MUSIC 2026.07.18

Live Report:Suchmosが切り拓いた道は、その先の未来へと続いていく Fujii Kazeを迎えた〈The Blow Your Mind TOUR 2026〉ファイナル公演

Text_Shoichi Miyake,Photography_Tomoyuki Kawakami, Yosuke Kamiyama
EYESCREAM編集部

「バラバラ、最高だよね」

ツアーファイナルのMCで、YONCEはこれまでの対バン相手9組をそう総括した。世代もジャンルも異なる音楽と交わり続けた約2カ月、全国9都市18公演。その旅が証明したものを、これほど端的に言い当てた言葉はないはずだ。

そして、7月2日、Zepp Haneda。ゲストにFujii Kazeを迎えた〈Suchmos The Blow Your Mind TOUR 2026〉のファイナル公演は、この一言の意味を全身で体感する一夜だった。

IO、GLIM SPANKY、くるり、長岡亮介、cero、ハナレグミ、GRAPEVINE、The Birthday。

2020年に構想されながらパンデミックに阻まれ、6年越しに実現したこのツアーには、まさしくバラバラな音楽性と生き方を持つ9組が集った。その最後を締めたのが、現在の日本のポップミュージックを更新し続けるFujii Kazeだったことは、単なる豪華なブッキング以上の意味を帯びていた。

会場BGMのコリーヌ・ベイリー・レイ「Green Aphrodisiac」が流れるなか、大仰な登場SEへの切り替えすらないまま、Jun Miyakawa(Key.)、Duran(Gt.)、KOBY SHY(Ba.)、Saji Norihide(Dr.)がステージに現れる。

「何なんw」のコーラスが流れ、Fujii Kazeが姿を見せた。中央のライザーに据えられたピアノの後ろへ回り込み、立ったまま鍵盤を鳴らす。TシャツとロンTの重ね着にトラックパンツ、ビーニーというストリートスタイルは、Suchmosがシーンに持ち込んだ装いの記憶と地続きのものに映った。「それは何なん」の大合唱を浴びながら、伸びやかなボーカルが自由そのものといった風情で泳いでいく。

「もうええわ」「死ぬのがいいわ」「まつり」まで、序盤4曲はシームレスに繋がれた。
ピアノのジャジーなコードワーク、タイトなリズム隊、抑制の効いたギター、ライブハウス仕様の”普段着”のアンサンブルだ。アリーナやスタジアムの彼ではなく、バンドマンとしてのFujii Kazeがそこにいた。
一気に4曲を駆け抜けたあとのMCで、彼は自らを「前座」と呼んだ。

「SuchmosのThe Blow Your Mind TOURにお招きいただきまして、前座を務めさせていただきますFujii Kazeバンドです」

そして続けた。

「Suchmosが出てきた頃、私は岡山のただの青年でしたからね。Suchmosがマジで日本の音楽を一気にオシャレにした人たちだと思っていて。私もそれに乗らせてもらった一人です」
極めつけは「何よりの共通点は同じCMソングをやってるということです。それでは、聴いてください『STAY TUNE』」と、かまして「きらり」へ雪崩れ込むユーモアだ。敬意と茶目っ気を等しく差し出せる人間だけが持つ、風通しの良さがあった。

その「きらり」では、音源のアレンジから解き放たれたバンドが会話するように音を交わし、粘度の高いベースが多幸感を押し上げる。さらに驚かされたのが「旅路」だ。ギターのフィードバックノイズを合図に、原曲の穏やかさを脱ぎ捨て、ロック然としたラフさを謳歌するアレンジへと一変。ささくれたギターストロークと疾走する、ラフでありながら随所に洗練されたアンサンブルの佇まいには、どこか東京事変の残像がよぎった。

「This Song For You」と捧げた「You」のメロウでオーセンティックなソウル。そして「Okay, Goodbye」。
70年代のレコードと言われても、たった今生まれたばかりと言われても信じてしまうこの曲の佇まいこそ、彼の楽曲の強さの証明だろう。

「何事も終わりがきます。こうやって一瞬、一瞬、大事にして、小さなことにも感謝して」

その言葉には、音楽は時を超える、だからこそ一瞬を慈しむ、という彼の思想が顕著に表れていたように思う。
ラストの「Prema」では「みなさんにも歌ってほしいんです」とコール&レスポンスを促し、最後は鍵盤に右の拳を叩きつけて演奏を締め、茶目っ気たっぷりのお辞儀を残してステージを去った。彼の音楽と人間性に満ちるヒューマニズムを、まるごと浴びるようなステージだった。

そしてSuchmos。
アンビエント調の幻想的なSEと赤いライティングのなか6人が現れ、波音から立ち上がる「Pacific」で夜を開いた。

「こんばんは、Suchmosです。お好きにどうぞ!」と咆哮する、YONCE。
郷愁を誘うエレピ、レイドバックしたアンサンブル、ブルージーに歌うギターソロ。夕陽に目を細めるようなまどろみから、跳ねたドラムフィルを合図に「MINT」へ。ここで気づかされる。YONCEのボーカルが、初日と比べて明らかに太くなっている。バンドのグルーヴも同様だ。9組の異なる音楽と交わり続けた2カ月弱が、このバンドを確実に更新した。初日にも感じたバンドとしての強度は、ツアーを経て確信へ変わった。

「Alright」では濃厚なファンクネスが一気に場の温度を引き上げ、ギターのTAIKINGとベースの山本連が前線に出てオーディエンスを煽る。「金は全能か?」と問うリリックが、快楽的なグルーヴに乗って響く。レベルミュージックでありグルーヴミュージックであること——この両立こそがSuchmosの流儀だ。

YONCEの「ツアーファイナルです、ぶっ倒れないようによろしく」の一言から突入した「DUMBO」では、ソリッドな爆発力で畳みかけ、TAIKINGが荒々しくもキレのあるギターリフを弾き倒して締める。

このとき2階バルコニーの通路では、Fujii Kazeとバンドメンバーが踊りまくっていた。ホストの音楽にゲストが身体で応える。この光景自体が、本ツアーの本質の縮図だった。

「Whole of Flower」ではYONCEが「オン・キーボード、櫻打泰平」とコールし、TAIHEIが流麗でエレガントなソロを披露。OKのドラムの力強さがとにかく印象的で、再始動後初の新曲だったこの楽曲が、すでにスタンダードの風格を纏っていることに驚かされる。バンド初のウェディングソングである「Marry」では、ロングトーンのギターの向こうで、YONCEの歌そのものの力が立ち上がり、Kaiki Oharaの細やかなSEワークが楽曲の輪郭を彩った。

そのあとのMCで、冒頭に引いた言葉が飛び出す。招いたアーティストたちのライブを間近で観てきたと明かした上で、YONCEは「バラバラすぎて超面白かったですよ。バラバラ最高だよねということをいいたいと思います」と笑い、こう続けた。

「この地球という星はいかにバラバラかにかかってると俺は思います」

9組の音楽性がバラバラであること、それ自体への祝福。多様性という手垢のついた言葉を使わずに、その核心を突く言葉だった。「ここから過激な表現が続きますが、お付き合いください」という予告から、ライブは深部へ潜っていく。

まず特筆したいのは「STAY TUNE」——イントロのロングトーンのシンセに、なんと音頭ビートが重なり、YONCEが「アッ、ソレ!」とあのサビを音頭調に歌い上げる、あまりにぶっ飛んだアレンジだ。バンドの代表曲を現在の遊び場として扱うこの大胆さに、今のSuchmosのマインドが凝縮されている。
ちなみにバルコニーのFujii Kazeは、やはり踊り続けていた。

さらなる圧巻は「GAGA」だった。サイケデリックな音像のなか、YONCEはあらゆる境遇の人間を挙げながら「DANCE Your DANCE」と繰り返す。

「搾取してるやつ、DANCE Your DANCE」「搾取されてるやつも! DANCE Your DANCE」「幸せ者、DANCE Your DANCE」「もうくたびれてるやつ、DANCE Your DANCE!」

音楽で踊る時、人は少なくとも並列である——Suchmosの核心が剥き出しになった瞬間だ。サイケデリックテクノを昇華したようなドープな長い間奏でYONCEは、「休むのもDANCE!」とも叫んだ。踊れない者も、踊らない者も、排除しない。本編は低音の唸る「VOLT-AGE」で、カオスと美しさが同居したまま幕を閉じた。

アンコール。

「気の利いた何かを言おうと思ったんですけど、忘れたので、思い出しタイムに入ろうと思います」というYONCEの一言からフリーなブルースセッションが始まり、「すいません、思い出せませ〜ん!」と即興で歌にしてしまう自由さに場内が沸く。

「さしずめ、音楽界の大谷翔平、紹介します、Fujii Kaze!」の呼び込みで、この夜のハイライトへ。

「Miree」にFujii Kazeが客演する。1番をYONCE、2番をFujii Kazeが歌い、二人のハーモニーが重なる。TAIKINGが「青春病」のフレーズをギターに織り込むと、Fujii Kazeが歌でそれに応えた。不思議なほど違和感がない。最初からそこにあったかのような自然さと、二度と再現できない一回性。その両方が同居する時間こそ、音楽の交歓と呼ぶべきものだろう。
曲後、YONCEは語り始めた。岡山のティーンエイジャーだったFujii KazeにSuchmosの音楽が届き、とんでもないスケールの人物が現れたこと。

「そういう人たちの入り口になれてることが本当に誇らしいと思います。人は、いろんな入り口を通って何かを見つけたり、なくしたりする──」

その言葉の先に「悠々自適にいこう、という曲です」と紹介された最後の「Life Easy」。
“Faith is the key. 信じることが真実さ 誰のためでもなく 自分のために生きよう”というリリックが印象的に浮かび上がるなか、さらにYONCEはインプロビゼーションでこう歌った。

「楽しませてくれてありがとう。また会おうね。全部、やるぜ。いいこと、悪いこと、全部やるぜ。その先で会おうぜ」

そして演奏をバックに、ツアーを支えたスタッフへの大きな拍手を求めて、6人はステージを去った。
フェスの祝祭でもアリーナのスケールでもなく、対バンライブハウスツアーで、Suchmosは9組の音楽と交わり、自らを更新し続けた。競い合うのではなく、接続すること。全9組との交歓を経て、SuchmosはSuchmosを、音楽でまた先の未来へ繋いだ。ライブハウスから始まったバンドが、ライブハウスから次のフェイズへ進んでいく。ふと、かつてSuchmosが掲げたあの言葉をまた思い出す。

変わりつづける。変わらずにいるために──。

INFORMATION

『Suchmos BAY SIDE TOUR 2027』

https://w.pia.jp/t/suchmos-tour2027/

[2027年]
03/13(土)宮城・ゼビオアリーナ仙台
03/14(日)宮城・ゼビオアリーナ仙台
04/16(金)福岡・マリンメッセ福岡B館
04/17(土)福岡・マリンメッセ福岡B館
04/24(土)神奈川・Kアリーナ横浜
04/25(日)神奈川・Kアリーナ横浜
05/01(土)兵庫・GLION ARENA KOBE
05/02(日)兵庫・GLION ARENA KOBE

※お一人様4枚まで購入可能。
※小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)、大人1名につき子供1名まで膝上可。但し座席が必要な場合はチケット必要。

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