MUSIC 2021.02.04

Column: Z世代発ニューアイコン”CONAN GRAY” -2021年ポップミュージックの景色-

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photography(top) - Brian Ziff

2021年が幕開け、早1ヶ月が経過した。今も世界はパンデミックの最中にあって、なかなかライブハウスやクラブで音楽を楽しむことができない現状であるのが非常に残念なのだが、だからこそ自宅やオフィスでサブスクを回しまくり、今まで出会っていなかった新しいアーティストとの出会いを探しまくっているのは私だけではないハズだ。
この現代に”特定のジャンルしか聴かない”という人は少ないだろう。ロックやHIPHOPなど、ジャンルごとに明確なセパレートがあるような時代ではないし、今ではそれぞれの楽曲の中で様々な音楽要素がクロスオーバーしている。そんな音楽がとても個性的で今っぽいと感じる。(もちろん、歴史に基づく音楽表現の差や、各々のジャンルが持つアティチュードなど、根幹にある文化については差異があるが)
国内のヒットチャートを眺めてみても、そのアーティストの音楽性を見ると実に賑やか。ダイバーシティなんて多様性の話が、この数年取り沙汰されているが、まぁ、音楽シーンにおいても同様に多様で多彩な状況があるわけだ。
ここで、ポップミュージックとは何かを考えたときに、それはジャンルでカテゴライズされるものではもちろんない。ポップスという言葉が生まれた時代からそうだが、その音楽は時代性を示したものであることは皆様ご存知の事実。アーティストの人物像も含め、それが現代を示すものとニアリーイコールだと考える。
では、今年聴くべきポップスは何か。その存在として、国内に大きく影響を与えるアーティストは誰なのだろうか。その回答の1つとして、US発の次世代シンガーソングライター、CONAN GRAY(コナン・グレイ)をご紹介したい。

Photography – Mallory Turner

というか、すでにCONAN GRAYの名前は世界中に知れ渡っているし、国内でもチェックしているリスナーは大勢いるだろう。SNSでパッと検索しても、彼の名前がずらーーっと出てくる。しかも、国内においても10代のリスナーが比較的多い。この、ユースが期待感で沸々としている感じ、2018年初頭〜半ば頃にかけて、多くの日本人リスナーがBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)へ寄せていた高揚感と若干近いような空気感を感じる。実際にBillie Eilishとも仲が良い。

CONAN GRAYの名前を全米に知らしめたのは2020年3月にリリースされたデビューアルバム『Kid Krow』。

この作品が全米アルバムチャートで初登場5位、ポップ・アルバムとしては初登場1位を獲得したことで、一気に世界中の音楽シーンから注目を集めることになったわけだ。BTSのVやテイラー・スウィフトとも親交が深く、現代のポップアイコンとして欠かせない存在になっている。これだけ書くと、どういう経緯でそんなことになるの? という感じ。ではでは、CONAN GRAY自身について、ちょっと知っておこう。

Photography – Mallory Turner

CONAN GRAYは現在22歳、いわゆるZ世代にあたる。そして、ここからが日本のZ世代からも注目を集めている理由の1つになるだろうが、父がアイルランド人、母が日本人のハーフ。母親の実家がある広島にも2年半ほど住んでいたこともあり、何かと日本との繋がりも深い。SNSでの発言を見ると”日本好き”を公言していることもあって、非常に親近感を持ってしまう。現在はカリフォルニア在住のテキサス育ちだが、日系アメリカ人としてテキサス暮らしをした体験が自身の音楽性に大きな影響を与えたそうだ。2013年、つまり9歳のときにYouTubeチャンネルを開設し、初期はYouTuberとしても人気を集めていた。そんな中で楽曲制作を進め、2017年に初めてシングル「Idle Town」を自主リリースしてサブスクやネット上で高評価を集めた。翌年の2018年に初EP『Sunset Season』を発表し、前述のデビューアルバム『Kid Krow』に至る。

サウンド面はとびきり明るくあがれる感じ、一方で歌詞の世界観は自分自身の容姿や送ってきた日々を振り返るような内省的なもの。相反する表現を音と詞で表現しているのも特徴的。こと、歌詞の世界観は同世代の共感を強く呼ぶもの。リアルな生活感と心理の変遷をストレートにわかりやすく描写しているからこそ心に響く。例えば、この楽曲に見られる、こんな一節。

tell all of your friends that i’m crazy
and drive you mad
that i’m such a stalker, a watcher
a psychopath
and tell them u hate me and dated
me just for laughs
so why do you call me and tell me
you want me back — you maniac.

僕がクレイジーで君をムカつかせるヤツだって言いふらせばいいさ
ストーカー気質でジロジロ見つめるサイコパスだって
本当は大嫌いで笑いを取るために付き合ったとも言えばいいよ
それなのに どうして電話をかけてヨリを戻したいなんて言うんだい?
どうかしてるよ

This party’s shit, wish we could dip
Go anywhere but here
Don’t take a hit, don’t kiss my lips
And please don’t drink more beer

パーティーが終わるまで僕を取っておいて
車の中で僕にキスを
すごくステキだけど、君がシラフならよかったのにな

いや、なんだろう。なんかすごくわかる。世代も国境も違うが、こういう感情の”陰”の部分というのは誰しも感じたことがあるのではないだろうか。切なかったり直情的であったり、絶望的であるのにサウンドが煌びやかであるところに感じるシニカルな雰囲気にZ世代のリアリティを感じる。

先ほど、CONAN GRAYが新たなポップアイコンであることを記述したが、彼は同時にセクシーなルックスと合わせてハイブランドもさらりと着こなすファッションアイコン。VOGUEi-D MAGAZINENYLONThe FADERなどなど数多くのメディアに出演している。

Photography – Brian Ziff

ここまでが、CONAN GRAYのざっくりとしたご紹介。

では、本メディアの読者に向けて、具体的に注目すべき理由を知るべく、渋谷と言えばのファッションと音楽のコンセプトショップ、BOYのオーナー奥冨直人氏にコメントをもらい、CONAN GRAYを注目すべき理由を探りたいと思う。

ーCONAN GRAYを知ったのはいつ頃ですか?

奥冨直人(以下、奥冨):1年ほど前でしょうか。昨年リリースされたアルバム『Kid Krow』をSpotifyで見つけ、ジャケットの雰囲気にピンときて聴き始めたのがきっかけです。溢れ出るポップス感の中に、どこか懐かしい安心感もありつつ、同時に新たなスリル感も混在しているような印象でした。いわゆるZ世代が放つ楽曲の中でも、サウンドはとびきり明るい。そこに繊細な心模様をエモーショナルなパフォーマンスと共に歌い上げる圧倒的な華やかさがある点に、新しさを感じます。

ー特に気になった楽曲を挙げるとしたら?

奥冨:「Checkmate」ですね。リズミカルなカットとブラックユーモアの兼ね合い。強烈な嫉妬心と張り裂ける衝動を、コナン本人が全力で表現していてドロドロしているのに爽快です。

ーでは、特に心に残ったリリックは?

奥冨:「Generation Why」の“Talk about how fast we grew And all the big dreams that we won’t pursue Then get in your car and laugh ‘til we both turn blue”という一節です。夢を語りながら未来を描きつつ、どこか絶望的で冷静な視線が感じられる。彼の孤独感と現代のすぐそばにある物語が重なるような詞世界が印象的に感じました。

ーアメリカでは、すでに新世代のファッションアイコンですが、CONAN GRAYのファッションに関する面白さや新しさはどんな点にあると思いますか?

奥冨:ナードで頼りない男の子にも、ギリギラな色気止まらぬジェントルにもなれる。ジャンルで括られない奔放さを感じます。この”いくらでも変身できる”って感じは2020年代ならでは、のスタイルになってきましたね。その点は、コナンと親交のあるThe 1975のマシュー(Matthew Healy、マシュー・ヒーリー)にも共通して感じている感覚です。Z世代からすれば、方程式のような凝り固まったスタイルのファッションにはうんざりしていると思うんです。その結果、オールミクスチャーなスタイルをナチュラルに体現しているのが今っぽく、面白みを感じます。そういえば、近年は以前より○○系、などと括られることが減ったように思いますね。日本においても、最近のストリートファッションの空気感は、ここ10年間でもっとも柔軟な感触があって、今まさに進行形なんですが、この感覚は世界とも共通している印象です。

ー現在、CONAN GRAYのリスナーはどのような層で、今後はどんな存在になっていくと思いますか?

奥冨:コナンと同世代のユース層はもちろん、サウンドは80’s的な煌びやかさがあったり、カントリー調の楽曲も表現しているので、彼が大好きだと言うテイラー・スウィフトのようなポップミュージックのファンにも広く浸透していくのではないでしょうか。また、コナンが見せる美しい表情や幅広いアプローチは、世代問わず多くの人の心を自然とつかんでいくんじゃないかと思いますよ。感情的で少しヒステリックなものでも、どこかポップで希望に満ちている。そんなコナンの存在が大勢の人に届いていくでしょう。

目下、最新シングルはデジタルリリースされたばかりのFake。この楽曲もまた、MVの世界観やリリック共に刺激的。

2020年代という時代を表すポップアイコン、CONAN GRAYをまだ知らない人は今から必ずチェックしておくべきだろう。

Photography – Brian Ziff

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