MUSIC 2021.10.16

Review: 映像作品『on eST』が示す SixTONESの音楽に対する実直さ

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Text_Chie Kobayashi

YOSHIKI提供の「Imitation Rain」や常田大希(King Gnu、millennium parade)提供の「マスカラ」と、その楽曲性の高さやメンバーの音楽への感度が話題になっているSixTONES。今回は彼らのライブに注目したい。彼らが本来持ち合わせているアーティストとしての魅力は現場にあり。この6人が生で歌い踊る姿にこそ、SixTONESの本質がある。
なぜ、そんなわかりきったことをのたまっているのかというと、10月20日発売の映像作品『on eST』を観て、改めてクラッたというか、打ちのめされた感覚があったからだ。ここには、音楽に対して実直な6人の姿が映っている。本稿は、そのレビューである。

前提として記載しておきたいことがある。SixTONESはデビュー前から横浜アリーナや大阪城ホールで単独コンサートをしている。しかしオリジナル曲だけではコンサートができず、先輩の楽曲も織り交ぜてのパフォーマンスだった。そしてこの度行われたライブツアー「on eST」は1stアルバム『1ST』を携えたツアー。初めて、自身の楽曲のみ、SixTONESのために作られた楽曲のみで構成されたツアーとなった。

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、当初予定されていた「on eST」前半の公演は延期、一部横浜アリーナ公演は無観客ライブとして配信された。昨年行なっていた「TrackONE -IMPACT-」も途中で中止。「on eST」後半は久しぶりにファンの前でパフォーマンスできる機会となったわけだが、しかし、彼らが見せたのは、ファンとの交流ではなく、“楽曲を表現する”ことに特化したライブだった。

それを真っ先に、そして最も感じられるのがオープニング。アイドルのコンサートのオープニングといえば、メンバー紹介を兼ね各々の顔と名前を大写しにした映像が流れるのが通例だが、「on eST」の幕開けは、名前どころかメンバーの顔も見えない。メンバーのパフォーマンス姿のシルエットが、幕に映し出されるという演出から始まる。楽曲は「Mad Love」。狂おしいほどの欲求を、全英語詞で歌うHIPHOPチューンだ。歌詞だけ読むと大胆にも思える楽曲を、全英語詞で歌うことによりオブラートに包みつつも、さらに色気を増長させる。彼らはその手法を演出でも再現。自身の姿や表情を隠してパフォーマンスすることで、よりセクシーに見せる。

幕が下り「次はメンバーの笑顔が見えるか」と思いきや、続いたのは、無表情のメンバーがロボットのようにポップダンスを踊るEDM「Dance ALL Night」、精悍な表情でパフォーマンスする、エッジィな「NAVIGATOR」と鋭さを持つ「Telephone」。彼らは完全にアイドルとしての笑顔やキラキラした姿を封印。アルバム『1ST』の世界観を表現することに徹しているのだ。このオープニングで、彼らの本ツアーに対するスタンスは明確になった。

さらに挨拶を兼ねた短いMCを挟んだ次のブロックでは「S.I.X」「Special Order」と激しいナンバーが続く。彼らにダンスのイメージがない人も多いと思うが、すでに驚くほどの運動量だ。しかし歌声はぶれることはなく、そこに彼らのアーティストとしての底力も知る。

らのパーソナルな趣味趣向、表現力を味わえるのはユニット曲。髙地優吾と森本慎太郎による「My Hometown」では、サーフィンが趣味の森本と、バイクが趣味の髙地という同じ横浜出身の二人が、サーフミュージックに乗せて地元への想いを歌う。横浜アリーナ公演ではバックに横浜の景色が映し出されていたが、各地で写真は差し変わっていたという。観客それぞれの“ホームタウン”に想いを馳せられる演出だ。京本大我と松村北斗は一時期ファンからも「仲が悪い」と噂されていたペア(YouTube「SixTONES 1対1のサシトーク【不仲の噂】京本大我×松村北斗 本当に仲が悪いのか検証してみた」)。

しかしグループで高音を担う京本と低音を担う松村によるふたりの歌声の相性は抜群で、ふたりのユニット曲も、そのハーモニーをじっくり堪能できるバラード曲「ってあなた」。ワイルドで英語詞が多いSixTONESの楽曲群では異彩を放つこの楽曲を、ふたりは椅子に座ってしっとりと歌い上げる。そして“J2”と呼ばれるジェシーと田中樹のユニット曲は、ヒップホップナンバー「EXTRA VIP」。「ラッパーとシンガーがカッコいいことをやる」「ライブ映えを意識して選んだ」というだけあって、その見せ方は大胆。グループでもシンガーとラッパーを担当しているふたりだが、この曲ではさらにワイルドかつスタイリッシュに、普段とは違う声を聞かせているのも聴きどころ。ちなみに田中は今回のツアーで、色とりどりの照明が会場を照らす様を「2000年代のHARLEMみたい」と表現しており(Disc2収録「メンバーによる『on eST』ビジュアルコメンタリー」より)、改めてクラブシーンへの造詣の深さを感じさせる。

コンサートに必要なのはパフォーマンスの技術や、1曲1曲の爆発力だけではない。この公演で彼らが見せたストーリー性にも着目したい。終始ワイルドなパフォーマンスで魅了していた彼らだが、終盤、静まり返った場内に響き渡ったのは、YOSHIKI作曲によるデビュー曲「Imitation Rain」のイントロ。繊細なピアノの旋律に導かれるように、彼らの表情も引き締まり、切なくも、覚悟の滲む歌声が会場に広がる。メンバー、観客が改めて、彼らの原点へと誘われたところで始まったのが、アルバム『1ST』の1曲目「ST」だ。

デビュー前から圧倒的な人気を誇り、2020年1月にCDデビューを果たした彼ら。デビューシングルの売り上げはミリオン達成、同年末には「第71回NHK紅白歌合戦」に出演するなど、完璧なスター街道をまっすぐに歩いて、いや、駆け抜けてきた。しかし「1ST」と冠された1stアルバムの最初で、6人は<完璧だなんて間違ったって思うな>と歌う。それまで楽曲にあわせて色気やクールさを纏いパフォーマンスしてきた彼らだが、「ST」ではラウドなサウンドに乗せて、等身大の彼らの感情が爆発。その力強さには目と心を奪われる。楽曲を自分のものにするSixTONESと、自身の感情をさらけ出すSixTONES。どちらも見られるのが、彼らのステージなのだ。
なお、メンバーいわく「SixTONES史上最“叫”キラーチューン」だという「ST」、ドラムを担当しているのは元tricotのメンバーで、現在はSUGIZO(LUNA SEA、X JAPAN)や清春のサポートメンバーとして活躍するkomakiだということも書き加えておく。そしてアンコールの最後に披露された「この星のHIKARI」は、彼らがSixTONESとして初めて託されたオリジナル曲。自身の楽曲だけで構成された初めてのライブを、初めてのオリジナル曲で締めくくるストーリーはあまりにもドラマティックだ。

またジャニーズという、コンサート制作において国内トップレベルの事務所が手がけるライブセットを堪能できるのも見どころの一つ。ド派手な特効はもちろんだが、今回は花道が天井から降りてくるという大規模な演出で観客を驚かせた。またラテン調でセクシーな「Bella」では、メンバーがカラフルなレーザーで囲われるという演出が楽曲を盛り上げる。彼らはデビュー前にもアリーナ規模で単独公演を行なっているが、レーザーを使うのは今回が初めてだという。
「いつかレーザーを使ってみたい」と話していたそうで、今回ようやく叶った形だ。デビューしたばかりのグループの舞台でも1曲たりとも同じステージングや照明がないのは、エンタテインメントの最高峰・ジャニーズならではだろう。

笑顔で手を振りながら花道を歩いたり、ファンとコミュニケーションしながらトロッコに乗ったりと、いわゆる“ファンサ曲”の割合がかなり少なく、楽曲の世界観を表現することに徹した「on eST」。彼らの表現者としての覚悟を見た公演であることは間違いないが、コロナ禍であることも考慮した上での演出だったということは追記しておきたい。彼らはファン(「team SixTONES」)を信頼していて、team SixTONESの歓声や歌声を欲していることは間違いない。team SixTONESとの信頼関係は、観客は声が出せず、メンバーもいつものようには客席に近づくことのできない今回のツアーでも随所に見られる。例えばジェシーと田中のユニット曲「EXTRA VIP」。SixTONESには一人ひとりにメンバーカラーが決められており、ファンは自身のペンライトを推しのメンバーカラーにして点灯させる。しかし「EXTRA VIP」では髙地の誘導により、田中側のファンは田中のメンバーカラーである青に、ジェシー側のファンはジェシーのメンバーカラーである赤に点灯。客席がくっきりと2色に彩られる様を演出と呼ばずになんと呼ぶのだろう。演出をもファンに託す。そんな彼らが、アイドルの笑顔を封印して楽曲を表現するパフォーマンスに振り切ることができるのは、それこそファンとの信頼関係が築き上げたものだと言っても過言ではない。

ちなみに、SixTONESはシングル、アルバム共に、リリースする楽曲についてメンバーがかなり意見するという。『1ST』にはワイルドなラウドチューンやトレンドを意識したチルなヒップヒップなど、ジャニーズとしては異端な楽曲群が並んでいる。ジャニーズのアイドルが好きだという髙地が「多数決で5対1になることもある」と冗談交じりに語っていたが、SixTONESのこのジャニーズとしては異端な音楽性は、作られたものではなく、6人が自ら作り出しているものなのだ。今回のツアー、「SixTONESのオールナイトニッポンサタデースペシャル」のリスナーも含め、会場には男性ファンも多かったと聞く。彼らの音楽に対する実直な姿は、これからもさらに多くの人の心を掴んでいくことは間違いないだろう。

INFORMATION

SixTONES 『on eST』 VIDEO

2021年10月20日リリース
https://sixtones.lnk.to/LIVE_oneST_1020

https://www.sixtones.jp/


通常盤

初回盤

POPULAR