[ZINEspiration]Vol.22 web88punk

photography_Kayoko Yamamoto, text_Yuri Matsui

[ZINEspiration]Vol.22 web88punk

photography_Kayoko Yamamoto, text_Yuri Matsui

クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。今回登場するのは、ヴェイパーウェイヴ(vaporwave)やウェブパンクを巡るカルチャーに触発され、寝付けない日の悪夢、あるいはディストピアのようなイメージをつくり出すグラフィックアーティスト、web88punk。彼が多大なインスピレーションを授かったヴェイパーウェイヴへの思いや、敬愛するZINEについて話を聞いた。

「前略プロフィール」が流行し、誰もがガラケーを持っていた頃に高校時代を過ごしたweb88punk。インターネットで見つけた画像素材を切り貼りして、ガラケー用待ち受け画像をつくっていた当時の感覚が、現在の美的感覚のベースになっていると話す。彼がヴェイパーウェイヴに触れたのは、2016年頃だったという。

「インターネット上に転がっている変なグラフィックが気になって調べているうちに、僕が興味を持ったテイストは、ヴェイパーウェイヴに付随している『ウェブパンク』と呼ばれるグラフィックのジャンルだということがわかって。そこから、自分にもできる気がして、制作したグラフィックを少しずつInstagramで公開し始めたんです。それから少しして、『蒸気波要点ガイド』というヴェイパーウェイヴのZINEに出会って、ZINEのカルチャーにも興味が湧き始めて。友達から教えてもらった『TOKYO ZINESTER GATHERING』というイベントでZINEを飛び入りで売れることを知ったので、2日間寝ないでヴェイパーウェイヴをテーマにしたZINEをつくって、キンコーズで印刷して持って行ったら、すごく反応がよかった。それまで、実際に生きている人間が目の前でヴェイパーウェイヴについて話しているのを見たことがなかったから、いたく感動したし、自分のつくったZINEに自分のつけた値打ちが支払われる行為に自意識の激動の震えを感じて。アドレナリンがやばかったです。そこからもっと制作をやろうと思うようになりました」

その後、桃太郎をヴェイパーウェイヴ的にパロディした『PEACH BOY』、GIFのアーティストやミームについてまとめた『gif zine』、香港をテーマにした『香港の街並みがエモすぎて』の3作のZINEを制作。今年に入ってからは、小嶋陽菜がプロデュースする『22;MARKET』のInstagramのアートワークを担当するなど、活動の幅を広げている。

「僕は、まだヴェイパーウェイヴに親しみがない人に向けて発信しようと思っているところがある。だからヴェイパーウェイヴの象徴的なアイコンである石膏像とかを意識的に使ってすごくわかりやすくしているんです。ただそういうものはこれまでのZINEで具現化できたので、この先はもう少し新しい表現も取り入れていきたいなと思っています。ヴェイパーウェイヴの文化を下敷きにしつつ、文脈を踏みにじらないように大事にしながらつくっていきたいですね」

ヴェイパーウェイヴのカルチャーへの畏敬の念を抱きつつ、アップデートを試み続けるweb88punk。最後に、創作への思いについてこう話してくれた。

「僕は『こういうものが世の中に存在してたらいいよね』という気持ちが、何かをつくるうえで一番のモチベーションになっている。今後もヴェイパーウェイヴに軸足は置きつつ、興味の対象が散らかっているので、自分の頭の中にあるものを形にできそうだったらやってみるという感じで、制作していけたらと思います。最近はストロングゼロを飲み過ぎてすぐ寝ちゃってあんまり制作できてないから、ちょっと飲まないでつくらないと(笑)」

【web88punkがレコメンドするZINE5冊】

佐藤秀彦
『蒸気波要点ガイド』

「僕がZINEというものに興味を持つきっかけになったZINEです。ヴェイパーウェイヴというジャンルについて、派生ジャンルの作品、用語、アーティストの人のインタビューやコラムなどが載っていて、すごく価値のあるZINEだと思います。このZINEはなかなか手に入りづらくなってしまったみたいなんですけど、今度書籍化することが決まっているらしく。ヴェイパーウェイヴのZINEが少ないなかで、マスターピース的な存在だなと思います。宝物です」

最後の手段
『なんとかかんとか』

「最後の手段さんが初めて出したZINEを、リメイクして再発売したZINEです。ビジュアルも好きだし、いろいろな紙が使われていて印刷も凝っている。表紙に写真が貼ってあったり、触ってみないとわからない手触りや仕掛けがあるっていうのがこのZINEの好きなところです。紙の本というだけで没入感があるけれど、ZINEってさらに作者と対話しているような感覚があって。それが強く出てれば出ているほど惹かれますね」

橋本倫史
『月刊ドライブイン vol.07』

「日本全国にあるドライブインを取材しているZINEで、あえてマガジンペーパーみたいな紙に印刷することで、ドライブインが盛況だった頃を想起させてくれる感覚がすごいなって。自分の好きなものを取材してつくって形にするというZINEのいいところが出てるなと思います。ドライブインを取材しようと思った目の付けどころがすごいですよね。悔しいなと思いました。文章もすごくよくて。最近全部まとまって書籍化されたのでそちらも買いました」

『NEW ERA Ladies』

「会社の先輩が『面白いZINEを買ったよ』って教えてくれたのがこのZINE。フェミニズムを勉強するきっかけになった1冊です。まずは装丁がすごいですよね。いろいろな紙が使われていて、1冊の中にいろんな世界が表れている。内容もフェミニズムというものをたくさんのカルチャーから紐解いていて、フェミニズムに馴染みのなかった人でも自分との接点をきっとどこかで見つけられるはず。読む人のことを考えてくれているやさしいフェミニズムのZINEだなと思います」

たぬくま舎 (IG:@tanukumasya
『EMOJI NIPPON MUKASHI BANASHI』

「今年の春『TOKYO ART BOOK FAIR: Ginza Edition』に参加したときに、僕がつくったヴェイパーウェイヴ版の桃太郎のZINEを手に取りながら、『うちのブースにも似たようなZINEがあるよ』って声をかけてくれた人がいて。中を見たら絵文字だけで『桃太郎』とか『浦島太郎』の昔話を表現していることに感動して。全部絵文字なのにストーリーがわかるからすごいなって。一つの絵文字がお話によって違う役を兼ねていたりするスターシステムで、最後にキャスト紹介があるんですよ。そういうメタ的な遊び心があるところもいいなと思います」

INFORMATION

TOKYO ART BOOK FAIR 2019
ブース出展
日時:2019年7月13日(土)、14日(日)、15日(月・祝)11:00 – 19:00
※7月12日(金)プレビュー 15:00 – 21:00
会場:東京都現代美術館 (東京都江東区三好4-1-1)
https://tokyoartbookfair.com/

Instagram:@web88punk

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