SixTONESがニューシングル「バリア」をリリースした。表題曲はジェシー主演の映画「お嬢と番犬くん」の主題歌で、大切な人を守りぬくという信念をダンサブルなバンドサウンドで体現したミクスチャーロック。初回盤には加えて「ABRACADABRA」という新曲が、通常盤には新曲「Snooze」「崩壊前夜」の2曲にさらに、「GONG」「ここに帰ってきて」のリミックスが収録される。彼らの表現力がたっぷり味わえる1作となったこのシングルをレビューする。
表題曲の「バリア」は、ジェシー主演の映画「お嬢と番犬くん」の主題歌。極道の孫娘を隠して学生生活を送るヒロイン・瀬名垣一咲と、彼女の“番犬”としてボディーガードを担うために学校に裏口入学してしまう若頭・宇藤啓弥の恋愛模様を描いた“溺愛ラブコメ”を彩る楽曲だ。
この曲の作詞作曲は、SixTONESの「君がいない」や「GONG」などを手がけたZembnal。<誰ひとり触れさせやしない><何ひとつ奪わせやしない><守りたい触れたいお前のすべて>と、大切な人をすべてのものから守るまさに“バリア”のような心境を、ダンサブルなバンドサウンドに乗せた。近年のライブツアーでは、バックバンドを従え、生バンドの演奏に乗せてパフォーマンスしているSixTONESにとって、バンドサウンドに乗せたミクスチャーロックはもはやお手のもの。
劇中の啓弥ばりの一途な言葉を連ねても、この曲が重たくなり過ぎないのは、彼らがバンドサウンドを軽快に乗りこなしているからだろう。
またこの曲で彼らは、<お前のその胸の中塊みたいな不安も 抱えたままそれも全部包み込んでやるよ><迷いも不安も捨てんな 辛えなら強がらず素直になりな>と、大切な人のありのままの姿を守ろうとする。
思えば彼らは「Good Luck!」(2022年11月発売)でも、<カッコ悪くてもいいんじゃない?><自分らしけりゃ満点>と歌っていたし、ずっと“ありのままでいい”と歌い続けている。「バリア」のMVでも、SPのような真っ黒なスーツ姿で屋内にクールにパフォーマンスする姿と、ラフな服装で街の中でパフォーマンスする姿が捉えられている。
SixTONESの提示する“バリア”は、誰かを守る強い意志であると同時に、“ありのままでいる”ということによる強さなのだ。バラエティ番組やYouTube、ラジオなどでありのままの自分たちの姿を見せている一方で、俳優としても活躍する彼らだからこそ、その2つの側面どちらにも説得力を持たせられるのだろう。
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さらに、カップリング曲にも注目したい。初回限定盤のカップリング曲は「ABRACADABRA」。
<揺らす floor, gimme your shout Crazy about party vibes アゲてく burning out>から始まる、もはや説明不要のブチ上げEDMチューンだ。もちろん音に身を委ねて踊り狂うだけで良いのだけど、じっくりと耳を澄ましてみると、音が左右のパンに振られており、メンバーのウィスパーボイスが左右から交互に聞こえる。
ライブを盛り上げる楽曲でありながら、一人でじっくりと聞くことでまた違う楽しみ方ができるのも、音楽の魅力だ。
通常盤には「Snooze」「崩壊前夜」という新曲が収録されている。「Snooze」は恋人との週末のまどろみを描いたチルソング。6人が、穏やかさと少しの気だるさを湛えた歌声で歌いつなぐことで、シームレスに眠りへと誘われていく様子を表現している。
一方「崩壊前夜」は、その不穏なタイトルからも感じられる通り、関係が崩壊する直前の切なさと苦しさを描いたR&Bチューン。作詞作曲を手がけたのはidom。イタリアのデザイナー事務所への就職が決まっていたものの、新型コロナウイルスの影響で渡伊を断念し、音楽制作を始めたという新進気鋭のアーティストだ。
彼は、楽曲のクオリティの高さはさることながら、SNSでカバー曲を次々と発表して話題を集めていたこともあり、憂いと色気を帯びた歌声も魅力。それを生かした楽曲作りがされたのか、SixTONESメンバーが楽曲から触発されたのか、そこは定かではないが、6人のボーカルも、いつも以上に憂いと色気を帯びている。例えば、曲の入りの<終わりはもう近い>というフレーズを担う京本のハイトーンは、声量が抑えめになっていることで寂しさで浸されている姿が容易に想像つく。
また2番の始まりを担う田中樹の低音のラップも、別れを前に寂しさとやりきれなさでいっぱいになっている切なさを感じさせる。すべてにフレーズにおいて、これまでとはまた違うSixTONESのボーカルを味わえる1曲だ。
さらに通常盤には昨年7月に両A面シングルの表題曲として発表された「GONG」「ここに帰ってきて」のリミックスも。
「GONG」のリミックスを手がけたのは、SixTONESと関係の深いKing Gnuの新井和輝(Ba)。「Rock’n, Rock’n, Rock’n Roll.」という歌詞からもわかる通り、原曲はMEG(MEGMETAL / gt)など手練れバンドが参加したロックチューンだったが、新井の手によって、そのビート感や衝動感はそのままに、どこか和も感じるデジタルチューンへと進化を遂げた。
ベーシストによるリミックスということもあり、思わず耳が惹かれるベースラインにも傾聴してほしい。一方「ここに帰ってきて」は、ピアノの旋律が切なく導くミディアムチューンだったが、再生した瞬間<ここに帰ってきて>というフレーズがリフレインするなど、大きく様変わり。
しかし、デジタルサウンドでテンポも上がっているのにも関わらず、思い出の中に閉じ込められたようなアレンジとなっており、楽曲の持つ切なさは健在なのも面白い。
通常盤の収録曲に限ると、本作で彼らが表現しているのは、愛するひとへの思いを高らかに歌う「バリア」、穏やかな二人の時間を描く「Snooze」、二人の終わりを嘆く「崩壊前夜」と、恋愛のさまざまな形。
さらに「バリア」では相手のことを「お前」と呼び、「Snooze」では「君」、「崩壊前夜」では「貴方」と呼ぶ。どんなキャラクターも様になっているSixTONESの名役者ぶりには驚かされる。同時に、デビューから5年経ったいまもまだアーティストとして新たな引き出しがあることにも驚かされる。
そしてそんな彼らだからこそ、今作で言えば、idomや新井和輝といった多彩なミューシャンが共に音楽を作りたくなるのだろう。
表現者としてのSixTONESのさらなる成長を期待せざるを得ない1枚が、ここに誕生した。