MUSIC 2024.07.12

Review:謎につつまれたボーイズグループ ONE OR EIGHTについて

Text_Tsuyachan.
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

6月20日、とある一本の動画が公開された。ONE OR EIGHTと名乗る8人グループ、「KAWASAKI」というタイトルのパフォーマンスビデオ。SNSでは次々と動画に言及するポストが投稿され、その中にはALPHAZ(=XGのファン) やBESTY(=BE:FIRSTのファン)、 iLYs(=Number_iのファン)を名乗るアカウントも多く目につく。2分13秒という短い尺の動画ながら、楽曲やダンスについてのクオリティを絶賛する声が止まない。すでに海外でもたくさんのリアクション動画がアップされ、その魅力についてさまざまな角度から分析がなされている。

と同時に、オーディションプログラム「WARPs DIG」を観ていた人たちからは、瞬く間に数々の情報が寄せられた。SOUMA、NEO、TSUBASA……ボーイズグループのコアなファンであれば、次世代の才能としてすでに注目していた逸材ばかりだ。以上の情報を踏まえると、このグループが、どういったプロジェクトのもとで極秘に進められていたかはある程度察しがつく。しかし、そのあたりも含めて、まだ公式からのアナウンスはない。今あるのは、圧倒的なスキルを見せつけてくる動画と、各種SNSに少しずつポストされはじめているメンバーのグラフィックのみだ。

筆者も、それ以上の情報は得ることができていない。だが、「KAWASAKI」の動画を観ていると、さまざまな想像力が刺激され深読みをしたくなってくる。ボーイズグループ戦国時代のいま、ONE OR EIGHTはどのようなオリジナリティをもって私たちに夢を見せてくれようとしているのだろう――そのヒントを探りたくなってくるのだ。

まず、気になるのは「KAWASAKI」というタイトルだろう。楽曲でエンジン音が挿入されていることからも分かる通り、この固有名詞はバイクのKAWASAKIを指していると考えてよさそうだ。同時に、サウンドの方向性からはヒップホップにゆかりのある街・川崎も想起される。日本発で世界に名を轟かす〈KAWASAKI〉と、ヒップホップならではの不良性やヤンチャな気質という〈川崎〉で、ダブルミーニングを狙っているのかもしれない。一方、動画では、シンメトリーな構図で背景に富士山が捉えられるのも印象的だ。こちらは、〈格式〉や〈日本一〉といった象徴的な意味合いを狙っているのだろうか。何にせよ、ここでは明確に「ジャパンメイド」というテーマが宣言されており、「日本を代表する」という強気な姿勢も掲げられているのだろうと解釈できる。細かいところでは、メンバーがY-3の衣装を着用している点も見逃せない。ちょうどサッカー日本代表とのコラボレーションが話題になったばかりのY-3だが、そういった側面でも、日本という出自をレペゼンしているように見える。昨今、BE:FIRST やJO1、Number_iといった、これまでにない新たな層に支持を広げているスキルフルなボーイズグループが次々と出てきているが、そういった面々との差別化として、日本的なモチーフに注力しようというスタンスなのかもしれない。

いっぽう楽曲はというと、これが非常に大胆なスタイルで攻めていて、面白い。近年ヒップホップシーンはじめ各所でトレンドになっているジャージークラブの軽快なリズムを基軸に、効果的なサンプリングを織りまぜつつ、間にトラップのドープなサウンドも披露。ミニマルなトラックで、贅肉を削ぎ落とした無駄のないセクシーさが漂う。さらに注目すべきは、DJ Smallz 732にLucien Parker、Bangs、GENT!、Xanseiといった面々がクレジットされているクリエイター陣だろう。DJ Smallz 732はCoi Leray「Players(Jersey Club Remix)」のヒットなどで知られる、ジャージークラブを多く手がけてきたプロデューサー。GENT!とBangsはDoja Cat「Agora Hills」に、それぞれプロデューサーとしてジョインしている作家で、Lucien Parkerはカニエ・ウェスト&タイ・ダラー・サインの「Stars」に、ソングライターとして参加している。さらには、XGを手がけたことで有名な日本人プロデューサー・Xanseiなど、皆がアメリカを拠点に活動する逸材ばかり。映像では日本発という象徴的なモチーフに随所でこだわりつつも、楽曲は、明確にグローバル志向だ。

その特徴は、ダンスにも投影されている。コレオグラフィーを担当しているのはNCTらを手がけるTaryn Chengだが、彼らが見せる、ジャージークラブのビートを体得しきったようなこなれたステップには驚愕するほかない。全身を使い小刻みに繊細な動きを表現するパフォーマンスからは、日本人らしいとも言える精緻な器用さが伝わってくる。このあたりも、ONE OR EIGHTの個性として今後さらにフィーチャーされていくのかもしれない。

以上、さまざまな面から謎めいたグループ・ONE OR EIGHTについて論じてきたが、最終的なアウトプットとしては、バッドボーイなストリート感を醸し出しているのが最大の魅力と言えよう。雑然とした空き倉庫の中で、KAWASAKIのバイクがズラリと並ぶロケーションを背景に、クールにダンスをキメる姿は痺れる。確かに、この方向性を突き詰めたボーイズグループはこれまでにいなかったかもしれない。執拗に繰り返される日本的モチーフと不良性が、今後どのようなケミストリーを生んでいくのか——。彼らの賭けを、今後も見守りたい。

P.S.
突如の出来事だった。上記のコラムを書いたあと、7/11にSOUMAによるラップパフォーマンスコンテンツ「Cash In Cash Out」が公開された。曲を聴き、これは触れなければならないと思い今急いで追記している。完全に不意打ちだったが、何より驚いたのは、この曲がリミックスだということだ。元ネタは、Pharrell Williamsが21 Savage、Tyler, The Creatorとともに2022年にリリースした曲「Cash In Cash Out」。ミニマルなビートに遊び心あふれるラップが乗った面白いナンバーだが、SOUMAは、表情豊かなフロウによって原曲をカラフルに料理している。特筆すべきは、完全に崩された日本語の発音と、ユニークな抑揚だろう。「自分なりにする贅沢/自由を感じる為に無計画/未来も楽しみ/けど今も楽しむ」あたりのラインに顕著だが、近年の国内ラッパーたちが試行錯誤し生み出してきたフロウを、完全に自分のものに消化しているのが分かる。なるほど、日本的モチーフと不良性を支えるのは、類いまれなるスキルということか。 ――まさに神出鬼没、もはや何が起こるか分からない。さあ、次はどう出てくる?

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