MUSIC 2021.05.15

“2020年代TOKYO”を示すラッパー kZmの現在地について新作2曲を踏まえて探究

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

2020年を経て、現代東京を象徴するラッパーとして広く支持を集めているkZm。Atlantic Japanから4月9日に「Aquarius Heaven」を。4月30日には「叫悲(さけび)」をデジタルリリースした。本記事では、この2作についてのインタビューを踏まえ、これまでの活動経緯を振り返りながら、kZmとはどんなラッパーなのかを改めて考えてみたいと思う。

Photograph – udai & bobby

kZm、生まれも育ちも渋谷。3年ほど前までは”次世代を担うラッパー”と評されることもあったが、今となっては2020年代を象徴するHIPHOPアーティストの1人。音楽やファッションを含む様々なシーンで大きな支持を得ている。
HIPHOPという括りで考えれば、BIMやVaVa、クルーメイトであるAwichとの共作や作品への客演参加もありつつ、5lackにTohji、LEXらなど、世代を超えた幅広い繋がりを持つ。特に2020年4月リリースの2ndアルバム『DISTORTION』にはRADWIMPSの野田洋次郎や小袋成彬が参加したことでもシーンの話題を大いにさらった。この面々に関しては「それこそRADWIMPSや5lack、宇多田ヒカルだとか。彼らの音楽はオレのDNAにがっちり刻まれていると思います。自分の音楽を聴いた周りの人に言われることもあるし、意外と出ちゃってる部分もあるでしょうね。まんまじゃないにしろ」とkZm。
同作品はApple Musicアルバム総合ランキング1位を獲得。この明確な結果が、一気にリスナーの幅を広げることにも繋がった。

振り返れば、1stソロアルバム『DIMENSION』をリリースしたのが2018年3月のこと。当時のkZmはYENTOWNに所属するラッパーということが冠にあり、その具体的なクリエイションや表現については謎に包まれていたように記憶している。
kZm自身はYENTOWN加入以前から東京をベースとするkiLLa crewのリーダーとして活動していたこともあり、HIPHOPとバスケカルチャーを軸にしたストリートのユースというイメージがあった。kiLLaに関しては、すでに脱退しているが、2015年頃は同クルーのメンバーとしてストリートカルチャー誌にも頻繁に登場する人物であり、ストリートファッションを好む新時代の東京を体現する1人としてクラブシーンの中心で活躍してきた。そもそも、kiLLa crewの成り立ちも、高校生だったkZmらがkiLLaというブランドを仲間内で作り、そのビジュアルを制作するところからスタートしていたこともあって、音楽的な要素に加えてストリートクルーならではの自由で斬新な表現が、同じくストリートにいる上の世代に受け入れられていた。もちろん、同世代からの支持を根底に置きながら。

kiLLa crewにあっては、kZmはディレクター然としたポジションにいて、他メンバーが際立つような立ち位置を好み、一歩後ろで構えていたように見受けられる。
そのような活動を経てkiLLa crewを脱退以降、YENTOWNに加入して以来はソロとして精力的に作品をリリース。特に「WANGAN」のMVには今のkZmへ直接的に繋がるYouthQuakeの面々らが登場しており、kZmのソロアーティストとして矜持を感じさせるメッセージが強く感じられる。kZmを取り巻く面々との繋がりという意味で言えば、アルバム『DIMENSION』、『DISTORTION』の1曲目はどちらもイントロだが、ここに登場するBobbyはYouthQuakeの一員。このような表現からも、kZmの人となりが見えてくる。

こうしたkZmが持つファッション性や根底にあるストリートカルチャー感はグラフィックアーティスト、VERDYとの繋がりを見ても窺い知ることができる。
2019年12月には、kZmを擁する謎のレーベルDe-voidにて共にポップアップショップを開催。「But She Cries」のグラフィックをVERDYが手掛けている。本楽曲と「GYAKUSOU」はWasted Youthのスケートクルーを収めたムービーにも使用された。

このタッグはクリエイティブ集団 PARTYとコラボし、2020年7月31日~8月2日の3日間に渡って開催された「VIRTUAL DISTORTION」でも実現したわけだが、本ヴァーチャルライブに関しては、コロナ禍でライブやパーティができない時代にマッチした現代ならではのアクションとして、その革新性が体験者に感動と驚きを与えたことが鮮明に記憶に残っている。

そして、2021年3月19日からは全国ツアー「HYPER HIPPIE TOUR」を敢行。ここで言う“HYPER HIPPIE”とは何か。
「今のオレらを指すものですね。今回のツアーはYouthQuakeのヤツらとキャンピングカーで旅しながら回ってめちゃくちゃ楽しかったです。それこそ、ヒッピーたちもキャンピングカーで旅をしていたカルチャーはあったそうなんで。そうとは知らずに、この言葉を掲げていたので、おお~! って」。

Photograph – udai & bobby

本ツアー中の2021年4月9日にリリースされたASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ラストシーン」をサンプリングした楽曲「Aquarius Heaven」。立て続けに、4月30日に発表された「叫悲」。この2曲に共通コンセプトも”HYPER HIPPIE”だ。
「60年代当時のことはわからないですけど、世の中が混沌としていたって。(ヒッピーカルチャーは)そこに対するカウンターで生まれたムーブメントでもあるので、今の状況にすごく近いんじゃないかって思うんです。オレも夜中、仲間と一緒にどこかに行って朝日を見るってことが人生の中で1番楽しい遊び方だと思ってるんで、完全にヒッピーじゃんって(笑)。新しいヒッピーってことで”HYPER HIPPIE”。そういうイメージを持つ2曲ですかね」。

では、楽曲の内容についてはどうか。まずは「Aquarius Heaven」について。
「もともと「ラストシーン」は好きな曲で、いつか使いたいと思って何度かチャレンジしていたんです。そんなとき、スタジオでDISK(プロデュースを担当したtokyovitaminのDJ DISK)と、ちょっとハイパーな感じにしたいねって話をしてたら、あのトラックが出てきたんですよ。そこからは早かったですね。それまでトラップっぽくしたり、色々試してはいたんですけど、絶対に途中でBPMを変えてクレイジーな展開にしたかったんで」。

※Jägermeister(イエーガーマイスター)が世界中のナイトライフコミュニティを支える為に行っているキャンペーンである#SAVETHENIGHTの一環でkZm×YOSHIROTTENのMVを制作

続いて、目下最新作となる「叫悲」について。プロデュースを担当しているのはKMだ。
「(KMとは)もともと付き合いは長くてkiLLaでラップしていた頃からなんですよ。いつか一緒にやりたいねって話をずっとしていて、(sic)boyの作品もめちゃくちゃいいし、そろそろこのタイミングでやりたいと思ってお願いしたら「ぜひ、ぜひ」と。やっとやれたなって感覚です。事前に細かくコンセプトを話し合ったんですけど、見事にオレがやりたいことを形にしてくれましたね。最初にトラックが上がってきたときに「完璧だ……」って」。

「叫悲」は負のイメージを連想するタイトルでありながら歌詞では『こんな人生奇跡かも』と、ポジティブなメッセージを被せている。ときに咆哮、激情と叙情性が交互に顔を見せる楽曲だ。
「静かな曲や激しい曲はこれまでにもあったんですけど、それを1曲の中で融合させることは意外と難しくて。「叫悲」に関しては、その二面性が表現できたんじゃないかって手応えがありますね。魂の叫びといった感じなので」。

まるで、これまでのkZmの歩みを振り返るような内省的な歌詞だが、これについてはどのように紡いだのか。
「夕方、めっちゃ天気がいい日に、近所にあるスーパーの屋上から夕陽がすごく綺麗に見えるんですよ。そこでよく歌詞を書いているんですけど、ある日、夕陽を見ながら、こういう世の中で、当たり前にライブができていたことや、今までやってこれたことがすごく有り難いな、オレは恵まれているな、と感じたんですよね。オレ自身にめちゃくちゃ特別な才能があるわけでもないし、周りにもすごく助けられているなって」。

kZmにとって歌詞を書く作業はビートに対する翻訳を刻むような作業だと言う。KMによる「叫悲」のトラックを前に、コロナ禍によって変わった状況によって、今までの当たり前が本当に貴重なことであったことに気づかされたことが「叫悲」の歌詞を描かせた。

Photograph – udai & bobby

「叫悲」 ジャケットアートワーク by YOSHIROTTEN

ジャケットアートワークとMVを手掛けたのはYOSHIROTTEN。こちらも長い付き合いの中、いつか一緒に作品を作りたいと考えていたのが実現したものであり、撮影はYOSHIROTTENの地元でもある鹿児島県の火口湖、大浪池で行われた。これまでの活動を振り返ってもそうだが、kZmは、その時々に出会い、自分の感性に影響を与えたり琴線に触れた表現をする人との繋がりを形にしている。
「”えん”っていうのをすごく大事にしていて。オレもYENTOWNだし。でも、YENTOWN=円(お金)タウンじゃないと思っているんですよ。全員、地元バラバラなのに”縁”があって集まった集団ですし。”えん”、すごく不思議な言葉だな、と。地球も”円”いし、そこにシンパシーを感じているので、今後、自分が作る音楽も、これまでリリースしてきた作品と輪になって繋がって、ずっと聴き続けられるものになったらいいな、と考えているんです」。

「Aquarius Heaven」 ジャケットアートワーク by Kotsu(CYK)

kZmの音楽性を考えたときに『DIMENSION』の頃のトラップ然とした楽曲と現在では楽曲の空気感が異なる部分を見受けられる。そこには、ここ数年のkZm自身の変化があった。
「コロナ禍でライブができなくなって以降、好きなパーティを探して行くようになったんですよ。それこそ、テクノやハウスのパーティに行くようになったし、「Aquarius Heaven」のジャケットアートワークをやってくれたKotsu(CYKのDJ Kotsu)が出ているパーティは全部行ったかな? ってぐらいで。そのぐらいそっちにハマって、中がだめなら外って自然な流れもあって、レイブにもハマり、そこからガバ、スピードコアだとか。もともとアンダーグラウンドな音楽が好きなんで衝撃だったんですよ。今、オレにはハウスやテクノなどの音楽がすごいアンダーグラウンドでエッジーなものに見えているんです。そういう音楽的なインプットをちゃんと整理していきながら、次の作品に向かわなくちゃなって思っているんです」。

今後、再び制作へ向かうというkZm。音楽面については新たな要素を吸収して自身の中で昇華しつつ、出てくる言葉は前述のキャンピングカーで仲間と過ごしているような何気ない時間の中で生まれてくることが多い。
「みんなと遊んでいるときに思い浮かぶ、基本それです、オレの音楽は。みんなで喋っていること、経験したことをオレが代弁しているというか。だからみんなでkZmって感じですね。でも、表現としてみんなと同じことをやっていてもつまらないですし、好きではないので。オレが憧れている人と同じように、自分にしかできない独自性を1番大事にしてやっていきたいと思っています」。

Photograph – Ryoko Kawahara

2020年代・日本のHIPHOPカルチャーを追う意味で、kZmのアクションに注目すべきなのは言うまでもないこと。だが、彼が生み出す音楽はすでにHIPHOPの枠組を超えた音楽としても捉えられる。これから制作されるkZmの音楽がどのような形で発表されるのか。それを考えると、音楽シーンの未来に希望を感じずにはいられない。

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