〜a short short story one : 消えていた〜アメリカ文学を読むんじゃなく、遊ぶのなら。

ノベリストにスケーターにコラムニスト、はたまたブックストア。
まずは、現代アメリカ作家の頭の中に“日本”を入れてみたら、何が出てくるか。
やれフジヤマだのスシだとは違う、笑いと幻想のゲームが始まる。

a short short story one : 消えていた

“VANISHED”
from
[INHERITED DISORDERS {Stories, Parables & Problems}]
Author—Adam Ehrlich Sachs

江戸時代の初め、サムライの父子が、藩主ともども合戦で蹴散らされるという屈辱を味わった。息子は切腹させてほしいと父に願い出たが、父はこう言った。「しばし待て。父よりも息子が先に死ぬのは道理に反する」。刀を渡された息子は父の首を刎ね、おのれの腹に刀を突き立てんとした。だが、不思議なことに、みずからの命を絶ちたいという思いはふっと消えていた。今の彼は、山奥に分け入り、移ろい行く四季、とりわけ、夏から秋への移ろいを俳句にして詠みたいと願っていた。しかし、三人の家来からは期待を込めた目で見つめられている。「家来よりも先に主人が死ぬのは道理に反する」と息子は言った。そこで三人の家来はおのれの腹に刀を突き立て、当のサムライは山に分け入った。その後の彼は季節から季節への移ろいを詠む何千という俳句を残し、そのいくつか、とりわけ死への暗い思いをこめて夏から秋への移ろいを詠んだ作品は、今日において傑作とされている。

PROFILE

Adam Ehrlich Sachs

アダム・エールリック・サックス
生年不詳。ハーヴァード大学で気象学を専攻していたという経歴を持つ。在学中から学内誌に寄稿し、2016年にショート・ショート集『INHERITED DISORDERS{Stories, Parables &Problems}』でデビュー。父と息子の関係を117編の物語で綴り、人を食った設定が生み出す自虐的なユーモアを炸裂させて、ユダヤ系文学の新しい声として注目の的となっている。

©2016,2017 by Adam Ehrlich Sachs. Reprinted from Inherited Disorders: Stories, Parables & Problems by permission of Regan Arts through Japan UNI Agency, Inc.