MUSIC 2022.09.04

Review: ポルノグラフィティのニューアルバム『暁』に見る新たな表現と時代の移ろい

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Text_Chie Kobayashi

ポルノグラフィティが8月3日に12枚目のオリジナルフルアルバム「暁」をリリースした。前作「BUTTERFLY EFFECT」から5年ぶりのオリジナルアルバムだ。タイトルの「暁」には、“コロナ禍で暗くなっている世の中を少しでも明るく照らせたら”という想いも込められているのだが、新たなフェーズに入った彼らの、次の一歩を示唆する意味も込められているように感じる。

「暁」は前作「BUTTERFLY EFFECT」から5年ぶりのオリジナルアルバム。この5年の間に世の中を未曾有の疫病が襲った。しかしこのアルバムにはもちろん、コロナ禍以前、メジャーデビュー 20周年を迎える前に発表されていた既発曲も収録されている。社会が一転したのはもちろん、ポルノグラフィティとしても変化しているタイミングでの、変化前後の楽曲を1枚にパッケージするという難しさは想像に容易い。実際に「暁」リリースに際したインタビューで新藤は「全体的にコンセプトが一貫した作品にまとめることは難しいだろうなと思った」と話している。しかし、彼らは音楽に向き合う真摯な姿勢と多彩なソングライティング力で、見事1枚にまとめ上げた。

今作では全曲の作詞を新藤晴一が担当。また岡野昭仁は一部の楽曲を共作でトラックメイクをするという、楽曲との関わり方にも変化が生まれた。アルバムの幕開けを飾る「暁」は、まさに、岡野がtasukuと共作した楽曲。マイナー調のロックナンバーというポルノグラフィティらしい楽曲でありながら、音域の広さは岡野の限界を突破するがごとく。これまでよりも広くなっている音域を取り入れられたのは、第三者が入ったからこそだろう。同曲はすでにテレビ番組などで何度も披露され、力強くも優しさを称えた岡野の美声はお茶の間にもしっかり届いている。また一見強い口調で綴られている歌詞だが、<弱き者よ どれほど待っている? 暁>というサビのラインには、ポルノグラフィティも“弱き者”として私たちと共に、暁——混沌としている現在に希望の光、を待ち望んでいるように感じてしまう。先頭に立って引っ張っていくというよりも、共に暁を待っている者として、一緒に戦ってくれている。そう感じてしまうのは言葉の力ももちろんあるが、先述した岡野の高音ギリギリのボーカルから生み出される必死さからも生まれているように思う。改めて新藤晴一と岡野昭仁というふたりの音楽家の相性の良さを噛みしめる1曲だ。

「暁」で幕を開けたアルバムは、2018年にリリースされたドラマ「ホリデイラブ」の主題歌「カメレオン・レンズ」、新始動の始まりを告げた「テーマソング」、ゴシックの世界観で描かれた新曲「悪霊少女」、リリース直後から話題を呼んだヘヴィロックチューン「Zombies are standing out」と、既発曲と新曲が違和感なく並ぶ。中でも「カメレオン・レンズ」はドラマの主題歌として書き下ろされた楽曲で、当時のポルノグラフィティの新境地とも言える楽曲だったが、4年後にはすっかり馴染んでいるところから、ポルノグラフィティが日々進化を止めていないことがよくわかる。

中盤「ナンバー」「バトロワ・ゲームズ」と、トオミヨウがアレンジを手がけた2曲が続くが、この2曲、まったく様相が異なるから面白い。「ナンバー」は作曲を岡野、編曲をトオミが担当。雄大なサウンドにおとぎ話のような歌詞が乗る。(ところで“数字が盗まれる”という歌詞を深読みしてしまったのは私だけだろうか。)対して「バトロワ・ゲームズ」はシティポップサウンドに乗せ、オンラインのバトロワゲームに興じる人物の心情を描いたユーモア溢れる1曲。<ヘッドセット外した現実の朝(中略)血走った赤い目が見ている世界線はどっち>という歌詞に共感を覚えるリスナーも多いのではないだろうか。こちらも編曲をトオミが担当しているが、作曲は岡野とトオミのふたり。まさかシティポップに乗せて、オンラインゲームユーザーの心情が歌われるなんて誰が予測しただろう。「トレンドだから」という気持ちだけで取り入れるのではなく、真っ向からとシティポップサウンドと向き合い、噛み砕き、自分たちのものにしていく。彼らが多彩さを手に入れ、すべてを武器に変えていけるのは、その柔軟で真摯な姿勢があるからこそ。

後半も、映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」主題歌「フラワー」、「劇場版ポケットモンスターみんなの物語」主題歌「ブレス」、テレビアニメ「MIX」のオープニングテーマ「VS」と、タイアップ曲として書き下ろされた楽曲の中に新曲が並ぶ。「メビウス」「You are my Queen」「ジルダ」はtasukuが、「クラウド」はお馴染みの宗本康兵が、「証言」にはこちらもポルノグラフィティ楽曲では常連の江口亮がそれぞれアレンジャーとして参加。ポルノグラフィティを知り尽くしているからこそアレンジャーの個性も感じられる編曲が施され、楽曲の幅をさらに広げている。歌詞世界も、失恋をインターネット上の“クラウド”をテーマにして歌ったり(「クラウド」)、オペラの世界観を日常に手繰り寄せたり(「ジルダ」)、どこまでも幅広い。冒頭で「変化しているタイミングでの楽曲を1枚にパッケージするという難しさは想像に容易い」と書いたが、それでも1枚にまとめあげられたのは、歌詞世界もサウンドもメロディも、すべてが多彩で自由で柔軟だからこそだろう。そしてポルノグラフィティの多彩さは、年々アップデートされ、年々幅が広くなっているから恐ろしいのである。

ちなみに自身のnoteでたびたび観劇の感想を綴るほど、新藤は観劇好き。だからこそ「ジルダ」のような歌詞が生まれたのだろうと私は推測しているのだが、現在、彼はミュージカル用の物語も執筆しているという。本当に、どこまでも挑戦をし続ける人たちである。

アルバムリリース後の8月5日には「ミュージックステーション」に出演し、アルバムの表題曲「暁」と共に、2003年のリリース以来の人気曲「メリッサ」をパフォーマンスしたことも大いに話題になった。番組では、かねてよりポルノグラフィティのファンであることを公言してきたKing Gnuの井口理が学生時代、初恋の人に向けて「メリッサ」を歌唱していたエピソードを披露(「切り裂いて」という歌詞が、井口少年の初恋をも切り裂いたという悲しいオチ付き)。また同じく長年ポルノグラフィティのファンであるOfficial髭男dismの小笹大輔は、新藤と共にギターを買いに行ったエピソードを明かした。ポルノグラフィティが、若いアーティストにも影響を与え続けているその魅力は、デビューから20年以上経っても挑戦し続け、感性を磨き続けている、その姿勢にほかならない。

さらには、このアルバム、収録曲全曲のMVとそのストーリーを紡ぐショートフィルムで構成された「Visual Album”暁”」たるものも制作され、その映像作品は映画館で上映された。しかも曲順もアルバムとはまったく異なる。監督はクリエイティブ集団・kidzfrmnowhereの創設者、YUANN。楽曲のみならず、楽曲の表現方法や発信方法にも常に新しいものを追い求めるポルノグラフィティ。9月5日の「CDTVライブ!ライブ!」出演も期待される彼らの新章の“暁”は、もうやってきている。

INFORMATION

ニューアルバム『暁』

発売中
初回生産限定盤A(CD+BD) SECL-2773~2774:¥5,500(税込)
初回生産限定盤B(CD+DVD) SECL-2775~2776:¥5,000(税込)
通常盤SECL-2777:¥3,300(税込)

<収録楽曲>
1.暁
2.カメレオン・レンズ
3.テーマソング
4.悪霊少女
5.Zombies are standing out
6.ナンバー
7.バトロワ・ゲームズ
8.メビウス
9.You are my Queen
10.フラワー
11.ブレス
12.クラウド
13.ジルダ
14.証言
15.VS

<映像特典>※初回盤A・B共通
STUDIO SESSION〜稀・ポルノグラフィティ〜
これまでライヴで演奏したことがない楽曲から、厳選した数曲をスタジオセッションして収録
「Stand for one’s wish」「むかいあわせ」「オニオンスープ」「サマーページ」

Video Clips(「ブレス」「Zombies are standing out」「フラワー」「テーマソング」)

TOUR:18th ライヴサーキット“暁”
9月22日(木)から全国25箇所・29公演を廻る、18th ライヴサーキット“暁”の開催が決定!
ツアー最終公演は、約8年ぶりとなる日本武道館での2DAYS。

https://www.pornograffitti.jp/
https://www.instagram.com/pg_staff/

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