタリーのインタビューより

外見への劣等感や、自分の見た目が世の中の「基準」から外れているのではという疑心。それらを心の深い部分で共有し、「音楽をやるならそれが武器になる」と視点を180度転換できたことが、4人の出発点となったのだと。だからCHAIの音楽の根底には「あなたもわたしも、そのままが一番美しい」という、人を人としてそのまま肯定しようという信念が流れている。ありとあゆる固定観念に、CHAIはその音楽を通して「いや、だからこそ」と語りかける。

 曲が終盤に差し掛かり、我に返る。僕は国や言語を越えて感覚を共有できるという、音楽が本来的に持つロマンに触れて素朴に感動しているだけではなかった。世界には見える、見えないに関わらず無数の隔たりが横たわっていて、寛容であることはかつてないほどに難しい。そんな今だからこそ、しなやかに進むCHAIの挑戦は急速に支持を集めているのではないか。だとすれば、彼女たちが山頂に到達するとき、それは単なる受賞以上の意味をもたらしてくれるにちがいない。

BEAMS × スペシャの共同プログラム「PLAN B」Highlight : Season 7 from EYESCREAM No.172

INFORMATION

PLAN B

放送局:スペースシャワーTV
放送日時:毎週木曜日21時57分~22時00分(リピート放送あり)
毎月1アーティストをピックアップし、全4回放送
BEAMSのウェブサイトでは各回オンエア終了後に過去の放送番組の視聴が可能。
www.beams.co.jp/special/plan_b/
@planb_mag

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