CULTURE 2022.06.27

Talk session: ドライブシーンの未来へ送る音のAR “WONK’s Sound Drive”とは何なのか

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Yuta Kato, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

劇的に進化するARの波は音楽シーンに押し寄せている。そんな事例をピックアップするため、去る3月12、13日にEPISTROPHが主催したイベント“WONK’s Sound Drive”に注目する。
このイベントでは、ドライブ中の車の位置や走行状態に合わせて、WONKの音楽がリミックスされ、独自の車内BGMを楽しめるというものだった。
音楽だけではなく、ドライブ中に見える建物や場所に応じた環境音、会話などが並行して流れ、同時に右折左折や発信停止といった車の走行状態よってインタラクティブな音楽を楽しむことができるという、パッと聞くと『え、どういうこと?』という真新しいものであった。
この新たな音楽体験を生み出したソニーの開発チームとWONKに、“WONK’s Sound Drive”は一体どのようなものであったのかを聞きたい。参加してくれたのは、今回のプロジェクトに携わったソニーチームのお2人と、WONKから荒田洸。

荒田洸(WONK)

井上千聖(ソニー株式会社、ビジネスプロデューサー)

清水惇一(ソニーグループ株式会社、R&Dエンジニア)

ドライブ×音楽の新たな体験を届けたい

 

ー今回のプロジェクトは、どういう成り行きでスタートしたんですか?

井上千聖(以下、井上):ソニーでは、Sound AR™というプロジェクトに取り組んでいます。これは、現実世界に仮想世界の音が混じりあう新感覚の音響体験です。私たちは、そのプロジェクトの中で、新しい音の可能性を探していました。WONKの皆さんには企画段階から色々と相談をさせていただいて、かれこれ1年ほどプロジェクトにご協力いただいたんです。
 
荒田洸(以下、荒田):WONK’s Sound Driveの前にも、Sound AR使った違う取組みがあったんですよね?
 
井上:そうですね。Locatone™(ロケトーン)というアプリをすでに世の中にリリースしています。Locatoneでは、マップ上にある特定のスポットを訪れると、自動的にその場に応じた音声が楽しめるツアーを提供しています。例えば、ムーミンバレーパークでは、テーマパークの中を巡るとムーミンのキャラクターの会話を聴ける、というツアーがありますね。
 
荒田:それって何かデバイスを持つんですか?
 
井上:はい。スマートフォンにアプリを入れて、イヤホンとつなぐことで体験できます。ムーミンのキャラクターが話をしていたり、周囲を駆け回るような音が聴けたり、そのような歩いているユーザーを対象にした体験を提供していました。
 

ードライブ×音楽に着目したのはどういう理由からですか?

 
井上:コロナ禍になってリアルなイベントが減っていたときに、注目度が高まっていたドライブシーンをうまく活用したいよねって話をソニーチームでしていたんですよね。そこで、運転中は友達や家族と一緒に音楽を聴くことが多いという話になって。
 
荒田:ドライブと音楽って相性いいですもんね。僕も絶対に音楽かラジオをかけますし。
 
清水惇一(以下、清水):私の場合、このプロジェクトがスタートしてから、よくドライブするようになったんですよ。勉強のために。
 
井上:みんな、運転が上手になりました(笑)。
 

ーそれで、ドライブシーンと音楽を掛け合わせるプロジェクトを進行することが決まってからWONKにオファーをしたんですね。

 
井上:はい。今回は一般的な音楽の作り方だけじゃなくて、まったく新しい作曲スタイルが必要なプロジェクトだったので、そういうことを柔軟に受け入れてくれるアーティストとぜひ一緒に開発したいと思ったんですよ。そんな中で、WONKの皆さんとお話する機会をいただけたんです。
 
荒田:最初にお話をいただいてから全体像をつかむまで時間かかりましたね。最初は映像を作るのかな?  とか思ったんですけど、そうじゃなくて音楽と掛け合わせたリアルな体験をアプリとして作っていくんだって理解して。あとは、ソニーチームのみなさんとコミュニケーションを取りながら、我々はああでもない、こうでもないって言ってるだけでしたね、基本的には。


 

ー実際にソニーチームとWONKで、どういうやり取りをしていったんでしょう?

 
荒田:最初に、ドライブしながら位置情報を基点に音が良い感じに変化していくといった大きな枠組みを提示していただいたんですよね。あとは自分たちがやりたいことを伝えつつ、技術的に出来ること出来ないことをディスカッションしていったんです。
 
清水:今回のプロジェクトにおいては、インタラクティブに音楽を作るってことがポイントだと思っていたんですよね。その中で、もっとも新しいことが素材ベースで音楽を組み立てていく、ということだったんです。なので、WONKの皆さんには既存の楽曲だけじゃなくてループ素材をたくさん作っていただいたり、リズムのシーケンスなどを別に用意してもらって、それを状況に合わせて再構成していくということに挑戦していきました。
 
荒田:WONK’s Sound Driveでは、小学校の横を運転していたら遊び声が聞こえたりもしましたよね。そういうエリアに応じた効果音が鳴るのも面白かったです。制作のうえで難しかったのは、キーが同じでコード進行だけちょっと変えつつ、リズムパターンやメロディラインに変化をもたせながら聴き手に飽きさせないような音作りをしなくてはいけないということでした。それが、エリアごとのギミックだけではなく、運転速度やハンドル操作にも応じて、音が変化するように作り込んでいただいていたので、体験として斬新で面白いものになったんじゃないかと思いますね。
 
井上:それに、長塚さんにもご協力いただいて、ガイドさん的なナレーションを随所に入れていただきましたね。
 
荒田:ボーカルの音に関しては何か設定があったんですよね?
 
井上:そうです! 長塚さんが東京タワーに幽閉されているという設定で、近づくほどにボーカルの音量がクリアに聴こえるようにしたんですよ。他にも、例えば増上寺に近づくと長塚さんの思い出話が聞けるとか。そういう工夫をいれていきました。
 
 

ドライブ中の状況に応じたサウンドを体験する

 

ードライバーそれぞれで運転の速度も道路の環境も異なるのに、そういった音楽体験がフレキシブルにできるというのは不思議でしかないです。ざっくり、どんな作りなのか教えていただけますか?

 
清水:予めスポットのエリアを登録しておいて自分の運転している位置情報をGPSで取得して、そこからスポットまでの距離だったりを算出しているって感じですね。距離が近づくにつれて、各パートの音量を調整したりエフェクトが加わるような仕様にして、そこの色んなパラメーターと結びつけて実現した形になります。
 
荒田:あれってMax/MSPみたいなやつでやっているんですか?
 
清水:今回はMax/MSPに似たサウンドエンジンでやっていますね。
 
荒田:さっき井上さんの話にあったボーカルの件なんですけど、最初はリバーブがけっこうかかっているのが、東京タワーに近づくにつれてクリアになるような動きがあったじゃないですか。ああいう設定ができるということなんですか?
 
清水:そうですね。パラメーターを距離に結びつけてリバーブを下げながら(ボーカルの)ボリュームを上げるとか、そういうことが出来るんです。
 
荒田:それ、面白いですよね。カーナビに応用しても面白そうな機能だと思います。
 
井上:プロジェクトを進めるにあたって、チーム内でけっこう議論したのは、どのランドマークをどう生かすのかってことでしたね。歩いていれば目につく建物でもドライブ中は気づかないものもありますし。どうランドマークを使えばより面白くなるかはWONKの皆さんにも意見をいただきながら、実際に色々な場所をドライブして実験していったんです。
 
清水:本当に、この周辺は数えきれないくらいドライブしましたね(笑)。車の中で開発するっていう新しいスタイルで進めて。
 
井上:ミーティングは基本的に車の中みたいな時期もあって(笑)。
 
荒田:面白いですね(笑)。作れば作るほど新しい体験として楽しそうです。トンネルに入ると、音にリバーブがかかるようなのもありましたよね。
 
清水:はい。状況によって音楽が変化しつつ、WONKらしさを出せるバランスというのは、すごく考えました。
 

ー音楽制作において大変だったことや苦労したことはありますか?

 
荒田:いえ、僕らは全然苦労してないですよ。言われるままに素材を提供するような流れだったので。僕らよりもお2人の方が本当に大変だったと思います。どうでしたか?
 
井上:そうですね。壁はいっぱいあったんですけど。それぞれ厚みと高さが異なる壁が……。
 
荒田:何枚もあったわけですね(笑)。
 
井上:はい。まず、ドライブ中のサービスなので、聴覚情報だけで変化に気付いて、面白いと感じてもらえるか。その辺りのバランスを取ることを何度も繰り返して作りました。解説のシーンや効果音を入れつつ、WONKの音楽自体を邪魔しないように作っていくというところは色々と工夫しましたね。
 
清水:そうですね。わかりやすさと音楽性をチューニングするのが1番苦労したというか。体験してくれる人に伝わりやすい形にしつつ、音楽的におかしくならないように音楽の進行をプログラムで管理しながらバランスを見て構築していきました。技術的にもFlow Machines(ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発した技術)というAIアシスト作曲技術を用いて江﨑さんのフレーズのバリエーションを作るのを支援したり、飽きないためにたくさんパターンを用意してました。1番の壁というと、我々もイメージが固まってない段階でWONKの皆さんにヒントをもらいつつ、こちらから作ってほしいものを提示するという流れだったので、そこが1番難しかったしチャレンジした点だったのかと思います。
 
井上:我々の方は、どうしても技術による変化がわかりやすいような体験を、たくさん詰め込みがちなんですけど、音楽体験としても成り立っていて、そのうえで飽きがこない方法を考えたりだとか、そこは慎重にWONKの皆さんとも連携を取りながら進めていきましたね。
 
清水:WONKの皆さんには、我々がぼんやり考えていたものをピタッと具体化していただいてすごく助かりました。音色の数とかループ素材の作り方とか、細かなことを我々から提案しなくても、さっと出してくれたので、プロジェクトをうまく進めることができたんだと思います。
 
 

音楽シーンの未来へ向けたきっかけとなれば

 
荒田:こちらこそありがたい限りですよ。たしかに素材は出しまくりましたね。何パターンくらいありましたっけ?
 
清水:22パターンです。
 
荒田:そうでしたね。22パターンのコード進行とメロディとリズム要素を考えつつ、僕らとしては、それがどう混ざり合っても良い感じに聴こえるように素材を作っていったので、大変ではありましたけど、ソニーチームのみなさんが、それを綺麗に体験へ落とし込んでくれたと感じています。
 
井上:あとは実際に作ってみて気づいたのは、道路状況って我々がコントロールし切れない部分もあって。渋滞や赤信号もあるわけなので、そういう課題を自分たちで運転しながら洗い出しつつ、どんな状況でも飽きさせない体験になっているかを考えるのは時間がかかりましたね。
 
清水:最後15分はラジオコンテンツになるわけですけど、ピッタリとソニー本社へ戻るまでの時間を計算して合うようにしたりとか。その調整を繰り返しましたね。
 
荒田:僕らが知らないところで、自らドライブしまくってリサーチしまくって、色々とやってくれていたんですね。ありがとうございます。
 
井上&清水:こちらこそです!


 
荒田:こうして考えると、今回のWONK’s Sound Driveはイベントで体験を提供したわけですけど、今後無限に応用できるんじゃないかと思いますね。
 
井上:はい!ありがとうございます。チームの中では今回のWONK’s Sound Driveは新しい音楽体験の発見になったねと話をしていて、より多くの方に体験していただけるように色々な応用も考えたいと思っています。
 

ー一般的なサービスとして提供するには、色々と困難な問題も多いかと思うのですが、やはり井上さんと清水さんとしては、この機能を人々のライフスタイルに提供していきたいという思いがあるんですね。

 
井上:そうですね。アーティストの存在をいつもより身近に感じられたり、自分自身で演奏しているような感覚になったり、色んな新しい楽しみ方ができる可能性があると感じています。
 
清水:僕はAIアシスト作曲のテクノロジーにも興味があるんですが、この技術が進化することによって、音楽を作る人や音楽自体に興味を持つ人が増えると思うんですよね。その世界観が個人的にすごく好きなので、WONK’s Sound Driveが、そのテクノロジーを促進するきっかけになればいいとも考えますし、何より夢があると思います。
 

ー今後、こういう機会があったらWONKとしてはやりたいと思いますか?

 
荒田:もちろん協力したいですよ! 僕らで良ければですけど。
 
井上:最初は無邪気にお願いをさせていただいたのですけれど、快くお受けいただいて、こうして最後までお付き合いいただいて。本当にありがとうございます。
 
荒田:楽しいですからね、こういう新しいことをやるのは。テクノロジーの進化にまつわる創作活動はWONKのメンバーも好きだし、今回は本当に良い体験をさせてもらいました。今後、もっと面白い進化があるのかと思うと、本当に楽しみです。どんどんやってください!
 
井上&清水:頑張ります!

INFORMATION

WONK’s Sound Drive

SONY https://www.sony.jp/
WONK https://www.wonk.tokyo/

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