MUSIC 2025.10.30

2025年10月25日の深夜、渋谷MIDNIGHT EAST。時計の針が24時を指した瞬間、5年前にヒップホップシーンに衝撃を与えた『CHAOS TAPE』のセレブレーション「(sic)boy CHAOS TAPE 5TH ANNIVERSARY PARTY Supported by Manhattan Records」が幕を開けた。

Photography_O-KUBO SHOUI , Text_Shoichi Miyake
EYESCREAM編集部

2020年10月28日にリリースされた(sic)boyとプロデューサーKMによるアルバム『CHAOS TAPE』は、“ジャンル東京”というテーマを掲げ、様々な人種が混ざり合い、柔軟にその様式を取り入れ進化していく東京のような音楽を体現した作品だった。ヒップホップを基調としながらも、エモ、ハードコア、ベースミュージックなど多様な要素を融合させた革新的なサウンドは、日本のラップミュージックの可能性を大きく拡張した。例えばxxxtentacionやLil Peepから受け取ったアティテュードを独自に昇華し、東京という街の持つカオティックな美学を音楽として結晶化させた本作は、今なお多くのリスナーとアーティストたちに影響を与え続けている。

O-EAST、O-EAST 3F、AZUMAYAの3フロアで同時進行するこのイベントは、まさに『CHAOS TAPE』のコンセプトそのものを空間化したような構成だった。メインフロアのO-EASTではshakke、3FではSATHI、AZUMAYAではKM自身がオープニングDJを務め、国内外の現行ラップからベースミュージック、ハイパーポップまで、ボーダーレスな音が会場を満たしていた。3F で販売されたYAGI EXHIBITION × homesiccのカオスを極めたデザインのTシャツもかなり印象的だったが、多様なファッションに身を包んだオーディエンスたちが、それぞれの感性で音楽を享受する光景は、まさに“ジャンル東京”の理念が5年の時を経て成熟し、文化として根付いたことを物語っていた。

shakke
KENSHIN
KM

O-EASTのライブパフォーマンスは予期せぬ展開から始まった。Only Uの機材トラブルにより、急遽、タイムテーブルを繰り上げてvividboooyが登場。地元の盟友でもあるラッパー、DVKEを引き連れて披露した「ないものねだり」で幕を開けると、その柔軟な対応力と、記号性にとらわれないサウンドで瞬時にフロアの耳目を集める。1996年東京生まれのvividboooyは、ラッパーでもシンガーでもない独特のフロウスタイルとジャンルに縛られない多彩な楽曲で独自の世界観を創造するアーティストとして知られるが、この日のパフォーマンスはその真価を証明するものだった。

続くOnly Uは、音源ではLEXを客演に迎えた「DREAM!」でライブをスタート。順番が入れ替わったことへの真摯な謝罪とvividboooyへの感謝を述べながら、最新アルバム『STORY』からの楽曲も織り交ぜ、ハードなスピットからメロディアスなフロウまで縦横無尽にデリバリー。「今日のイベントは、渋谷のVISIONを思い出す」という言葉には、このシーンを形作ってきたアーティストたちが共有する大切な記憶への敬意が込められていた。

uinによるドープで巧みなDJアクト(Fred again..がSkeptaとPlaqueBoyMaxを客演に迎えた「Victory Lap」から「Tokyo Drift」(Cursed By Caster)への繋ぎは圧巻だった)を経て登場したJUBEEは、バックDJのYohji Igarashiと共にいきなりトップスピードでレイヴスタイルのパフォーマンスを展開。心臓の芯まで響くようなイーブンキックと、彼のシグネチャーであるミクスチャースタイルのラップがフロアを熱狂させた。

「『CHAOS TAPE』5周年、すごいね。5年経てば、当時、年齢的にクラブに来れなかったやつとかいるんじゃない?」というMCに、若いオーディエンスから歓声が上がる。JUBEEは続ける。「『CHAOS TAPE』ってヒップホップの金字塔だと思っていて。俺も、シド(=(sic)boy)と同じで、はぐれものじゃないけど、バンドも好きだし、ヒップホップも好きってやつで。ある日、KMさんにつなげていただいて、それまで俺の好きな音楽をわかってくれる友だちがひとりもいなくて。そんななか、(sic)boyと出会えてさ。(sic)boyは俺らみたいなやつの先頭に立って、いいアルバム作って、味方になってくれた。活動がやりやすくなった。俺は今、バンドもやってるしね。俺はあいつを本当にリスペクトしてます。ありがとう、(sic)boy!」

この言葉と共に流れ出した「手紙 feat.(sic)boy」で(sic)boy本人がステージに登場。シンプルなビートの上で互いのリリカルなラップが優しく共振し、続けて披露された。続く「Playground feat.(sic)boy」では「この曲は最高の遊び場を作るために作った曲だぜ!」という宣言通り、ヒューマニスティックな様相でフロアをひとつにした。

そしていよいよ、この夜の主役である(sic)boyのライブセットが始まる。既にJUBEEのライブでDJブースから盛り上げていたKMが、程よく──いや、かなりいい感じに酔いながらも最高のヴァイブスを放ち叫ぶ。

「みんな(sic)boyの『CHAOS TAPE』5周年を祝いに来てくれてありがとうございます。全員、本当に集中して楽しんでください、いくぞ!」

「Akuma Emoji」で幕を開けたライブ。「Akuma Emoji」のノイズを基調とした攻撃的なサウンド、英語と日本語が混ざり合い、ラップとボーカルが交錯する構成は、まさに『CHAOS TAPE』の核心を体現している。「(sic)boy、いい感じだな!」「KMさんも最高じゃないですか!(笑)」という2人の掛け合いが、5年間積み重ねてきた信頼関係を物語る。

続く「(sic)’s sense」でも、トラップとエモーショナルロックのフィーリングが融合した(sic)boyならではのモダンヒップホップ像を、あらためて体感する。「freezing night」の静謐な空間性。あるいは、「HELL YEAH」のグランジを通過したビート感。そして、「Set me free feat.JUBEE」では再びJUBEEが登場し、ソリッドなギターリフ主体のスタジアムロック的なスケール感でフロアを揺らす。

「BAKEMON」では、Zecin による真っ赤な火花と火花が強大な爆発を起こすようなイメージを映し出すVJも相まって、”化け物”という自称を通じて普通じゃない自分を受け入れ、むしろそこから進化しようとする(sic)boyのアティチュードを音と映像で表現。続く「Ghost of You」で現出させたスリリングな解放感も実に刺激的だった。

KMが「まだみんな眠くないよな!? おまえら、iPhoneのライトをつけてくれ!」と呼びかけると、フロアから無数の光がステージを照らす。その中で披露された「眠くない街」は、東京という都市の持つ眠れない/眠りたくないエネルギーを音像化するように鳴らされた。

繊細な歌唱表現が際立った「U&(dead)I」を経て、(sic)boyは語り始める。

「『CHAOS TAPE』5周年ですよ。5周年ってすごくないですか? VISIONで、今日いたみんなとパーティーした日があって。その時は、コロナもあってカオスな時期で。そんな時に「『CHAOS TAPE』をリリースされたんだけど、5年経ってこうやってみんながこうやって集まってくれてるのがうれしくて。さっき、JUBEEくんが、俺が言いたいことをしゃべっちゃったって感じもするけど(笑)、あの時のパーティー来れなかった人も、今日来れない人の分も、みんなでお祝いできたらいいなと思ってます」

そして、11月26日リリース予定の新作フルアルバム『DOUKE』についても言及。「バキバキ系のトラックや最高の曲と、僕の2年ちょいくらいの想いが詰まったアルバムです。みんなチェックしてほしい。あと、年末にツアーもやります。よかったら遊びにきてください。みんなの力があって、僕はここに立ててます」

「Kill this feat.Only U」では再びOnly Uがステージに登場し、2人のエモーショナルなラップと歌唱が交錯した。

そして最後の曲。KMが「最後の曲、なんだと思う? やってない曲あるよな?」と問いかけると、(sic)boyが「Heaven’s Driveだ!」と応える。

「Heaven’s Drive (feat. vividboooy)」は、夜の都市=眠くない街を舞台に、自分/仲間/未来というスケールの中で動き続ける意志を刻んだ1曲だ。ロックとヒップホップのクロスオーバーサウンドを背景に、夜の”眠れなさ”とその向こう側としての”解放”が描かれている。
vividboooyと共に披露されたこの瞬間は、まさに『CHAOS TAPE』が5年の時を経て獲得した自由と解放の象徴として、会場全体を包み込んだ。

KMはそのままDJアクトとしてステージに残り、「今日しかかけないから!」と言って「Kill this feat.Only U」のエクスクルーシブミックスを投下。朝まで続いたパーティーは、『CHAOS TAPE』というアルバムが日本のヒップホップシーンに新たな可能性を示した作品であることを、そして、その影響力が今も息づいていることを証明した。

タイトル『DOUKE(道化)』=ピエロ/操り人形というモチーフが込められた(sic)boyの新作は、誰かのために笑われる自分と本当の自分の狭間で揺れる葛藤を描いているという。『CHAOS TAPE』から5年、(sic)boyとKMが、そして彼らと共に歩んできたアーティストたちが、これからどのような音楽の地平を切り開いていくのか。この記念すべき夜は、その新たな始まりを予感させる、忘れがたい一夜となった。

INFORMATION

(sic)boy – NEW ALBUM『DOUKE』

2025.11.26 ON SALE

収録曲

1.DOUKE (Prod. KM)
2.Life is nightmare (Prod. KM)
3.HIBANA (Prod. KM)
4.blacknails feat. MERI (Prod. KM)
5.Hello feat. SALU (Prod. KM)
6.DISTORTED世界 (Prod. Tido)
7.Take Me Home (Prod. Chaki Zulu)
8.疑心暗鬼 (Prod. Chaki Zulu)
9.Last Smile (Prod. Chaki Zulu)
10.SAY GOODBYE feat. OMSB (Prod. Chaki Zulu)
11.lights on (Prod. Chaki Zulu)
12.Shaggy White (Prod. Chaki Zulu)
13.Chrome Hearts feat. vividboooy (Prod. Chaki Zulu)
14.色のない夜 (Prod. Chaki Zulu)
15.Tsubasa (Prod. uin)
16.Dream (Prod. uin)
17.Drown Intro (Prod. KM)
18.Drown (Prod. KM)
19.Hide&Seek (Prod. KM)
20.Angel!! (Prod. KM)

公式HP

購入はコチラ

(sic)boy DOUKE TOUR 2025

12月3日(水)仙台 MACANA 
12月14日(日)高松 MONSTER
12月19日(金)福岡 Be-1
12月21日(日)金沢 AZ
12月25日(木)名古屋 CLUB QUATTRO
12月26日(金)大阪 Yogibo METAVALLEY
12月28日(日)Zepp Shinjuku (TOKYO)

[チケット]
スタンディング
¥5,000円(税込/1D別)
https://eplus.jp/sicboy/

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