MUSIC 2025.12.22

Interview: 機微な感情を音に。アーティストShuが語る、2025年という「特別な1年」

Text_Chie Kobayashi
EYESCREAM編集部

ego apartmentのギターボーカル・Shuが2024年12月からソロプロジェクトをスタートさせ、2025年11月5日に1st EP「To walk」をリリースした。ソロでは楽曲制作はもちろん音作りにも精力的に取り組んでいる。「まだ始めたばかり」だという彼が目指しているものとは。

──Shuさんは昨年12月からソロで本格的に活動を始めましたが、一年ほどソロで活動してみていかがですか?

Shu:まずは自分がどういうことが得意で、音楽作り以外でどういう人を巻き込んでいきたいかということを考える時間が増えました。制作においては、自分の中にあるメロディや展開のアイデアを、音作りとセットで考えることで、曲の輪郭が濃くなると思ったので、音作りにトライし続けた1年間だった気がします。

──ソロは楽しいですか? それともやはり大変なことが多い?

Shu:自分で全部やっている分、バンドをやっていた頃よりもうまくいったときはすごくうれしいし、うまくいかなかったときは落ち込みます。だけど、できることが増えていくことはうれしいし、アイデアを具現化するための知識や技術がついてきたときは「まだいけるかも」と頑張れます。

──ということは、「もうこれ以上はできないかも」と思うこともある?

Shu:そうですね。僕は割とネガティブなので、どうしてもSNSを見るとみんなキラキラして見えて……。でも今回のEPを出したとき、ラッパーのSkaaiが熱いメッセージをくれたんです。始めたばかりでまだ注目を集めきれていない部分はありますが、そうやって自分がカッコいいと思っている人が声をかけてくれることがあるということを原動力にやっています。

──ego apartmentでの活動や、作家としての活動など、音楽活動自体は以前からやられていますが、ご自身としては「始めたばかり」という感覚なんですか?

Shu:ミックスをしっかり考え始めたのがソロを始めてからで。僕の感覚では、コード進行を考えたりドラムパターンを考えたりすることと、それをどういう音にするかというのは全然違うことなんです。例えばボーカルを乗せるにしても、そのボーカルにどういうエフェクターをかけるかにはたくさんアイデアがありますよね。それをベストまで持っていきたい。そういうことを、バンドのときはあまり考えていなかったんです。だけど、ソロを始めたときに、それが自分でできるようになったらいいかなって思って。

──そういう意味での“始めたて”なんですね。そもそもバンドの活動休止後、作家として活動していたShuさんがソロ名義で活動を始めたのはどうしてなのでしょうか?

Shu:やりたいことはずっと音楽しかなくて。バンドをやる前からつくっていたデモや、バンドをしながらも「これはバンドの曲ではないだろうな」と思っていたデモなどが溜まっていたので、バンドの活動が止まったときに、そういうものを整理しつつ、自分が一人でどこまでできるのか試してみたいと思いました。

──ではShuとして活動を始めるにあたって、こういう音を鳴らしていきたいとか、こういう活動をしたいといった、イメージしていたアーティスト像はありますか?

Shu:僕はスティーヴ・レイシーが好きなんですけど、曲を聴くと「この人の曲だよね」ってわかる。そういう音楽を「シグネイチャー」と呼ぶと思うんです。そういう意味でのシグネイチャーになりたい。そして、シグネイチャーとして確立するには、音でびっくりさせる必要があるのかなと。それこそ11月に出したEP「To walk」の制作の終盤でその感覚を掴めた感じがしたので、これからはさらに突き詰めていきたいです。

──そもそもShuさんが音楽を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

Shu:自分で「自分はこの曲、この音楽が好きなんだ」って思うようになったのは中学2年生くらいのとき。それまでも歌うことは好きでしたけど、一般的に流行っている曲やカラオケで歌える曲をなんとなく聞いている感じでした。

──中学2年生のときに、どんな音楽と出会ったんでしょうか?

Shu:テレビで「ハモネプ」(ハモネプリーグ)を見ていたんですが、そこに“米国流ハーモニー”という謳い文句で出場しているグループがいて。そのグループの演出がすごかったんです。そのときに「“米国流”って何だろう?」と思って調べて、最初に出てきたのがスティーヴィー・ワンダー。そこから、ブラックミュージックを好んで聴くようになりました。アンサンブルのノリが好きだなと思ったんですよね。そこからどんどん音楽をdigるようになっていきました。

──楽器を演奏したり、楽曲を作ったりするようになったのは?

Shu:ギターを買ったのが高校生のときで、高校3年生のときに初めてライブをしました。

──バンドで? それとも弾き語り?

Shu:弾き語りです。でももうクソみたいなライブでしたよ。同じ歌を2回歌ったりして(笑)。カバーとオリジナル曲を織り交ぜたんですけど、覚えるのが大変で数曲しか用意していかなかったので、案の定時間が余って同じ歌を2回歌うという禁じ手に出ました(笑)。

──先ほど、ブラックミュージックを好きになった理由として、アンサンブルに惹かれたとおっしゃっていましたが、どういうアンサンブルに惹かれるとか、アンサンブルのどういったところに惹かれるというのはありますか?

Shu:一旦洋楽として括りますけど、洋楽って歌の後ろで動いている音が、日本の曲よりもよく聴こえるなと思ったんです。もちろん、日本の曲にも聴こえるものはあったと思うのですが、当時僕が聴いていたものでは感じられなくて。わかりやすいところでいうと、僕、ベースの音を知らなかったんですよ。

──なるほど、わかりやすいです。

Shu:J-POPって、そこまで意識がいかないような音作りがされていると思うんです。だから洋楽に出会うまでは、“音楽=歌手”っていうイメージだった。だけど、洋楽を聞くようになって「音楽ってプレイヤーありきやん!」と気づいて。それに気づいたことが、音楽好きになった要因かもしれないです。

──特にそれに気づかされたアーティストや楽曲はありますか?

Shu:マーヴィン・ゲイとダニー・ハサウェイですね。高校の通学時にイヤフォンで音楽を聴いていたんですが、自転車に乗りながらボーカルを歌うと「歌っている」ってバレるけど、ベースラインやったらバレへんかなと思って、ずっとベースラインを歌っていました(笑)。ソウルのベースラインが好きなんですよね。

──Shuさんはもともと歌うことがお好きだったとおっしゃっていたので、特にJ-POPを聴いていたときはボーカルを意識していたことも大きかったんでしょうね。

Shu:そうですね。だから自分が作る曲のトラックは洋楽のようなアンサンブルを意識したものですが、メロディラインはJ-POPを聴いていた人のメロディな気がします。だからこそ、最初はそのバランスがうまく取れなくて、いい曲が生み出せなかったんだろうなと思っていて。それこそ、最初に話したシグネチャーと呼ばれるようなアーティストは、それがベストなバランスで成り立っているので、僕もそこを目指しています。

──今、トラックやメロディラインなど、サウンド面でのこだわりを伺いましたが、歌詞の内容やメッセージについては、どのようなものを作りたいと思っていますか? Shuさんの楽曲には明確にメッセージが込められている印象があります。

Shu:そうですね。もっと適当なことを歌ってもいいんじゃないかなと思いますけどね。どんぐりずとかを見ていると、「意味はないけどいいな」って思いますし。だけど、僕はそもそもストレートすぎるものがそんなに好きじゃなくて。間口を広げるため、いろんな人に届けるために、ストレートなメッセージを込められた音楽もあると思うし、それはそれで良いと思うんですけど、本来感情ってもっとレイヤーがあるはずで。“本心ではこう思っているけど、こう接している”ということってよくあるじゃないですか。僕はその両方が本心だと思うんです。そういうものが、絶妙な言葉選びで表現されたものに趣を感じるタイプなんです。だから僕が描く歌詞もそういうものが多いのかなと思います。

──なるほど。

Shu:でもずっと真剣でいたいわけでもないし、聴く側にもずっとシリアスでいてほしいわけじゃない。そこはちょっと模索中ですね。フェーズが変われば考え方も変わると思うので、いつかはめちゃくちゃ適当な曲も出してみたいですね。

──それも楽しみにしています。歌詞を書くうえで、何か影響を受けたと思うものはありますか?

Shu:日本語詞の曲で最近好きなのが、アニメ「一休さん」のエンディング曲「ははうえさま」。この曲は、修行中の一休さんがお母さんに送る手紙が歌詞になっているんですが、そのなかに<ゆうべ杉のこずえに あかるくひかる星ひとつみつけました 星はみつめます ははうえのようにとてもやさしく>という歌詞があって。一休さんはあまり弱音をはかないようにしているんだけど、この一節を読むと、すごくお母さんに会いたいと思っていることが伝わってきますよね。僕もこういう伝え方をしたい。直接「会いたい」とは言っていないけど、前後の文脈や描かれた情景から「会いたい」という思いが伝わってくるようなもの。それに気づいたときに、曲をさらに深く感じられる気がするから。

──そんなShuさんは11月に1st EP「To walk」をリリースしました。表題曲「To walk」について、Shuさんは「歩き方を知ってるかい 僕はまだ」というコメントを残されていて、とても素敵だなと感じました。この考え方はどこから生まれたものなのでしょうか?

Shu:ここでいう“歩き方”とは、僕の中では人生みたいなもののこと。僕は、イメージでいうと狭い路地を車で時速100キロで走っているような歩き方をしていて。だけどそれっていつ事故が起こるかわからない状態なわけで。本当はもっとスピードを落として進みたいんです。同じように、よくないことが続いているときとか、自分の気分が落ちているときは「そんなに深刻じゃない」ということを自分で理解しないといけないし、だけど人に対して傲慢にはなりなくないし……。つまりはバランスよく生きたい。だけどそうでいすぎるとつまらないし……という葛藤がずっとあって。だから僕は歩き方をまだわかっていないんです。

──夢に向かう道のりといった比喩ではなくて、生きていくということに対しての“歩き方”なんですね。

Shu:そうですね。友達とか仕事とかパートナーといったものに対して、自分がどういう人間であれるのかということを漠然と考えて、わからなくて終わる、ということがよくあるので、それを書いたのが、このEPです。

──先ほど、今作の制作の後半で作りたい音楽、鳴らしたい音が見つかったとおっしゃっていましたが、完成していかがですか?

Shu:終盤につくった「ahh」で、今までやってこなかったことを試して新しいを見つけることができた。そういう意味では、次への足掛かりになる作品になったのかなと思います。ただ……このEPでは「俺がやりたいことはこれだ」と思えるものを作りたかったんですが、正直、収録曲全部がそう思えるものかと言ったらそうではない。でもそれに気づけたことで、次はもっと進化したものが作れるんじゃないかな。そう思えるEPになったと思います。

──とはいえ、楽曲自体は気に入っているんですよね?

Shu:もちろん。ただ僕は曲って、出すと“Shit”になっちゃうんですよね。そこまで興味がなくなっちゃうというか。作っているときは「うわー、いい曲や!」って思うんだけど、完成してリリースしたあとはちょっと興味が薄れちゃう。だけど「To walk」に関しては、まずはちゃんと完成させられたこと、自分のなかで終わりをつけられたことを褒めてあげたいですね。

──では今後の活動や楽曲の展望を教えてください。

Shu:まだライブがあまりできていないので、いろんなところでライブをしたり、対バンイベントをしたりして、Shuというアーティストをいろんな人に知ってもらいたいですね。それと、来年東京に上京するんですよ。だからいっぱい友達を作って、いろんなことを教えてもらって、今できないことが、どれだけできるようになっていくのかを楽しみに活動していけたらいいなと思っています。

──最後に。先ほど、一休さんのエンディング曲のお話をしていただきましたけど、音楽を作る、もしくは表現をするうえで影響を受けているカルチャーがあれば教えてください。

Shu:僕、本当に音楽以外で特に好きなカルチャーってないんですよね……。だけどYouTubeは結構見ます。スポーツとか。あとは夕方のニュース。特にニュース番組内のドキュメンタリーはよく見るかも。音楽やエンタメといったキラキラしたものとは程遠いものを題材にしていることが多いんですけど、そういうものを見て自分がどう感じるかということは大切にしているかもしれないです。

──スポーツやドキュメンタリーの内容自体が何かに影響しているというよりは、そういうものを見てご自身の感情がどう動くのかを見ている。

Shu:そうですね。人と話すときも興味が尽きることはないし。心の機微を見逃さないようにしています。

INFORMATION

1st EP「To walk」

2025年11月5日(水)
URL:https://SPACESHOWERFUGA.lnk.to/towalk

Shu:https://bio.to/Shuu
Management/Label:https://bio.to/NihyakuWIND

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