Ren Yokoiが今もっとも話したい人を迎える対談シリーズ「Motivators」の今回のゲストは、良質レーベル〈Jazzy Sport〉からデビューも決まったDaichi Yamamoto。Ren Yokoiがつい最近インターネットでその存在を知り、オリジナリティ溢れる表現力に驚き、直感的に「話してみたい」と感じたという、京都を拠点に活動するラッパー/美術家だ。ヒップホップ界の大御所Zeebraを父に持ち、インターナショナルスクールに通っていたRen Yokoiと、京都で最も歴史のあるクラブ、METROのオーナーであるニック山本とジャマイカ人の母のもとに生まれ、ロンドンの大学に通っていたDaichi Yamamoto。近しい境遇にありながら、それぞれ異なる発信力を持った二人だからこその話に、ぜひ注目してほしい。
―お二人はまったくの初対面ですが、Daichiさんは突然のオファーにびっくりしませんでしたか?
Daichi Yamamoto(以下、Daichi): びっくりしました。最初は「あんまり喋ることないんちゃうかな…?」って思ったんですけど、せっかくの機会なのでやってみようと思いました。
Ren Yokoi(以下、Ren): 俺がDaichiくんのことを知ったのも最近だったからね。1週間前くらいかな、京都y gionのクリエイティブディレクターとかをしている井上拓馬くんがSNSで紹介していたのを見て知った。それで「この人と話したい!」って。
―あらためて振り返ると、RenさんはZeebraさんの次男で、叔父にあたるSPHEREさんに付いてヒップホップの畑でDJをすることからキャリアが始まり、今は4つ打ちのダンスミュージックを中心に選曲するDJであり、トラックメイカー。
Ren: はい、新曲作ります!
―Daichiさんの経歴も教えていただけますか?
Daichi: もともとは美大に行きたくて、京芸(京都市立芸術大学)を受験したんですけど、2回落ちたんです。父が「アートをやるなら、海外行った方がええわ」って言ってたこともあって、イギリスに行くことにしました。まず、アートというものの幅の広さに驚きましたね。そこで、インタラクティブアートに出会って専門的に学んだんです。
―イギリスに行く前は、音楽活動はどんな感じだったのですか?
Daichi: 趣味程度でやっていたというか、音楽に関しては「言われなくてもそのうち真剣になるだろうな」という感覚が自分のなかにあったんです。でもアートやデザインは、誰かに背中を押されるとか、自分で自分の尻を叩くとか、何かきっかけがないとやらない感じがしてた。
―Daichiさんのお父さんは京都METROのオーナーのニックさんですよね。京都カルチャーの生き字引きのような方で、すごく気さくで地元の方々に愛されています。
Daichi: だから悪さできないんですよ(笑)。
―Renさんは京都にどんなイメージを持っていますか?
Ren: 兄貴がちょっと前まで住んでたんですけど、渋いアンダーグラウンドなバーみたいなのが多いって聞いていて。伝統的な土地だけど、入り組んだところにはそういうカルチャーがある。だからそこに住んでいたら特殊な考え方になるんじゃないかなって。東京とは違う、昔ながらの風情を持ちながら時代の先端、みたいな。Daichiくんは、いつ頃からMETROに行ってたの?
Daichi: 初めて行ったのは5歳とか。
Ren: 一緒だ。俺もそんな感じで、親父に渋谷のHARLEMに連れていかれてた。ステージのスピーカーの近くで親父のステージを観てると、音がブンブンうるさいというか、もう内臓からくるんだよね(笑)。
Daichi: わかる。だから帰りたくて仕方なかった(笑)。ハロウィンかなんかで、仮装させられたことも…。
Ren: マスコットみたいな?
Daichi: かな? あれは嫌だった(笑)。
―ご自身で能動的に音楽の情報を取りにいくようになったのはいつ頃ですか?
Daichi: 小学4年くらいの頃から、兄ちゃんにヒップホップとかレゲエを聴かされてたんですけど、最初は苦手でした。でも6年くらいになってハマったんです。
Ren: 誰の曲を聴いてたの?
Daichi: スヌープ・ドッグとかドクター・ドレーとか、ウェッサイなものを。その流れでエミネムとかも好きだったけど、歌詞がわかって萎えた、というか、ショックで。
―ショックを受けた感覚、Renさんはわかります?
Ren: なんとなくは。めっちゃかっこいいこと言っているようで、例えばエミネムは、ギャグって言ったらいいんですかね。ラップの世界では底辺だった白人が、「やってやんぜ」っていう気持ちを、遊び心をもって表現したものというか。俺はそういうのがおもしろいなって。ドクター・ドレーはおもいっきりギャングスタなこと言ってるしね。
Daichi: 歌詞がわからなかったときは、「めちゃくちゃかっこいいこと言ってるんだろうな」って想像してたら、実はセックスの話とか殺人の話とかで、当時の自分にとっては刺激が強かったんです。で、ファンキーDLとかジャジーなヒップホップとか聴くようになって、しばらくしてハウスも聴くようになりました。
Ren: そこでなんでハウス?
Daichi: 京都にTransit Recordsっていうレコ屋があって、そこの人が僕の家庭教師で。
Ren: えっ?
Daichi: 大学受験の勉強を教えてもらいに、店が開いてない時間に行っていて。ちょくちょく勉強は教えてくれるんだけど、盛り上がるのはやっぱり音楽の話、みたいな。その人はハウスのDJだったから、実は、最初の頃はハウスのビートでラップしてた。
Ren: やっぱりそうだ、腑に落ちた。ラップの仕方とか、誰の真似でもなくて、強いて言うならグライムに近いなって。ロンドンでグライムは聴いてた?
Daichi: 帰る直前にハマったかな。
―ディジー・ラスカル以降、スケプタやストームジーが知れ渡っていった、その真っ只中ですよね?
Daichi: はい。だから友達もみんな聴いていて、僕は最初はそこまで好きではなかったんですけど。ダンスホールレゲエみたいなノリがあるんですよね。
―今だとJ・ハスとかそうですよね。
Daichi: ですね。歌詞をがっつり聴かせるというより、人を踊らせ続けるフロウみたいなのはおもしろいなって。
Ren: そこ! Daichiくんのラップって、USのヒップホップとか日本語ラップのエッセンスがほとんどないんだよね。
―ご自身では“ヒップホップ”という感覚はないんですか?
Daichi: なんでもいい。ヒップホップは好きですけど、ラッパーでなくてもいい。
―オリジナルにこだわっているということでしょうか?
Daichi: そういう気持ちもありましたけど、オリジナルを作ろうとするとオリジナルじゃなくなる気がして。じゃあどうやって素の自分を出そうか、そことの葛藤ですかね。
VIDEO
Daichi Yamamoto x Aaron Choulai – Bell [ Music Video ]
Ren: この「Bell」って曲、ビートもかなりおもしろいよね。
Daichi: アーロン・チューライっていう、ジャズピアニスト兼ビートメイカーの人が送ってくれたやつだね。
Ren: そうなんだ。ジャズピアニストか。そこも納得。
Daichi: ありきたりなヒップホップのビートだと興奮しなくなっている自分がいて、そこに歌詞を書いても満足しない。アーロンさんのビートは、変なところでスネアが入ったり、小節がおかしかったり、音楽的に長けているから。同じテンポでラップしててもずれてくる。
―4拍とか8拍をキープしないから、大変じゃないですか?
Daichi: “7、2、3”とか、それに合わせながら書くのがすごく楽しいんです。
Ren: よくあそこにラップしてるな、すげえなって。
Daichi: あとは他のアーティストの話とかを聞いちゃうと、比べはじめちゃうんで、そこは避けつつ。
Ren: ついつい比べちゃうよね。
―Daichiさんは京都で生まれ、ロンドンに渡り、今は京都を拠点としながら東京にも来られていますが、3つの都市で何か違いなどを感じますか?
Daichi: ロンドンから京都に帰ってきたときは、あまりに静かで頭がおかしくなりそうだった(笑)。
―今は「京都に根を張ってがんばろう」という意識で活動されているように見受けられます。今年3月に京都y gionにオープンした話題のニュースポット、Jazzy Sport Kyotoのマネージャーにも抜擢されたりと。
Daihi: はい、今はそう思っています。でも最初はロンドンに戻りたくて仕方がなかった。そこで、「東京に住みたいな」とも思ったんですけど、1週間くらい東京に滞在したときに、それはそれで無理だと思いました。
Ren: なんで?
Daichi: 住むことが想像できなかった。通勤ラッシュとか、駅も街もカオスすぎ。ロンドンもめっちゃ忙しいんだけど、もうちょっとルーズで。電車もちょっと遅れて当たり前、授業も先生が遅れるとかザラだし、なんか余裕があって、そこが好きだった。みんな楽しむために生きてる感じ。
―ロンドンはレイドバックしているけど活気がある、みたいな?
Daichi: そうですね。
Ren: 向こうでクラブにはよく行ってたの?
Daichi: 遊びに行くというよりは気になるアーティストの音楽を聴きに行く、みたいな。
Ren: fabricは行った?
Daichi: うん、「おおっ、ヨーロッパ!」って感じだった(笑)。
―どういうことですか?
Daichi: 頭のなかにあったヨーロッパのクラブそのままだった。スタイリッシュな空間で、いやらしくないというか。
―ライフスタイルにクラブに行くことや音楽そのものが沁み込んでいる感じ?
Daichi: 距離は近いと思いますね。
―パーティーにもよりますけど、クラブで日本人を見ていると、海外の人と比べて“音楽を聴いている”という自覚が強い気がするんです。そこはどう捉えていますか?
Ren: 確かに、音楽を聴いているときとそうでないとき、オンとオフという感覚の人は多いかもしれないですね。でもそこはベースとなるものが何か、という話だと思うんです。例えば、今この喫茶店で流れているイージーリスニングは日本人の生活に沁み込んでいるわけで。
Daichi: そこに関しては、イギリスから来た友達が「日本人はめっちゃちゃんと音楽を聴いている」って感動していました。確かにそうだなと。日本人のすごく真剣に音楽と向きあっている感じは、かっこいいと思います。
―そういう意味では、Daichiさんのようなライブパフォーマンスは伝えやすい。
Daichi: はい。やりやすいですね。
―DJが一晩のパーティーのなかで流れを作っていくクラブは、またベクトルが違いますよね?
Ren: そうですね。自分を表現することには変わりないんですけど、完全に“パーティーのためにDJをする”という考え方でやることもあるので。例えば自分が、店に入ってすぐのラウンジスペースでDJしていたとして、そっちに人が溜まりすぎて、メインフロアには人が少ない状態になってくると、自分のDJでそのフロアから人を逃がしてメインフロアに行ってもらって、次にまた入り口から入ってくる人を迎える、という流れになるようにしたり。
Daichi: そういうの、めっちゃかっこいいね。DJだからこその職人技。
―この対談でこれまでRenさんがおしゃっていたことをざっくり解釈すると、ヒップホップやハウス、テクノといろいろあるなかで、それぞれの歴史をリスペクトしつつクロスオーヴァーさせていきたい、というのが今のモードですよね?
Ren: はい。ざっくり言うと。俺らの世代って、ヒップホップでもハウスでも、いろんなものを好きになれる感性があると思うんです。先輩方も本当にいろんな音楽を知っていると思うんですけど、そこに至るまでに、それぞれのジャンルを突き詰めて順を追って広がっていった人が多いような気がするんです。
―確かに。
Ren: ジャンルで考えるというより、大きくDJという絵のなかでそこをどうしていけるか、ですかね。
Ren YokoiがレジデントDJを務めるパーティー「sHim」の様子
photo by Yuto Kida
―Daichiさんは今後、どんなことをやっていきたいですか?
Daichi: とりあえずアルバムを作りたい。けっこう遠い話だと、いつか映画を作りたいんです。
Ren: 知り合いのアーティストで、「映画がすべての集大成だ」って言っている人がいたよ。
Daichi: ニュアンスは近いかも。映画には全部が入っているから。映画というメデイアそのものが無くなる、と言う人もいるけど。VRとかの技術が発達していくなかで、椅子に座ってスクリーンを観るという時代ではなくなっていく、って。それはそれで興味があるので、いろんなことをうまく取り入れていきたいと思います。あとは、海外の人が日本に注目するというのはすでにあるので、「京都のあそこらへんの界隈おもしろいね」って言われるようなことをして、それで世界を回ってみたいとも思っています。
―京都は世界から注目されやすい、地の利もありますしね。
Daichi: 伝統的で人間関係も古くさいところはあるけど、それに今の感じが混ざったらかっこいいなって。
Ren: どこのフィールドに重きを置くか。俺らはネット世代なんで、世界から見た日本という意識が強く持てるから。
―今や、アプリひとつあればあらゆる音楽にアクセスできる時代で、そこから生まれるクリエイティヴって、まだまだこれから。考えただけでドキドキします。京都METROでRenさんとDaichiさんの共演、というのはどうですか?
Ren: 親父同士の面識はあるのかな?
Daichi: どうなんだろう?
Ren: ニックさんってRUB A DUB(註:日本最古のレゲエバーとして知られている、京都木屋町のバー)の人だよね? そこから辿ればつながると思うんだよね。
―じゃあ、親子同士で何か(笑)!
Ren: あり…かな? それもおもしろいと思います(笑)。
「Motivators」
Vol.01 : JESSE
Vol.02 : 野村周平
Vol.03 : AI
Vol.04 : 村上虹郎
Vol.05 : 安澤太郎(TAICOCLUB)
Vol.06 : Ryohu × KEIJU as YOUNG JUJU
Vol.07 : DJ DYE(THA BLUE HERB)
Vol.08 : CHiNPAN
Vol.09 : Daichi Yamamoto
INFORMATION
■ Daichi Yamamoto
4/13(金) Kojoe ” here ” Release Tour in Tokyo @ 渋谷WWW X
4/14(土) KYOTOGRAPHIE 2018 Kick Off Party @ 京都Metro
Instagram : @daichibarnett
■ Ren Yokoi
4/12(木) BLACK ON IT @ 渋谷BPM Music Bar
4/14(土) THE OATH @ 青山Oath
4/21(土) LiLiTH “the party #38” feat. SOLOMUN @ 渋谷WOMB
4/27(金) @ 渋谷hotel koe tokyo
5/7(月) World Connection @ 渋谷Contact
Instagram : @renyokoi