CULTURE 2025.09.05

藤井道人:けむりのまち第三十回『あばよ、またね、おたのしみ』

EYESCREAM編集部
Photography_Suenaga Makoto

日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」
第三十回は、東京の街に戻った藤井道人の日々の記録。

お久しぶりです。藤井道人です。
暑い日が続きますね。僕は、寒さの残る4月上旬から、少し長い期間撮影の旅に出ていました。時間をかけて沢山の土地をまわり、沢山の奇跡のような出会い、芝居、撮影に出会う日々でした。
東京に帰ってきて、家族や仲間に会えてうれしい一方で、「ああ、東京って街はやっぱり疲れるな」と、社会人であることへの落胆やら、人との関わり合いの仲での無力さに辟易としています。ただ、別に楽しいんですよね。そういう道を選んだのは自分なわけですから。言い訳せず、他人のせいにせず、頑固に、謙虚に楽しんで。これからも頑張っていきたいなと思っています。

帰郷してからは『イクサガミ』の最終仕上げの最終局面。編集にこれだけの時間を割いたことも初めてで、めちゃくちゃハードですが、誰も観たことのないNETFLIX JAPAN作品を創れたと思っています。そして初の釜山国際映画祭に招待していただきました。嬉しいです。世界の皆さまにこの作品がどう届くのか、緊張で吐きそうですが、楽しみです。
そろそろ徐々にニュースに出ていくと思います。楽しみにお待ちください。
『港のひかり』は真逆な作品であり、僕の作品の中でも群を抜いて異色作だと思います。
撮影当時85歳の木村大作キャメラマンと35mmフィルム、ノーモニター、一発本番の緊張感。
思い出すだけでも過呼吸になりそうですが、今この時代に、この作品に挑戦できたことに感謝するとともに、意味のある映画になって欲しいと願うばかりです。

最近面白かった映画は『入国審査』です。撮影にかまけてすっかりコメントを書くことを忘れてしまいました。関係者の方々申し訳ありません。衝撃のラストでした。これが初監督なんて素晴らしいですね。まだ上映中だと思います。是非映画館へ。
そして、100億を超えた『国宝』も映画館で拝見しました。吉沢さん、流星をはじめとする熱演と李さんの恐ろしいほどの熱量の籠った傑作だと思いました。この映画が確変モードでこれほど大ヒットすると予想が出来ていた人は少ないと思いますが、映画が持つ力を改めて実感できたことに、感謝と、敬意をこめて最大の賛辞を贈りたいと思います。
配信ドラマでは『モブランド』(パラマウントTV)が一人勝ちでした。トムハーディ最高!!監督クレジットみたらガイリッチーてマジかい!って一人で興奮して、綾野剛さんにすぐ薦めました。
『トリガー』『ナインパズル』もスクリプトの巧さに興奮しました。
全部、決して明るい作品ではないですが、時間あれば是非観てみてください。

そういえば、先日誕生日を迎え39歳になりました。沢山の大切な仲間たちに祝っていただきました。本当にありがとうございました。
映画と出会って20年かーと感慨深く思うとともに、きっとこれからも続くであろう責任の伴う仕事や、大変そうなことにやや「めんどうくせえなあ」と思いながらも同じくらいワクワクすることが多いのは、貧乏でも、無知でも、馬鹿にされても『辞めなかった』ご褒美だと思います。とりあえず30代まではね!
現在、30代最後の映画製作に向き合いながら、どんな40代を自分は迎えるんだろうとモコモコ考え中です。
どんな形でも映像という仕事と向き合う人生を送りたいと思っていますので、これからもご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いします。

という訳で、急ではございますが、今回が最終回でございます。
突然の発表で申し訳ありません。毎月の読んでくださっている方の数の多さにビビりながらも、全30回連載することが出来たのは、読んでくださった読者の皆様と、対話してくれた僕の大切なゲストの方々、そして沢山の難しくも楽しい質問を投げかけてくれた皆さまのおかげです。本当にありがとうございました。

とはいえ、引退するわけでもないですし、いくつもの意欲作を準備中です。
おたのしみに。
なのでこれからは、なるべく人様の前に出ず、裏方としてしっかりと映像業界を盛り上げていけたらと思っています。

BABEL LABELも15周年を迎え、20年目までにどういう組織に生まれ変われるのか勝負だと思っていますし、今年発足した若手クリエイターチームの『2045』には心から期待しています。映画映像業界に風穴を開けて欲しいと願うばかりです。
これからも、何卒応援宜しくお願いします。
そして、ありがとうございました。

この最後のエッセイのタイトルを考えていた時に、急に小さいころに母さんに読んでもらった
「王さまかいぞくせん」の一句が頭に浮かびました。

あばよ、またね、おたのしみ。

藤井道人

藤井道人:けむりのまち 第一回『夜たちの備忘録』

藤井道人:けむりのまち 第二回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち 第三回 対談:横浜流星 ー映画『ヴィレッジ』をめぐってー

藤井道人:けむりのまち 第四回『再見』

藤井道人:けむりのまち 第五回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち第六回 対談:川上智之 ―同い年の2人が語る映画とカメラと互いの未来―

藤井道人:けむりのまち 第七回『ENDING NOTE』

藤井道人:けむりのまち 第八回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち第九回 クロストーク:日本映画界に生きる3人が業界の未来に思うこと

藤井道人:けむりのまち第十回『JUNCTION』

藤井道人:けむりのまち 第十一回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち第十二回 対談:綾野剛 ー映像に向き合う姿勢と表現の在り方ー

藤井道人:けむりのまち第十三回『さようなら』と『はじまり』

藤井道人:けむりのまち 第十四回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち 第十五回対談:福井雄太 ー監督とプロデューサーはどんな間柄なのかー

藤井道人:けむりのまち第十六回『青春から朱夏へ』

藤井道人:けむりのまち 第十七回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち第十八回座談会BABEL LABELメンバーと語るレーベル15周年

藤井道人:けむりのまち第十九回『イクサガミと正体と横浜流星』

藤井道人:けむりのまち 第二十回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち第二十二回『そろそろ、さようなら、2024年』

藤井道人:けむりのまち 第二十三回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち 第二十四回 対談:清原果耶 ーミューズと語る 映画作りで過ごした時間ー

藤井道人:けむりのまち第二十五回『それでは、次の旅へ』

藤井道人:けむりのまち 第二十六回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち第二十七回『あしたもミライ』

藤井道人:けむりのまち 第二十八回鼎談(前編) 今村圭佑 & 山田久人  ーあの頃の僕らと映像業界の入口ー

藤井道人:けむりのまち 第二十九回 鼎談(後編) 今村圭佑 & 山田久人  ー映像業界で生きてきて、今ー

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