暁の新様式解剖録 ~現代嗜好学~ インタビュー 荒田洸

Photograph_Yuta Kato, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

暁の新様式解剖録 ~現代嗜好学~ インタビュー 荒田洸

Photograph_Yuta Kato, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

変わるもの、変わらないもの。時代の変遷に伴ってEYESCREAMはサブカルチャーを起点に”今”を見つめているが、現代ほど日々価値観が揺らぐ時代の少なかったのではないだろうか。昨日まで普通だったことが明日には非日常になっていくこともざらだ。
何か大きくうねりのように、全世界的に人の考え方が変わりゆく今、大人の趣味って何なんだ。嗜好品って僕らにとってどんな存在なんだろう。そんな、これまで当たり前だったことを止めどなく考えたりすることが、今は必要なんじゃないか。現代を模索しながら生きる人間として、今も昔も欠かせない素敵な趣味の話をしようじゃないか。 
第五回は音楽家、荒田洸。EYESCREAM読者であれば知らぬ人はいないであろう、WONKのリーダーでありドラマー、サウンドプロデューサーだ。クリエイティブレーベル EPISTROPHの代表でもある。今回は、EPISTROPHがディレクションしたミュージックバー&ラウンジ phaseでインタビューを敢行する。
 
 

日本の文化にこだわったミュージックバー&ラウンジ

 

ー本企画は大人の嗜み、いわゆる趣味嗜好の話をしていただく内容になっております。まず、撮影場所となったバーについて教えていただけますか?

 
荒田洸(以下、荒田):わかりました。ここはEPISTROPHがディレクションしているミュージックバー&ラウンジ phaseです。DDD HOTEL(日本橋馬喰町にあるホテル)内にあるバーカウンターを活用して、夜営業の場所をプロデュースさせていただきました。もともと完成している空間だったので、音響設計やメニュー開発、それらに伴う諸々のデザインをさせていただきました。


 

ークリエイティブレーベルでもあるEPISTROPHが空間演出を手掛けると言うのは、どういった経緯があったんですか?

 
荒田:EPISTROPHは音楽レーベルとして始まったわけですが、当初から食やファッションなど、自分たちが興味のあるものをデザインして生活のスタイルを提案していきたいという思想が根底にあったので、phaseも、その流れからディレクションしました。特にメニュー開発については、料理人でもある長塚(WONK Vo、長塚健斗)と今回からチームに入ってもらったバーテンダーの方で監修しているんですよ。
 

ー食やお酒など、好きなものを開発してお客さんに提供するというのは、まさに大人の嗜みの延長線上にあることだと思います。どういったメニュー展開になっているんでしょうか?

 
荒田:当初メニューのテーマは日本の酒と小菓子で(開発段階で小菓子案はなくなった)。そこから発展して、ちょっとした軽食も展開しようとなったんです。例えば、岡山で作っている海苔とか、京都のナッツとか。基本的にはすべて国産にこだわっていますね、ウイスキーも含めて。カクテルのメニュー作りに関しても日本を意識して、京都一保堂の煎り番茶を使った「いり番茶ネグローニ」などもあります。
 

ー日本にフォーカスしたのは、何か理由があったんですか?

 
荒田:それも我々の趣味の延長です。こうして国内のお酒というテーマで色々考えていくのは、すごく勉強になるんですよ。お客さんに対しても国内に深い歴史を持った酒造メーカーがあって美味しいお酒を提供しているんだということを提案できるし、何より私たちは日本にいるわけですから、まずは深く掘ってみるのも面白いんじゃないかなって。自分たちが調べたことはメニューにもお品書き的な形で記載しているんですよ。そこもお客さんに楽しんでほしいところですね。

好きなものを掘って知識として蓄積させていくことが嗜み

 

ーすごく面白そうですね。荒田さんが好きなお酒は何ですか?

 
荒田:ウイスキーが好きですね。そこまでクセの強くないスッキリとした味わいのものが好みです。phaseのメニューにあるものだと、おすすめはGAIAFLOW(ガイアフロー静岡蒸溜所のブランド)になります。以前はアイラモルトが苦手だったんですけど、飲んでみたら好きになっていったり。掘るごとに自分の嗜みの範囲が広がるんだなって楽しんでいますね。
 

ーウイスキーは大人のお酒という印象が強いですが、何歳くらいから飲んでいますか?

 
荒田:20代後半くらいですかね。その前にクラフトジンにハマって。各地のいろんなジンを飲んでいたんですけど、そこからもっとクッときて欲しいなって。僕、なかなかすぐに酔えないんですよ。そういう意味で、ウイスキーのクッとくる感じにハマって好きになっていきました。そもそもウイスキーはハイボールなどもあって日本人に馴染み深いお酒ですしね。

ーウイスキーはどんなときに飲みますか?

 
荒田:基本的にずっと飲んでいます。………いや、嘘です(笑)。ずっとではないんですけど毎晩のように飲んでいますね。場所によって他のお酒を嗜むこともあるんですけど、自宅で飲むときはウイスキーをロックで飲むことが多いかもしれないです。ネットフリックスを観ながらだったり、音楽を聴きながらだったり。なんでかアニメを流しながら飲むのがめっちゃ好きなんですよ(笑)。
 

ー最近、飲みながら見て面白かったアニメは何ですか?

 
荒田:『映像研には手を出すな!』です。
 

ーああ、あれは酔えますよね~。

 
荒田:あれは酔えます。しかも青春ものとかみんなで頑張って作ろうぜとか、野球部(荒田氏は元野球部)の涙腺をくすぐってくるんで。なんて素晴らしいんだ。頑張ろうって(笑)。気分になりますね。
 

ー運動部にはたまらないですね。夜更けに1人で泣きながら観たい。それもまた大人の男だと思いますが、荒田さんは大人の男の嗜みとは何だと思いますか?

 
荒田:非常に難しいですよね。僕の場合は、自分が今ハマっているものに対して深掘りして、自分の中に知識を蓄積していくことが楽しいです。それが直接的には役に立たないことであったとしても。ウイスキーにしても日本という範囲の中で調べて、それを飲むのは楽しいし、最近の趣味でもあるゴルフも自分なりに研究していくのが面白い。アニメも同様で面白い作品があったら、同じ制作会社が作った違う作品も観てみたり。そんな風に楽しんでいくのが、ある種の嗜みに通じるのではないかなと。
 

ー嗜好品という意味ではタバコも大人の嗜みですよね。荒田さんにとってタバコはどういう存在ですか?

 
荒田:最初は友達に勧められて、というところからで、銘柄を選ぶときも自分の好きな憧れている人が吸っているものに揃えたりしていたんですよ。最初はPALL MALLを吸っていたんですけど、ルパンに出てくる次元が吸っていたからって理由からでした(笑)。でも、大人の嗜みとして考えると映画『Coffee&Cigarettes』を観ても感じるんですが、その所作が格好良いなと思って。そういう大人になりたいって憧れから吸い始めましたね。
 

タバコは所作のアイテム

 

ー何だかカッコいいんですよね。タバコを吸う仕草って。

 
荒田:何なんですかね。あのダンディズムみたいな感覚。所作ってすごく大切だなって常に思ってるんですけど、その1つになり得る大人のアイテムだと思います。さらに巻きタバコだと、より格好良いと感じますね。巻き方や巻いた後に耳に挟むだとか。そういう個性が感じられる所作のアイテムでもありますね。
 

ーそれこそ、過去のジャズミュージシャンたちは常にタバコを吸っている印象があります。そういった音楽的な側面ではいかがでしょう?

 
荒田:大人の嗜みとして、所作の格好良さのベンチマーク的の1つが昔のジャズミュージシャンとか。彼らがステージ上でタバコを吸っているのも格好良いと思っていますし、レジェンドたちの吸い様からは大人な感じがしますよね。例えば、ビル・エヴァンスだとか。ピアノを弾きながら吸っていたりする感じとかも、なんでこんなに渋くなるんだろうって不思議です。眼鏡にスーツで、フォーマルな出立でピアノを弾き、その美しさの中に垣間見えるタバコというラフな感じがすごく格好良いと感じますね。そんな風に格好良い所作でタバコが吸えるような歳の取り方をしたいという気持ちはあります。
 

ーそう考えるとファッション的な意味でも、タバコはハズしのアイテムなのかもしれないですね。

 
荒田:そうですね。僕は服装もカジュアルなので、レジェンドの域にはまったく達せないですけど、いつかそうなれたらいいなと思いますね。そう考えていくと……やっぱり憧れでタバコを吸っているのかもしれないですね。今、僕がスーツを着てタバコを吸っていても、どこか胡散臭さが出ちゃうだろうし、まだまだま自分は甘いと思います。
 

ー荒田さんはゴルフもしますし、自分が好きなものを見つけて、それを探究する力がすごいと思います。何か好きになるものの共通点はあるんですか?

 
荒田:身近なものから派生していっているのかもしれないです。だから、急にまったく知らない世界に飛び込むことってないんですよ。ゴルフは、僕が小学1年生から野球をやってきた流れからの派生ですし。小さい頃に音楽に触れて、それが今の生業にもなっていますし。ジャズのカルチャーの中ではお酒が密接な関係を持っているので、そこにも興味を持って、といった具合に繋がっているんですよ。
 

10周年を前に純粋にもの作りを楽しむことができれば

 

ーなるほど。では、ここからはWONKの話も聞かせてください。今、バンドはどういう状況でしょう?

 
荒田:WONKは来年10周年を迎えるので、それに向けてどういう作品を作るのか、どういうライブをするのか色々考えている段階です。やりたいことが色々あるんで、まず何から手をつけていこうかなって思案していますね。10周年という節目を考えると絶妙なプレッシャーがあるので、それを2023年にどう昇華させようか悩んでいるところです。
 

ー何か特別なアクションを起こすということですか?

 
荒田:そうかもしれないし、無理はせずに今まで通りかもしれません。みんなで進化して、今の延長で変に力まずに何かをやるのもありだなって。最近はそういうフェーズに入っていますね。そう考えられるようになったのも今だからなんです。最初の頃は、作品を作るにしても、ちょっと生き急いでいる感じもあったかもしれません。WONKはテレビに出演したり、巷のランキングを賑わすようなバンドではないので、長く楽しく良い作品を作り続けられたらいいんじゃないかと思うんですよ。消費され過ぎないことは大切なことですよね。もの作りに対して、自分たちがやりたいことを無理せずに作っていくことができたら、という段階に入っているんです。
 

ー10年経つからこそ考え方にも変化が生まれて。

 
荒田:まぁ、色々問題はあるんですけどね。僕らにとって音楽は生業なんですが、音楽で食っていくっていう意気込みが邪魔しているような気がすることもあるんです。それは、ビジネス観点でもの作りをしちゃうっていう危険性があるという意味でも。現代は、自分たちがどう売っていくかを考える時代ですけど、それをもの作りに持ち込む危険性を常に意識しているんです。だから、売れるような曲を作るのは今は嫌だなって思っていますね。自分たちが経験の中で培ってきたものを納得する形で出すことができれば、世界に目を向けても、ある程度の支持を獲得することは難しいことではないと思うんですよ。そこには自分たちが納得するということが大切なんです。時間に縛られて焦って作品を作って出すのではなくて、納得するまで突き詰める。そうすればリスナーの皆さんも納得させられるでしょうから。そんな風にビジネスに対する危険性を感じずに純粋にもの作りをできるようになればいいという思いがありますね。それは、EPISTROPHに所属しているアーティストたちに対しても同様に還元していきたいという気持ちです。だからこそ、このphaseのように色んな動きをして、会社としての存在感を大きくしてきたいという心持ちでいるんですよ。

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