日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。映画監督・藤井道人がそんな映画や人、言葉、瞬間を保管しておくための企画「けむりのまち -Fake town-」を始動させた。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく。第五回は、前回も大きな反響があった一問一答。藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。
ーいつもいろんな映画や海外ドラマを観られているそうですが、自分の作品を撮る時に影響を受けすぎたりはしないのですか?
自分の作品を作っている時(主に執筆中)は、基本的には同じジャンルの映画やドラマは見ないようにしています。絵画や芸術品からインスピレーションを受けるのは個人的にはアリですが、完成されたものからインスパイアを受けることは、個人ルールとしては「無し」にしています。執筆が終わった後は、ご褒美として狂ったように映画やドラマを浴びます。
ー人生のバイブルと呼べる本はありますか?
「モモ」(ミヒャエル・エンデ)ですかね。時間泥棒の話なのですが、児童文学でも非常に哲学的で、子供ながらに感動したことを覚えています。大人になってもたまに読み返す、大切な一冊です。
漫画だと手塚治虫で育ったと言っても過言ではないくらい、手塚フリークです。「ブラックジャック」「火の鳥」「ザ・クレーター」など、名作は沢山ありますが、いつか実写化したいのは「鉄の旋律」です。
ー藤井監督が映画作りにおいて一番テンションが上がる瞬間、ワクワクする瞬間はどんな時ですか?
テンションがあがる瞬間は、俳優部が脚本を飛び越えて、最高の芝居をした瞬間です。思いがけない涙、思いがけない怒り、その様々な奇跡に出会う度に「生」を感じます。一番、テンションが下がる瞬間は「微妙な天気」です。
ー今まで撮ってきた作品で、企画から完成までが一番早かったものと時間がかかったものを教えてください。
商業作品で一番早かった映画は「新聞記者」です。代打監督ということもあり、監督に決まってから10か月以内に公開していました。そういう作品が、ある種自分の知名度を上げたというのも皮肉な話ですね。一番時間がかかった作品は、次にクランクインする作品だと思います。もう4年ほどやっていますが、ようやくスタートラインに立った気持ちです。楽しみにしていてください。
*ドラマは基本的に、放送日が決まっているため、どれも早いです。
ー日本でないとできないこと、海外でなきゃやれないこととは具体的にどんな事でしょうか?
基本的に「~でないと出来ないこと」はないと思っています。ビジネス面では、英語で作ったほうが、分母が大きく単純に見てもらえる人数が増えたりすることはあると思います。僕自身、海外での撮影経験が乏しいので豪語は出来ませんが、「映画」という共通言語がある限り、僕たちの仕事はどこにいても出来るという希望を感じました。個人的には、日本映画を日本で作って、世界に届けたいという思いが最近は強くなってきました。(5年後は違うこと言っていると思いますが)
ー映画を作りたいと思ったきっかけはありますか?
明確には覚えていません。地元の仲間と大勢で遊ぶことが好きで、その延長線上だったのかな?と思ったりもします。また、初めて作った映画がすごくつまらなかった(酷い出来だった)ことも大きな理由かもしれません。次はもっといい映画を!という気持ちで、なんだかんだ18年間映画を作っています。
ーオリジナル脚本を書かれる時は、映画で出演してもらう役者さんを決めてからその方を念頭に書かれるんですか? 脚本が出来上がって、役に合いそうな方を選ばれるのですか?
これはケースバイケースですが、僕の場合は宛て書きが多いです。オリジナルを書くってすごく疲れる作業です。自分の脳みそを取り出して、嬉しかったことも恥ずかしかったことも全てつまびらかにする必要があるんですから。オリジナル映画、漫画、アニメ、小説を作っている人たちは本当にすごいと思います。オリジナルを批評されることはその人自身を批評することに近いから、続けている人たちは本当に強い精神力と信念があるんだと思います。
ー藤井監督が大学生の頃に映画製作をする上で意識されていたことはありますか?
ありません。大学時代は、何の哲学もなく映画を撮っていました。理由は「楽しかった」からです。みんなで挑戦しては失敗する。そして、1%の光が見える。この行程が、僕にとっては刺激的な日々でした。大学時代は、誰かの感想なんて一切気にせず自分の好きな映画を撮ったほうが良いと思います。どうせ、大人になったら360度から色々な賛辞も批判も受け止めることになるのですから。
ー他にもそれこそ藤井組にも素敵な役者さんはたくさんいると思うのですが、その方たちと比べて流星君の役者としての魅力って身近にいる監督としてどういうところだと思われますか?
流星については、最近特に思うのですが、僕の身体と心の一部分になってきているような気がします。俳優にそう言った感情を抱いたことはないのですが、彼が考えていることはほぼ分かるし、彼もきっと分かっている。そして、彼は類まれなるセンスを持って、作品の中にダイブしてきてくれる稀有な存在だと思います。流星とやりすぎ!と、たまにイジられることも多いですが、撮影監督の今村圭佑然り、自分が最大のパフォーマンスをするために、必要な仲間たちであると思っています。重い映画が多くてごめんなさい。誰か、僕と流星にコメディの仕事をください。そして、流星はボクシングのプロテストに合格しましたね。本当にすごい!おめでとうございます。
『春に散る』が沢山の方々に観てもらえますように。
ー尼崎在住20歳藤井作品大ファンの女子大学生です。ここに来て超ド級のベタ質問です。好きな食べ物はなんですか?
好きな食べ物は蟹です。第二位は海老です。あとは、梅、納豆、海苔です。すごく、日本人です。
嫌いな食べ物はレバーです。
今回も、沢山のご質問ありがとうございました。
次週はそろそろゲストをお招きして話したいなと思っています。
少しづつ、あたたかくなってきましたね。
僕は、長年温めていた次回作の準備が始まりました。高揚感と緊張感でいっぱいですが、
楽しんでやっていけたらなと思います。
「最後まで行く」もまだまだ上映中です。面白い映画が出来たと思っています。
是非、最後まで応援宜しくお願いします。
藤井道人
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
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