変わるもの、変わらないもの。時代の変遷に伴ってEYESCREAMはサブカルチャーを起点に”今”を見つめているが、2020年ほど大きく価値観を揺さぶられた年もない。オンラインでの仕事が盛んになり、いよいよ職場と自宅の境目も曖昧だ。同様に、仕事と趣味の境界線すらもよくわからない。すべてが遊びのようで、すべてが義務的なことに思える。
何か大きくうねりのように、全世界的に人の考え方が変わりゆく今、大人の趣味って何なんだ。嗜好品って僕らにとってどんな存在なんだろう。そんな、これまで当たり前だったことを止めどなく考えたりすることが、今は必要なんじゃないか。ニューノーマルを生きる人間として、今も昔も欠かせない素敵な趣味の話をしようじゃないか。
第四回は俳優であり、KANDYTOWNではHOLLY Qとして活動する上杉柊平が登場。自らリフォームのデザインを手掛けた自宅でのインタビュー。多彩な活動が注目されている上杉だが、その趣味観はどのようなものなのか。
好きなことは趣味を越えて生活に馴染む
ーいきなりですが、どんな趣味をお持ちですか?
「実は趣味と思ってやっていることはあまりなくて」
ーそうなんですか? ちょっと意外な気がします。
「と言うのも、僕の中での趣味は生活に直結しないものなんですよ。いや、その一部ではあるんですけどね。普通の感覚で言えば、すべてを投げ打ってでもやれることが趣味だと言われていると思うんですけど、僕の場合は何かしら仕事に繋がっていたり、ビジネスになり得るものが多いんです」
ー好きで始めたけれども、仕事にしてしまうという意味ですか?
「そう。僕の性格上かもしれませんけど、なんか仕事に繋げようとしているかもしれないですね。唯一言えるのは車かな、趣味的だと言えるのは」
ーでも、それも仕事に行くときの交通手段になりますからね。
「そうなんですよね(笑)。なんだろうな、好きなものはいっぱいあるんですけどね、インテリアとか。植物とか。家具だとか。でも、それって趣味なのか? と自問しちゃいます。そう考えると、本当に何なんだろうな、趣味ってものは」
ー趣味とは何か? って、改めて考えると難しいですね。
「ええ。僕の場合、やるとなったらとことん追究しちゃう性格なので、趣味の枠を越えて生活に馴染んじゃうんですよね。そういう意味で言えば、始めた最初の頃は趣味的にやっていると言えるのかもしれないんですけどね。気になってやり始めて没頭して、それを毎日のようにやっていたら、それはもう趣味ではなく生活の一部ですから」
ー趣味的に始まり、今では仕事に繋がってしまったものと例と言えば?
「インテリア、内装がそうですね。それを主軸にしたYouTubebチャンネルをやっているので。家具を作ったり、部屋を整えたりってことは、ずっと好きで自分のために楽しんでやっていたことなんですけど、それを人に観てもらえる機会ができ、誰かに影響を与えられるフォーマットができたので、結果的に仕事になっていったのかな、と。僕自身が発案したわけじゃなく、周りの人が環境を整えてくれたんですけどね」
※YouTubeチャンネル「上杉柊平の3rdPlace」より。部屋作りの模様がプログラムとして公開されている。
ー今日、撮影している上杉さんの自宅は、基本的にリフォーム全体をご自身で担当されているのだとか?
「自分が作ったのはデザインですね。壁を抜いて空間を大きくして、という感じで。特に細かく作り込んでいったのはキッチンですね。スペインの建築が好きで、色合いはそこにインスパイアされている部分もあります」
ーインテリアや内装が好きになったのは、どういう経緯で?
「家庭の影響が大きいですね。父がインテリア関係の仕事をしていて、昔から家にインテリア雑誌があったりしたので、幼少期の頃から家具へのこだわりはありました。その楽しさに気づいたのは1人暮らしをするようになってからですけどね。自分で家具を作ってみたり、それで部屋の空間を埋めてみたりだとか」
ーこのテーブルも上杉さんが作ったものですよね?
「そうですね。埋め込んでいる木は1年以上前に知り合いのお店で買ったんですけど、その頃、レジン(樹脂)にハマっていて、この木で作ったらすごくいいと思ったんですよね。買ったまま放置していたのをようやく作ろうとしているんです。今はレジンに飽きちゃったんですけど」
ーあ、もう飽きちゃったんですか(笑)。
「うん。だから、あれが完成したら、当分レジンはいいやって(笑)。作るの大変なんで、これが最後のレジン作。この後、テーブルの足が届いたら丸テーブルとして完成させようと思っています」
ー他にも自作の家具はあるんですか?
「細かいものはあるんですけど、最近では自分が良いと思ったものをちょっとずつ買い集めているところですね。やっぱり自分で作っているものは、本当に良い家具に勝てないので。唯一、そのレジンのテーブルだけ、この家に置こうと思っています」
ーちなみに、キッチン脇に置かれているカメラは?
「あ、これは趣味だと言えるかもしれない。最近、ミラーレスの一眼を買ったんですよ。もともとフィルムのコンパクトカメラを持っていたんですけど、もっと自分で色々と調整を入れながら撮影したいと思って」
「デジタルカメラを始めたばかりなんで、これは趣味ですね。祖父が使っていた昔のレンズを使って景観や気になるものを撮っています。これはまだ生活に馴染んでいない、楽しめていることですね。カメラが仕事に繋がるまでできたら楽しいだろうなって思いますよ」
言葉では説明できないけど長く続けられること
ーでは、俳優業はどうでしょう? 趣味から始まったことですか?
「趣味としては入っていないですね。最初から仕事だと思って入っていたし、これで生きていこうと考えていたので。趣味は最初から仕事にしようとは考えないじゃないですか」
ーそうですね。
「始めてハマって、ある程度できるようになってから『これも仕事にできないかな』って思うようになるんですけど、唯一、俳優業だけは違いますね。始めたときも今も、これでやっていくって自分で決めてやっていることですから」
ーそもそもなんですが、俳優を志した理由は? 最初はモデルとして活動されていたわけですよね。
「大学のときにアルバイト的な感覚でモデルをやっていたんですよね。1年ほど続けたときに違和感を感じ始めて、周囲が就活を始めた頃に、自分は今後どうしようか考えていた時期があったんです。その頃、PVの仕事を初めてやったんですが、そのときですかね。『これがやりたいわ』ってなったんですよ。そこから自分で俳優になるための道を探して、今の事務所に入り、という流れです」
ー撮られながら動ける面白さを感じたという?
「それもあったし、何か自分じゃない人間を演じるというところに強く惹かれたんですよね。役だから、というのが新鮮だったし面白かった。『自分じゃない人間なのに、やっているのは自分なんだ。いや、何なんだ? この状況は』って。それに、もともと映画が好きでしたから。自分の周りにいる人も含めて」
ーでは、昔から芝居は割と身近にあったものだったんですか?
「いや、すごく遠い存在だと思っていたし、全然違う世界の話だと思っていたんですけど、そのPV仕事をやったときに、すごく近くにあったんだってことに気づいた感じです。遠いと思っていたら本当に目の前にあったんだって」
ー俳優業の面白さをどういう点に感じていますか?
「うーん…………。何が面白いんですかね? むしろ面白いことは少ないと思うんですけど、なんなんですかね、言葉にできないんですけど。100あったら99はきついんですよ。もう少ししたら新しい現場が始まるんですけど、なんか最近体調悪い気がするし」
ーえっ(笑)。そうなんですか??
「うん(笑)。胃も痛いし。本当に弱いなって自分でも思うんですけど、作品が始まると思うと考え込んじゃうんで。そんな風にしんどいんですけど、それを超えていくタイミングがたまにあるんですよね。1作品あたり1回あるとか、そういうんじゃなくて本当にたまーに。そんなときは爽快感があって、それが好きなのかもしれないです。……いや、本当にそうなのか?(笑)。わからないですね、本当に難しい部分です」
ーその爽快感を味わうと辞められない?
「いや、そういうわけでもなくて。完全な爽快感は今のところ味わったことはないです。でも、そうやって自分が演じた作品を観てくれた人が「良かったよ」って言ってくれたときは、すごく嬉しいです。だから後々きますよね。良かったのか悪かったのかっていうのが。評価されることを目的にやっているわけじゃないにしても、そう言ってもらえることは純粋に嬉しいことですから。でも、ここまで長く続けられていることは他にないので大切なことなんです。自分でもよくわかっていないんですけどね。不思議です」
カッコいいものを再認識する場所、KANDYTOWN
ーでは、KANDYTOWNについてはどうでしょう? ラッパー、HOLLY Qとしての活動について。
「1人でやっていることではないという点で、音楽は他と決定的に異なるんですよね。KANDYTOWNのメンバーは各々ソロとしても活動しているし、常に音楽に向き合いながら動いてくれている。だからこそ、僕は自由にやれているし、本当にみんなのお陰なんですよ」
ー上杉さん自身は、今、KANDYTOWNにはどう向き合っているんですか?
「ちょっとずつ変わってきているんですけど、根本的なところは変わらず友達なんですよね。昔ほど単純じゃなくなってきている部分はありますけど、KANDYTOWNは、カッコいいものを作るという原則的なベースを持っているので、僕にとってもカッコいいものを作る場所なんです。俳優として生活を成り立たせながら、KANDYTOWNでカッコいいとは何かを再確認していますね。メンバーそれぞれの作品や活動を見ても、それを認識しているし、自分もやらなきゃってマインドになります」
ーでは、リリックを書くためにやっていることはありますか?
「それはないですね。でも、リリックでは自分のことを書くから、言葉にしたらこうだったのかって思うことはけっこうあります。これもまた、けっこうしんどい作業なんですよ(笑)。なんかネガティブな表現ってポジティブな表現より強いから嫌な部分がいっぱい見えてくる気がして」
ー言葉で表面化するという?
「はい、しかも、それが要約された単語になると噛み砕けなくてきついじゃないですか。なるべくポジティブなメッセージがいいと思って書くように意識していますけど、年々難しくなっている気がします」
ーリリックはどういうときに書いているんですか? トラックメイカーからのリクエストがあったりするんですか?
「それもあります。要望をもらったりとか。トラックに対して自分から挙手してやることもありますし、その辺りのやり方は色々ですね。書く作業も1人でやることが多いですけど、そろそろみんなで集まって「書くか」って言って作ろうって話はしていますね。昔はそういう風にやっていたし、そっちの方が直感的に勢いでやれるときもあるので」
素直な気持ちでやりたいことに一歩踏み出していく
ーでは、大人の嗜みとは、どういうものでしょう? 嗜好品が生活にあることの良さは?
「タバコとかお酒とか、極論、生きていく上で必ずしも必要なものではないじゃないですか。時間が必要になることなので、余裕があるということなんじゃないですかね。金銭的な余裕というわけではなく、1本タバコを吸うことを急がなくてもいいという人。本当に忙しい人はタバコもお酒も嗜む時間がないでしょうし、そこに余裕を持てるかどうかですよね」
ー確かにそうですね。
「趣味っていうのは全部がそうですよね、生きていくこと意外に余白がないとできないことだと思います。だから僕は何でも仕事にくっつけちゃいたくなるんだと思います」
ータバコのカッコ良さを感じたのは何からですか?
「それこそ映画やドラマを観ていてですね。以前は喫煙のシーンが多かったし、カッコいいと思う俳優さんは作品の中でみんな吸っていました。ウォン・カーウァイ作品で、タバコがめっちゃカッコよく描かれているシーンがあったり」
ー映画では、喫煙シーンが意味があるものとして描かれることも多いですよね。
「そうですね。自分が演じているうえで何十本も立て続けに吸うことになると勘弁してほしいってなっちゃいますけど(笑)。タバコのシーンは暗喩的で、その作品の中で重要なシーンを占めていることが多いじゃないですか。登場人物の気持ちが切り替わる瞬間であったりとか。そういうときにタバコが出てくる。その存在としてのカッコよさもありますよね。なかなかね、今はエンタメとタバコが結びつかなくなっていますし、徐々に値上がりして、身近なものじゃなくなってきている感があって寂しさも感じますけど」
ー段々と高級嗜好品になりつつありますよね、タバコも。では、最後に。上杉さんは今後、趣味にはどう向き合っていきますか?
「今まで通りだと思います。面白そうだからやってみたいと感じたことを実践してみる。それが結果として趣味になりライフスタイルになっていくのかな、と振り返ってみて感じます」
ーそして仕事に繋がるものもあれば、そうでないものも出てくる、と。
「はい。あまり深く考えずにやりたいと思ったことをやる。だんだんと、やりたいと思ったことでも言い訳を作ってやらなくなってきているので。忙しいから無理、お金がかかるから無理、だとか。まぁ、そう思っちゃっているのは、本心ではそんなにやりたくないことなんですよ。そんな中で、たまに『それでもやりたい』と思えることが出てくるので、自分の気持ちに正直になって一歩踏み出してみる、そうすると結果的に自分の周りに置かれるものになっていくのかな、自然と。それの連続でしかないと思っています。後々、どこかのタイミングで、始めたことを辞めるときが来るのかもしれないけど、それは自分がそういう次元にいったということなんで。辞めたり、集めているものを捨てたりってことは悪いことじゃない。何でもやってみるという心持ちで向き合っていくんだと思います」
ARCHIVES
暁の新様式解剖録 〜現代嗜好学〜 インタビュー 玉置周啓(MONO NO AWARE)
暁の新様式解剖録 〜現代嗜好学〜 インタビュー 藤井道人
暁の新様式解剖録 〜現代嗜好学〜 インタビュー 佐々木集&OSRIN [PERIMETRON]