お花を持った人が歩く風景を作ろうと思った
―篠崎恵美
原宿は異世代と文化が混在した稀有な街
―杉木利弘
1988年に開業し、長らく原宿のランドマークとして愛されてきた複合商業施設「原宿クエスト」が、昨年秋にリニューアルを果たした。2026年4月に全館開業を迎えるが、建築もコンセプトも生まれ変わった原宿のアイコニックなスポットは、これからどこへ向かうのか?
そのキーポイントの一つとなるフラワーショップ「EW.Pharmachy#106」が主導のもと、今春、街行く人に2日間で1万本の生花を配るインタラクティブアート“はな と あるくひ”が開催された。同イベントには、「EW.Pharmachy#106」オープンに伴う挨拶の意と、新生「原宿クエスト」のこれからのビジョンが込められていた。
昭和、平成、令和と、原宿と共に歩んできた象徴的な複合商業施設は、また次の役割を担おうとしている。
その核心に迫るべく、「EW.Pharmachy#106」の代表にしてフラワーアーティストの篠崎恵美氏と、デベロッパーとして開発を手掛けたNTT都市開発の杉木利弘氏に話を聞いた。

── 街ゆく人に1万本のお花を配るという取り組みは興味深いですが、どんな意図があったのでしょうか?
杉木利弘(以下杉木):原宿クエストは複合商業施設なので、本来、開業イベントは、何かを買ってもらうことをプロモーションの主たる目的にするべきところですが、今回は街を歩く人にお花を渡して、“お花を持った人が歩く風景を作る”という篠崎さんのアイデアをピュアに捉えて形にしました。その方が有意義だと思ったので。
篠崎恵美(以下篠崎):老若男女が訪れるのが原宿です。そんな皆様へのご挨拶も兼ねつつ、原宿を人とお花が一緒に歩く一日が提案できたら素敵だなと感じたことが、このプロジェクトの根底にあります。
杉木:そもそも原宿は、エリアによって世代も文化も違います。大きな百貨店があるわけではなく、小さな建物が連なっていて、ストリートで区切られた街。だから歩いていて楽しい。他の繁華街と違って安全というのも大きな特徴です。

©Masahiro Hattori
──確かにこれだけ多彩で独自なカルチャーが入り混じった街は、世界的に見ても珍しいですよね。
篠崎:竹下通りから裏原宿へ向かうだけでも全く景色が変わりますし、青山方面、渋谷方面にも各々別な文化がある。街が面白いから歩いていて苦にならないので、お花を持ってぐるぐると散策して欲しいなと思ったんです。「原宿クエスト」のブランドカラーであるオレンジのガーベラをセレクトしましたが、花言葉は“冒険心”。企画の趣旨にもマッチしていました。
杉木:お花を受け取った人は、最初びっくりしたと思うのですが、不快感を示す人はいませんでした。おそらくお花と一緒にフロアガイドやクーポンチケットなんかが入っていたら、今回の取り組みは別なものになっていたのかもしれませんが。

©Masahiro Hattori
篠崎:お花を手にして、皆、笑顔になってくれて。渡す側も素直に楽しかったですし、受け取っても途中で捨てるような人がいなかったのは、嬉しかったですね。今回パッケージに使った素材は、できる限り環境に配慮し、リサイクルもしやすい素材を採用しました。お花はお店に持って来てくださればドライフラワーにもできます。だから環境に悪いことは何もしていない。この一回で終わりにせずに、今後も繋がっていければいいなと思っています。
──お花をもらって嫌な人はいないですし、忘れられない記憶にもなりそうですね。
篠崎:そうですね。原宿でお花を受け取った小さなお子さんが、いつか大きくなって、その記憶から何か新しいカルチャーが生まれるかもしれないですし。今回の取り組みは、若い世代の方々にも、もっとお花を手にする機会を増やしていきたいという思いもありました。
──なるほど。そんなユニークなイベントのみならず、新生「原宿クエスト」は、建物の構造自体も興味深いですね。
杉木:何より施設の中を通り抜けられるパサージュ(通路空間)を設けているのが特徴的です。原宿を訪れた人を取り込むのではなく、散策するように施設の中を通り抜けていただきたい。そんな役割を果たす構造を活かして、「原宿クエスト」も魅力ある街の一員になれれば本望です。

©Masahiro Hattori

©Masahiro Hattori
今までとは視点が違う原宿ならではのお店
―篠崎恵美
価値観を共有するお店が軒を連ねる場所
―杉木利弘
──オープンした篠崎さんのお店は、これまでとはまた一味違うコンセプトなのでしょうか?
篠崎:これまでは富ヶ谷という場所で、少し年齢層の高いお客様に向けたアプローチでお花を提供していたのですが、移転、リニューアルという形でオープンした「EW.Pharmachy#106」は、原宿という次世代の方やインバウンドの方に向けた新しい試みとして、ロサンゼルスのティーカンパニー「rocky’s matcha」とコラボレーションしました。
杉木:篠崎さんのお店は、まさにハイカルチャーとサブカルチャーの接点である原宿らしいスポットですし、そういった空間を堪能して、さらにパサージュを抜ければ、また原宿の奥へと繋がっています。「原宿クエスト」は、それらを結ぶ入り口でありたいですね。





篠崎:あくまでもフラワーショップなので、ドリンクやフレグランスなど全てにおいて植物由来にこだわっています。抹茶を飲みに来られたインバウンドの方がドライフラワーに興味を持ってくださったり、逆にお花を買いに来た方が、「rocky’s matcha」を知ってくださったり。これまでにない広がりが体感できて新鮮です。
──単にお店が複合的に集まったビルではなく、「原宿クエスト」は、情報発信のみならず原宿らしいカルチャーを繋ぐ場として機能していくということですね。
杉木:そうですね。表通りと裏通りを結ぶ役目を担い、魅力ある街の文化も繋いでいく。長い目で見て、そういう存在となるランドマークでありたいと考えています。篠崎さんのお店もそうですが、出店者さんに関しても横のつながりで広げて行けたらいいなと思っていて。単なるお店の寄せ集めではなく、何某かのシンパシーを感じるお店が軒を連ねて、価値観を共有できるアイデアで、ビジネス規模も拡大していく。そんなスタイルが、原宿らしいなと思っています。

篠崎恵美 / しのざき・めぐみ
花や植物にまつわるクリエイティブスタジオedenworks主宰。雑誌、広告、MV、店内装飾、インスタレーションなど、幅広いフィールドで創作活動を行う。「EW.Pharmachy#106」のほか、都内で3つのフラワーショップを手掛ける。2017年には、イタリア・ミラノにて紙の花プロジェクト「PAPER EDEN」を発表し話題に。https://edenworks.jp/
杉木利弘 / すぎき・としひろ
NTT都市開発 開発本部 所属。これまで「トラッド目白」「WITH HARAJUKU」など、数多くの商業施設開発や企画立案に従事。
INFORMATION
「EW.Pharmachy#106(イーダブリュー ファーマシー)」
2026年3月、「原宿クエスト」にオープンしたドライフラワーショップ。調剤薬局の調合のごとく、カウンセリング後に要望に寄り添ったオンリーワンのフラワーアレンジメントをディレクションしてくれる。LA発のティースタンド「rocky’s matcha」も併設。
住所:東京都渋谷区神宮前1-13-14 原宿クエスト 1F
営業時間:11:00~20:00
公式サイト:https://edenworks.jp/pages/e-w-pharmacy