日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第二十三回は、恒例となった一問一答。藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。
あけましたね。改めて、おめでとうございます。
年末年始は、全く生きた心地もせず執筆ラッシュでした。
そして、同じくらいの新年会ラッシュ!! 編集ラッシュ!! 打合せのウィップラッシュ!!!
毎年、変わらずですね。
では、新年早々、皆様のご質問応えていきたいと思っています。
ーーー藤井さんは本はお好きですか?もしお好きなら昨年読んだ本とかで最も良かった作品などを教えてくれませんか?あと、EYESCREAMは雑誌も発行されてると思いますが、雑誌の方でも連載してください~
本はとても好きです!でも、本って一番紹介しづらいんですよね…。理由は、読む本って映像化されるので読むことが多いので…。この本が面白い!!っていうと、「あ、実写化すんのね」と変なバイアスがかかるのも悪いしなあと。ずっと愛読しているのは伊坂幸太郎さんで、川上未映子さん、染井為人さんの本は出ると必ず買って読みます。
去年は、可愛がっている後輩の、岩谷翔吾が『選択』という小説を流星と出しましたね。すごい!
デビュー作とは思えない完成度でした。皆様も是非読んでみてください。
(雑誌で連載になると、締め切りに追われるので、遠慮しておきます笑)
ーーーあけましておめでとうございます!昨年末の監督のコラムを拝見しまして、、この連載でやって欲しい企画などあれば、とのことで早速お言葉に甘えてリクエストします!藤井監督の普段の撮影現場などでの裏側やドキュメント的なものをこの連載で見れたりできないですかね?個人的に藤井監督の「情熱大陸」的なものが見てみたいです!!
読んでくれてありがとうございます!撮影現場の裏側やドキュメント、面白いですよね!僕も海外ドラマのメイキング見たりするのが好きです。情報解禁された作品なら、どんどんメイキング出してよいと思うのですが、結構権利関係とか、チェックが大変みたいですね……。
僕一人のドキュメントは、きっとずっと酔っていて面白くないですよ笑。
海外(韓国や台湾)は舞台挨拶でも観客や、ファンの人たちが皆カメラを持って動画や写真を撮るんです。宣伝的にも効果的だなと個人的には思うのですが、日本で出来る日はまだまだ先でしょうね……!
ーーーはじめまして、いつも監督の作品を楽しく拝見させて頂いています!私は映画や小説などにものすごく感情移入をしてしまい暗めな映画を見るとネガティブになりがちなんですが、監督は作ってる作品に感情移入しすぎてネガティブになってしまうことはありますか?もしあったら対処法などお聞かせ願いたいです!
作品、観てくれて嬉しいです。ありがとうございます! 感情移入できることは素晴らしいですね!
とても素敵な感受性をお持ちなんだと思います。なので、きっとその感情を閉じ込めておくのではなく、誰かと共有することが出来たらよいかもしれませんね。
家族、恋人、仕事仲間。誰でもいいのですが、感情は内側に籠りすぎると良くないと個人的に思っています。レビューサイトや、SNSはそういった意味ではとても意味のあるものなんだろうな。と、今書いていて思いました。(普段、全く見ないので)
僕は作品を作っているときに、滅多にネガティヴになることはありません。
あくまでも、客観的にいなくてはいけない立場なので(ある種、監督ってモンスタークレーマーみたいな生き物なんです)冷静に作品作りをすることを心がけています。
ただ、オールアップの日や、完成した映画をスタッフキャストと観る初号試写とかは、最近よく泣いちゃうんです…。本当にそれが嫌で、今の最大の悩みです……。
ーーー働き過ぎな監督を心配しています。ご自愛ください。さて、先日渋谷に2泊して感じたことですが、この街、東京で『正気』を保って生きていくことは、難しそうだなということ。主張の強いスタイルの人が普通にたくさんいて、物の誘惑が多くて、刺激が強くて。この中で埋もれず流されず真っ直ぐに立ち続けることは大変そうで、東京・シティボーイの藤井監督も、そんな風に感じることありますか?「透明なわたしたち」で、まさに描かれていた気がして、ラストに少し明かりが見えてよかったです。
働いていると思ったら壊れる自信があるので、全力で遊んでいます。ご安心ください。
でも、最近僕より忙しい人と出会いましたよ!!塚原あゆ子監督!!報知映画賞でお話出来ました。
めっちゃ凄いですよね……。人柄も素晴らしかったです。
すいません、質問に戻りますね。なるほどー。難しいですね。確かに、そういう時期もあったんだろうと思います。『東京』は、沢山の価値観で溢れてて、本当に沢山の人がいますよね。20代売れていなかったときは、僕も多分辛い時期だったと思います。ただ、僕は本当に周りの人間に助けられてここまでこれたので『自分の力なんて大したことない』って思っている方が楽だと思います。
『誰かと比べないこと』『誰かを嫌いにならないこと』『誰かを裏切らないこと』この三つが出来たらいいなと思いながら、毎日失敗を繰り返しています。
ーーー映像制作の現場はタフな環境だと聞いた事があります。海外の映像制作現場では、日本よりも働く時間や休日が決まっていて労働環境が整っているとお聞きしました。海外では撮影出来る時間に制約ができてしまう中でも、世界中のたくさん人に観てもらえる作品を作ることが出来ている要因には、予算を含めてどんな要素があるからだと思われますか?
そうですね。その情報は決して間違ってはいないと思います。ただ、僕も海外の人と仕事をすると、日本と同じように、悩みや問題をそれぞれ抱えているように感じました。きっと完璧なシステムの中で映画・ドラマを作っている国はないと思います。
『隣の芝生は青く見える』的な。ただ、純粋に考えて、みんなシステムを壊したい、無視したいって思っている人はいないと思います。『正義の矛先』がそれぞれ違うだけなので、まずは対話と、トライ&エラーが大事なんじゃないかなと思っています。頑張っている先輩方もいるので、僕らBABEL LABELも僕らなりに頑張っていきます!
ーーーはじめまして。今回初めて質問させていただきます。私は普段家で過ごすことが多く、ほとんど外出しませんが、映画を見るのが好きで、気になる作品があれば映画館に足を運びます。最近では、サブスクで映画をオンラインで観ることができるので、映画館で観る人が減っていると感じます。特に映画館で観る魅力は音響や迫力だと思いますが、監督ご自身が映画館で観る魅力は何だと思いますか?
はじめまして。これは、コロナ渦以降、いつも議論になる問題だと思います。理由は『罪』もあるけれど『功』もあるからですね。映画館は、僕らが何もしなくてもずっとそこにいてくれる『場所』だと思っていたけれど、配信の登場でそれが当たり前ではなくなったことは、僕にとっては『映画館を考える』という意味ではとても大きな出来事でした。僕ら映画人は、映画館で映画を観てもらうために、映画館のスクリーンと同じ大きさのスタジオで映画の仕上げをします。絵から、音、沢山のものを映画に詰め込んで、観客の皆さまに届けたくて、沢山の人たちが関わって一本の映画が仕上がります。映画は決してコンテンツなだけではなく、劇場に行くという体験も合わせて最も豊かな『芸術』であり『娯楽』であって欲しいと思っています。まだまだ出来ていないことは多いけど、劇場で映画を観る体験のすばらしさをちゃんと伝え続けられたらうれしいです。
ーーー映画正体大ヒットおめでとうございます!!今後映画史に残る傑作だと感じました。何度観ても胸がいっぱいになります。単純な質問ですが東京ではどの街が1番好きですか?また、正体の撮影時の忘れられないエピソードがあれば教えてください。
『正体』観てくれてありがとうございます!『べらぼう』も是非観てくださいね!僕は東京の中では……うーん……難しい。新宿ですかね。本当に色々な人がいるので。地元も中野で近かったので、ずっとあの街と一緒に育ってきたなぁと言う感覚はあります。正体の忘れられないエピソードは、横浜流星と山田孝之の対峙するシーンです。お芝居のテストで二人の芝居を観て鳥肌が立ちました。山田孝之演じる又貫が20秒を超える沈黙の末に言葉を発するのですが、その『間』の中に、映画のすべてが詰まっていて、本当に素晴らしい俳優だなと思いました。
ーーー「SHOGUN」がゴールデングローブ4冠という快挙を達成しましたね!これは日本の映画業界や映像業界に今後どういった影響を及ぼすと思われますか?藤井さんのご意見をお聞かせください。
本当に素晴らしいことだと思います。ただ、これは真田さんが海外で戦い続けてきた、真田さんの功績であって、僕らは決して手放しで『日本すげーだろ!』ってなっちゃダメだなと思いました。影響がもしあったら、それには感謝しつつも、自分たちが出来ることを模索すべきだなと思います。ただ、あのニュースや真田さんのスピーチを聞いて、少し鎖国的だった日本の表現者たちが海外に興味を持つことは本当に素晴らしいと思います。僕個人としては、真田さんが背中で見せてくれた歴史へ最大の敬意を払いながら、自分たちが出来ることをしっかり模索していきたいと思いました!
でも本当に、純粋にすごいですよね。浅野さんのスピーチで泣きました。
ーーー監督の作品にいつも魅せられています!一観客としてお礼を言いたいです笑 唐突な質問なのですが、監督は好きなスポーツはありますか?またスポーツに関する映像や中継などの演出をやってみたいと思うことはありますか?(オリンピックの開会式なども含め)
スポーツですか……。実は、僕18歳まで剣道をやっていたのですが、剣道から映画にレールを乗り換えた瞬間から筋トレも一度もしないまま38歳になってしまうくらい、運動をしなくなりました……。
野球を見ることは昔は好きでしたが、今や野球も観ず、サッカーは自分が下手だったので興味を持てず、ゴルフに誘われると「アハハ、スケジュールがー」とか言って逃げているような、ダメな大人です……。
なので、演出のオファーが来ても、選手に失礼なのでやらないと思います。笑
でも!!!今年は、何かスポーツを始めたいんです。何かおすすめなスポーツがあれば教えてください。
ーーーこないだの大晦日の紅白歌合戦を見ていたら、藤井風さんの歌唱、映像がとんでもなく素晴らしいと思いました!藤井監督は見られましたか?私には専門的なことはもちろん何も分かりませんが、これは演出を手掛けた方も凄いのではないかと思い、もし監督も見られていたら、是非とも感想をお伺いしてみたいです。
おー、嬉しい。同じ苗字なので!藤井風さん。あの紅白の映像の撮影監督が、『正体』の撮影監督の川上智之なんです。なので、ダブルで嬉しいです!演出の山田健人監督は、めっちゃカリスマですよね!!
MVの世界に急に彗星の如く現れたとき、もう、僕はMVを撮らないことを決めた気がします笑。
と、今回も沢山の質問ありがとうございました。
今年はBABEL LABEL15周年ということもあり、より一層力強い作品を作って行きたいと思います。
応援、何卒宜しくお願いします。
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。