RENが“今もっとも話したい人”を迎える対談シリーズ「Motivators」。第2回は、彼と同世代の俳優・野村周平が登場。10代前半からヒップホップやストリートカルチャーに慣れ親しんできたという野村と、日本を代表するヒップホップアーティストZeebraを父に持ち、ヒップホップ畑で育ちつつ現在はハウス/テクノといったダンスミュージックを軸にしたDJとして活躍するREN。2人の出会いから、お互いの音楽やカルチャーに対する思いに迫ることで見えてきたもの。さまざまな音楽や考え方をリスペクトしつつ、そこにあるシームをほどき、新たな何かを生み出そうとする新世代の可能性とは。
ーお二人の出会いは?
野村 :10代の頃ですね。当時仲の良かった友達とRENが仲良くて。そのあとも、たまに会うことはあったんですけど、よく遊ぶようになったのは1年くらい前かな?
REN :そうだね。クラブで再会して。
野村 :そのときも一緒にいた、LONO(LONO3/DJ)とかIKKEI(IKKEI TAKAHASHI/スケーター)とは、今も一緒に毎週のように遊んでますね。
ー映画やドラマを通して野村さんを知る人は、野村さんがヒップホップやストリートカルチャーを好きなのを知らない人もいるかと思います。そのあたりについても聞かせてもらえますか?
野村 :5歳からスノーボードをやっていたのもあって、音楽はずっと聴いてたんです。俳優を始めたのは、高校1年の時に知らない間に応募されていて、受かったから。いろいろと苦労もありながら、今やっと8年くらい経ちました。正直、芸能人になったことにかぶれて、中身のない服を着ていた時期もあったんです。一度ストリートから離れて、でもまた戻ってきたら自分だけ違う感覚だったから「こりゃダメだ」って思いました。そこからは俳優として動いている反面、プライベートは違う世界に向かっている感じですね。
REN :今のほうがいいバランスだと思うよ。
野村 :だから今は、俳優業も変にかしこまったりかっこつけたりしないですね。
ー音楽を聴き始めた頃はどんなアーティストが好きだったんですか?
野村 :大ヒットする前の湘南乃風とかでしたね。
REN :え? スノーボードで、雪山なのに湘南乃風?
野村 :よくスノーボードのDVDで使われていて。中学生になってリル・ウェインとかT-ペインとか、ヒップホップを聴くようになって、そこからはそのあたりの音楽を進化とともに追いかけている感じです。なので今はトラップも聴きますね。
ーそこはRENさんも共有できる部分ですよね?
REN :俺は、ヒップホップを全部わかろうとしてたところからパタッと止まって、ハウスやテクノに方向転換したので。
ーそれはどれくらいのタイミングで?
REN :フロー・ライダーが売れちゃった時期ですかね。LMFAOとか「なにこれ?」って冷めちゃって。最近のものとなると、ケンドリック・ラマーあたりは聴きますけど、それくらいの感じ。でも謎にプレイボーイ・カーティは好きで。
野村 :なんかわかる。
REN :最近流行った「Magnolia」は、ただのディーラーの歌なんですけど。
VIDEO
Playboi Carti – Magnolia
野村 :音もいいんだよね。ほぼ毎日聴いてる。ミーゴスとかも好きなんじゃない?
REN :うん、いいね。
ー今のポップミュージックはトラップからの影響は外せないですよね。私はお二人より一世代上ということや職業柄もあって、その新鮮さをいろいろと分析的に考えちゃうんです。でも10代の頃からヒップホップを聴いてきて、若い感性とともにまさにオンタイムでその流れを体感している立場からは、どう見えているのでしょうか?
野村 :トラップって好き嫌いが激しいものだと思うんです。俺も最初「なんだこれ? ジェイ・Zの方がいいや」って思ってました。でも蓋あけてみると「けっこういいじゃん」みたいな。感覚的には“(笑)”って感じもあるんですけど。
ー“(笑)”とはどういうことですか?
野村 :「超好き! 愛してる!」みたいなヴァイブスじゃなくて、今、友達同士で共有できてみんなで踊れるのがトラップなんです。というのもあって、気合い入れて「ヤァ!」みたいな感じじゃなくて、“(笑)”というか。でもほんとに好き。かっこいいものはかっこいい。
REN :俺も曲作ったりDJしたりするから、分析的に見ることもあるんです。そうすると、音や内容も「ほんとにつまんねえな」って思うものもたくさんあります。でも周平の言う“(笑)”ってのはわかる気がして、それって「ヒップホップが好き」という前提で、なんやかんや今の曲でも踊っちゃうっていう部分で。頭でどうこうじゃなんですよ。
野村 :とりあえず「流行ってるものは知っとこうぜ」とか「とにかく踊れないとさ」みたいなね。
REN :昔のディスコとかそうじゃないですか。一つひとつの曲にそれっぽい踊りがあった。それに近いと思うんですよ。俺がそう感じたのは、ソウルジャ・ボーイからかな。
VIDEO
Soulja Boy Tell’em – Crank That (Soulja Boy)
野村 :うん。あれで踊るっていう概念が付いてきたよね。
REN :そうそう。ある意味、集団行動みたいなんだけど、コミュニケーションとしては楽しいよね。
野村 :「お前もこれ知ってんだ。ここの動きはこうだよね~」とか、そういうノリでね。だからトラップを知ってるからって、力が入って踊りも激しくてぶつかってきたりする人もいるけど、そういうのはちょっと違う気がするんだよね。
REN :「そこまで本気でやるもの?」って思っちゃうよね。最近のトラップって、ソーシャルメディアの影響もあって、アホな動画とか多いじゃないですか。だからちょっとギャグ的なイメージもあるし、そういうノリだよね。
ーなるほど。とはいえ、今話されていることって、若い世代全体で見ると少数派ですよね?
REN :自分の知ってる範囲の人たちの話にはなりますけど、みんないろんなものをどんどん好きなってますよ。例えばハウスやテクノをメインに聴いてるからジャパニーズラップはダメとか、そんな風潮もない。そこの感受性は豊かになってきていて、すごくいいと思いますね。今は世界的にいろんな音楽がクロスオーヴァーされ尽くしてたあとなんで、もう何があってもおかしくないですし。
野村 :なんでもありっちゃありだよね。いろいろ混じってもそれをかっこよくしてくれる人がいるから。ドレイクがやってるような、ヒップホップにハウス調のものが入ってたり。
REN :うん、その分け隔てない感じがいいよね。
野村 :ジャパニーズで言うと、JP THE WAVYとか、正直最初は戸惑ったけど、なんかずっと聴いちゃうよね。「終わってきてるトラップ」ってラップしながらトラップやってんの。トラックもかっこよくてクラブで流れてくるとめちゃ踊ってる。(編集部註:実際は「終わってきてるトラップ」ではなく「終わってきてるダブ」というリリック。※2017年8月23日に追記)
ー俳優とDJ、表現方法はそれぞれ違いますが、そういった感性が活かされている部分はありますか?
野村 :まずは「全部を認められるようにしよう」って。20代の最初はツンツンしてたこともあったけど、今はもうそういうのをやめて「いいじゃん」と認めることを大切にしています。入りから「ダサい」って拒絶しないで共有することが大事かなって。
REN :ジャンルでくくって「これだからダメ」とかじゃなく。視野を狭く持たないってことですね。
ー野村さんが、ツンツンしていた時期からそう変わっていったのはなぜですか?
野村 :そこはほんとにいろいろあって、簡単に言うと当時は流されていたというか。でも、一緒にいる人が変わった途端、ハッピーになっていきました。「あの時は作ってる自分がいました、すいません」って思えるようになったんですよね。
REN :「改めまして、野村周平です」みたいな。
野村 :うん、そうだね。そこでまたヒップホップ界隈の友達とか、RENともこうして話せるようになって、居場所を再確認してのびのびできてますよ。
ーまずはウェルカムから始まる強さって、私が知る限りですがお二人の世代の特徴だと思ってるんです。
REN: そうなんですね。
ージャンル固有の美学や形式も大切だとは思うんですが、さっきRENさんが言ったようなクロスオーヴァー感覚が、音楽やカルチャーに進化を生んでいると思いますし。
野村 :「よそがなんぼのもんじゃ」って(ひとつのことを貫くような)ことにも憧れはあります。だからどっちの味方にもなれる。でも結局、「ハッピーでいようぜ」っていうところにくる。
REN :確かに。前に先輩から言われたことなんですけど、今の若い人のほうがラウンジでのDJプレイ(※バーなどでBGM的にプレイするイメージ)がうまいって言われたことがあります。上の世代の人はひとつのものへのこだわりが強いから、普段と変わらないような感じで波を作るんだけど、今の若い人たちの方がいろんな音楽を聴いてるし、受け入れる姿勢があるぶん、そうなってるんだって。
ーその先輩がおっしゃったこと、よくわかります。ちなみに、音楽はどういうツールで聴くことが多いですか?
野村 :YouTube、Apple Music、Spotify、そのあたりはフルに使いますね。
ー動画サイトやストリーミングはあらゆる音楽がフラットに並びますし、その人ならではの使い方で広がる可能性も無限大です。そこも“クロスオーヴァー世代”のポイントですよね。
REN :そうですね。クラブで知らない曲があったらShazamも使うし、便利ですよ。昔はクラブで気になった曲はDJに聞きに行ってたんですよね?
ーはい、よく行ってました。
REN :教えてもらえないこともあったとか。
ーはい、ありましたね。でもお二人は、ここまでの話の流れからすると、そういうカルチャーにもリスペクトはある。
REN :もちろんです。
野村 :そういう時代を知っている大人の人たちとの付き合いはほんと大事。そこをリスペクトした上で、今の時代に合わせて行動するというか。
REN :いろんな人に出会って、いいところを学んで吸収することが大事だと思うんです。
野村 :変な言い方になりますけど、大人の人がいっぱい失敗してきてくれたおかげで今の自分たちは失敗しないようにいい部分だけをゲットできてる。俳優の世界では「10年前は豊作だった」って言われていて、そこから絶対的なスターが出てきてなかった。でも、ここにきてまた若手俳優が豊作なんですよ。スケートもBMXも音楽も、周期的には近いところがあって、ほんと自分たちは幸せな時代にいるんだと思います。
REN :うん、そうだよね。だから自分たちも10年後につなげていかなきゃいけないと思ってます。この間、DJ Q’HEYさんとKEN ISHIIさんがバック・トゥ・バックをする現場があって、そこに少し混ぜてもらったんです。その時にQ’HEYさんが「自分が50歳でまだトップにいることはよくない」っておっしゃっていた。でもそれは上が下を育てなかったからだとも。
ー責任を感じられている部分もあったわけですね。
REN :だから自分たちの世代がもし豊作だとするなら、まだ人を育てられるような立場じゃないけど、そういうことも考えなきゃいけないと思うんです。
野村 :それが一番難しいんだよね。いつまでも子供でいたいっていう気持ちが勝っちゃう。若い人に「嫌なら超えてみろよ」ってね。
REN: でも、ただ見下して後輩を抑えて「そこにいとけ」じゃなくて、同じフィールドでそうやって「かかってこいよ、やれんだろ」って、きつい言い方かもしれないけど、そういうことだとも思うよ。
ー同世代として、今後やっていきたいことはありますか?
野村 :俺はRENが回してるところで踊れたらいいかな。
REN :同年代のストリートにいるみんなで、ひとつのものを作り上げられたら、というか。世代としてのカルチャー、わかりやすくいえば教科書とかに「○○世代」って載るような、ファッションもアートも、オールミクスチャーでひとつの何かを作りたいとは思ってます。
野村 :モードな服着てスケボーしたっていいわけで。シュプリームとルイ・ヴィトンがコラボする時代だからね。
ーRENさんの言ったことは60年代のスウィンギン・ロンドンとかに近いかもしれないですね。音楽やファッション、映画、スポーツ、日用品まで、新たな感性の息吹が吹き込まれた時代。私も生まれてませんが。
野村 :時代は繰り返しますから、今のやり方でそういうことが起こりつつはあるのかもしれないですね。
REN :もしそうだとしたら、未来は明るいですね。いろいろと楽しみです。
「Motivators」
Vol.01 : JESSE
Vol.02 : 野村周平
Vol.03 : AI
Vol.04 : 村上虹郎
Vol.05 : 安澤太郎(TAICOCLUB)
Vol.06 : Ryohu × KEIJU as YOUNG JUJU
Vol.07 : DJ DYE(THA BLUE HERB)
Vol.08 : CHiNPAN
Vol.09 : Daichi Yamamoto
INFORMATION
■ 野村周平
2017年8月19日(土)21:00〜23:10
フジテレビ「ほんとにあった怖い話 夏の特別編2017」に出演
http://www.fujitv.co.jp/honkowa/
■ REN
2017年8月17日(木) BLACK ON IT @ 渋谷BPM MUSIC BAR
2017年8月18日(金) KIM LIGHTFOOT @ 表参道VENT
2017年8月21日(月) World Connection -BEAT CITY- @ 渋谷Contact
2017年8月25日(金) VENT -1st Anniversary- @ 表参道VENT
2017年8月25日(金) “Gentleman & Ladies” supported by Cocalero feat. Masanori Morita @ XEX日本橋
2017年8月26日(土) SiiNE tokyo feat. Kevin Castro @ 渋谷R Lounge
2017年8月31日(木) Tunnel 5th Thursday @ Aoyama Tunnel
2017年9月4日(月) World Connection -BEAT CITY- @ 渋谷Contact
2017年9月9日(土) THE OATH -every 2nd Saturday- @ 青山OATH