ART 2021.03.18

Interview:新保拓人 -音楽を映像で表現するビデオディレクターの表現について-

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Takaki Iwata, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021にてBEST VIDEO DIRECTOR賞を受賞したビデオディレクター、新保拓人。AwichやOfficial髭男dism、Kroiなどなど、あらゆるジャンルのMVを手掛け、今大いに話題を集めているディレクターだ。この記事では、受賞を祝すと同時に、新保拓人の映像表現におけるルーツやMVに対する考え方、ニューノーマルな現代において、どのような思考で映像を制作しているのかをインタビューする。

現代の情勢が反映されポジティブな映像表現に

ーBEST VIDEO DIRECTOR賞、受賞おめでとうございます。お気持ちは?

新保拓人(以下、新保):嬉しいですね。めっちゃ光栄です。SPACE SHOWER MUSIC AWARDSは毎年楽しそうに開催されているし、常に頭のどこかにあった賞で、いつかは自分も取りたいと思っていましたから。

ー2020年も数多くのMVを撮影されてきたわけですが、昨年を振り返ってみて、どんな1年だったと感じますか?

新保:やっぱりコロナ禍の影響は大きくて、ずっとストレスを感じていたような1年でした。2020年上半期、まだコロナがどういうものなのかわからなかった頃に、体調が悪くなった時期があったんです。コロナにかかったわけではなかったんですが、そのときに、死をすごく身近に意識しましたね。それがあって、生に対してすごく大切に考えられるようになったんです。作品だけじゃなくて生活のことでも。特に作品に関しては、当たり前なんですけど、以前よりも細かく準備し、しっかりと企画を考えるようになりました。

ーメンタル面の意識が変わることで、作品にも変化が表れたりしましたか? 例えば、暗い表現が強くなったのか、明るい表現が増えたのかなど。

新保:やっぱりポジティブな一面は見せたいと考えていましたね。ステイホーム期間が明けた6月頃、外ロケがすごく多かったんですけど、割と無意識にそういう要素が撮れるところを選んでいた気がします。今、思えば、ちょっと明るくて広い場所に行きたい、という思いが作品にも反映されていたのかもしれないですね。

ーでは、2020年に手掛けられたMVの中で印象深いビデオの話を2つ教えてください。

新保:1つ目は、Official髭男dismの「Laughter」ですね。この撮影は2020年1月から準備を進めていて、本当は海外で撮影する予定でロケ地を探していたんです。それが海外渡航ができなくなったことから企画を大きく変更することになったんですよ。バンドのメンバーからもらったキーワードは”空を飛びたい”という内容で、それをどのように表現するかを考えたんです。当初は、主役の男の子と女の子が気球を作って空を飛ぶ、という構成だったんですけど、少し先の未来の話、世界に女の子が2人しかいないような設定に変更して、花畑を作るために気球から種を飛ばす、というストーリーにしたんです。出演者に伝えたのは、「常に楽しそうにしていてください」ということでした。過酷の環境の中でも、癒しやポジティブなものに向かっているというこを描写したくて、ステイホーム期間中に考えた結果、こういう演出になったんですよ。大きな規模感の中で、初めて自分で考えたストーリーで映像を作ることができたという意味でも思い出深いですね。チーム一丸となって色々ディスカッションしたり、アイディアを出したりもしたので。

ー2020年という時代性が作品に反映されているわけですね。

新保:そうですね。もう1本はGrace Aimiの「Eternal Sunshine」です。Graceは3年前に知り合って自宅にも呼んでもらったりした仲なんです。実はAwichと出会ったのも彼女の家でした。Graceの家庭は、すごく愛に溢れていてパワーがあるんですけど、この出会いが自分の価値観を変えてくれたんです。当時は学生だったGraceがどんどん成長してデビューしていく様子を近くで見ていましたし、自分がMVを担当することになったときは、1人で勝手に感動しちゃっていましたね(笑)。そんなGraceの等身大の雰囲気を表現したくて、自然な表情をしているカットが撮れるように意識した作品でもあります。

ー2020年という括りを外して、これまで手掛けてきたMVの中でもっとも記憶に残っている作品というと?

新保:どの作品も忘れられないですが、1つ挙げるとすればRAU DEFの「FREEZE!!! feat.Sugbabe」です。フィーチャリングでPUNPEEさんがSugbabe名義で参加しているんですけど、このMVは、自分がディレクターになって初めて撮影したビデオだったんですよ。僕は学生の頃、PSG(PUNPEE、S.L.A.C.K.、GAPPERの3人から成るHIPHOPユニット)のライブでめちゃくちゃクラったりしていたので、そんなPUNPEEさんを1本目のビデオで撮影させていただけたというのは、自分的にも大きなターニングポイントになったんです。そこから色んな仕事をもらえるようになったし、今に繋がるきっかけになったMVですね。

映像によって音楽の解釈を広げていくこと

ーMVを制作するときに、新保さんが1番大切にしていることはどんなことですか?

新保:MVは音楽が先行しているコンテンツでもあるので、やっぱり音楽ありきなんですよね。だから、音楽を、いかにカッコよく聴こえるようにするのかってことを意識しています。あと、最近では肩の力が入り過ぎないように、ぬけ感を出すってことも考えていますね。

ーでは、音楽とMVの関係はどのようなものだと思いますか?

新保:音楽にとっての映像は、ちょっと大袈裟ですけど、視覚的な情報を加えることで解釈を広げられるものだと思うんですよね。もちろん音楽のイメージがあったうえでの話ですけど、その中で自分なりの新しい解釈を提示できるように考えています。映像には、そもそも解釈を広げていく機能があると思うので、その関連性を意識していますね。同時に、そんなことができるのがMVを制作することの面白さに繋がっていくんですよ。自分が音楽を聴いたときに感じたインスピレーションを具現化できたり、自分の解釈を視聴者に提示できるのが、めちゃくちゃ楽しいですね。

ーMVに自分の解釈を表現するうえで、どのようなものから映像表現のアイディアを受け取っているんですか?

新保:音楽はもちろんですが、映画や友人との会話から着想を得ることも多いんです。最近では自宅で遊ぶことが多くて、家でYouTubeやNetflixなどを観るんですが、そこで観たものについて、みんなで雑談したりするんです。そのとき、その場にいる人から色んな角度の考え方が出てきたりするのが面白くてインスピレーションに繋がるんです。

ー特に影響を与えられた映画はありますか?

新保:本当にたくさんあるので選びにくいんですが、キューブリック作品(スタンリー・キューブリック)は改めて観ると、構図や人の描写などなど、ものすごく勉強になる部分がありますね。今でもフレッシュだと感じます。その他の監督では、ヒッチコック(アルフレッド・ヒッチコック)とスコセッシ(マーティン・スコセッシ)の存在は大きいですね。MVでいうと、有名ではありますけどスパイク・ジョーンズはやっぱりすごいと思います。もう本当に色んな人に影響を受けているので、なかなか絞りきれないんですが。

根底にあるのはHIPHOPカルチャー

ーここからはルーツの話を教えてください。新保さんが映像制作の道を志したきっかけは?

新保:今思うと、1番のきっかけは幼少期の映画体験だと思います。小さい頃に、映画を観るときは夜更かしが許されたりして、そういうのを引っくるめて楽しい思い出として残っているのが根本にありますね。

ーそこからビデオディレクターを目指すことになったのは、どのような経緯があったんですか?

新保:大学生の頃、最初は映像ではなく音楽をやっていて、ビートをラッパーに渡したりしていたんですよ。ある日、さっきお話したPSGのライブを観て『これは絶対に敵わない……』と痛感して。そんなときに、とある大学生同士のプロジェクトを介して、今も活躍している映像チームと出会ったんです。そこで、自分は音楽よりも映像をやりたい、と考えるようになり、キヤノンのEOS 7Dを買って、クラブで自分たちのパーティーに映像担当として参加する形で撮り始めたのがスタートですね。

ーやはりHIPHOPカルチャーは、今の新保さんの根底にあるものなんですね。

新保:ありますね、めっちゃあると思います。それが今の活動にも繋がっていますから。

ーこうして2021年がスタートして早くも3ヶ月が過ぎようとしていますが、今現在、新保さんが興味を持っていることはどんなことですか?

新保:今は社会学に興味があるんです。パンデミックを経て、今の社会システムの脆さや、限られた枠の中で生きていたことを体感して、そこに対する探究心が生まれたんですよね。自分で色々調べていくうちに、社会学が今、自分が疑問に思っていたり、意識が向いていることに該当していることを知って、大学の教授にコンタクトを取ったりしています。実は春にショートフィルムを撮影しようと思っているんですが、その参考にもなると考えています。

ー社会学やシステムについて考えるようになったのは、BLM運動も大きな影響を与えていますか?

新保:それも大きいですね。Awichのアートエキシビジョン(2020年9月に開催されたAwich主催のBlack Lives Matter Charity Exhibition “Unity”)に参加したときも、色んなことを考えて調べたし、社会の枠が浮き彫りになってきたと感じていたし、そんな経験が、自分を社会学へ向かわせることになったと感じています。

ー最後に、新保さんが今後挑戦していくことや、続けていくことを教えてください。

新保:春に短編自主映画を撮影予定です。自分にとっては、これが1つのチャレンジなので絶対に成功させたいですね。やはりMVの作り方とは全然異なっていて、どうやったら視聴者を映像の世界に没入させることができて、心を動かすことができるのか、ということばかりを最近は考えています。その映画制作を経て獲得した経験や知識を、さらに次のMV制作に活かしていきたいと考えています。映画とMV、異なる映像表現ではありますが、そこに対しての自分のスタイルを見つけてやっていこうと思います。

INFORMATION

新保拓人

SPACE SHOWER TV
SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021 BEST VIDEO DIRECTOR作品集-新保拓人-
2021年3月21日(日)25:00~26:00 ※リピート:2021年4月1日(木)25:00~
https://www.spaceshowertv.com/program/special/2103_awards_director.html

SPACE SHOWER TV
SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021
2021年3月21日(日)13:00~16:30
https://awards.spaceshower.jp/2021/

新保拓人
ビデオディレクター
https://www.takutoshimpo.com/
https://www.instagram.com/takuto_sbs/
https://twitter.com/tkt5959beats

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