MUSIC 2022.06.22

Interview:The Hideout Studios
ふたりのプロデューサーが提示する近未来の音楽

Photography_Hiroki Asano、 Text&Edit_Mizuki Kanno
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

Survive Said The ProphetYoshMade in MeDAIKIによる音楽プロジェクトThe Hideout Studios。これまで、水面下で活動を続けてきた同プロジェクトが、デビューEP『Concrete』を引っ提げ、遂に音楽シーンに狼煙をあげる。ロックバンドのボーカルとドラムとして知られるふたりがプロデューサーとして音楽と対峙したとき、その可能性は無限の広がりをみせ、世界をも捉えはじめた。音楽への情熱を原動力に走り続けるYoshとDAIKIの“隠れ家”で、ふたりがThe Hideout Studiosに託した想いを聞いた。

「プロデューサーという存在の
認知を広めるために」ーYosh

ーまずはおふたりの出会いから、The Hideout Studios結成の経緯を教えてください。

DAIKI:初めて出会ったのは2009年頃かな。当時、僕は大阪を拠点にバンド活動をしていて、Yoshはアメリカから帰国して、Survive Said The Prophet(以下、サバプロ)ではない別のバンドをはじめたばかりで。そのYoshのバンドと大阪で対バンしたのをきっかけに、よく遊ぶようになりました。当時から、僕はプロデューサーとしてもやっていきたい構想があって、Yoshにもよく相談していたので、僕が東京に上京してきてからは、自然と一緒に曲を作るようになりました。徐々に曲のストックが増えて、他のアーティストへの楽曲提供もするようになって。

Yosh:DAIKIと出会った当時、僕は音楽の可能性をもっと広げていきたいというビジョンは抱いていたものの、自分たちのフィールド以外の音楽にまで視野を広げるには、金銭的にも時間的にも厳しくて。なのでDAIKIとは、当時はまだ夢物語として、音楽について語り合っていました。2018年頃から、The Hideout Studiosの原型となる動きはしていましたが、並行してサバプロの活動が忙しくなってきて、僕の中で最初にサバプロとしての成功を感じたタイミングでした。ただ、そこで、”安定”ではなく”冒険”を続けることにしたんです。日本では作れない音を求めて海外に行ったり、自分のスタジオを作って機材を揃えることに力を注いだり。そして、日本では前例のないプロデューサーという存在を認知させたい、グローバルで勝負する曲を作りたいというDAIKIと僕の理想がクロスするポイントも見つかったので、プロデューサー × プロデューサーとして、一緒に曲を作っていくことになりました。

ーいつもどのようにおふたりで、楽曲制作を進めているんですか?

DAIKI:Yoshがインストの楽曲に歌を入れて作ったデモを、僕がアレンジして広げたり、その逆もしかり。ふたりでなんとなくセッションしながら生まれる曲もありますし、プロデューサー同士だけど、案外いいバランスで曲ができています。

Yosh:DAIKIが何をしてくるのか、どんなアイディアを持ってくるのか。それが楽しみでもあるんですよね。自分の領域を超えたレベルをお互いが出し合えないと、満足する音楽は生まれないので。

DAIKI:あとは、Yoshとのこれまでの関係性が、楽曲制作にも活かされているんだと思います。トラックを作っていると、ボーカルに勝ちたくなる瞬間があるんですよね(笑)。お客さんは“ボーカルの曲”として音楽を聴くことが多いから、そこに違和感を与えたいと思っています。そのバランスだったりは、Yoshと長く一緒に曲を作ってきたからこそ、わかる感覚。曲作りをする上で、いい意味で、会話を交わすことが減ってきたので。お互いの“ちょうどいい”が、感覚で理解できるようになりました。

ーThe Hideout Studiosというプロジェクト名の由来は?

Yosh:サバプロのボーカルである以上、ファンの方にとって、それが僕という人間の全てであるかのように映っていると思うんですよね。だけど、みんなの前に立っている自分と本当の自分には、実は乖離があって。そのバランスを保つために、ひとりになりたいことが多々ありました。そんなとき、サバプロのIvan(Gt)に「本当のYoshは、陰に隠れていたいタイプの人間であることをオレは知っている」と言われて、自分がひとりの時間を大切にしている理由が明確になりました。とにかく“隠れ家”が欲しかったんですよね。そこにいるときは、本当の自分になれるので、篭って好きな音楽を作る。それが、自分の求めていたことであり、このプロジェクトのコンセプトです。僕の左腕に入っているタトゥーが、The Hideout Studiosのロゴで、まさに、このコンセプトが表現されていると思います。

Yosh(Survive Said The Prophet)

Yosh:自分のミッションとして、“サバプロのYoshが作った音楽”ではなく、街中でばったり出会った音楽であってほしいというのがあって。それはThe Hideout Studiosのもうひとつの意味でもあります。買い物をしているときに、ふと流れてきた音楽をシャザムして、そこからどんどん掘り下げて、僕らの作品やルーツとなる音楽にまで辿り着くような、その人のカルチャーを作る音楽でありたい。僕ら自身も好きなアーティストからいろんなことを学んだので、トレンドだけを追うのではなく、自分だけの音楽のバックグラウンドを持っていてほしい、そのきっかけを作るプロジェクトになったらいいなと思っています。

DAIKI:“誰”が歌っているかよりも、“何”を歌っているかにフォーカスされる音楽でありたいですね。自分はそうやって音楽と出会ってきたので。The Hideout Studiosにどうやってみんながアクセスするのか、僕ら自身はどうやってこのプロジェクトを届けていくのか。一種の実験のような活動ですね。

DAIKI(Made in Me)

ーおふたりがこれまでに作ってきた楽曲と、新たに書き下ろした曲が収録されたデビューEP『Concrete』は、東京以外にもLAや沖縄など、さまざまな場所で制作された楽曲が収録されていますよね。

Yosh:2019年にThe Hideout Studiosが始動したばかりの頃は、月に1〜2曲くらいリリースしていく計画でしたが、すぐにコロナによってストップボタンが押されてしまいました。その頃、僕らは沖縄にいて。僕らの活動のコンセプトのひとつに、東京とは違うロケーションからインプットを得て、それを音として表現するというのがあったので、沖縄で制作を行っていました。

DAIKI:イギリスの音楽ってどこか湿ってる感じがするよね、みたいな感覚を、実際に体感したくて。タイミング的に海外は難しかったので、それなら国内で、東京とはもっともかけ離れた沖縄で行いました。

Yosh:『Concrete』は僕らのキャリアの中で、1番試行錯誤を繰り返した作品になったと思います。沖縄で作った曲も東京に帰ってきてから新たに音を重ねて、また違う可能性を見出したり。コロナによってリリースができなかったからこそ、何回も振り返ることができた作品です。

ー実際の制作活動以外にも、コロナによってもたらされた心の変化みたいなのは感じましたか?

DAIKI:個人的には、ある意味チャンスだなと感じていた部分もあって。今まではお金や権力がないと戦えなかった部分も、コロナによって全員がフラットな視点を持ったことで、アイディアだけで勝負できる時代がきたと思いました。なので、世界が停止していた頃、とにかくたくさん曲を作っていました。3曲目に収録されている「Dejavu」は、コロナが猛威を奮い始めた頃に流行ったSNSの「#うたつなぎ」企画をきっかけに作った曲なんです。アーティスト同士でバトンを繋ぎ、カバーやアコースティックアレンジなどをしていくんですけど、それだけじゃ面白くないなと思って。どうせなら新しい曲を作りたいなと。

Yosh:The BONEZのJESSEがタグつけしてきたんだよね。The BONEZはその企画で、新曲のデモを披露していて。これはやられたなと思ったんですよ。だから気合を入れて、僕らも一日で新曲を作りました。

DAIKI:この曲がひとつのきっかけになって、ここからどんどん新曲が増えていって、EPのアウトラインが見えてきた感じがしました。「Dejavu」の影響が大きいですね。

ーラップをするYoshさんも新鮮な作品でした。

Yosh:DAIKIの押しに負けて挑戦してみたら、めっちゃいいと思うって言ってくれたので、彼が自信をくれて。

「根底には、ロックを長生きさせたいという想いがある」ーDAIKI

ーラップが取り入れられていたり、MIGHTY CROWNのSAMI-Tとの共演もあったり、そもそもデジタルサウンドがベースだったりと、普段ロックバンドとして活躍するおふたりとは、全く異なる表現が提示された作品であり、プロジェクトですよね。

DAIKI:バンド活動の中で作曲をしていたときは、自分が再現できる音の範囲で曲作りを行っていましたが、DTMを触るようになってからは、そこのリミットがなくなったので、もう楽しくて(笑)。そもそも僕は、ロックを長生きさせるためにデジタルを取り入れていて。時代は常に変わっていくし、若い子たちはもっとパソコンを使いこなして、新しいサウンドを作っていくと思うんです。アナログな環境下でレコーディングをしてきた自分たちが、デジタルを理解して、そこにロックを融合させることで、ロックサウンドの可能性も広げられたらいいなと。歪んでいるギターの音は大好きですが、それを改めてみんなにも愛してもらうためには、従来のロックサウンドだけに囚われている必要はないので。

Yosh:DAIKIが最初にやっていたバンドはレゲェパンクで、『Concrete』の一曲目でSAMI-Tに参加してもらったことにも意味があって。レゲエもロックのいとこだし、どんなジャンルの音楽も全部繋がっているんですよね。バンドマンである僕らがDTMを触ることで、自由な音楽が表現できたらいいなと思います。あとは、最近、DAIKIの英語力が上がったことで、言葉のニュアンスに合わせた音の調整ができるようになり、楽曲もさらに深みのあるものへと進化していきました。LAに一緒に行ったときに、僕がいないところで、DAIKIがさまざまな国の音楽家とスタジオセッションをしていて。DAIKIの“音楽を届けたい”という気持ちには、リミットがないんだなと思いました。EPの先行配信シングル「False Alarm」は日本、アメリカに続き、メキシコやエルサルバドルで多く聞かれていて。僕らのストーリーが始まってきていることを実感しました。

ーその最初のEPである『Concrete』は、改めてどんな作品になったと思いますか?

DAIKI:昔から大事にしてきた曲も入っているので、まずはこれを聞いて、次を楽しみにしてほしい。作っている僕らからしたら、もうすでに次が楽しみで堪らなくなっているので、早くそれを共有できたらと思います。

Yosh:こんなにも音楽が好きだったんだっていうのを、思い出させてくれた作品です。バンドで言うと、同じ曲を何百回演奏しても飽きないですが、それと同じで、同じ曲を何回作り上げても、また新しいアイディアをDAIKIは持ってきてくれるし、もっといい曲にするために頑張る楽しみを思い出させてもらいました。ここがスタートだって思えることに、すごくワクワクしています。

ー最後に、今スタートを切ったばかりのおふたりが目指す未来を教えてください。

Yosh:ビーツ・エレクトロニクスを作ったドクター・ドレーと、インタースコープ・レコードの創業者であるジミー・アイオヴィンという人物がいて。純粋に音楽を愛するふたりが、ヘッドフォンカンパニーを作るに至るって夢がありますよね。自分自身もミュージシャンとして名を馳せ、エミネムや50セントを世に紹介したドクター・ドレーは、プロデューサーの概念を大きく変えた人物であり、とても尊敬しています。クインシー・ジョーンズやデイヴィッド・フォスターもそう。僕らもプロデューサーとして、彼らのように世界的に認められる存在になりたいですね。

DAIKI:日本は、まだまだ僕らの文脈で言うところのプロデューサーが根付いていない国なので、僕らがそれを届ける必要があると思っています。DTMが常識になりつつある未来は、近くまで迫ってきているので、若い世代の道標になるような、新しい音楽を生み出し続けて行きたいですね。

INFORMATION

『Concrete』
ーThe Hideout Studios

2022.06.22 Release
Instagram:@thehideoutstudiosjpn
YouTube:
https://www.youtube.com/channel/UCpQRccJ32woqUSXYGRFby-Q

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